爆弾の爆風によって、俺の身体は木っ端みじんに吹き飛ぶ――。
こともなく、物凄い勢いで地面に落下し、めり込む。
全く痛みは感じない。
チートスーツ様様だ。
だが、一気に急降下したことと地面にめり込んだときの揺れで非常に気持ち悪い。
今日一番の、最悪なアトラクションだな。
しばらくはアトラクションに乗りたくない。
トラウマになりそうだ。
俺はスーツの力で地面を破壊しながらなんとか埋まった上半身を引き抜く。
「ふう……。結構、ギリギリだったな」
その場に座り込んでいると、栞奈たちがこっちへ走ってきた。
「おじさん、大丈夫!?」
栞奈が飛びつくように抱き着いてくる。
「ああ。平気だ。スーツのおかげだよ」
「ちっ。よかった。無事だったのね」
黒武者の表情と台詞が合ってない。
いや、最初に舌打ちしたから合ってるのか?
それならいっそ、「無事だったの? 残念だわ」と言ってくれた方が清々しい。
「間違えた。無事だったの? 残念だわ」
「……」
言い直しやがった。
うん。全然、清々しくねーわ。
ふざけんな。
「……無茶し過ぎです」
真凛の方は抱き着きさえしてこなかったが、声で涙ぐんでることがわかる。
俺は栞奈がへばりついている状態のまま立ち上がり、真凛の方へ行き、頭を撫でる。
「心配かけたな」
「僕は……信じてましたけど」
今にも泣き出しそうな声で、絞り出すようにして言う真凛。
「あー、真凛ちゃんだけズルいー。私も撫でてー」
「……なんでだよ」
そんなやり取りをしていると、突如、周りから拍手が聞こえてきた。
なんだ?
辺りを見渡すと、大勢の観客に囲まれている。
「いいぞー!」
「すごーい!」
「おおー!」
「ピンクが男かよ! クソだな!」
「本物みたいでカッコよかったぞー!」
「もっとやれー!」
若干、罵倒が混じっていたが、どうやら観客は遊園地のアトラクションだと思ったようだ。
まあ、こんな格好をした集団と爆発、そして、思い切り地面に落下するなんてことがおきれば、誰でもアトラクションだと思うだろう。
まさか、色々な意味で本物だなんて、思いもよらないはずだ。
「これで、アトラクションは終わりです! 引き続き、他のアトラクションをお楽しみください!」
俺がそう叫ぶと、雲の子を散らすように観客が去っていった。
なんとか誤魔化せたな、って思っていると、俺はあることに気が付いた。
「あれ? 変身が解けない?」
いつもなら、事件が解決した瞬間に変身が解けるはずだ。
だが、爆弾が処理されたのに、まだ変身が解けていない。
……もしかして、まだ爆弾があるのか?
俺は慌てて観覧車を見上げた。
「他に爆弾はないと思います」
顔を上げた俺に真凛が言う。
「なんで、そう思うんだ?」
「あの人が、慌てていないからです」
真凛が指差した先には、ガリガリに痩せた、あの男が地面にへたり込んでいる。
ホッとして、腰が抜けたとかそんなところだろうか。
「……どういうことだ? あいつの様子と爆弾の数は関係ないだろ」
「いえ、大ありです」
「……そういえば、お前、爆弾を撤去するっていったとき、犯人がそれを見て爆破することはないって言ってたな。あれの理由も教えてくれるか?」
「正確に言うと、犯人は近くで見ていましたが爆破する気はない、ですね」
「話が見えんな」
ちなみに栞奈はまだ俺に抱き着いたままだし、黒武者は興味なさそうに突っ立ってる。
「考えてみてください。どうして『あの人』に反応したんでしょうか?」
「……そりゃ、観覧車に爆弾が仕掛けられてるって知ってるからじゃないのか?」
「確かに妙ね」
興味なさそうに聞いていた黒武者がヘルメットの顎の部分に手を当てる。
「妙って?」
「本来なら、困るのはこの園の園長じゃないかしら?」
「それは信じてなかったからだろ」
「それならあの男も一緒じゃないかしら?」
「……」
確かに言われてみると変だ。
どうして、あの男は爆弾が本物だと信じたのだろうか。
直接電話を取り、犯人と話したから?
いや違う。
妙なのはなんで、爆弾が本物で『あの男が困っているのか』だ。
仮に観覧車が爆発して、怪我人が出たとしても、あの男の責任にはならない。
なぜなら、あの男はちゃんと園長に話をしている。
それを信じず、問題が起きたとしてもそれは園長の責任になるんじゃないか?
さっきは罪を男に擦り付けるなんて話が出たが、その話が出たのも『男が困った後』だ。
「もし爆破が起こり、観客に被害が出た際に園長以外に、もう一人困る人間がいます」
俺は真凛のその言葉にピンと来た。
「……爆弾を仕掛けた犯人」
「そうです。もし、被害が出れば警察も爆発物を調べるでしょうし、そうなればすぐに犯人の特定につながるでしょう」
なるほど。
犯人が近くにいて、さらに爆発させることはしないと真凛が言い切った理由がわかった。
「それに、お兄さんが変身したタイミングも変でした。なぜ、あのタイミングだったんでしょうか?」
「もし、あの男が犯人じゃなかったとしたら、朝の犯人から電話がかかってきたタイミングじゃないとおかしいわね」
「はい。この2点から、あの人が犯人だとわかりました。おそらく、お兄さんが変身したタイミングで、起爆装置のボタンを押したか何かをしたのでしょう。なので、もう一度、園長を説得しようとしたのだと思います」
「……なるほどな。けど、あいつ、なんでこんなことをしたんだろうな?」
「それは犯人からかかってきた電話の内容に隠されていると思います」
「電話の内容? えっと……。観覧車に爆弾を仕掛けた。17時に爆発させる……」
「犯人は何を要求してましたか?」
「……閉園」
「はい」
あいつはこう言っていた。
「僕は園のために休みもなしに働いてきたのに」
と。
「おいおい。まさか、休みが欲しいからって、こんなことをしたってのか?」
「……そのくらい追い詰められていたんだと思います。そして、お兄さんの変身が解けていないのも、それが理由ですね、きっと」
真凛はそういうと、へたり込んでいる男の元へと歩いていく。
そして、男の前に立つ。
「僕たち、事件を解決した際に、お気持ちを貰っているんです」
そう言って男に手を差し出した。
うーん。
ブレないな、あいつは。
しっかりしてるというべきかな。
「あ、はい! ありがとうございました!」
男は立ち上がりポケットから財布を出して、2万円を真凛に渡す。
そのお金を受け取った真凛は続けてこう言った。
「内部告発という言葉を知ってますか?」
その言葉を聞いて、男はハッとして、目を丸くしたのだった。