「ハロー、てけり・り。いあいあしょごす。
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-こんな深夜に緊急放送?
-挨拶進化しててワロタ
-最近、DDDMの公式配信、アサヒニキの専用になっててウケる
-はろー、てけり・り!
-てけり・りり・り!
-てけりり信者増殖中キタ━(゚∀゚)━!
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配信ドローンを起動すると、さっそく視聴者が集まりだす。見る間に桁を増やしていくカウンター。さすがの公式。大した集客力だ。
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-え、なんかビュウビュウ言ってね?
-風の音すご
-アサヒニキ外に居るのか
-画面なんか変やな。なんで髪の毛逆立ってるんだ
-外? 夜空?
-え、え、え。なんか――落ちてね?
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「アぁぁあサァヒ! なぜドローンを起動しているのですな!? そいつらに見せるのでぇすか? 敵が混じっていると言ったのを聞いていなかったのですか!?」
「だからこそだよ。出迎えは多いほうがいいだろ? ――さぁ、みんなも見てくれ」
指示しカメラを向けさせた。空、街、明かり。そしてそれがどんどん近づいてくる。え、何? 配信事故? 落ちて落ちてる! 怖い怖い! ぶつかるぶつかる!
突然開始された落下中継に悲鳴と混乱が広がった。
「今日の動画は題して、『京都の街に大穴開けてみた』だ」
アースを構える。意識の同調。目標の確認。
標的は、どんどんと近づく大地だ。
『アサヒ、出力は全開で行きますが、タイミングはシビアです。高速でぶつかります
からインパクトの瞬間をとらえてください』
ああ、わかってるよ。何年も組んだ仲だろ。いまさらミスるかよ。
「アサヒ坊! 速度はゆるめませんよぉぉお! そのまま行くのでぇすね!?」
ドクターも俺のやろうとしていることをすぐに理解したらしい。ほんと話が早くて助かる。操った風で速度が上昇する。
迫る地表。街の明かり。自分たちが邪神の泥人形だと気づきもしない人々は俺を見つけるだろうか。妨害はないだろう。あったとしても、止められるかよ。
空から落ちる、翠の光一条。
防御も回避も迎撃も許さない。一撃必殺の大技を、大地に向ける。
俺の【掘りぬける】という意思を、アースを構成するジオード結晶体が増幅する。
宿る意思は、概念になり、現実になる。
刃先は翠光を灯し。秒間何千何万という速度で振動を開始する。
イメージが、幻想をへて、現実になる。
京都地底湖から――目標、直下!
大きく振りかぶって、渾身の力を持って振り下ろした。
「突貫――
着地と同時に、最大出力で放ったアースの攻撃が、京都の街の中心に直径500mにも及ぶ大穴を出現させた。場所は一応空き地を選んだぜ?
泥人形とはいえ、人間ごと掘るわけにはいかないからな。
◆◆◆
「ばっはぁ!! 荒っぽすぎて草しか生えませんなぁああ!!」
「一気に降りれたから良いだろ。中層くらいまでは掘れたかな?」
瓦礫の中から掘り出したドクターを雑に投げる。回転しながら節足を出したドクターはそのまま着地しカサカサと動き出した。
頭上にはぽっかりと大穴が開き、夜空を丸く切り取っていた。
周囲は大きく開けた大空洞になっており地下水脈の流れる水音が心地いい。
京都のDDDMが配線したのだろう電灯が、美しい地底湖を照らしていた。
ここはダンジョン【京都地底湖】
多少あらっぽかったが、俺達は無事到着したらしい。
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-ファ……? 何、なんで急にダンジョン……?
-アサヒニキが空から落ちて京都のダンジョンに突っ込んだ
-ファ―――――――wwwwww
-あたまおかしいww なんでそうなったwww
-ダイレクトin京都地底湖
-環境破壊ニキわろw
-脳筋が過ぎるw
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「本当でぇすね……私は普通に着地しようと思っていたのでぇすよ?」
「時間短縮だ、時間短縮。それにそういうノリだっただろうが」
俺はドローンに向き直り、宣言する。
「えーとな、今から京都ダンジョンの
ドクターと事前の打ち合わせは済んでいる。
まずは泥を止める。道となっている
「泥の親玉、止めたければ止めに来い、俺とドクターが相手だ」
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-お、おう?
-アサヒニキ俺達に言ってる?
-どうしたん、ちょっと怖い
-てけり・りりり!!
-てけり組は安定の称賛モード
-なんかの宗教ができつつあるんだよなー
-愚かな
-お、また掘るんだな。爽快感あって好きよ。穴掘り動画
-そしてドクターきめぇww かさかさすんなww
-てけり組ってなんだよw 名前ついてるww
-愚かって?
-黒き支配を受け入れぬか
-あーあー、京都地底湖、天蓋吹っ飛んでんじゃん。DDDMに怒られるだろこれ
-大いなる外なる宇宙への道程
-え、何?
-邪魔はさせない――
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視聴者の一部が反応したと同時だ。
世界が歪む、視界が歪む。電灯が明滅し、赤く反転した世界へと堕ちる。
「きやがったな」
うっすらと覚えている。2年前の
『アサヒ、敵性
地面から、壁から、あるいは俺の開けた大穴から、ずるずると集合する黒い泥。それが次第形をとる。人型だ。体のところどころから露出した金の歯車が奴らが人ではないことを物語る。
「ここであったが百年目、でぇすねぇ……まぁ、どうせ彼らもほっておくわけにはいかなかったですかぁら、集まってきてもらって都合がいいでぇすか……」
ドクターも歯を剥き、臨戦態勢を取る。風を纏い空に浮かんだ。
天井を掘りぬいて、空間を広げたから戦えるだろ? 気づいてるかどうかわかんないけど、そのために掘ったんだ。活躍してくれよな。
『アサヒ、敵性個体群を仮称命名しても良いでしょうか?』
「ああ、センスいいの頼むぜアース」
『わかりました。では――敵性体群を、黒の汚泥から生まれし人形【チクタクマン】と命名します』
「了解。覚悟しろよ、泥人形ども!!」
『【チクタクマン】ですよ、アサヒ』というアースの突っ込みを無視して俺は奴らに切りかかった。