目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第14話 友達としてなら

 3人でカップ麺を食べ終わったときには20時を回っていた。

 あんまり満足のいく夕食ではなかったが、とりあえず腹は膨れた。


 ここからはアニメを見ながらゴロゴロするという至福の時間だ。


「おじさん、また格ゲーで勝負しようよ」

「いえ、ボードゲームしましょう」

「どっちも却下だ。っていうより、真凛。そろそろ帰らなくていいのか?」


 そんな俺の言葉に真凛は首を傾げた。


「帰るとはどういうことですか?」

「いや、自分ちに帰るってことだよ」

「……もう帰ってますが?」


 うわ、嫌な予感がする。

 というか、栞奈ともこんな話したな。


「えー! じゃあ、真凛ちゃんもここに住むの?」

「ええ。当然です」


 やっぱりかー。

 てか、なんでそんなに簡単に人の家に住もうとするの?

 ここは公共の場じゃないんだが?


「なんでなんでー!?」

「いきなり別居はおかしいですよ。通い妻は嫌です」


 お前の頭の方がおかしいよ。


「てか、大体、結婚してないだろ」

「あ、そうでした。じゃあ、愛人でお願いします」

「ずるいー! 愛人は私だよ!」


 ……それでいいのか、栞奈。

 まあ、俺の嫁はモナ子だからな。


「というわけだから、とにかく自分ちに帰れ」

「なるほどです。今夜は僕の家にお兄さんが止まるんですね」

「なんで、そーなるのっ!?」


 うーん。全然、話が通じないぞ。

 俺はどうしたらいいんだ?


「とにかく、この家は私とおじさんとの愛の巣なんだから、真凛ちゃんは帰ってよ!」


 ……勝手に決めるな。

 この家は俺とモナ子の愛の巣だ。


「それを聞いたら、余計帰れなくなりました」

「えー、なんで?」

「お兄さんの貞操が危ないからです。愛人としてそこは守る義務があります」

「私だって、愛人としておじさんを襲う権利があるよ!」


 えっと。

 そんな義務も権利もないから。

 てか、そもそも愛人じゃないだろ。


 はあ……。

 なんか疲れてきた。

 もう、勝手にしてくれ。


 俺は立ち上がり、部屋へと向かおうとする。

 だが、腕をがっちり、両側から掴まれてしまう。


「ちょっと、おじさん、どこ行く気?」

「……部屋に戻るんだよ」

「それなら、ちゃんと決めてからにしてください」

「決める? 何をだ?」

「今日はどっちと寝るかだよ」

「……なんで、どっちかと寝る前提なんだ? 嫌だよ」

「ええー!? なんで? JKと寝る権利を放棄する気?」


 ……お前のアイデンティティはJKだけなのか?


「ああ。だって、暑苦しいだろ」

「え? あ……もう! 熱いって、ベッドでどんな運動する気なのよ……」


 栞奈が顔を真っ赤にして、両頬に手を当ててモジモジとし始める。


「二回戦なので、お兄さんの腰が心配です」


 お前らの頭の方が心配だよ、俺は。


「いいか。夜は、俺は一人で寝る。だから、お前らは俺が寝るときは絶対に部屋に入るなよ」

「じゃあ、寝るとき以外は自由におじさんの部屋に入っていいんだね?」

「……」


 しまった。

 そういうロジハラ止めて。

 お願いだから、これ以上、俺の安寧を崩さないでくれ。



 だが、そんな願いも虚しく、今日も俺の部屋は外部の人間に侵入を許してしまう。

 自室警備員失格だな。


 結局、栞奈と真凛はなんだかんだ口喧嘩をしながらも、仲良くゲームをしていた。

 モニターを使われているせいで、俺はアニメが見れず、2人がゲームをしているのを見ているだけという構図だ。


 ……俺の部屋なのになぁ。

 俺が一番肩身が狭い気がする。


 見ていると、格闘やアクション系のゲームは栞奈の方が上で、パズルやスゴロクゲームなんかは真凛の方が上だ。

 まあ、予想通りの結果だな。


 そんなこんなしているうちに、なんと二人は疲れて寝てしまったのだ。

 ……俺のベッドの上で。


 お前ら、マジでふざけるなよ。


 抱えて栞奈の部屋に放り込んでもいいが、目を覚ましたらまた厄介になる。

 ここは大人しくしてもらうために、変に振れない方がいいだろう。


 面倒くせーな。


 仕方なく、俺はリビングのソファーで寝ることにした。


 まだ今が夏でよかったと思いながら、ソファーに寝転がる。


 ……意外と寝づらいな。

 まあ、寝るためのものじゃないしな。


 寝苦しくて何度も寝返りを打っていたら、リビングに母親が入ってきた。


「……2人は?」

「俺の部屋で寝てる」

「ふーん。ちゃんと弱みを握ってから手を出しなさいよ」

「息子を犯罪者にしようとするな」


 まったく、何を考えてるんだ、うちの母親は。


「あー、えっと。すまんな。うるさくして」

「……あんたが謝るなんて、高校の時以来かもね」

「……そうかも」


 会話が途切れ、気まずい雰囲気が漂う。

 だが、ふと、母親が笑った。


「でも、まあ。これであんたが孤独死しなくて済みそうで安心したよ」

「話が飛躍し過ぎだ」


 大体、俺には永遠の嫁のモナ子がいるんだ。

 これからもあいつらと住むつもりはない。


「いい子たちじゃないか。友達でもいいから、大事にしてあげなよ」


 そう言って、母親はリビングから出て行ってしまった。


 ……友達、か。

 確かにあいつらの言動に惑わされて、つい嫁だの愛人だのと考えがちだった。

 だけど、別に友達だっていいわけだ。


 まあ、なんていうか、あの2人なら別に一緒にいて不快にはならない。

 友達としてなら……上手くやれるかもな。


 そんなことを考えているうちに、いつの間にか俺は眠りに落ちていったのだった。



「おじさん、朝だよー!」


 ドンと、栞奈が俺の上に乗ってくる。


「うおっ!」


 寝ていたところに不意を突かれたので、息が詰まる。

 そして、今度は俺の顔を、真凛が両手で包み込むように掴んできた。


「お兄さん、目覚めのキスです」


 そう言って顔を近づけてくる。


「うおーー! 止めろ!」


 前言撤回。

 こいつらとは友達でも無理だ。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?