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第37話 爆弾撤去作戦

 感度3000倍だったときは、すぐ近くに困った人がいたからすっかりアラーム音が鳴ることを忘れていた。

 最初から使っていれば、こんなに苦労することはなかったのにな。


 とはいえ、悔やんでいても始まらない。

 ここは困っている人を特定できたことを良しとすべきだろう。

 となれば、次なる行動は決まっている。


「なにか、困っているようだな」

「……あれ? うち、ヒーローショーなんてやってたっけ? あの、とりあえずここは舞台じゃないですよ」


 ……そうだった。

 今、俺は変身している状態だったな。

 いきなり、こんな格好をした人間に話しかけられれば逆に警戒されてしまう。

 通報されなかっただけ、まだマシと考えて、一旦出直すか。

 黒武者あたりに話しかけてもらえば、ポロっと話してくれるかもしれないし。


 ということで、俺は一旦、退くことにし……。


「ヒーローショーじゃないよ!」

「本物のヒーローです」

「困ってることがあるなら死になさい」


 俺の背後には変身した栞奈、真凛、黒武者がいた。


 ええー……。

 こんなの集団で現れたら、余計混乱するじゃん。

 現に、男は完全にフリーズしている。


 あと、黒武者。

 そこは「困ったことがあるなら話なさい」だぞ。

 死なれたら逆にこっちが困るだろうが。


「えっと、あの……。え? ヒーロー?」


 男は完全に混乱状態のようだ。


 仕方ない。

 ここは勢いで押し切るか。


「俺たちは本部から派遣された問題ごと処理班だ」

「処理班……ですか? そんなの聞いたこと……」

「極秘の部署だからな。本来はこんな問題ごと自体、起こってはいけないんだ」

「……な、なるほど」

「で、話を戻そう。観覧車に爆弾が設置されたんだな?」

「なぜそれを?」


 そうやらビンゴみたいだな。

 やっぱり、栞奈が見つけたあれは、爆弾か。


「とにかく、話を聞かせろ。一からだ」

「わ、わかりました」


 男は頷き、話し始めた。



 話は単純明快だった。


 男が朝、出勤した際に、事務所に電話がかかってきた。

 取ってみると、男の声で観覧車に爆弾を仕掛けたという内容を告げられたらしい。


 相手の男の要求は、園を一日閉園しろ、というものだった。

 もし、閉園しなければ17時に爆弾を爆発させるとのことだ。


「相手の意図がわからんな」

「遊園地をお休みにして、どうするつもりなんだろうね?」

「貸し切りにしたい、とか考えられないかしら?」

「いや、休みなんだからアトラクション自体も止まってるだろ」

「……ちっ!」


 舌打ちされた。

 当然の突っ込みだったのに。


「……園長はどんな対応を取ったんですか?」


 さっきまで考え事をしていたかのように黙っていた真凛が、男へ問いかける。


「え? あ、はい。悪戯だろうって。無視しろと」

「……警察には?」

「もちろん、通報していません。通報すれば、休園にしてお客さんを園から避難させないといけませんから」


 今は夏休み。

 いわば賭け入れ時というやつだろう。

 現に、園内は多くの客であふれ返っている。


 それを爆弾がしかけられたかもしれないという不確定要素のために、貴重な1日を無駄にするわけにはいかない。

 もしかすると、爆弾を仕掛けられた遊園地ということで、今後、客足が途絶える可能性もある。


 しかも、園を休みにしろだなんて意味不明な要求をしているところを見ると、悪戯と考える方が自然と判断するのも、頷ける。

 まあ、最悪本当だった時のために、観覧車だけは止めたというのも、なんとも場当たり的な対応だ。


「もし、爆発したら、園長は最悪、あんたに責任を擦り付ける可能性が高いな」

「え? どういうことですか?」

「……つまり、爆弾を仕掛けられたなんて話は聞いてないと言う、ということですね?」

「そうだ。客よりも売り上げを優先するような奴だからな。自分の身が危なくなったら、簡単に尻尾切りをするだろうな」

「そんな! 理不尽です!」

「あくまで可能性だが……」

「その可能性は大きそうですね」

「そんな……。僕は園のために休みもなしに働いてきたのに……そんな仕打ちって」


 男が青い顔をして頭を抱える。


 こんな対応をする園長だ。

 ここの労働条件はお察しだろう。


「とはいえ、問題はこれからどうするか、だな」


 時計を見ると16時16分。

 17時までもう1時間を切っている。

 もし、犯人が本気なら、あと44分後には爆発が起こるだろう。


「警察に連絡を……」


 男がそう言い出すが、俺は首を横に振って否定する。


「今から連絡したところで間に合わん。しかもかえってパニックになって二次災害が起こる可能性が高い」

「そんな……。じゃあ、僕はどうしたら……」

「お兄さん。爆弾を撤去するしかないと思います」

「けど、真凛。もし、犯人がそれを見ていて、爆破なんてされたらそれこそ……」

「それはありません」


 なぜか、真凛は断言した。

 おそらく、何かに気づいた上での言葉だろう。


「……わかった。今は理由を聞いてる時間もない。お前を信じる」

「……はい」

「でもさー。撤去するって言ったって、どうやってするの? 私たち、爆弾撤去なんてできなくない?」

「うっ! 確かに」

「そんなのは簡単よ。とりあえず正博が爆弾を抱えて死ねばいいんだわ」

「とりあえず、人を殺そうとするなっ! ……って、いや待てよ」

「……お兄さん?」

「黒武者、ナイスだ」

「ふふ。お礼は命でいいわよ」


 ……前言撤回。

 全然、ナイスじゃない。

 ホント、こいつは……。


 なんて言ってる場合じゃない。


「もう時間がない。これに賭けるぞ」




 ……というわけで、俺は今、観覧車を登っているというわけだ。


 くそ。やっぱり、あんなこと言うんじゃなかった。

 ……とはいえ、もうこの方法しかないのは確かだ。


 爆弾が仕掛けられた観覧車は2号車。

 今は時計で言うと3時あたりの位置で止まっている。


 一番上でなくてよかった。

 ……とはいえ、その位置でも上るのは相当キツイ。


 俺は別に高所恐怖症というわけじゃないが、それでも十分この高さは怖い。

 足がガクガクと震える。

 けど、やるしかない。


「おじさーん! あと5分だよー!」


 下から栞奈の声がする。


 あー、もう。

 ホント時間ねーな。


 怖がってる場合じゃない。


 俺は観覧車の柱の部分をイモムシのように這って進んでいく。

 通常状態なら、とっくに力の限界がきているところだが、今はその心配はない。

 ただ、体力との勝負になっている。

 そういう点を考えても、体力が尽きる前に辿り着かなければならない。


 下から風が吹き、バランスを崩しそうになる。


「うおっ! あぶねぇ!」


 正直、ヒヤッとした。

 だが、止まるってる場合じゃない。


 もう少し。

 あと少しだ。


 俺はひたすら目的の観覧車だけを見る。


 そして、ようやくたどり着いた。

 観覧車の底の方に金具で止められている箱がある。

 おそらくこれが爆弾だろう。


 俺は無理やり爆弾を引き引き剝がす。

 ギリギリ時間内に間に合った。

 俺はその爆弾を腹に抱えた状態で、観覧車からダイブする。


 下から栞奈たちの悲鳴が聞こえてくるが、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。


 俺は爆弾に覆いかぶさる様な体勢をする。

 その爆弾から「ピッ!」という機械音が聞こえたかと思った瞬間。


 俺が抱えていた爆弾が爆発したのだった。

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