『フィールド操作OKです。いつでも地上兵力を強襲できます』
「了解。
『いつでもどうぞ、アサヒ』
俺達に気づいた戦車隊がこちらを向く。
照準が当たる前に、攻撃を仕掛ける必要がある。
アースを大きく振るい、目の前の大地に
【綿津見】
土の津波を作り出し、攻撃と同時にめくらましをかける技だ。
「左からまわる! 奪取するぞ」
『わかりました。アサヒ』
戦車砲が、続けざまに火を吐いた。綿津見で作った土塊がはじけ飛び、形を失う。続いて銃による一斉射撃が降り注ぐ。が――
そこに俺達はもういない。
「ノロいんだよっ!」
土塊を陽動にして回り込んだ先は、戦車隊の直上だ。
上部装甲への強襲。アースを振りぬくと、ガインと複合素材に弾かれ刃が滑る。
固い。土を抉るようにはいかない。
だが。傷はついた。そこに刃を差し込み、相棒にタイミングが来たことを告げる。
「アース!」
『了解です。アサヒ。フィールド浸食最大。コントロールを奪取します』
とりつかれた車両が身じろぎをするように震えた。そして、ゆっくりと砲塔を味方であるはずの他の車両に向け――砲弾を撃ち放った。
ズガンッ!!
戦車の装甲は何で出来ているだろうか。鉄・チタン・アルミ・セラミック? いずれも鉱物・土に類するものだ。【土塊返し】の名を持つアースが操るのは、大地に属するものすべてだ。
そうであるならば、鉱物の複合体である戦闘機械もまたその範疇であると言える。
俺達のものになった、戦車がゆっくりと砲塔を旋回させる。その先にあるのは今もなおドクターを追い回している対空兵器群だ。
「まずはミサイルだ」
ズガン!!
装填された砲弾が放たれた。
横っ腹を打ち抜かれた短SAMは爆発炎上。続けざまに砲塔を旋回し、第二射を別の短SAMを破壊した。
地上の状況が変わったことを見て取ったドクターも攻勢に転じ、空から風が吹きおろし始める。対空兵器を優先的につぶせば、ドクターも戦いやすい。
『はじめは驚きましたが、【虚神】よりもくみしやすいです』
「ああ。兵器を持ち出したのは悪手だったな」
『その通りですね。次々行きましょう』
戦車を3両奪ったあたりで、チクタクマンの群れが違う行動を開始した。
「ピー、ガガガ。状況ハ対人戦闘へ移行。我ガ軍は、歩兵部隊を派遣し事態の収拾を図りまス」
アナウンスとともに出現したのは、生身の兵士たちだった。
迷彩柄の戦闘服に身を包み、整然と隊列を整える奴らは、みな一様に
屈強な男たちであることは分かるのだが、黒い絵の具で塗りつぶしたように輪郭だけしか認識できない。
「ピー、ガガガ。敵襲、敵襲。地上の敵は単独でアる。各部隊は陸戦戦力ヲ投入シ対応にあたレ。繰り返す敵兵は単独であル」
殺到する敵兵。一気に戦いが原始的になる。
いいね。わかりやすくなってきた。
「アース、戦車のコントロールは任せる。こいつらは俺がやる」
楽しくなってきた俺は敵の群れの中に踊り出た。
そうして、戦場は乱戦にもつれ込んでいく。
視界の端に、ドローンが見えた。
――――――――――――――――――
-いけいけ、アサヒニキ!
-現代兵器がなんぼのもんじゃい
-てけり・りりり!!
――――――――――――――――――
◆◆◆
戦車を、対空兵器と、無貌の兵士たちを薙ぎ払うと、泥の面積が減っていく。確実に敵を削っている感覚はある。だがどうにも俺は嫌な予感を感じていた。
泥の面積が少ない気がする。そもそも泥は京都の都市部をすべて覆っていた。あれらはどこへ行った? やられるがままになっているのはなぜだ? 敵の次の手が読めない。これは、よくない傾向だ。
「ドクター、何か変だ。空を見てくれ!」
低空を旋回しているドクターに声をかけると、爆笑とともに返事が返ってきた。
「だ―――っはっはは! 心配性でぇーすねアサヒ! 大丈夫ですよ、空には何も――――」
ドクターが笑いを止めた。
「あれは……、なんですな?」
「ピー、ガガガ。我が軍は膠着ス戦場に対シ、空爆を開始するコトを決定シタ。周辺住民ハ速やカに避難ヲ開始して下サイ」
ウウウウゥ―――――――、ウウウウゥゥ―――――――
アナウンスとともに聞こえてきたのは、思わず背筋が寒くなるような音だ。
腹の底からぞわざわと不安感が湧き上がってくる、空襲警報。
学生のころ、夏の課外学習で見せられた凄惨な映像作品を思い出す。
かつて日本であった悲惨な戦争。俺は嫌いだった。こんな胸糞悪いものを見せられなくたって、戦争なんかするわけないじゃないか。
「アサヒ、あさーひ!! 爆撃機でぇすよ! 凄い数です! 編隊を組みやってきまぁすよ! 西の空です! 私が撃墜しますが、爆発に注意してくださいよぉ!」
『アサヒ、こちらの泥にも変化が。集まって、何かが出てきます。これは』
泥が集まって大きな沼を作る。大質量の存在を生成する。
大地から次々と生えてくるは巨大な筒状のものだ。鈍色に光る金属の筒を見た瞬間、寒気がした。地対空ミサイルなんて比較にならないくらい巨大で、長い。それが次々と噴煙を上げて空へ放たれていく――
「ピー、ガガガ。戦況は最終局面二。政府は敵基地へ核弾頭ヲ搭載しタ
垂直に打ち出され、空の彼方に消えていった弾道ミサイル。
あれはどこに向う? 標的は俺達だよな? そのまま落ちてくる、んだよな? ほかへ飛ばされてもヤバいんだけど。
「え……。いくらなんでも、それはさすがに……」
背中に冷や汗が流れていった。
その単語は聞き捨てならないぞ。核弾頭だ?
さっきのミサイル。あれに、本当に、核が??
「アサヒ、アサ――ヒ!! 今のなんですか!? ヤバそうなのが飛んでいきまぁしたねぇ!」
爆撃機の編隊に対応していたドクターも驚いた声を上げていた。