物凄く嫌な予感がした。
どうせ、ろくなことじゃないだろう。
だから、俺は無視を決め込むことにした。
「うわ! 今、誰かの声が聞こえた!?」
「僕もです。頭の中に直接響いてきたような……」
無駄だった。
どうやら、女神のやつは俺だけじゃなく栞奈と真凛にも聞こえるように話したらしい。
そんなこともできるのか、と思ったが、俺にできるんだから栞奈や真凛にできてもおかしくないよな。
「やりましょう! 人助け!」
「え、えっと……誰?」
まあ、栞奈の反応もわかる。
突然、変な声が頭に響いたらそうなるわな。
けど、果たして女神だ、なんて言って通用するかな?
「女神です」
「女神なんだ」
「女神ですか」
通用した。
あっさりと。
栞奈と真凛はどちらも秒で納得したようだ。
適応能力高すぎるぞ、お前ら。
「おい、女神。俺のことにあんまりしゃしゃり出るなよ」
「ぜひとも、人助けをやってください」
「無視するな!」
「でも、どうしてそこまでして、進めるんですか?
「何言ってるのさ、真凛ちゃん。女神が人間を助けるなんて当然じゃん。だって女神だよ」
「実は最近、実績ノルマが足りないって言われてしまいまして」
思い切り俗物的な理由だった。
お前、本当に神か?
やっぱり神の面被った悪魔だろ。
「というわけで、あなたたちに協力してもらいたいのです」
「ちょっと待て! たち? たちだと? こいつらも巻き込む気か?」
まあ、さすがに断るだろ。
こんな怪しいやつに言われても。
俺なら絶対、拒否するね。
「わーい! 協力するする!」
「僕もお願いします」
受け入れちゃった。
知らないぞ、どうなっても。
「では、お二方にもこれを授けます」
女神がそういうと、栞奈と真凛の右手首のところが光り始める。
そして、光が収まると、栞奈は青色の、真凛は黄色のブレスレットが装着されていた。
「変身ブレスレットです」
「おい! やっぱ、ブレスレットじゃねーか! 何がベルトだよ!」
「変身ブレスレットに触れて、変身と唱えれば、変身できます」
「無視すんな!」
そりゃそうだよな。
どう見てもベルトって感じじゃねーもん、これ。
てか、腹に食い込んでて嫌なんだけど。
俺もあっちにしてくれよ。
「変身だってー! すごいよね!」
「なんか、ドキドキしますね」
2人は意外と戦隊ものが好きなようだ。
……て、あれ?
ちょっと、待て。
おかしくないか?
「変身!」
栞奈がブレスレットに手を当ててそう叫んだ。
同時に栞奈の身体が光り始め、その光が収束するとバトルスーツの姿になった。
栞奈はブルーの色だ。
ちなみに、ツインテールの髪だけがヘルメットから出ているという実にシュールな姿になっている。
ウルトラ〇ンの母みたいだ。
「変身します!」
その隣では真凛が変身を遂げる。
真凛の方はイエローだ。
……あのさ。
栞奈は金髪のツインテール。
で、真凛は青の短髪だ。
……色、逆じゃね?
ここは栞奈がイエローで、真凛がブルーだろ。
って、そんなことはどうでもいい!
「おい、女神! なんで自由に変身できるんだよ!」
そう。俺の場合は勝手に変身させられて、勝手に変身が解けるのだ。
「そういうバージョンですから」
「俺も、そっちのバージョンにしてくれよ!」
「面倒くさいです」
「……」
あー、ヤバい。
今、本気で殺意が芽生えた。
もう一回死んで、女神を〇しに行こうかな。
なんてことを考えているときだった。
「おりゃああああああ!」
いきなりブルーが、栞奈が俺に向って襲い掛かってきた。
「なっ!?」
咄嗟のことで俺は簡単に押し倒されてマウントポジションを取られる。
「お、おい! なんのつもりだ?」
「……このときを待っていた」
まるで、どこぞの魔王や怪人が言いそうなセリフを吐く。
お前、今、戦隊ヒーローだぞ。
そして、栞奈は興奮気味の声でこう言った。
「おじさんを力づくで私のものにする、このときを」
完全に敵役の台詞じゃねーか!
てか、おっさんが戦隊ヒーローに犯られるって、誰得だよ!
それに、凌辱は2次元だけの聖なる行為だって、言ってるだろ!
「はあ、はあ、はあ……。大丈夫。優しくするから」
「襲ってる時点で、優しくする気0じゃねーか! 真凛、助けてくれ!」
俺がそう言うと、真凛がハッとしてこちらに駆けてくる。
頼む、真凛。俺は今、変身していないから、お前だけが頼りだ!
「栞奈さん! ズルいです!」
……いや、そうじゃなく。
「終わったら回してあげるから、ちょっと待ってて」
「……絶対ですよ」
ほらあ、そうなるじゃん!
なんて言ってる場合じゃない!
俺の純潔はモナ子に捧げると決めている!
「おらあああああああ!」
無駄だとわかっているが抵抗する。
最後まで諦めないからな、モナ子。
「あわわわ!」
俺が全力で抵抗すると、栞奈は簡単に俺の腹の上から転げ落ちた。
「……あれ?」
「なんで?」
俺と栞奈が同時に首を傾げる。
バトルスーツはチート能力を持っているはずだ。
変身していない俺の力が通じるはずがないのに。
「あ、そのスーツにはチート能力はありませんよ」
女神が言い忘れていたのか、付け加えるように言ってくる。
相変わらず、そういう大事なところを言わないよな、こいつは。
「自分で変身も解除もできる代わりに、チート能力がないって商品ですから」
商品って言っちゃった!
売ってるの、これ?
……仮にそうだったとしてもさ、作ったって言ってくれよ。
嘘でもさ。
そういう雰囲気って結構大事だぞ。
本人のモチベーション的に。
「ということは……」
真凛がヘルメット越しに顎のところに指を当てて首を傾げる。
「これは何の能力もない、変身するだけのブレスレット、ということですか?」
「はい、そうです」
実にあっさりと肯定する女神。
俺たちは3人とも沈黙してしまった。
そして、おそらく、3人ともこう思っただろう。
「ただのコスプレじゃん」
と。