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第30話 久々のバトル

「よし、ちょっと行ってくる」


 その場で10分ほど待っていたが、男は建物から出てくる気配はなかった。

 なので、中に忍び込むことにしたのだ。


 というか、正直、もう待つのが飽きた。

 なんかもうどうでも良くなってきたな。

 最悪、男をボコって終わりにしたくなってきた。


「え? おじさんが行くの? 大丈夫?」

「なんだ? 俺だと心配か?」

「いや、そうじゃないけど……」


 栞奈がなにやらマゴマゴしている。

 なんなんだ?


「きっと、お兄さんには考えがあるんですよ」

「そ、そうだよね?」


 真凛が俺をフォローするかのように言う。


 ふふふふ。

 悪いが何も考えてない。

 面倒くさくなっただけだ。


「差し入れはなにがいい? 一応聞いておいてあげるわ。まあ、持っていくかはわからないけどね」

「何言ってんだ、お前?」


 黒武者も、よくわからないことを言い出す。


 どうやら、みんな待ち疲れでおかしくなってしまったようだ。

 まともなのは俺だけということだな。


 ここは俺がしっかりやるしかない。


「じゃあ、行ってくる」


 俺は3人にそう言い残して、男が入っていった建物へと向かう。


 そう言えば、なんの建物だろう?

 住居にも見えないし、なんかのお店にも見えない。

 多分、事務所かなんかだろう。


 入り口で止められるかもしれないけど、客っぽい感じで話を聞きに来たとか適当なことを言って誤魔化せばいい。

 そもそも俺は平凡な一般人。

 止められること自体、杞憂に終わるだろう。


「おい、ちょっと待て!」


 入り口のドアを開けて中に入った瞬間、見張りのように立っていた男が開口一番、そう言った。

 立っていたのは2人。

 パンチパーマのチンピラ風の男と、リーゼントに剃りこみが入ったスーツを着た男だ。


 ……いきなり止められてしまったぞ。

 むう。

 一般人オーラが足りなかったか?

 まあ、俺のカリスマ性は隠しても隠しきれないのかもな。


 仕方ない。

 ここはさっき考えたプランBだ。


「俺は怪しい者じゃない」

「嘘つくなっ」


 食い気味でチンピラに否定されてしまった。

 なぜだ?


「おいおい。おっさん。変態行為は他でやれや」


 リーゼントが馴れ馴れしく俺と肩を組んでくる。


 ……どいつもこいつも変態変態って。

 俺のどこが変態……。


「あっ!」


 そうだった。

 今の俺は変身している状態だった。

 つまり、ピンクの全身タイツにフルフェイスメット。

 どこをどう見ても不審者にしか見えないスタイルだ。


 ここで、さっきの栞奈や真凛、黒武者の言葉の意味がわかった。


 いや、止めてくれよ!


「ま、おっさんの変態さ加減に免じて、有り金全部でいいぜ。それで見逃してや……」

「ふんっ!」

「ぶぼえっ!」


 俺がリーゼント顔面に裏拳を入れると、リーゼントは縦に3回転くらいして壁に激突した。


 悪いな。

 カツアゲするやつイコール悪だと、俺の中で確定している。


「んだ、てめえっ!」


 チンピラがナイフと出して構える。

 ナイフか。

 真凛のときを思い出すな。

 一週間も経ってないはずなのに、随分と前のように思える。


「おらあああー! 逝けやぁあああ!」


 ナイフを構えて走ってくる。

 そして、俺の腹に突き刺そうとするが、ガキっと鈍い音を立ててナイフが弾かれる。


「なっ!」


 リアクションもあのときと同じだな。


「ほいっ!」

「うげぇ!」


 チンピラの腹に一撃を入れると、チンピラが反吐を吐き、俺の顔にぶっかかった。


「ふん。汚ぇ顔射だぜ」


 格好良く言ってみたが意味はなかった。


 だって、本当に汚いだけだし。

 ……ホント、誰得だよ。




 2階にある事務所のドアを開ける。


 そこには顔を腫らした男が正座させられ、その周りを5人の男が囲んでいた。

 3人はチンピラ風だが、2人はいかにも本職のヤ〇ザ風な男だ。

 男の前に立っている本職風の男が一番偉いんだろう。

 なんとなく、凄みを感じる。


「……おい。泥酔するにはまだ早い時間じゃねーか?」


 一番偉そうな男が言う。


 俺は部屋の中を見渡す。

 窓の近くには高そうな机が一つ。


 部屋の端にはソファーとテーブル。

 逆サイドには金庫。

 壁には『死んでも集金しろ』だの『生かさず殺さず』だのが書かれた紙が貼られている。


 金貸しってところか?

 しかも、どう見ても裏の。


 だが、なんで男がこんなところに入っていったんだ?

 ここから金を借りたのか?

 そんなタイプには見えないんだけどな。


「おいおい。無視かい。良い度胸だな」


 偉そうな男が周りの男たちに首を振り、合図を送る。

 同時に周りにいた男4人に囲まれた。


「どうやってぶっ殺されたい?」


 チンピラが銃を出して俺のヘルメットへと当てる。


「……そういうのは弱虫が使う言葉らしいぞ」

「あん?」

「ぶっ殺すと頭に浮かんだ時には相手を殺ってないと。どこかの兄貴がそう言ってたぞ」

「なるほどなー」


 ドンという音が響いた。

 躊躇なく撃ちやがった。


 が、チートスーツを着た俺に通じるわけがない。


「なっ! どうなってんだ!?」

「防弾になってんのか?」


 他の3人も銃を出して、俺に向って撃ち始める。


 何発撃っただろうか。

 弾切れになったのか、カチカチと引き金だけが鳴る音が響く。


「終わりか?」

「クソが―! 死ねや!」


 今度はナイフを取り出して襲い掛かってくる。


 いや、銃が効かなかったんだから、ナイフじゃ無理だろ。


 そして、俺はそれぞれ一撃ずつ入れて、男たちを吹っ飛ばした。


「……な、なんなんだ、てめぇ!」


 偉そうな男が青ざめた顔をして、銃を抜いた。


 いや、だからー。

 効かないって。

あんたの部下たちがやったじゃん。


 俺が歩いていく中を、銃を乱射する。

 当然のようにスーツが弾を弾いていく。


 弾切れになるが、それでもカチカチと何度も引き金を引いている。

 そうしている間に、偉そうな男の前に立つ。


「お前……何者だ?」

「正義の味方……かな。一応」


 そうして、俺は偉そうな男の横っ面に右フックをかましたのだった。

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