3人でカップ麺を食べ終わったときには20時を回っていた。
あんまり満足のいく夕食ではなかったが、とりあえず腹は膨れた。
ここからはアニメを見ながらゴロゴロするという至福の時間だ。
「おじさん、また格ゲーで勝負しようよ」
「いえ、ボードゲームしましょう」
「どっちも却下だ。っていうより、真凛。そろそろ帰らなくていいのか?」
そんな俺の言葉に真凛は首を傾げた。
「帰るとはどういうことですか?」
「いや、自分ちに帰るってことだよ」
「……もう帰ってますが?」
うわ、嫌な予感がする。
というか、栞奈ともこんな話したな。
「えー! じゃあ、真凛ちゃんもここに住むの?」
「ええ。当然です」
やっぱりかー。
てか、なんでそんなに簡単に人の家に住もうとするの?
ここは公共の場じゃないんだが?
「なんでなんでー!?」
「いきなり別居はおかしいですよ。通い妻は嫌です」
お前の頭の方がおかしいよ。
「てか、大体、結婚してないだろ」
「あ、そうでした。じゃあ、愛人でお願いします」
「ずるいー! 愛人は私だよ!」
……それでいいのか、栞奈。
まあ、俺の嫁はモナ子だからな。
「というわけだから、とにかく自分ちに帰れ」
「なるほどです。今夜は僕の家にお兄さんが止まるんですね」
「なんで、そーなるのっ!?」
うーん。全然、話が通じないぞ。
俺はどうしたらいいんだ?
「とにかく、この家は私とおじさんとの愛の巣なんだから、真凛ちゃんは帰ってよ!」
……勝手に決めるな。
この家は俺とモナ子の愛の巣だ。
「それを聞いたら、余計帰れなくなりました」
「えー、なんで?」
「お兄さんの貞操が危ないからです。愛人としてそこは守る義務があります」
「私だって、愛人としておじさんを襲う権利があるよ!」
えっと。
そんな義務も権利もないから。
てか、そもそも愛人じゃないだろ。
はあ……。
なんか疲れてきた。
もう、勝手にしてくれ。
俺は立ち上がり、部屋へと向かおうとする。
だが、腕をがっちり、両側から掴まれてしまう。
「ちょっと、おじさん、どこ行く気?」
「……部屋に戻るんだよ」
「それなら、ちゃんと決めてからにしてください」
「決める? 何をだ?」
「今日はどっちと寝るかだよ」
「……なんで、どっちかと寝る前提なんだ? 嫌だよ」
「ええー!? なんで? JKと寝る権利を放棄する気?」
……お前のアイデンティティはJKだけなのか?
「ああ。だって、暑苦しいだろ」
「え? あ……もう! 熱いって、ベッドでどんな運動する気なのよ……」
栞奈が顔を真っ赤にして、両頬に手を当ててモジモジとし始める。
「二回戦なので、お兄さんの腰が心配です」
お前らの頭の方が心配だよ、俺は。
「いいか。夜は、俺は一人で寝る。だから、お前らは俺が寝るときは絶対に部屋に入るなよ」
「じゃあ、寝るとき以外は自由におじさんの部屋に入っていいんだね?」
「……」
しまった。
そういうロジハラ止めて。
お願いだから、これ以上、俺の安寧を崩さないでくれ。
だが、そんな願いも虚しく、今日も俺の部屋は外部の人間に侵入を許してしまう。
自室警備員失格だな。
結局、栞奈と真凛はなんだかんだ口喧嘩をしながらも、仲良くゲームをしていた。
モニターを使われているせいで、俺はアニメが見れず、2人がゲームをしているのを見ているだけという構図だ。
……俺の部屋なのになぁ。
俺が一番肩身が狭い気がする。
見ていると、格闘やアクション系のゲームは栞奈の方が上で、パズルやスゴロクゲームなんかは真凛の方が上だ。
まあ、予想通りの結果だな。
そんなこんなしているうちに、なんと二人は疲れて寝てしまったのだ。
……俺のベッドの上で。
お前ら、マジでふざけるなよ。
抱えて栞奈の部屋に放り込んでもいいが、目を覚ましたらまた厄介になる。
ここは大人しくしてもらうために、変に振れない方がいいだろう。
面倒くせーな。
仕方なく、俺はリビングのソファーで寝ることにした。
まだ今が夏でよかったと思いながら、ソファーに寝転がる。
……意外と寝づらいな。
まあ、寝るためのものじゃないしな。
寝苦しくて何度も寝返りを打っていたら、リビングに母親が入ってきた。
「……2人は?」
「俺の部屋で寝てる」
「ふーん。ちゃんと弱みを握ってから手を出しなさいよ」
「息子を犯罪者にしようとするな」
まったく、何を考えてるんだ、うちの母親は。
「あー、えっと。すまんな。うるさくして」
「……あんたが謝るなんて、高校の時以来かもね」
「……そうかも」
会話が途切れ、気まずい雰囲気が漂う。
だが、ふと、母親が笑った。
「でも、まあ。これであんたが孤独死しなくて済みそうで安心したよ」
「話が飛躍し過ぎだ」
大体、俺には永遠の嫁のモナ子がいるんだ。
これからもあいつらと住むつもりはない。
「いい子たちじゃないか。友達でもいいから、大事にしてあげなよ」
そう言って、母親はリビングから出て行ってしまった。
……友達、か。
確かにあいつらの言動に惑わされて、つい嫁だの愛人だのと考えがちだった。
だけど、別に友達だっていいわけだ。
まあ、なんていうか、あの2人なら別に一緒にいて不快にはならない。
友達としてなら……上手くやれるかもな。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか俺は眠りに落ちていったのだった。
「おじさん、朝だよー!」
ドンと、栞奈が俺の上に乗ってくる。
「うおっ!」
寝ていたところに不意を突かれたので、息が詰まる。
そして、今度は俺の顔を、真凛が両手で包み込むように掴んできた。
「お兄さん、目覚めのキスです」
そう言って顔を近づけてくる。
「うおーー! 止めろ!」
前言撤回。
こいつらとは友達でも無理だ。