目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第11話 衝撃的事実

「やっと見つけましたよ」


 さて、この男の子が言った台詞は何を示しているでしょうか?


 見つけた。

 つまり、それは探していたというを意味する。


 じゃあ、誰を?

 それは、俺か栞奈のどちらかだろう。

 一応、栞奈も男の子には会っている。

 犯人に包丁を突き付けられたときに、家に訪ねてきたというわけだ。


 ただ、圧倒的に俺の方が男の子に会っているいる時間は長い。

 俺の方を探していた可能性の方が高いだろう。


 では、なんのために?

 考えられる理由としては1つ。

 割った窓の弁償だろう。


 いやー。でもあれはしょうがなくないか?

 犯人の不意を突くにはあれしかなかったんだよ。


 まあ、不意は突けなかったんだけどさ。

 ……あんま、窓を割った意味なかったな。

 そりゃ、怒るか。


 仕方ない。

 ここは潔く、男らしく、素直に謝っておくか。


「人違いだ」


 ふっふっふ。

 謝ると思ったか?

 甘いよ。


 だって、今、俺はサングラスにマスクしてるからな。

 いくら素顔を見られたからと言って、この状態で俺の顔がわかるわけがない。

 あれはブラフだ。


 ふう。危なかった。

 思わず謝るところだったじゃねーか。

 ここは知らぬ存ぜぬで切り抜けよう。


「え? でも、あの子、昨日の……」

「少し黙ってろ」


 栞奈が余計なことを言いそうだったので、慌てて口をふさぐ。


「じゃあ、俺たちはこれで失礼します」


 そう言って、男の子に背を向ける。


 ふっ! 勝った。

 作戦勝ちというところだな。


「よかった、やっぱりあなただったんですね」

「……えーと、話、聞いてたか? 俺は人違いだって言ったんだぞ?」

「ふふっ」


 俺の言葉に男の子は笑みを浮かべた。


 ……なんだ?

 何を狙っている?


「どうして、僕が『あなた』に対して言ったとわかったんですか?」

「え?」


 男の子はチラリと周りの行きかう人を見る。

 ここは駅前なので割と人通りが多い。

 そして、通りかかる人はチラリとこっちを見ることはあっても、立ち止まることはない。


「……しまった」

「どういうこと?」


 隣で栞奈が首を傾げる。


「あなたは僕の見つけたという言葉に足を止めて僕を見ました。そして、人違いだと言いました。それは僕のことを知っていて、自分を探していると知らないと出て来ない言葉ですよね?」


 ちぃ。こいつ、できる!

 確かにまったく知らないやつから「見つけた」なんて言われた場合、「なんのこと?」「誰?」「人違いじゃない?」という、『疑問形』になるはずだ。

 だが、俺はハッキリと「人違いだ」と断定して言ってしまった。

 これはある程度、状況を把握した人間じゃないと出て来ない。


 わかったわかった。

 いいだろう。

 第一ラウンドはお前の勝ちだ。

 だが、最後に勝つのは俺だぜ?


「すみませんでした!」


 俺はいきなり土下座をした。


「え?」

「は?」


 栞奈と男の子がポカンと口を開けて驚く。


「俺、お金ないんです! 勘弁してください!」


 相手がフリーズしている間に畳みかける。


 勝ったな。


 大の大人が泣きながら、男の子に土下座をしている。

 この状況を第三者が見たらどう思うかな?


 ……うわ、引くな。

 思ったより、かなりひどい構図だ。

 死にたくなってきた。


 いや、違う。

 そうじゃない。


 俺は謝っている。

 しかも土下座だ。


 ここで許さないという選択肢はないはず。

 ここまでさせておいて、追撃すると、今度は男の子の方が悪く見える。

 なので、相手は俺を許すしかない。


 土下座をしているのに、追い詰めているのは俺の方なのだ。

 どうだ? 凄いだろ?


「あ、そういうのはいいんです」


 おっと……。

 あっさりと切り崩してきたぞ。

 え? そんな返しある?


 謝罪拒否なんて、大人のすることじゃないぞ!


 だが、仕方ない。

 では次は土下寝だ。


 さすがにそこまですれば、引くだろ?

 もう、どうでもよくなってくるだろ?


「違うんです! えっと、謝るのは僕の方と言うか……お礼を言いたいだけなんです」


 男の子が慌てて駆け寄ってきた。


「「へ?」」


 俺と栞奈が同時に、間の抜けた声を出してしまった。




 駅の中にあるコーヒーショップ。

 テーブル席で3人が向かい合っている。


「昨日は僕、テンパってて、お礼を言えなかったので……」

「いいんだよ。そんなこと気にしないで」

「……栞奈。それは俺の台詞だぞ」

「何を言ってるんですか。お兄ちゃんは僕の命の恩人です」

「大げさだろ」

「包丁を首に突き付けられてたんですよ?」

「ああー。まあ、うん。そうだな」


 死んでいたかもしれないというのはあながち大げさでもないか。


「わかったわかった。お礼の言葉を受け取ろう。それでいいだろ?」

「いえ、それじゃ、僕の気が済みません」

「えーっと、おじさんに、言葉だけじゃなくて、何かお礼がしたいってこと?」

「はい、そうです!」


 身を乗り出して、俺の顔に顔を近づけてくる男の子。


「……ホント、気にする必要ないから。ボランティアでやってるんだよね」

「そうそう。ボランティアなの。そういう活動をしてるんだよ」


 なぜか、栞奈が妙に乗ってくる。

 嫌な予感がするが、この場面は突っ込むところじゃない。


「それでも、お礼がしたいんです。お願いします!」

「まあ、そこまで言うなら……。で、お礼って?」

「結婚して、お兄ちゃんを一生養います」

「きゃー! BL!」


 栞奈が顔を真っ赤にして両頬に手を当てる。


「いやいやいやいやいや。俺、そっちに興味ないから」


 というか、3次元な時点で無理だから。


「え?」


 男の子が首を傾げた。


「僕、女の子ですけど」

「え?」


 その言葉に俺と栞奈はフリーズしたのだった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?