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第12話 二人目

 男じゃなくて、女。


 これはかなりビックリした。

 そっかー。

 いや、現実でもいるもんだな。

 男だと思ってたら女だったってやつ。


 2次元にしか存在しないかと思ってたよ。


「ええー? ホントに?」


 栞奈が隣にいるその子の体を、ジロジロと嘗め回すように見ている。

 髪は青みがかかった短髪。

 背は栞奈より、若干高いと言った感じだろうか。


 白いTシャツにデニムの短パンを履いている。

 靴は運動靴で、動きやすい服装といった感じだ。


 顔は俺たちが男と間違える程度にはボーイッシュ。

 というより、綺麗って感じだろうか。


 それにしても栞奈、ガン見し過ぎだぞ。

 かなり失礼な奴だな。


 ジロジロと見られて、恥ずかしいのか、その子は必死に訴えかけてくる。


「ホントですよ」

「その嘘、見破ったり!」


 そう叫ぶと同時に、栞奈はテーブルの下から、その子の股間を手でつかんだ。


「ひゃああああ!」


 そんなことをされるとは思ってなかったのか、気の抜けたような変な声を出した。

 周りの客が何事かと、一斉にこっちを見る。


 おいおいおい。

 マジかよ、お前。

 すげーな。

 俺には絶対に、そんな真似はできん。


 やったら、一発、レッドカードだ。

 というか、社会から退場どころか抹殺される。


 たとえ、相手が女だろうが男だろうが、だ。


「ああああああ! ホントだぁああああああ!」


 何度も、その子の股間を触る栞奈。


「はううううう……」


 触られるたび、変な声をあげている。


 ……栞奈。

いい加減にしないと、JKといえども、お巡りさんに連れて行かれるぞ。


「だ、だからそう言っているじゃないですか!」


 顔を真っ赤にして、栞奈の腕を掴んで股間を触るのを止めている。


「ううむ……」


 今度は顎に手を当てて、さらにその子の体をジロジロと見始める。


 お前は股間を触ったくせに、まだ信じられないのかよ。

 というか、男とか女とか、そこまで重要か?

 別にどっちでもいいだろ。


「うりゃ!」


 いきなり栞奈がその子の胸を鷲掴みにする。


「うひゃあああああああ!」


 再び、気の抜けたような悲鳴を上げる。


 なんか、さすがに可哀そうになってきたな。

 そろそろ止めてやるか。


 そう思ってると、栞奈は鷲掴みにしていた胸から手を放す。

 そして、両腕を上げて、ガッツポーズをしたのだった。


 ……なんなんだよ、お前。




 とりあえず、俺たちはそのコーヒーショップには居づらくなったので移動することにした。

 で、今、なぜか俺の家……部屋にいる。

 栞奈の提案で。


 なんでだよ!

 家の場所、バレちまったじゃん!


 俺の部屋に入るなり、栞奈は「適当に座って」と、我が物顔で言いやがった。

 マジで、ふざけんな。


「愛洲(あいす)真凛(まりん)です」


 そう言って、ぺこりと頭を下げる真凛。


「なんか、2次元みたいな名前だな」

「……よく言われます」


 少しだけ寂しそうな顔をする真凛。

 もしかすると、学校で揶揄われたのかもしれない。


「俺は好きだぞ」

「え?」

「真凛の名前」


 2次元っぽいというのは、かなりポイントは高い。

 けど、まあ、あくまで名前だけの話だ。

 本体に興味はない。


「あ、ありがとうございます。そんなこと言われたの、初めてです」


 顔を真っ赤にして俯いてしまう真凛。

 それとは対照的に、栞奈は頬を膨らませて顔を赤くする。


「私も、名前を真凛する」

「……なんでだよ」


 どっちも真凛だと呼びずらいだろ。


「あの、そういえば、いつにしましょうか?」

「なにがだ?」

「結婚式です」

「……」


 ああ。そんなこと言ってな。

 っていうか、俺、了承したっけ?

 なんで、結婚する前提なんだ?


「ちょっと! なんで、おじさんが真凛と結婚することになってるのさ!」


 ここで待ったをかけたのが栞奈だった。


 おお、いいぞ。

 もっと言ってやれ。


「おじさんと結婚するのは私だよ!」


 前言撤回だ。

 お前は口を開くな。


「栞奈さんは何歳ですか?」

「へ? 15歳だけど……?」

「15歳だと結婚は出来ません」

「うっ!」

「僕は19歳です。結婚できます」

「うわあああああ!」


 栞奈が膝から崩れ落ちる。


 いや、あのさ。

 なんで、そこに俺の意思は入っていないんだ?

 一番重要なとこじゃねーの?


 それに俺の嫁はモナ子だし。


「わ、私は……おじさんのお母さん、公認だよ」

「……え!?」


 目を見開いて、後退り、チラリと俺の方を見る真凛。


待ってくれ、誤解だ。

ロリコンなんですかって、目で訴えてくるのは止めてくれ。

確かに俺はロリコンでもあるが、それは2次元だけの話なんだ。

 そもそも、3次元には興味がないんだってば!


「わかりました。では、僕がお母さんを説得します。僕の方がお兄さんの嫁に相応しいと」

「なにをー!」


 いや、だから、俺の嫁はモナ子……。


「ポッ出のくせに、しゃしゃりでないでよ! おじさんやお母さんとの付き合いは、私の方がずっと長いんだから!」


 いや、会ったの、昨日だろ。

 真凛とそんな変わんねーよ。


「引く気はないということですね?」

「当たり前だよ!」

「では、勝負しましょう。どっちがお兄さんの嫁になるか」

「うおおお! 受けて立ってやるー!」


 目の奥に炎を宿らせた栞奈が拳を握ってワナワナしている。


「で? 何で勝負するの? 格ゲー?」

「いえ、もっと結婚に関連した勝負です」

「なに?」

「どっちが先に身籠るかです。これならお互い、フェアに勝負できるのではないですか?」

「よっしゃー! その勝負、乗ったぁ!」

「アホか! 捕まるわ!」


 俺は思わず、突っ込んでしまったのだった。

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