財布を開いて中を見る。
残金3030円。
……え?
なんで、こんなに少ないんだ?
ちょっと待て。
落ち着け。
久しぶりに算数のお時間だ。
まず、昨日、母親から2万貰った。
その時点で俺の財布の中には30円が入っていたので、合計で20030円だ。
駅前で真凛と遭遇して、駅の中の喫茶店に入っただろ?
そして、その会計が3000円だった。
……あれ?
なんで、俺、2人の分まで奢ってるんだ?
しかも、2人の方が俺より高いの飲んでたよな?
……まあ、いい。
とりあえずは計算の方が先だ。
20030円引く3000円で、17030円だな。
次に、昨日、夕食の材料を買うとかで栞奈と真凛にそれぞれ2000円ずつ渡した。
だから、17030引く4000で、13030円だよな。
おかしい。
今、俺の財布には13030円が入っているはずなのに、3030円しか入っていない。
1万円が無くなっている。
……どういうことだ?
「おじさん、どうしたの?」
頭を抱えている俺を心配そうな目で見てくる栞奈。
「いや、俺の財布の中にカネゴンが住んでるみたいなんだ。しかも、一番金額の高い、万札を食べる厄介なやつだ……」
「ああ、おじさんの財布の1万円なら私が使ったよ」
「……は?」
さらりと、悪びれもなく犯罪行為を口にする栞奈。
「いつの間に?」
「ほら、おじさん寝てたじゃない? 私たちが買い物に行ったとき」
「……ああ、そう言えば、5時間くらい爆睡してたっけな」
「そのときに」
「いや、そのときに、じゃねーよ! なにしてくれてんだよ!」
「ちょっと待ってよ! 私が使ったけど、おじさんのものを買ったんだからっ!」
「俺のもの?」
俺、栞奈に買い物頼んだっけ?
イチハチのDVDの8巻は来月だし……フィギュアは母親のカードから引き落としだし、ゲームもとりあえず欲しいのはなかったはずだ。
「俺のものってなんだよ?」
「私のパンツ」
「……思い切り、お前のものじゃねーかよ」
「違うよ! おじさんが脱がすから、最終的にはおじさんのものじゃん!」
「何言ってんだ、お前?」
「スケスケのすっごいエロいやつだよ。見る?」
「……」
「あれ? ……も、もしかして、キャラクター絵が入ったやつがよかった?」
「そこじゃねえ!」
あーもう。
怒る気力も失せるな。
返品して来いと言ったところで、もう履いてるみたいだしな。
……売るところに売れば、高く買い取ってくれそうだけど、同時に犯罪の臭いもしてきそうだ。
そもそも、同じものをずっと履かれてても困るし、かといって洗っている間は履いてないとかさらに厄介なことになる。
1万の出費はかなり痛いが、これはこれで必要経費だったのか?
それなら高いのを買わないで、安いのをたくさん買って欲しかったところだが……。
「ということは、予算は3000円ですね」
話を聞いていた真凛がうんうんと頷きながら店内を見渡している
いや、3000円の自転車なんてないだろ。
ここ新品しか売ってなさそうだし。
なんてことを思っていると。
「あっ、ありましたよ! これ、どうですか!?」
そう言って意気揚々と真凛が持ってきたのは……。
――オモチャの三輪車だった。
「乗れるかっ!」
その後、もちろん、何も買えず店を出てきた俺たち。
そのまま家に帰るのもなんだから、なんとなく河原に立ち寄り、呆然と太陽を眺める。
本当は夕日を眺めたかったが、まだ15時前なので仕方がない。
「ドンマイだよ、おじさん」
「お前が言うな」
「僕が借金して払いましょうか?」
「……重いし、見返りが怖いからいい」
それなら、昨日の飲み物と夕食代として渡した2000円を出して欲しかった。
まあ、それがあったとしても自転車は買えなかったと思うけど。
やっぱ、栞奈のパンツが痛恨の極みだったな。
「おじさん……。私のパンツ見て元気出して」
「ここで出したら、俺が捕まるから止めてください。マジで」
「じゃあ、僕のを」
「変わんねーよ」
え? なに?
お前ら、俺を亡き者にしたいの?
今の時代、あっさりと社会的に抹殺されるんだぞ?
「……とにかく、自転車なしで活動するしかないね」
ああー。そうだった。
そもそも、自転車が欲しい理由は変身した後の移動手段だったな。
変身のことも思い出して、ブルーな気分になる。
「活動って何の話ですか?」
真凛が首を傾げる。
そっか。真凛にはまだ説明してなかったな。
というか説明する必要があるのか?
「あー、えっとね」
栞奈が説明を始める。
一瞬止めようかと思ったが、面倒くさいので放置することにした。
別に信じてもらえなくてもいいしな。
「なるほど、理解しました!」
ポンと手を叩く真凛。
……最近の若いやつは順応力が高いな。
あっさりと信じるか、普通?
「そして、いいことを思い付きました!」
「なになに?」
「人助けをしてお金を稼ぎましょう!」
「おおおー! それはグッとアイディアだよ、真凛ちゃん!」
「……そ、そうですかね?」
顔を真っ赤にして照れている真凛。
きっと普段、褒められることがないんだろう。
思いのほか、嬉しそうにしている。
「……具体的にはどんな感じで稼ぐんだ?」
「まずは町中を歩きます。すると、困った人を感知してお兄さんが変身しますよね? それで、その人を助けた後にお金を要求するんです」
「……ヤ〇ザかな?」
「でもさー、助けられたら、断れないよねー」
「ですよね。僕もその場で体を要求されてたとしても、素直に受け入れたと思います」
「……新手の詐欺グループみたいだな」
大体、それってこっちから厄介ごとに首を突っ込むってことになる。
冗談じゃない。
そんなのは却下だ。
そう思って口を開こうとしたときだった。
「それはとてもいい案ですね」
あの女神が……いや、悪魔が話に首を突っ込んできたのだった。