チクタクマン。
アースが命名したヤツラの動きは
大小織り交ぜて十数体の泥人形がゆらゆらと揺れる。
先制とばかりに一体削り飛ばしたが、ヤツらは大きな動きを見せない。まるっきり棒立ちだ。歯車回る
なんだやる気がないのか? と
カチリ、と。
歯車がかみ合う音がして――
ドタタタタタタタタタタッッ!!!!
一斉に銃撃が開始された。
黒い泥で出来た身体から無数の銃器が生え、火を
俺は、瞬間の判断で土塊で防御壁を築きそこに転がり込んだ。無数の銃撃で顔を出すこともおぼつかない。見れば銃撃は空にも向いている。ドクターは!? と仰ぎ見ると、いた。
風の中心で高笑いする生首が浮かんでいた。
「はははははははは!! アナタ、銃を使うのですか? 面白いでぇすね!
ドクターが操る暴風は、銃撃をも防ぐ。
彼の周囲をめぐる風の
「アァサヒ! あなたはそこで見ていなさぁぁあい! 私が手本を見せてあげましょう! そぉおれ!!」
ドクターは大きく旋回すると、大地から生えるチクタクマンたちに、風の
「我が幻想器は風と氷雪の使い手。私のつたない知識によると、現代銃は-50℃でも動くらしいですねぇ。ではそれよりもっと下げればどうでしょうねぇ……。気になりまぁぁぁあすねぇ!!」
吹き下ろす風は冷たさを増していく。
危機を感じたのだろうか、チクタクマンたちの射線はすべて上空のドクターに向いたようだ。
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-ドクター大丈夫?
-めっちゃ撃たれてるし……
-こんなん戦争やん
-すげぇ
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「ドクターは飛び道具にはめっぽう強い、しばらく任せる。あと人外だしな。銃弾喰らってもなかなか死なないんだよあの人。昔は脳みそ半分こぼれててもそのまま戦ってたよ」
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-こわwww なにそれ不死身すぎw
-いろいろ規格外やな
-大丈夫、アサヒニキ震えてる?
-がたがた言ってるやん……現場、そんなに寒いんか
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実際、寒いんだ。
ドクターが使う極低温の風は、チクタクマンを次々と氷づけにして行った。
銃ごと凍結した泥人形が砕けて、銀の煙になっていく。
戦況は優位だ。俺が割って入ると、ドクターの攻撃が止まる。このまま圧倒して終わるか?
そう思った時。チクタクマンに新しい動きがあった。
「――ピー、ガガガ、本日未明、我ガ軍は京都方面戦線二大規模戦車部隊の投入を決定。戦場の敵を殲滅せしメルべク、大規模攻勢をかケルことヲ決定いたしマしタ」
戦場にノイズ交じりの放送じみた音声が響く。
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-え、何、あれ……
-ファ?
-いやいやいや、戦車が出てきたでwww
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泥が範囲を広げる。
黒い沼から次々と這い出したのは、十数両の戦車部隊だ。
砲塔が、ドクターに狙いをつける。
「アース、防御壁を! 視聴者も、音注意!」
ズガン!! ズガガガン!!!!
腹の底から揺らされる大音響。舞い上がる土埃。戦車砲が次々と火を噴いた。
比較的低空を飛行していたドクターは、撃たれ、爆炎に飲まれた。
――――――――――――――――――
-ドクター爆発したぁああ!!???
-ドクタ―――!!!!
-逝った―――――!???
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「いや、まだだ」
煙幕が晴れる。その瞬間飛び出した小さな影。
「ばっ――はははは!! やるではないですか!? 一瞬死んだかと思いまーしたねぇ!! もしかして現代兵器なんでも出せるのでーすか!?」
ちょっと焦げていたドクターは大きく上空に飛び上がる。
戦車砲を警戒してのことだろう。砲塔が上空に向くには限度がある。こちらからは豆粒程度に見えるドクター。
結構、距離をとったな。あそこまではチクタクマンの攻撃は届かない。
だが――。
「ピー、ガガガ、戦況ハ膠着状態。敵ノ空襲に対シテ我が軍が健在なレど打つ手ナシ。軍司令部は、対空兵器の投入をモっテ対応するコトを決定。国民の安全第一でヨロシクお願いしまウ」
次に沼から生えてきたものには、背筋が凍った。
自走車両に積まれた異形の貨物。角度をつけ、稼働し、ドクターをにらむ。
積んでいるのは、あれ……なんだ? 最近見たぞ。そう紛争地域のニュースとかで見るやつ――、ミサイルの小さいやつ?
「ドクター逃げろっ!! 対空ミサイルだ!」
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-ひぇ!?
-やばいもん出てきたぁああ!!!??
-俺知ってる、知ってる! 短SAM!! 地対空ミサイル!
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次々と火を噴く、短SAMと呼ばれる地対空ミサイル。
噴煙を吹き上空に飛ぶ。
それらが次々と追加される。泥からまだまだ出現する。
「き、京都の街がふっとびまぁすよ!!!!」
ドクターは無事だ。だが、今のところは、だ。
縦横無人に飛び回り回避しているが、次々と投入される兵器群に回避で手一杯だ。
いつの間にか高射砲の類も投入された。烈火のごとくの対空砲火が空を覆う。
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-すげー! ドクターヤバいのわかるけどスゲー! ミリオタの俺大歓喜
-日本で戦争スンナしwww
-堕ちるべし、堕ちるべし
-言ってる場合か!?
-アサヒニキそろそろヤバいって。加勢しないと
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「わかってる! アース行くぞ!」
『了解です。アサヒ』
敵の攻撃は苛烈だ。ドクターはもうもたない。
だが俺なら、地上の兵器など敵じゃない。
俺はアースを構え、現代兵器群にむかって走り出す。