次の日の昼。
まだまだ、太陽がジリジリと熱い。
結局、昨日と同じように困っている人を見つけるために歩き回るしかないとなり、今、こうして3人で歩いているわけだ。
歩くだけで汗が噴き出してくる。
サングラスにマスクに帽子という姿がよりいっそう、暑さを演出している。
なんで俺は今、こんな拷問を受けさせられているんだろう。
「なあ、そろそろ休憩しようぜ」
「おじさん、そればっかり」
「だって、そろそろ限界なんだって」
「ふふっ!」
「……なんで、笑ったんだ、真凛?」
「お兄さん、30分前にも限界って言ってました。ということは、今、お兄さんは限界突破してるということですよね。凄いです」
……それは比喩だよ。
さすがに倒れる寸前まで歩く気はない。
「でも、ホントに、今日は暑いよねー」
栞奈がセーラー服の襟のところを掴んで、バフバフとさせることで胸元に風を送っている。
「……おじさん、今、私の胸元見てたでしょ?」
「そんなもん見て、どうするんだ?」
「眼中になしっ!?」
「お兄さんはヘソ派なんですよ、きっと」
そう言って、真凛がシャツの裾をめくってヘソを露出させる。
「腹減ったなぁ……」
「無視ですかっ!?」
そんなくだらない会話をしているときだった。
突然、俺の身体が光り始めた。
「あ、来た!」
「くそ、このタイミングか!」
俺は慌てて物陰に隠れる。
こんな真昼間から、通行人に変身するところを見られるわけにはいかない。
変質者が出たと通報されてしまう。
……変身した後の姿を見られても一緒か。
隠れて損した。
案の定、光が収束すると、俺はスーツ姿に変身している。
ピンク色の全身タイツのようなスーツ。
……せめて、色だけでも変更して欲しい。
そんなことを考えながら、栞奈たちのところへ戻る。
すると、栞奈も真凛も変身していた。
……うわー。
改めて第三者視点で見ると、痛々しいな。
これは通報すると言うか、関わりたくなくてスルーしてしまうくらいだ。
こんなのが3人で歩いてたら、不審者以外の何者でもないな。
「さ、おじさん! 困ってる人を探しに行くよ!」
「あ、待ってください! まだポーズを取ってません!」
「そうだった!」
2人ともノリノリだった。
……なんで、その恰好でノリノリになれる?
「ほら、おじさん、昨日教えた、ポーズ取って!」
「……ああ」
本来なら頑固拒否するところだが、突っ込む気力もなくなったことと、顔が隠れているというところで、素直にポーズを取ることにした。
3人で、どう見ても格好悪いポーズを決める。
「丸丸戦隊、かっこ仮、出動です!」
「おー!」
……その名乗り、いるか?
てか、丸丸戦隊、かっこ仮ってなんだよ。
名称決まってないなら、無理やり名乗る必要ないだろ。
「ほら、おじさん、早く!」
栞奈……ブルーに急かされて、俺は渋々歩き出したのだった。
「本当にありがとうねぇ。助かったわぁ」
おばあさんはペコリと頭を下げる。
色々と探し回った結果、買い物をし過ぎたことを困っているおばあさんだと判明した。
なので、3人でおばあさんの買い物袋を持ってあげ、家まで送り届けたわけだ。
「格好いいねぇ。今は、そういう服装が流行っているのかい?」
おばあさんの家に向かう途中、そんな質問をされて、泣きそうになった。
というより、泣いてしまった。
恥ずかしくて死にたい……。
これ、他の人から見たらどう思うんだろうか?
全身タイツのフルフェイスヘルメットをかぶった3人に囲まれている老人。
控えめに言っても、犯罪に巻き込まれているようにしか見えないだろう。
俺はいつ、パトカーがやってくるか警戒しながら、なんとかおばあさんの家に辿り着いた。
と、同時に、俺の身体が光り出し、変身が解ける。
お願い。
この仕様変えて。
これだと俺だけ顔見られるじゃん!
「あー、いえ、お構いなく」
俺は一刻も早くその場から立ち去ろうとする。
が、真凛が俺の腕を掴んで止めた。
「なんだ?」
「大事なことを忘れてます」
「……大事なこと?」
俺がなんだっけ、と考えていると、栞奈がおばあさんに手を出した。
「おばあちゃん。お金ちょうだい」
「ああ、そうだねぇ。お小遣いあげないとねぇ。いくら欲しいんだい?」
「え? あー、決めてなかった。えっと、1万円?」
「はいはい。1万円ね」
「やめんかっ!」
なんだよ、そのぼったくりの値段!
完璧に詐欺じゃねーか!
「えっと、おばあちゃん。10円でいいよ、10円で」
さすがに1万も払わせたら、マジで捕まる可能性大だ。
「ええ? せめて100円、受け取っておくれ」
そう言って、おばあさんは財布から100円を出して栞奈の手の上に置いた。
「ありがとー、おばあちゃん!」
栞奈は100円でも満足そうだった。
なら、なんで最初、1万なんて言ったんだよ。
……多分、何も考えてなかったんだな。
おばあさんが家に入ったのを見届けて、栞奈たちは変身を解いた。
「いやあ、労働はいいもんだねー」
「お前、労働を舐めてるだろ」
ニートの俺が言えた義理ではないが。
「これをあと100回繰り返せば、自転車買えますね!」
真凛もなんだか満足そうな顔をしている。
それにしてもあと100回か。
そう聞くと果てしなく感じる。
なんか、もう、自転車いらないって気になってきた。
なんてことを考えていたら、再び、俺の身体が光り始め、強制的に変身する。
「え? またか?」
そして、困っている人を見つける。
今度は車通りが多くて、道路を渡れないおじいさんだった。
その次は迷子になっている子供。
その次はスマホの充電が切れたというものだった。
「……ねえ、おじさん」
「ああ……」
明らかにおかしい。
こうして、俺たちの身に異変が起こっていることに気づき始めたのだった。