来園客ではなく、遊園地側。
つまりは運営側で何かが起こっている。
視点が変われば、園内の状況も違って見えてきた。
客には特に異変はない。
だが、明らかに園内のスタッフの数が少ない気がする。
本来であれば、何かあれば近くのスタッフに行けばいいと思うくらい、そこら中にスタッフがいた。
だが、今は見渡しても数人しかない。
俺たちが迷子や道案内をやる羽目になったのも、スタッフの数が足りなくなっていたからなんだろう。
やっぱり、俺たちの仮説は間違っていないようだ。
……早く、見つけないと。
いきなり、スタッフに「何かあったのか?」と聞いたところで答えてくれるわけがない。
理想は困っているところ見つけて、強引に話に加わることだ。
とにかく違和感があるところを探すしかない。
おそらく、みんなもそう思ってくれているのだろう。
さっきとはうってかわり、俺たちに緊張が走っている。
「あー、スペースロケットだ。おじさん、今ならそんなに並ばないで乗れそうだよ」
……約一人、まったく緊張が伝わっていないやつがいた。
「栞奈、今は我慢してくれ。あとで好きなのに乗せてやるから」
「ホント!?」
「ああ」
「よし! じゃあ、頑張るぞ!」
栞奈が両手をグッと握って気合を入れている。
最初からそうしてくれ。
「あとでおじさんに乗せて貰おうっと」
「……」
なんか、今、変な台詞が聞こえてきた気がするが無視しておこう。
きっと、聞き違いだ。
多分。
……そうであってくれ。
「お兄さん、見てください!」
そのとき、後ろから真凛の声がする。
振り向いてみると、真凛があるアトラクションを指差していた。
観覧車だ。
「……まさか、乗りたいとか言うんじゃないだろうな?」
「はい。乗りましょう」
「お前もかっ!」
はあ……もう、嫌。
みんな不真面目じゃん。
もうちょっと頑張ってくれよ。
ちゃんと探してくれってば。
「観覧車なら、園全体を見下ろせますよ。異変があるところを見つけやすいと思います」
「すみませんでした!」
俺は体を90度に曲げて、謝罪する。
ちゃんと考えてくれていたようですね。
俺よりも、しっかりと。
「ちょうど、俺もそう思ってたところだ。よし、行こう!」
みんなを促して観覧車の方へ走り出そうとした時だった。
「ちょっと待って」
黒武者が待ったをかけてきた。
「なんだよ? まさか、高いところはダメとか言うんじゃないだろうな?」
「違うわよ。逆に好きなくらいだわ」
「だろうな」
馬鹿と煙は高いところが好きって言うからな。
「偉い人間は高いところが好きなのよね」
「……お前は偉くないだろ」
「何を言ってるのよ。私はレッドよ。一番偉いに決まってるじゃない」
うわー。
それ、持ってくるか?
それを言われると、俺がヒロインポジになるんだが?
「って、話を逸らさないで」
「お前にも原因があったと思うんだが」
黒武者が、はあ、とため息をついて観覧車を指差す。
「動いてないわよ」
「なにがだ?」
「観覧車」
観覧車のところへ行くと、当然ながら閉鎖されていた。
『ただいま、調整中』の看板が立っている。
「乗りたかったなぁ、観覧車」
栞奈が下から観覧車を見上げている。
相変わらず、緊張感がないやつだ。
さっき、言ったことをもう忘れている。
「あれ、なんだろ?」
観覧車を見上げていた栞奈が首を傾げている。
「どうした?」
「見て。あそこ。観覧車の下に、変なの付いてる」
栞奈が指差した観覧車の底の方に、確かに変な四角いものが括りつけられているように見える。
「……なんだ、ありゃ?」
「爆弾だったりして―」
「はは……まさか」
栞奈の言葉に物凄い嫌な予感がした。
こういうときの嫌な予感って、絶対当たるんだよな。
「お兄さん!」
「ちょっと来て!」
真凛と黒武者が手招きをしている。
そこには『スタッフ以外、立ち入り禁止』の看板が立っていた。
二人のところへ歩み寄る。
「なんだ……?」
すると真凛が唇に人差し指を立てる仕草をした。
そして、隣の黒武者が親指をスタッフルームと書かれた建物に向ける。
耳を澄ませると、わずかに、怒鳴り声のような声が聞こえてきた。
「……なんか、揉めてるよな、絶対」
「ビンゴだと思います」
「とりあえず、もう少しだけ近づいてみるわよ」
黒武者を先頭に俺たちはスタッフルームへと近づく。
そして、壁に耳を当てる。
ここまでくれば、多少、しゃべっている内容も聞こえてきた。
「すぐにお客さんを避難させるべきです!」
「悪戯に決まってるだろ!」
「万が一、本当だったらどうするんですか!?」
「だから、念のため、観覧車を止めてあるだろ」
「それだけじゃ……」
「うるさいぞ! とにかく、お前らも持ち場に戻れ! 絶対に、客にはこのことを悟られるなよ!」
出口に向かって歩いてくる音がする。
「やばい、隠れろ」
俺たちは入り口から離れ、物陰へと隠れる。
すると、中からぞろぞろとスタッフが出てきた。
そして、各自、持ち場へと歩いていった。
最後に、ひょろっとした20代中盤くらいの男が出てくる。
はあ、と大きくため息を吐いたかと思うと、頭を抱えて蹲った。
うーん。
実にわかりやすいな。
今時、あんな、「どうかしたんですか?」って突っ込み待ちしているような悩み方があるだろうか。
あそこまでわざとらしかったら、逆にスルーしたいくらいだ。
「おじさん、どうかしたんですかって聞きに行った方が良いんじゃない?」
「んー。まだ、あいつだって決まったわけじゃないしなぁ」
「……てか、ちょっと待って」
栞奈がハッとしたように目を見開く。
「どうしたんだ?」
「おじさん、音」
「音? ……あっ!」
そう。
久しぶりの設定で、すっかり忘れていた。
このヘルメットには困った人を検知するための機能が付いているのだ。
困っている人に近づけば音がドンドン大きくなる。
俺はヘルメットに着いているスイッチを押した。
いきなり耳をつんざくほどのアラーム音が鳴り響いたのだった。