男じゃなくて、女。
これはかなりビックリした。
そっかー。
いや、現実でもいるもんだな。
男だと思ってたら女だったってやつ。
2次元にしか存在しないかと思ってたよ。
「ええー? ホントに?」
栞奈が隣にいるその子の体を、ジロジロと嘗め回すように見ている。
髪は青みがかかった短髪。
背は栞奈より、若干高いと言った感じだろうか。
白いTシャツにデニムの短パンを履いている。
靴は運動靴で、動きやすい服装といった感じだ。
顔は俺たちが男と間違える程度にはボーイッシュ。
というより、綺麗って感じだろうか。
それにしても栞奈、ガン見し過ぎだぞ。
かなり失礼な奴だな。
ジロジロと見られて、恥ずかしいのか、その子は必死に訴えかけてくる。
「ホントですよ」
「その嘘、見破ったり!」
そう叫ぶと同時に、栞奈はテーブルの下から、その子の股間を手でつかんだ。
「ひゃああああ!」
そんなことをされるとは思ってなかったのか、気の抜けたような変な声を出した。
周りの客が何事かと、一斉にこっちを見る。
おいおいおい。
マジかよ、お前。
すげーな。
俺には絶対に、そんな真似はできん。
やったら、一発、レッドカードだ。
というか、社会から退場どころか抹殺される。
たとえ、相手が女だろうが男だろうが、だ。
「ああああああ! ホントだぁああああああ!」
何度も、その子の股間を触る栞奈。
「はううううう……」
触られるたび、変な声をあげている。
……栞奈。
いい加減にしないと、JKといえども、お巡りさんに連れて行かれるぞ。
「だ、だからそう言っているじゃないですか!」
顔を真っ赤にして、栞奈の腕を掴んで股間を触るのを止めている。
「ううむ……」
今度は顎に手を当てて、さらにその子の体をジロジロと見始める。
お前は股間を触ったくせに、まだ信じられないのかよ。
というか、男とか女とか、そこまで重要か?
別にどっちでもいいだろ。
「うりゃ!」
いきなり栞奈がその子の胸を鷲掴みにする。
「うひゃあああああああ!」
再び、気の抜けたような悲鳴を上げる。
なんか、さすがに可哀そうになってきたな。
そろそろ止めてやるか。
そう思ってると、栞奈は鷲掴みにしていた胸から手を放す。
そして、両腕を上げて、ガッツポーズをしたのだった。
……なんなんだよ、お前。
とりあえず、俺たちはそのコーヒーショップには居づらくなったので移動することにした。
で、今、なぜか俺の家……部屋にいる。
栞奈の提案で。
なんでだよ!
家の場所、バレちまったじゃん!
俺の部屋に入るなり、栞奈は「適当に座って」と、我が物顔で言いやがった。
マジで、ふざけんな。
「愛洲(あいす)真凛(まりん)です」
そう言って、ぺこりと頭を下げる真凛。
「なんか、2次元みたいな名前だな」
「……よく言われます」
少しだけ寂しそうな顔をする真凛。
もしかすると、学校で揶揄われたのかもしれない。
「俺は好きだぞ」
「え?」
「真凛の名前」
2次元っぽいというのは、かなりポイントは高い。
けど、まあ、あくまで名前だけの話だ。
本体に興味はない。
「あ、ありがとうございます。そんなこと言われたの、初めてです」
顔を真っ赤にして俯いてしまう真凛。
それとは対照的に、栞奈は頬を膨らませて顔を赤くする。
「私も、名前を真凛する」
「……なんでだよ」
どっちも真凛だと呼びずらいだろ。
「あの、そういえば、いつにしましょうか?」
「なにがだ?」
「結婚式です」
「……」
ああ。そんなこと言ってな。
っていうか、俺、了承したっけ?
なんで、結婚する前提なんだ?
「ちょっと! なんで、おじさんが真凛と結婚することになってるのさ!」
ここで待ったをかけたのが栞奈だった。
おお、いいぞ。
もっと言ってやれ。
「おじさんと結婚するのは私だよ!」
前言撤回だ。
お前は口を開くな。
「栞奈さんは何歳ですか?」
「へ? 15歳だけど……?」
「15歳だと結婚は出来ません」
「うっ!」
「僕は19歳です。結婚できます」
「うわあああああ!」
栞奈が膝から崩れ落ちる。
いや、あのさ。
なんで、そこに俺の意思は入っていないんだ?
一番重要なとこじゃねーの?
それに俺の嫁はモナ子だし。
「わ、私は……おじさんのお母さん、公認だよ」
「……え!?」
目を見開いて、後退り、チラリと俺の方を見る真凛。
待ってくれ、誤解だ。
ロリコンなんですかって、目で訴えてくるのは止めてくれ。
確かに俺はロリコンでもあるが、それは2次元だけの話なんだ。
そもそも、3次元には興味がないんだってば!
「わかりました。では、僕がお母さんを説得します。僕の方がお兄さんの嫁に相応しいと」
「なにをー!」
いや、だから、俺の嫁はモナ子……。
「ポッ出のくせに、しゃしゃりでないでよ! おじさんやお母さんとの付き合いは、私の方がずっと長いんだから!」
いや、会ったの、昨日だろ。
真凛とそんな変わんねーよ。
「引く気はないということですね?」
「当たり前だよ!」
「では、勝負しましょう。どっちがお兄さんの嫁になるか」
「うおおお! 受けて立ってやるー!」
目の奥に炎を宿らせた栞奈が拳を握ってワナワナしている。
「で? 何で勝負するの? 格ゲー?」
「いえ、もっと結婚に関連した勝負です」
「なに?」
「どっちが先に身籠るかです。これならお互い、フェアに勝負できるのではないですか?」
「よっしゃー! その勝負、乗ったぁ!」
「アホか! 捕まるわ!」
俺は思わず、突っ込んでしまったのだった。