「もう、おじさん、朝からだいたーん!」
起き上がって、顔を赤くし、頬を両手で抑えながら顔を振るツインテール女。
いや、まずは俺の手を振りほどけよ。
俺はゆっくりと胸から手を離す。
果たして、これは犯罪になるのだろうか?
いや、一種の事故だ。
どちらかというと、俺は被害者と言っていいんじゃないのか?
……なんて通じねえよな。
警官の前でこんなことを言ったら、速攻でブタ箱行きだよ。
「なんで、お前が俺の部屋にいるんだ?」
ということで話を逸らす作戦に出る。
ここでポイントなのが、「俺の横で寝てるんだ?」と言わないところだ。
これで随分と犯罪臭は軽減される。
「
「そうか。で、栞奈。どうやってここに侵入した?」
お分かりいただけただろうか?
俺は今、ごく自然に栞奈の方が犯罪を犯したというテイにしたことを。
ふふ。俺の高度な口頭手段に、我ながら惚れ惚れするぜ。
「お母さんに入れてもらったんだ」
「お母さん?」
なんで、栞奈の母親が俺の家の鍵を持っている?
……ん? 違うか。
ここで栞奈の言うお母さんというのは俺の母親のことを指しているのか。
うーん。わかりづらい。
ここは普通、おばさんとか言うだろ。
「いや、ちょっと待て。そもそも、なんでお前が俺の家を知っている?」
「後を着けたんだよ!」
「は? 後を着けた? いつだ? ……あっ!」
「でへへへ。わかったかな?」
俺は昨日、帰ってから家を出ていない。
つまり、俺の後を着けるとしたら、昨日しかないということだ。
「……お前、駅で別れた後、そのまま着いてきたのか?」
「大正解~!」
いや、ピースじゃなくてさ。
ということは風呂上りに客が来てたみたいなのは、こいつだったのか。
「……なんで、そんなことをしたんだ?」
「終電過ぎてたし、帰りたくなかったから」
「帰れ」
「ひどい!」
「マジの話、お前が俺の部屋にいると、俺が捕まる羽目になる」
「なんで?」
「お前、中学生だろ? 未成年を家に連れ込んだら犯罪になるんだよ」
「大丈夫! 私、JKだから!」
「高校生も未成年だろうが! なに、JKならセーフ的な感じ出してるんだよ!」
それにしても、こいつ、高校生だったのか。
うーん。童顔だな。
「でもさ、でもさ! 別に無理やり連れ込まれたんじゃなくて、私の意思で入ったんだよ? それなら犯罪じゃなくない?」
「え? そうなの?」
そう言われると、そんな気もしてくる。
でも、どうなんだろ?
セーフなのか? アウトなのか?
教えて、エロい人。
「まあ、いい。お前はちょっと待ってろ」
そう言って立ち上がる。
「どこ行くの?」
「文句言ってくる」
俺は部屋を出て、階段を降りてテレビを見ている母親に詰め寄る。
「おい! なに、勝手に部屋に入れてるんだよ!?」
「孫は女の子がいいわよね」
「絞り上げるぞ!」
ぐふふ。と不気味な笑い声をあげる母親。
「大丈夫。昨日は耳栓して寝たから」
「……息子を刑務所に入れたいのか?」
「それはそれで有り!」
「ぶっ〇すぞ!」
だから、3次元に興味はないんだって。
いい加減、わかれ!
「とにかく、あいつ、追い出してくれよ」
「それくらい、自分でやりなさいよ。子供じゃないだから」
ぐっ!
いきなり正論言いやがって。
「昨日、あの子と話したけど、娘にしてもいいと思うわ」
「……もう、なにもしゃべるな」
仕方ない。
いざとなったら、こいつも口封じするか。
「お願いします。帰ってください」
俺は部屋に戻ると、とりあえず土下座してみる。
押してダメなら引いてみろだ。
「嫌っ!」
引いてもダメだった。
「あー、いや、ほら。俺、これから仕事だからさ」
「お母さんに、ニートって聞いたけど」
ちっ、あいつ、余計なことを。
「だから、自室を警備する仕事だよ。これが結構忙しいんだ」
「手伝うよ」
「雇う金ないし」
「体で払って」
「何する気だよ!?」
怖い。
この女、俺の臓器を狙ってやがる。
なんで、俺の部屋を守るために、俺が臓器を提供しないとならないんだよ。
「ねー。そんなことより、あそぼーよ!」
「そんなことってなんだ、俺にとっては捕まるかどうかの瀬戸際なんだぞ!」
「あ、この格ゲー、懐かしー!」
栞奈が俺のゲームソフトを漁り出した。
「おい、話を聞け!」
「……ふふっ。私にそんな口をきいていいのかな?」
「……な、なんだよ、急に?」
「ボコボコにして、泣かしちゃうよ?」
格闘ゲームを手に持ち、不敵に笑う栞奈。
「……お、お前……その台詞、俺に言っちゃう? 秒殺されて泣くの、お前だよ?」
「ふふふ。返り討ちにしてあげる」
「こっちの台詞だ」
いつの間にか3時間が経っていた。
栞奈は大口を叩いただけあり、かなり強かった。
今の勝敗は19勝19敗。
次の一戦が決着の雰囲気だ。
「俺が勝ったら、大人しく帰ってもらうぞ」
「私が勝ったら、結婚してもらうからね」
「望むところ……え? この勝負、そんなに重いの?」
……こいつ、デキる。
技術で互角だから、精神的な揺さぶりをしてきやがった。
勝負に人生を賭けることで、極度のプレッシャーがかかる。
現に俺の手はかなり震えているのだ。
完全に栞奈の策にハメられてしまった。
「よーし! レディー……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……」
対戦が始まろうとした、まさにそのときだった。
ビービービービー!
例の警告音が鳴り響いた。
「え? なになに? 何の音?」
あー、もう!
タイミングがいいんだか、悪いんだか!
突然、腹のリングから光で溢れ、俺を包む。
「きゃー! なになに!? 何の光!?」
眩しさのせいで目を瞑る栞奈。
光が収束する。
そして、俺はピンク色の戦隊もののスーツを着た姿に変身していたのだった。