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第24話 新たなる日常

 その日の夜。

 栞奈と真凛は再び、戦隊の名称をどうするか問題についての議論に火が付いていた。


 議論の内容自体はどうでもいいが、他の場所でやってほしい。

 なんで、俺の部屋でやるんだよ。

 大体、そもそも広くもない部屋に4人は、キツイ。

 1人に割り当てられるスペースがかなり狭くなっている。


 これじゃ、イチハチのOPを見ながらモナ子と踊ることもできない。

 なので仕方なく、ゲームをすることにした。


 やり飽きていたが、恋愛シミュレーションのソフトをセットする。

 なんとなく、女の子成分を得たかったのだ。

 俺の唯一の癒し。

 それは2次元の女の子たちだ。


 とりあえず、全部の女の子を同時攻略の神ルートと呼ばれる手順を踏んでいく。


 ああ……。やっぱり2次元の女の子は可愛いし、リアクションも最高だ。

 同じ罵倒されるにしても、2次元のキャラにされれば、それはご褒美になる。


 やり飽きていたはずのゲームだったが、やっているうちにテンションが上がっていく。

 これだ。

 俺が求めていたのは、2次元のハーレム。

 3次元で女に囲まれていたとしても、それはただの拷問に過ぎないのだ。


 まずは一人目に告白して、墜とす――瞬間だった。


 パッと画面が真っ暗になる。


「え?」


 呆然とする俺に、ゲームの電源ボタンを押した黒武者が不敵な笑みを浮かべる。


「これで勝負しない?」


 黒武者が手に持っているのは車のレースゲームだ。

 もちろん、俺の部屋にあるゲームなのだから、俺の得意ゲームである。

 格闘ゲームでは栞奈と五分五分の勝負を繰り広げていたが、レースゲームなら負ける気はしない。


 いいだろう。

 罵倒されたことや殴られたこと、殺そうとしたことに対してのツケを丸ごと払ってもらおう。

 今度、泣くのはお前の方だ、黒武者。


「でも、ただ勝負するだけっていうのも面白くないわね」

「……何かを賭けるってことか?」

「人生……っていうのはどう?」

「人生?」


 なんだ?

 もしかして、お前、ゲームで勝ったら相手の魂を引き抜くみたいな能力を持ってるんじゃないだろうな?


「ええ。つまり、私が勝ったら、あなたを私の好きな方法で殺すわ」

「……俺が勝ったら?」

「あなたに、死に方を選ばせてあげる」

「俺を殺したいだけじゃねーかっ!?」

Exactly!そのとおりでございます


 ふざけんな!

 俺しか人生賭けてねーじゃねーかよ。

 てか、賭けになってねー!

 なんだよ、この100パーセント死が確定しているデスゲームは。


「本気はさておき、始めるわよ」

「冗談はさておき、な」


 黒武者はレースゲームをセットして起動させる。

 そして、2人対戦を選んでいく。


「……冗談、ですよね?」

「ほら、早くあなたも車を選びなさい」


 くそ、誤魔化された。


 どうする?

 そもそも、こんな勝負自体がおかしい。

 俺に受ける道理はない。


 ……だが、同時に俺の中である秘策が思いついている。


 それは勝って、死に方を選ばせてもらうことだ。

 そこでを選ぶ。

 そうすれば、俺はもう黒武者に命を狙われることはなくなる。


 完璧な作戦だ。


 あとは勝てばいい。

 もちろん、勝つ自信はある。


 しかし、命がかかってるとなると、どうしても手が震えてしまう。


 ……そうか! しまった!

 これがやつの狙いか。


 普通のゲームを命のやり取りを絡めることで、心理戦に持ち込んだのか。

 事実、俺はプレッシャーで指が重く感じている。


 やっぱり止めよう。

 そう言おうとした瞬間、画面が切り替わり、レースの画面になった。

 5秒前からカウントされる。


「ふふ。まるで、死のカウントダウンね」


 嬉しそうにそう言う黒武者の横で、俺はゴクリと唾を飲み込む。


 4、3、2……。


 カウントダウンが始まっていく。

 まさに最初が肝心。

 スタートダッシュに全てがかかっていると言っても過言ではない。


 1……0!


 スタート!


 俺は一気にアクセル全開で飛び出す。

 いい滑り出し。


 ふふふふ。俺は今、まさにプレッシャーに打ち勝ったのだ。

 さすが俺! 凄いぞ俺! やればできる男だ!


 とはいえ、有利になっただけで勝負はわからない。

 気を引き締めねば。


 集中集中。


 すると突然。


 ちゅどーん!


 区切られた下の画面、つまり黒武者の方の画面の車が大破した。

 開始3秒で壁に激突してゲームオーバーになる。


「……」

「……」


 俺と黒武者はしばし、呆然と画面を見て沈黙する。


 ……こいつ、あれだけ自信ありそうに言ったくせに素人じゃねーか。

 とはいえ、俺の勝ちは勝ちだ。


 じゃあ、俺は老衰と言わせてもらうぜ。


 だが。


「……今日のところはこれくらいにしておいてあげるわ」


 そう言って黒武者はコントローラを放り出した。


「……おい」


 黒武者がおもむろに立ち上がる。


「お腹減らない? 何か作るわよ」


 その言葉と同時に俺と栞奈と真凛の腹が、ぐぅーと鳴った。




「まあ、こんなところかしら」


 黒武者がキッチンに立ち、15分後にはテーブルに料理が並べられていた。

 回鍋肉、麻婆豆腐、‎青椒肉絲。

 中華料理のド定番の3つだ。


 いや、別に3つ作らなくてもよかったんじゃないか?

 普通は1つあれば十分だと思うんだが。


 とは言え、作って貰ったことには感謝しかない。

 最近はカップ麺しか食べれてないからな。


「うわー! 美味しそう!」


 栞奈が麻婆豆腐を頬張る。


「んー。おいしー! クロちゃん、料理上手なんだね」

「ふふふ。栞奈ちゃん、嫁に来る?」


 普通は嫁にしてくれる? だと思うんだが、まあいいや。


「本当に美味しいです!」


 真凛も回鍋肉を食べて、絶賛する。


「……喜んでもらえて、なによりだわ」


 黒武者はやっぱり、まだ真凛に対しては苦手意識があるようだ。

 引きつった笑顔を浮かべている。


 さてと、俺も食べるか。

 箸を青椒肉絲に伸ばすが、ある疑念が頭を過る。


「……毒、入ってないよな?」

「あっ! しまった!」


 黒武者がハッとして手で顔を覆う。


 どうやら大丈夫なようだ。

 俺は安心して、青椒肉絲を箸でつかみ口へと運――。


 突然、俺の身体が光る。

 一瞬で変身してしまう。


 そして、青椒肉絲を掴んでいた箸がヘルメットによって弾かれてしまう。


 ああー、もうやだ!

 こんな生活。

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