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第18話 活動の方向性

 時間は19時。

 場所は俺の部屋。


 当たり前のように栞奈と真凛がいる。


「なかなか、いないもんだね」

「……そうですね。もっとたくさんいると思ってました」


 今、気づいたけど、俺の部屋は綺麗に掃除されていた。

 いくらなんでも母親がそんなことをするとは思えない。

 となれば、栞奈や真凛が掃除をしたんだろう。

 俺が寝ている間に。


 ……鍵つけないとな。

 そろそろ、安心して寝れなくなってきた。

 いつ襲われるかわかったもんじゃない。


 一応、約束通り、俺が寝ている夜の間は部屋に入ってくることはない。

 だが、日が沈んでからの『朝』になれば、平気で入ってくるだろう。

 今はまだ「朝に襲えばいいじゃん」とは気づいてないようだが、時間の問題だ。

 栞奈だけならまだ力づくで跳ね飛ばせるが、真凛と協力されればかなり危ないと言える。


 てか、なんで、自分の家の中なのに、こんなに危険なんだ?

 この国の治安はいいんじゃなかったのか?


「おじさんも、考えてよー」


 栞奈と真凛が床に向かい合って座り、俺はベッドで寝転がっている状態だ。


「別に無理して、探さなくてもいいだろ」

「ダメですよ! 僕たちは正義のヒーローなんですから!」

「そうそう! 正義のために戦うための力を貰ったんだからさ!」

「……力は貰ってないだろ」


 俺の言葉に2人が黙り、虚ろな目で遠くを見始める。


 いや、悪かった。

 あんな全身タイツの戦隊スーツがまさかなんの力もないなんてショックだよな。


 けど、俺はそっちの方がよかった。

 だって、自分で変身解除できるから、困ってる奴がいても無視できるんだからな。


「あ、そういえば、名前どうする?」


 いち早く頭を切り替えた栞奈が声を上げた。


「名前……ですか?」

「ほら、なんとか戦隊とか、そういう名前」

「ああー、確かに必要ですね」


 ……必要か?

 てか、決めてどうするんだ?

 まさか、名乗ったりしないよな?

 お願いだから、それは止めてくれよ。

 本当に痛々しいから。


「KMO戦隊っていうのはどう?」

「ん? Kは栞奈か?」

「そう」

「じゃあ、Mは真凛だな。……Oは?」

「おじさん」

「なんで、俺だけ名前じゃないんだよ!」

「あれ? おじさん、名前合ったの?」

「あるわ!」


 人を何だとおもってるんだよ?


「待ってください。2人とも重要なことを忘れています」


 俺と栞奈の話に真凛が待ったをかける。


 ……いや、別に俺は名前を決めたいわけじゃないんだけどな。


「忘れてること? なに?」

「増えるかもしれないんですよ?」

「え?」

「あー、そっか」


 増やす気なの? 嫌だよ!

栞奈はあっさりと納得したようだが、俺は断固拒否したい。


「なんで、増やす必要があるんだ?」

「戦隊ヒーローと言えば5人です」

「だよねー」

「でも、3人のもいるぞ」


 お前らは知らないかもしれないけどな。


「でも、レッドがいません」

「うっ! ……確かに」


 栞奈はブルー、真凛はイエロー。

 そして、俺はピンク。


 ……俺、ピンクなんだよな。

 マジ、凹む。


 真凛の言う通り、今、俺たちにはレッドがいない。

 このポジションはリーダーだ。

 そこがいない戦隊ヒーローはなんだか、締まらない。


「じゃあ、一旦、名前は保留だね」

「活動しづらいですが、仕方ありません」

「……だな」


 名前問題はまた付けようとしたときに異議を唱えればいいだろ。

 とにかく、今やらなくていいことはやらない。

 それが俺の信条だ。


「ということはさー。まずはレッド勧誘が最優先になるってこと?」

「そうなりますね」

「……勧誘って、どうやってやるんだ?」

「え? 普通に、レッドやってくれませんかーって」

「止めろ!」


 サークルのメンバー集めてるんじゃないんだぞ。

 ……まあ、サークルみたいなもんだけどさ。


 とにかく、そんな怪しい勧誘の仕方はヤバい。

 確か、今、そういう勧誘系は厳しいって聞いたぞ。

 明らかに怪しい3人組がそんなことをしたら、職質で引っ張られる可能性が大だ。

 そして、俺だけ捕まるだろうな。

 未成年監禁とかで。


 なんか、こうやって考えてみると、俺の人生、色々詰んでるな。


「では、こうしましょう。まずは候補を見つけるんです」

「候補?」

「はい。行動力がありそうな人とか、正義感が強そうな人とかです」

「……それで?」

「弱みを握って脅すんです」

「なるほどー!」

「なるほどー! じゃねえよ! え? なに? 俺たち、全然正義じゃないじゃん! 怪人側の行動じゃん!」

「……あっ!」


 ハッとする真凛。


 ええー。お前、それ、ガチの意見だったの?

 引くわー。


 ……てか、真凛って、ボーイッシュのサバサバしてる感じの外見なのに、実はサイコパスっぽい性格なんだよな。

 戦隊ものって、最近、裏切りとかってあるらしいからな。

 注意しておかないとだ。


「ねえ、おじさん、誰かやってくれそうな知り合い、いない?」

「いると思うか?」

「……」


 俺がそう言うと、栞奈がポロポロと泣き始める。


「……ごめんなさい」

「やめて! そういうガチなリアクション! 返って凹むから!」


 栞奈もいないとして、残りは真凛が頼りと言ったところだが……。

 いないだろうな。

 悪いが、そんな気がする。

 まさしく、類は友を呼ぶってやつだな。


「なあ、そもそも、戦隊活動自体、やらなくていいだろ」


 よし!

 絶妙なタイミングだ!

 ナイスだ、俺!

 この行き詰ったときに、そもそものちゃぶ台返し。

 こうすることで心を折るのだ。


「いえ、やります!」

「な、なんで、そこまで戦隊にこだわるんだよ?」

「お金を稼ぐためです」

「……」


 あれ? 

 さっき、正義のためって言ってなかった?


 とんだ俗物ヒーローだよ、まったく。


「でも……どうすればいいんだろうね?」

「そうですね……」


 結局、まったく話が進んでいない俺たちだった。

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