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第23話 三人目

 俺の目の前では赤い全身タイツのようなスーツを着た、フルフェイスのメットの女が高笑いをしている。


 物凄いシュールな光景だな。

 なるほど。

 他人の目から見たら、俺たちもこう見えるのか。


 ……泣きたくなってくるな。


「私、凄い力を手に入れたのよね? これで長年の夢だったことが実現させられるわ!」


 拳を握り締めて、なかなか危ないことを言い出す女。

 絶対に力と権力を渡してはいけないタイプの人間だ。


 だが、この女は一つ、大きな勘違いをしている。


 今、女が装着しているスーツはチート能力をもっているやつのではなく、単なる簡単にコスプレができるだけのものだ。

 だから、女のいう長年の夢とやらは叶うことはないだろう。


 女はチラリと俺の方を見た。

 そして、突然、俺に向けて拳を振り上げてくる。


「まずはあんたからよ! 死ねっ!」


 やはり勘違いしている。

 そのスーツは力が上がるわけじゃないのだ。

 だから、殴ったところで俺にダメージは受けな……。


「ぶべっ!」


 油断していた俺は、女の右ストレートをもろに顔面に受けて吹き飛ぶ。


「おじさん!」

「お兄さん!」


 栞奈と真凛が駆け寄ってくる。


 ……しまった。

 女の力は上がらないが、殴られれば普通に痛いんだった。

 俺は今、スーツを着てないんだし。


「あれ!? 頭が吹き飛んでない!?」

「殺す気かっ!」

「え? 言ったじゃない。死ねって」

「いや、言ってたけどさ……」


 まさか本気で殺そうとするなんて思わないじゃん?


「それより、どういうこと? 力が上がったように思えないんだけど」


 女はその場でシャドーボクシングのように拳を振っている。


 っていうか、俺の殺そうとしたことをサラッと流すなよ。


「そのスーツは何の力もありません。ブレスレットは単なるコスプレするだけの道具ですよ」


 真凛がそう説明すると、女はブルブルと震え始める。

 そして、その場に四つん這いになった。


「そんな……。こんなバカみたいな恰好を受け入れたのに。力を得られないなんて……」


 そう言った後、女はむせび泣き始めたのだった。




黒武者くろむしゃ萌乃もえのよ」


 変身を解き、腕を組みながら、俺を見下すようにして自己紹介をしてきた。


「萌乃か。いい名前……」

「ふん!」

「痛いっ!」


 いきなり殴られた。

 ……なぜ?


「名前で呼ばないで頂戴。お願いだから」


 黒武者が顔を赤くして俯く。

 どうやら名前にコンプレックスを持っているようだ。


 まあ、確かに黒武者の方が合ってるな。

 まさにピッタリの名前だ。

 ドス黒い武者って感じだもん。

 戦隊もので言うと変わり者のブラック枠だ。


 ……けど、レッドなんだよなぁ。

 あの女神、とことん、色の割り当て間違ってるよ。


「でも、萌乃さん。どうして、スーツに力がないとわかったのに活動を手伝ってくれるんですか?」

「ええ。人助けっていうところに興味があるのよ」


 ……なんで、真凛は名前で呼んでもいいんだよ?


「私も人助けをしたくって」

「へー。なんか意外だな。人助けをしたいだなんて」

「長年の夢だったのよ。世界から男を抹殺するのが」

「……それは人助けじゃねえよ。というか真逆だろ」

「まあ、本気はさておき」

「冗談はさておき、な」


 ……冗談だよな? な?


「今、私、就職活動中なのよ。だから、人助けのボランティアをやれば就職に有利でしょ?」


 有利か?

 全身スーツの集団が人助けをしてるのって、なんかカルト教団みたいだろ。

 逆に、就職に不利になると思うけどな。

 俺なら、そんな危ない奴は絶対に雇わない。


「じゃあ、クロちゃん。これからよろしくー」

「ええ。よろしく。……栞奈ちゃん、だったわよね? 可愛らしい子と一緒に活動出来て嬉しいわ」


 黒武者の目の中に怪しい光が灯り、栞奈をネットリと見ている。


 ……あー、まさか、そっち系?

 男が嫌い過ぎて、女の子が好きになっちゃったとか?


 いいなー。

 2次元だったら最高なのになー。

 実に惜しい。


「じゃあ、僕も。よろしくお願いします、萌乃さん」

「よ、よろしく……。真凛さん」


 真凛に声を掛けられ、ビクッと体を震わせる黒武者。

 どうやら、真凛にはトラウマを植え付けられてしまったのかもしれない。


「ねえ、クロちゃんも、おじさんの家に住むの?」

「……え? どういうこと?」

「あ、栞奈、ちょっと待っ……」

「私たち、ここに住んでるんだよ。なんていうか、ここが活動本部って感じ?」

「……ここに……住んでる?」


 黒武者の目が赤く光り、全身から闇のオーラが吹き出す。

 ギロリと睨まれると、息が出来なくなるくらいの圧力を感じた。


 ……あ、これはあくまで俺のイメージだから。

 実際はそうはなってない。

 2次元じゃないからな。


「まさか、あんた、栞奈ちゃんに手を出してるんじゃ……」


 黒武者に胸ぐらを掴まれて、凄まれる。


「いや、どっちかっていうと逆……」

「わかってると思うけど、未成年に手を出したら犯罪よ?」

「十二分に承知している」


 それを脅されて、今まで家から追い出せないんだからな。


「それともう一つ。言っておくけど、栞奈ちゃんの初めては私の物だから」

「お前が手を出しても犯罪だろうが」


 それになんで栞奈が未経験だって知ってんだよ。

 なんか怖ぇーよ。

 まあ、栞奈の年齢が年齢だからそう思っただけだろう。

 適当に言ったのだと信じたい。


「でも、そうね。……活動するなら栞奈ちゃんと一緒に寝泊まりした方がりやすいかも」


 ……あれ?

 今、誤変換なかったか?

 文脈からして、そこ、漢字にする必要なかったよな?


「そうですね。みんな一緒の方が動きやすいと思います」

「え? あ、真凛さんもここに泊まってるんだ?」

「……そうですけど、何か問題ですか?」


 真凛が不思議そうに首を傾げる。

 そして、黒武者の方は顔を引きつらせて笑みを浮かべている。


「あー、いや、その……。頑張るわ」


 何をだよ?

 トラウマ克服か?

 確かに、トラウマの原因の横で寝泊まりすのはかなりきつそうだけどな。


「えへへへ。これで4人だね」

「はい。あと1人です」


 栞奈の言葉に嬉しそうに頷く真凛。


 ……うーん。

 戦隊ものだからって、5人にこだわらなくて良くないか?

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