時間は19時。
場所は俺の部屋。
当たり前のように栞奈と真凛がいる。
「なかなか、いないもんだね」
「……そうですね。もっとたくさんいると思ってました」
今、気づいたけど、俺の部屋は綺麗に掃除されていた。
いくらなんでも母親がそんなことをするとは思えない。
となれば、栞奈や真凛が掃除をしたんだろう。
俺が寝ている間に。
……鍵つけないとな。
そろそろ、安心して寝れなくなってきた。
いつ襲われるかわかったもんじゃない。
一応、約束通り、俺が寝ている夜の間は部屋に入ってくることはない。
だが、日が沈んでからの『朝』になれば、平気で入ってくるだろう。
今はまだ「朝に襲えばいいじゃん」とは気づいてないようだが、時間の問題だ。
栞奈だけならまだ力づくで跳ね飛ばせるが、真凛と協力されればかなり危ないと言える。
てか、なんで、自分の家の中なのに、こんなに危険なんだ?
この国の治安はいいんじゃなかったのか?
「おじさんも、考えてよー」
栞奈と真凛が床に向かい合って座り、俺はベッドで寝転がっている状態だ。
「別に無理して、探さなくてもいいだろ」
「ダメですよ! 僕たちは正義のヒーローなんですから!」
「そうそう! 正義のために戦うための力を貰ったんだからさ!」
「……力は貰ってないだろ」
俺の言葉に2人が黙り、虚ろな目で遠くを見始める。
いや、悪かった。
あんな全身タイツの戦隊スーツがまさかなんの力もないなんてショックだよな。
けど、俺はそっちの方がよかった。
だって、自分で変身解除できるから、困ってる奴がいても無視できるんだからな。
「あ、そういえば、名前どうする?」
いち早く頭を切り替えた栞奈が声を上げた。
「名前……ですか?」
「ほら、なんとか戦隊とか、そういう名前」
「ああー、確かに必要ですね」
……必要か?
てか、決めてどうするんだ?
まさか、名乗ったりしないよな?
お願いだから、それは止めてくれよ。
本当に痛々しいから。
「KMO戦隊っていうのはどう?」
「ん? Kは栞奈か?」
「そう」
「じゃあ、Mは真凛だな。……Oは?」
「おじさん」
「なんで、俺だけ名前じゃないんだよ!」
「あれ? おじさん、名前合ったの?」
「あるわ!」
人を何だとおもってるんだよ?
「待ってください。2人とも重要なことを忘れています」
俺と栞奈の話に真凛が待ったをかける。
……いや、別に俺は名前を決めたいわけじゃないんだけどな。
「忘れてること? なに?」
「増えるかもしれないんですよ?」
「え?」
「あー、そっか」
増やす気なの? 嫌だよ!
栞奈はあっさりと納得したようだが、俺は断固拒否したい。
「なんで、増やす必要があるんだ?」
「戦隊ヒーローと言えば5人です」
「だよねー」
「でも、3人のもいるぞ」
お前らは知らないかもしれないけどな。
「でも、レッドがいません」
「うっ! ……確かに」
栞奈はブルー、真凛はイエロー。
そして、俺はピンク。
……俺、ピンクなんだよな。
マジ、凹む。
真凛の言う通り、今、俺たちにはレッドがいない。
このポジションはリーダーだ。
そこがいない戦隊ヒーローはなんだか、締まらない。
「じゃあ、一旦、名前は保留だね」
「活動しづらいですが、仕方ありません」
「……だな」
名前問題はまた付けようとしたときに異議を唱えればいいだろ。
とにかく、今やらなくていいことはやらない。
それが俺の信条だ。
「ということはさー。まずはレッド勧誘が最優先になるってこと?」
「そうなりますね」
「……勧誘って、どうやってやるんだ?」
「え? 普通に、レッドやってくれませんかーって」
「止めろ!」
サークルのメンバー集めてるんじゃないんだぞ。
……まあ、サークルみたいなもんだけどさ。
とにかく、そんな怪しい勧誘の仕方はヤバい。
確か、今、そういう勧誘系は厳しいって聞いたぞ。
明らかに怪しい3人組がそんなことをしたら、職質で引っ張られる可能性が大だ。
そして、俺だけ捕まるだろうな。
未成年監禁とかで。
なんか、こうやって考えてみると、俺の人生、色々詰んでるな。
「では、こうしましょう。まずは候補を見つけるんです」
「候補?」
「はい。行動力がありそうな人とか、正義感が強そうな人とかです」
「……それで?」
「弱みを握って脅すんです」
「なるほどー!」
「なるほどー! じゃねえよ! え? なに? 俺たち、全然正義じゃないじゃん! 怪人側の行動じゃん!」
「……あっ!」
ハッとする真凛。
ええー。お前、それ、ガチの意見だったの?
引くわー。
……てか、真凛って、ボーイッシュのサバサバしてる感じの外見なのに、実はサイコパスっぽい性格なんだよな。
戦隊ものって、最近、裏切りとかってあるらしいからな。
注意しておかないとだ。
「ねえ、おじさん、誰かやってくれそうな知り合い、いない?」
「いると思うか?」
「……」
俺がそう言うと、栞奈がポロポロと泣き始める。
「……ごめんなさい」
「やめて! そういうガチなリアクション! 返って凹むから!」
栞奈もいないとして、残りは真凛が頼りと言ったところだが……。
いないだろうな。
悪いが、そんな気がする。
まさしく、類は友を呼ぶってやつだな。
「なあ、そもそも、戦隊活動自体、やらなくていいだろ」
よし!
絶妙なタイミングだ!
ナイスだ、俺!
この行き詰ったときに、そもそものちゃぶ台返し。
こうすることで心を折るのだ。
「いえ、やります!」
「な、なんで、そこまで戦隊にこだわるんだよ?」
「お金を稼ぐためです」
「……」
あれ?
さっき、正義のためって言ってなかった?
とんだ俗物ヒーローだよ、まったく。
「でも……どうすればいいんだろうね?」
「そうですね……」
結局、まったく話が進んでいない俺たちだった。