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第15話 忘れていた問題

 体中がバキバキと痛い。

 やはりソファーなんかで寝るもんじゃない。

 起き上がって、伸びをすると背骨がバキバキと鳴る。


「ねえ、おじさん。今日はなにして遊ぶ?」


 栞奈が俺の腕に絡みついてくるように抱き着いてきた。


 ……なんで、お前と遊ぶことが決定してるんだ。

 この2,3日はずっと栞奈に付きまとわれている。

 そろそろ、一人の時間が欲しいところだ。


 ……っていうか。


「おい、栞奈、離れろ」

「えー、なんで?」

「暑い。……それに胸が当たってるぞ」

「えへへへ。わ、ざ、と! どう? 柔らかいでしょ?」

「いや、別に」

「反応薄いっ!? えー? JKのおっぱいだよ?」


 ふん。しょせんは3次元のおっぱいだ。

 これが限界だろ。


「悪いな、栞奈。モナ子のおっぱいはこれの10倍は柔らかい」

「え? 触ったことあるの?」

「ああ。想像の中でな」

「そ、そっか……」


 引きつった笑顔を浮かべる栞奈。

 そして、自分で自分の胸を鷲掴みにして揉みながら「んー」と首を傾げている。


「お兄さん、朝ごはんができました」


 そう言って、キッチンの方から皿を持ってやってくる真凛。


「おお。朝ごはん作ってたのか。できるの、早いな」

「頑張りました」


 はにかむように笑い、持っていた皿を俺に渡してくる。


「どうぞ」

「ありが……」


 俺は朝ごはんだと言う皿の上を見る。

 そこには三本のカイワレ大根が転がっていた。


「……なんだ、これは?」

「カイワレ大根です」

「いや、それはわかるんだが……これだけか?」

「収穫できたのが、それだけだったので……」


 ああ。そういえば、庭で何か栽培してたな。

 けど、よりによってなんでカイワレ大根なんだよ。


「あー! ズルい! 私も食べるー!」


 そう言って、栞奈はカイワレ大根を1本、つまんで食べた。


「では、僕も……」


 真凛も1本食べる。

 残ったのはヨレヨレのカイワレ大根1本だけだった。


 ……少ない。

 まあ、3本でも全然足りんけどな。




「ぷはー! ご馳走様でしたー!」


 バンと、カップ麺のカップをドンとテーブルに置く栞奈。


「ありがとうございます。とても美味しかったです」


 真凛はカップ焼きそばのカップの上に箸を置き、口をハンカチで拭いている。


「あ、ああ……」


 俺もカップ蕎麦の汁を飲み干し、カップをテーブルの上に置く。

 最近、カップ麺ばっかりだな。


「……さてと」


 俺はカップと割り箸をゴミ箱に入れて、リビングを出ようと歩き出す。


「あれ? おじさん、どこ行くの?」


 ……デジャブ。

 昨日の夜も同じような会話をしたような気がする。


「部屋だけど」

「じゃあ、私も行くー」

「僕も」

「待て!」


 立ち上がって俺の後に続こうとする栞奈と真凛を止める。


「今日くらいはゆっくりさせてくれ」

「あ、そっか。ごめん。昨日はソファーで寝たから疲れ取れてないんだね」


 おお! 栞奈にしては人に気を使った台詞だ!

 人に気を使えるなんて、成長したな!


「じゃあ、俺、寝るから」


 そう言って、俺は部屋へと戻ったのだった。




「最初はグー! ジャン、ケン、ポン!」

「あ……負けました」

「いえーい! 私の勝ち―! 私が先ね」


 俺は今、俺の部屋にいる。

 そして、栞奈と真凛もいる。


 ……なぜだ?

 あれ? さっき、疲れが取れなかったって話だったはずだが?

 俺、これから寝るって話だったよな?


「……なあ。なんで、お前らここにいるんだ?」

「え? なんでって言われても……」

「俺、寝るって言ったよな?」

「うん。言ってたねぇ」

「なんで、お前ら、ここにいるんだよ?」

「なんでって言われても……」

「俺、寝るって言ったよな?」

「うん。言ってたねぇ」


 ザ、ループ!

 話が進まねえ!


 ……俺が悪いの?

 俺の日本語が変なのか?


「わかった。お前らにもわかるように、はっきり言うぞ。今から寝るから出てけ」

「え? なんで?」

「なんでって、寝るからだよ!」

「うん。おじさんは寝てていいよ」

「は?」

「私たちは私たちで勝手にやるから」

「栞奈さん。一回ずつ交代ですからね」

「わかってるって。あ、おじさんは寝てるだけでいいから」

「何する気だよ!?」


 怖いよ。

 そんなん、怖くて寝れねーよ!


 うう……。

 どうする?

 今日も俺は部屋でゴロゴロすることはできないのか?


 なんてことを考えていると、栞奈が「あっ!」と声を上げた。


「おじさん、忘れてた!」

「なにがだ?」

「自転車!」

「っ!?」



 まだまだ外は熱気があふれている。

 真夏の昼なのだから当然だろう。


 立っているだけで汗が流れてくるのに、そんな中、歩くなんてことをすると、もう自分でも引くくらい汗が出る。


 ……ミイラになりそうだ。


 あれから栞奈に急かされ、俺は無理やり外へと引っ張り出された。

 そして、今、3人で駅前の自転車屋へ向かっているというわけだ。


「やっぱり、格好いいやつがいいよねー」

「……ママチャリでも可愛いと思いますが」

「あー、確かに」

「一輪車も捨てがたいと思いませんか?」

「あははは。おじさんが一輪車かー! いいねいいね。可愛い」


 ……俺は自分の自転車さえも選ぶ権利がないのか。

 あー、もう文句を言うのもダルい。

 勝手にしてくれ。


 そんなこんなしているうちに、今度はあっさりと自転車屋に到着した。

 ドアを開けて自転車屋の中に入る。


「おおー! いっぱいあるー!」


 当たり前だが、店には様々な自転車が並んでいる。


「ねえ、真凛ちゃん、これなんかどうかな?」

「それなら、こっちの色とかどうですか?」

「あー、いいね」

「……そういえば」


 動きを止めて俺の方へ振り向く真凛。


「予算はいくらですか?」

「……え?」


 そういえば、自転車代は庭にあるプランターに化けたことを思い出したのだった。

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