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-は? 戦車、対空兵器ときて、今度は核ミサイル? いやいやいや……
-日本オワタ\(^o^)/
-なんかの勘違いじゃないですかねぇ(現実逃避)
-敵のアナウンス『核』ってはっきり言ってたぞ
−ヤダー!! ワイまだ死にたくない!(近畿在住)
-助けてアサヒニキ、タスケテ、タスケテ……(同じく近畿)
-俺は大阪住みなんだけど、これマジで起こってるん? マジだとしたら、やばすぎるんだが
-多分マジ。ワイ奈良の山の方やけど、飛行機の音ヤバい
-いや、マジよ……。ウーウーサイレンの音すごいもん
-これ本気でオワタのでは????
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不吉なアナウンスにコメント欄が恐慌状態に陥っていた。結構近くに住んでるヤツらが多いらしい。核と聞いて急に現実感が戻ってきたようだ。
空には飛来した爆撃機と空戦を繰り広げているドクターがいた。
一方、先ほど空へ飛んで行ったミサイルはもはや見えない
「発射されたミサイルがここに戻ってくるとして、どれくらいかかる?」
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-発射地点と着弾地点が同一だとすると、地球一周してくる必要があるから、最速のやつでも一時間以上かかる
-即答えられるやつ優秀。科学者か??
-結構時間あるな
-あれ
-物理法則無視して、すぐ戻ってきてもおかしくない
-核もブラフかもしれん。てか、そうであってくれ!!
-そもそも、あんなん無限に出せるんなら、ここでアサヒニキと戦う必要なくね?
-そうよ、そこら中に撃ち込んで人類全滅させればいいやん
-焦ってる近畿勢落ち着け。嘘だよ嘘
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『
「アースに同意だ。アイツなら核積んでもおかしくない。それに戦車や対空ミサイルは砲弾まで本物だったんだ。核だけブラフとは言い切れない」
俺とアースの見解に、再びコメント欄に動揺が広がる。
前に遭遇したツァトゥグァなんかは、わかりやすいほうだ。
あいつの頭の中にあるのは、食欲と睡眠欲。怠惰の塊のような
だが人間の心を乱すのが大好きっていう糞野郎もいる。倒すことや殺すことが目的じゃなく、いたぶるのが目的だっていう腐った精神性。あの黒い泥の主は間違いなくそっちだ。
「核を積んでようが積んでなかろうが、撃ち落とさないとヤバい。みんな詳しいみたいだから、爆発させないようにミサイルを撃ち落とす方法を教えてくれ」
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-いやwww 人間がミサイル撃ち落とせないだろwww
-無茶ぶりすぎワロタ
-うちら一般人+ただの探索者よ
-アサヒニキのウチラへの信頼なにwww
-お師匠さん今きました! 何してるんですか!? 京都で戦闘ってどういうことですか!
-お、マツリカちゃんinしたお
-私もいますわ。曽我咲シノンです。皆様ごきげんよう
-シノンちゃんも来たwwww
-来て早々だけど、地球オワタ
-ワイニート、みな一緒に死んでくれるんなら本望やで(^ω^)
-諦めてるやついて草
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『アサヒ、この放送、泥の主も見ていますよ。対策されませんか?』
「それでもいい。このままじゃみんな死ぬかもしれない。ネット知識でもなんでもいい。アイデアが欲しい」
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-国に連絡するのは? 核が来ますって
-信じてもらえるかぁ?? あ、この放送政府の奴みてないのか?
-今の段階でアラート出てないのが、そもそもおかしい
-自衛隊や米軍はどうなっていますの?
-ワイ、自衛隊基地の近所住み。なんか誰もいないんだけど……
-北の角刈りがミサイル撃ったらすぐ反応するのに、ちっとも反応無いってことは……
-政府オワタ? なんか知らんけど、京都の街今占拠されてるんよね
-どっちみち、今からは間に合わねーよ
-ニキが対応するしかない。
-あ、お師匠さんのスコップ奥義で、削り取れるのでは!?
