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第34話 遊園地で遊ぼう

季節は8月。

 いってしまえば、1年の中で暑い日が一番多い月なんじゃないだろうか。 

 なにが言いたいかというと、今日もめちゃくちゃ暑いということだ。


 朝なのに太陽の日差しがジリジリと俺の肌を焼いてくるし、ひっきりなしにセミが生命を削りながら鳴き続けている。

 そんな中を、俺たちは今、駅へと向かって歩く。


「晴れてよかったねー、おじさん!」


 まだ朝の7時というのにめちゃくちゃテンションの高い栞奈。


「……体がバキバキだ」


 昨日は床で寝たせいで、体が痛い。

 せめて、下になんか敷けばよかった。


「床で寝るからよ」

「……誰のせいだと思ってんだよ」


 黒武者の方はぐっすり寝たようで、体力全回復といったところだろうか。


「お兄さん、良ければおんぶしましょうか?」

「いや、それは絵面的にヤバいし、そもそも無理だろ」


 なんだかんだ言って、真凛もいつもよりなんか楽しそうだ。


 ……それにしても。

 この炎天下の中、数時間、人ごみの中を歩くって、やっぱり拷問だろ。

 俺、なんか悪いことしたか?


「ほら、おじさん、急がないと電車乗り遅れちゃうよ」


 栞奈が俺の手を掴んで引っ張っていく。


「別に乗り遅れても、10分もしたら次のが来るだろ」

「こうやって手を繋いで歩いてると、デート中の恋人みたいだよねー」


 ……相変わらず、話を聞かないやつだ。


 てか、よくこの状況でデートだなんて言えるな。

 周りには黒武者と真凛がいるんだぞ。


 この状況を他のやつが見たらどう思うんだろうか。

 まさか、俺がハーレム状態にでも見えたりするかもな。


 まったくもって冗談ではないが。

 この状況を羨ましいと思う奴がいたら、ぜひ、代わって欲しいところだ。


「ね、ねえ、栞奈ちゃん。私とも手を繋ぐ?」

「ううん。いい」

「……」

「……泣くなよ」

「うるさいわね。殺すわよ」

「俺に当たるな」


 物凄い恨めしそうに見てくる黒武者。

 殺気も混じってる気もするが、気のせいとしておこう。


「ですが、確かにこうしてると家族に見えるかもしれませんね」

「おー! 真凛ちゃん、良いこと言うねー!」


 ……家族、か。

 そうなると、俺は父親ポジションってやつか?

 まだ、そんな年じゃないんだがな。


「私がお母さんで、栞奈ちゃんがお父さん、真凛さんが娘で……正博はペットってところかしらね」


 ……俺、人間ポジションじゃないの?


 てか、それはめちゃくちゃ年齢的にも無理ないか?

 それに、せめてその中ならお前はお父さんポジションだろ。


「んー。私としてはおじさんが旦那さんでー、私が奥さんでしょー。クロちゃんが娘でー、真凛ちゃんが私のお姉ちゃん!」


 ……それだと、真凛が家族に入ってないぞ?

 それと、どう考えても黒武者と真凛のポジションは逆だと思うんだがな。


「娘ポジかー。それも捨てがたいっ!」


 黒武者が拳をプルプルと震わせる。


「お母さん、一緒にお風呂入ろ、とか言えるのよね? ……ヤバい、興奮するわ」


 ……なんのエロ本だよ。

 その年で親と風呂に入るのはどうかと思うけどな。


「僕はこうですね。僕が愛人で、栞奈ちゃんが奥さん、萌乃さんが不倫相手です」


 ……それ、めっちゃカオスじゃね?

 てか、俺、2人と不倫してるよな?

 愛人も不倫も変わらないんですが。

 それに、もう完全に家族じゃなくなってるし。


 これ、絶対刺されるパターンだよ。

 で、裁判とかで俺がクソ人間みたいにされて、黒武者が情状酌量を勝ち取るって流れだな。


 なんて話をしているうちに駅に着き、電車へと乗り込む。


 電車の中でも栞奈のテンションは高く、遊園地のパンフレットを見ながら昨日立てた計画を確認している。


 そんなに楽しいもんか?

 俺からしたら、なんで金払って疲れに行かなきゃならないんだって感じだが。


 それから1時間近く、電車を乗り継ぎ、遊園地の前へと到着した。

 俺は電車に乗りながら、「早く着き過ぎるんじゃねーのか?」と気づいた。

 だって、遊園地の前についたのは8時過ぎだ。

 で、開園するのは10時。


 2時間も早く来てどうすんだよ!

 ……って思ったのだが、到着してからその理由がわかった。


 俺たちが到着した時点で、遊園地の前には結構な客の列ができていた。

 つまり、この列に並ぶために早く来たというわけか。


 ……あー、くそ。

 入る前に心が折れそうだ。


 開園するまでの2時間は途方もなく長い……と思ったのだが、意外とそんなことはなかった。

 4人で話しているうちに、いつの間にか10時になっていたという感覚だ。


 開園後、俺たちは入園料と乗り物の1日フリーパス券を購入した。


 真凛の立てた計画も意外と優秀だったようで、アトラクションも待ち疲れするほど待たされずに乗れる。

 ジェットコースター系や世界観を味わうような乗り物、遊園地を見て回るだけでも新鮮な気分だ。


「おじさん、笑って―!」


 栞奈がやたらといろんな写真を撮りまくっている。


「栞奈ちゃん、いいわよ……」


 黒武者がやたらと栞奈の写真を撮りまくっている。

 なんだか、黒武者の変態度が日に日に高くなっていく気がする。


「一息つきましょう」


 真凛が飲み物とポップコーンをトレイ載せて戻ってきた。

 ……いつの間に買いに行ったんだ?


 ここにきて、俺は真凛の凄さに気づく。

 事前の計画もそうだが、遊園地に来てからは、なんていうか補佐役に徹している。

 みんなが楽しめるように配慮して動いているようだ。

 しかも、それを気づかせない。

 本当に凄いことだ。


「真凛、お前自身もちゃんと楽しめよ」


 俺は真凛から飲み物を受け取りながら言う。

 すると真凛が頬を赤らめて、ニコリと笑った。


「お兄さんが、そう言ってくれるだけで、僕はとても満足です」


 なんとも欲のない奴だ。

 仕方ない。

 あとで、ご褒美に何か買ってやるか。


「よーし! じゃあ、後半戦も楽しんじゃうぞー!」


 栞奈が右手を振り上げる。


 だが、正直、俺は少し疲れ始めていた。

 だから少し休憩しようと、提案したときだった。


「え?」


 俺の身体が光り始める。


 ……まさか。


 光が収まると同時に、俺は変身していた。


 あー、もう、やだ!

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