-あれか。京都地底湖の天井消滅させたやつ
-でも飛んでくるミサイルにドンピシャで撃てるのかっていうとなぁ
-数発あるし、きつくね
-へたに空中爆発させたら放射能で死ぬぞ
-厄介だよな、核
-それよりも、空を飛べるドクターに何とかしてもらうのは?
-ドクター? 彼もそこにいるのですか?
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「――――ドクター、そうか。ドクターだ」
みんなの議論は無駄じゃなかった。
俺に天啓のようなアイデアが一つ、浮かぶ。
◆◆◆
「ミサイルを星の海に捨てる、ですとなぁ?」
「そうだ。ドクターと
幻想器は意思の力を最大にすることで、それぞれの大技を使うことができる。
アースと俺のそれが、条件無視の空間掘削であるならば、ドクターとウンディゴは、遠く異なる星の海に対象を転移させる能力だ。
だが、俺のプランを聞いたドクターは顔をしかめる。
「難しい、でぇーすねぇ」
「なぜ、何が問題だ?」
「あの技は、前提条件として温度低下と過剰な空気圧による圧縮を伴います。風でタコ殴りにしたら、爆発しませんか? そもそもあのミサイルは黒い泥が作り出した、もしくは変化したものでしょう? 目の前で、任意に起爆されたらその時点で全滅でぇすね……」
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-あああああ、もう終わりだぁああ!!
-まて、まだ一案が潰れただけだ
-やっぱりアサヒニキが頑張って奥義を連打するしか……
-どっかにもう一人くらい幻想器使いないのかよぉ
-わ、私の薄墨丸なら! 弾頭にマーキングすれば食べられるかも
-今からミサイルを切りつけに行く気ですの? それこそ無理ですわよ……
-もうみんなで近畿地方から逃げようぜ
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三度絶望がコメント欄を支配する。
こうなればイチかバチかで俺が全部削り取るしかない。そう思った時だ。
「……時に、アサヒ坊。
「ああ、そうだけど、それがどうしたんだ」
「あの日、私とあなたが生きて帰れたのは、宇賀原ミウが命を懸けて逃がしたという話はしましたねぇ?」
「ああ。ミウ姉と
おぼろげな記憶だ。
炎と共に戦うミウ姉。それが過ぎてしまったのだろうか。燃えて、燃えて、燃え尽きてしまった。
「あの時ですねぇ、宇賀原ミウは、幻想器の力を意図的に
ドクターにしては本当に珍しく、淡々とした静かな語りだ。
ミウ姉の死因は、なんとなくそうなんだろうなという予感があった。
あの人は、みんなのためなら簡単に自分の命を投げ出す人だったから。
「なぜ彼女も連れて逃げられなかったのか。私は悔しくて、悔しくてでぇすねぇ。……彼女に起きたあの現象を自分なりに研究してみたのですよ。そしてそれが自分の幻想器でもできることに気が付いたのですよね」
「それは、ドクターがウンディゴを暴走させるってことか?」
「まぁ、そうでぇすね。アサヒ。ミサイルは私に任せなさぁい。でもそのあと、私は戦えなくなると思いますので、一緒に来てくれますかね?」
「ああ。それはもちろんだ」
「くくっ、ならば、いいでぇすねぇ」
さっそく行きましょう。と、ドクターと俺の周囲に風が集まった。
身体が浮く。地に足が付かない不安定さが気持ち悪い。
「アサヒも、配信の向こう側のシノンお嬢や、マツリカさんもよく見ておくのでぇすよ。アナタたちも使う時があるかもしれないのでぇすから」
察した俺はドローンを抱きかかえた。
ドクターの風による輸送は強烈で、ドローンの飛行能力ではおいていくことになる。
「ウンディゴ、いや、氷の魔人イタカァ、ここが命の張りどころでぇえすよ」
ドクターの静かな声が、いつもとは違う意思を感じさせた。
『OK、ドクトルアンデルセ。フライウィズミー』
ウンディゴの号令と共に、俺達は静かに加速を伴って空に昇っていく。