リリクスに向かう道中で冒険者や旅人に何人かすれ違ったが、ナシャータ達の姿に怪訝な顔をされたものの正体はバレなかったな。
この調子ならリリクスに入っても問題はなさそうだ。
「お、街が見えて来たのじゃ」
やっとリリクスが見える所まで来たか。
それにしても、リリクスか……妙に懐かしく感じる気がする……な……。
《あれが……リリクス……?》
方角や位置に考えると、間違いなくリリクスのある場所だ。
だがあそこにある街は、俺が知っているリリクスと全然違うのがこの時点でわかる。
「名前までは知らぬのじゃ。じゃが周辺の街はあそこだけじゃし、小娘はあの街にいたのじゃ」
それじゃリリクスだよな……嘘だろ、あんなに沢山の建物なんて建っていなかった。
いくらなんでも大きい街になりすぎだ、数年程度じゃ到底あんなにはならない。
《だとしたら、俺は一体……何十年、遺跡の中にいたんだよ……》
※
「それでさ、そいつがな――」
《……》
すんなり、リリクスの中に入れた。
「らっしゃいらっしゃい! 安いよー!」
《……》
入れたのだが……。
「え~まじで~」
《……》
やはりここがリリクスだと思えない。
街並み、人の多さ、建物の多さ、どこを見ても別の街じゃないか。
俺は騙されているんじゃなかろうか?
《……ん? あそこは……あ! やっぱり俺の行きつけバーのディネッシュじゃないか!》
外面はだいぶボロボロになっているが……おかげで、ここがリリクスだと確信は持てた。
そうなると、隣にはうまいたまごのサンドイッチを売っているパン屋が――。
《――ねぇし! なんかパン屋から定食屋になっているし!》
マジかよ、もうあのたまごのサンドイッチが食えないのか。
まぁ今の俺にはどのみち食えないが……何かショックだな。
「わ~! ここからおいしそうなにおいがしますね~」
「本当じゃな」
《あっ》
しまった! 自分の事ばかりで、こいつ等の事をすっかり忘れていた!
目の前には食べ物の匂い、どう考えても次に言い出すのは……。
「この匂いを嗅いでいると腹が減って来たのじゃ、今日の朝飯はちゃんと食ってなかったし……よし、この匂いの物を食うのじゃ!」
「はい! そうしましょう!」
やっぱりなー! そうなるよなー!
しかし、今の俺達には店に入れないんだ。
《金がないから店には入れないぞ》
持ち合わせどころか小銭すらねぇからな。
あのザバーからあさっ来ても良かったな。
「金? ……そういえば、あの男が果物を受け取る時に何か渡しておったな……あれを渡さないと食べられないのか?」
ナシャータが街に行った時に果物を買った男が?
なんでそんな事になったのか気にはなるが、今は置いといて……。
《そうだ、それが人間のルールだ》
「人間のルールなんぞ、わしらには関係ないんじゃが……まぁ食えないのなら仕方ないのじゃ」
ナシャータは人間との付き合いがあるからか、納得いかなくても理解はしてくれたみたいだ。
問題は……。
「え~! そんなのしるか! ポチはおかながすいた!」
こいつはそんなの関係ない系だわな。
《いいから言う事を聞け! このっ!》
「ちょっ! なにするんだよ!」
強引にでもここから離してやる!
「は~な~せ~!」
《こっこら! 暴れる――》
「なんだなんだ、喧嘩か?」
「ねぇあの鎧の人、女性を羽交い絞めしているわ」
「無理やりどこかに連れて行こうとしているのか?」
「大変だ、誰か警備兵を!」
《――な?》
うげっ! 騒動で人が集まって来た!
このままじゃまずいぞ、どうにかして人目の付かない場所へ行かないと!
「ポチはなにかたべるんだ!」
何かを食べる……それだ!
《あーそういえば、極上の肉が食べられる場所があったんだったなー》
「――っにくだって!? どこ!? どこにあるんだ!?」
よし、食いついた。
《確か、あの路地裏に……》
「――あっちだな!」
指を指した瞬間にポチが猛ダッシュで路地裏に突っ込んで行った。
嘘だとわかったらうるさそうだが、ここで騒がれるよりいいか。
《俺らも後を追うぞ》
「その感じじゃと嘘のようじゃな。はぁ……ポチは騙されやすいのじゃ」
その言葉、そっくりそのままお前に返すわ。
※
「どこだ? エサ、どこににくがあるんだ!?」
ポチが辺りを見渡している。
こんな薄暗い路地裏に極上の肉を売っている店なんてあるわけがないだろう。
《んなもんねぇよ》
「へ? ……あっ! もしかしてポチをだましたな!?」
《何の話だか》
「とぼけるな! くそ~こうなったらエサをくってやる! ――はぐっ!」
いや、食うってお前。
「――うがああああ! はが! はがああああああああ!」
ポチが口を押えてのた打ち回っている。
ガントレットの上から噛んだからそうなるわな。
「おっおい、ポチ大丈夫か?」
「あう~ごしゅじんさま……ポチのはがおれちゃいました……」
「……綺麗な歯並びをしているのじゃ」
しかし、噛まれたガントレットにはしっかりと歯型が残っているのさすがというべきか。
これが無かったら、骨の腕なんて簡単にかみ砕かれていたな……想像するだけで恐ろしい。
「お店はこっちです」
ん? 今聞こえた声は……まさか!
《っ! やっぱりコレットだ!》
コレットが別の道からこの路地裏に入って来た!
路地裏なんで数多くあるのに……やはり、俺とコレットは運命の――。
「へぇーこんな奥にあったんスね」
――って、何で一つ星野郎も一緒にいるんだよ!!
人の運命を邪魔しやがって!
「ん? ――クンクン……うげっ! 悪臭は!!」
つか、どうして路地裏なんかにコレットが? ……待てよ……路地裏……薄暗い……人が少ない……。
ハッ! まさかあの野郎、言葉巧みにコレットを路地裏に誘い込んでそのまま襲う気なんじゃ!? そんな事はさせるかよ!
《おい、ナシャータ! ポチ! ……って、あれ? おい、ナシャータはどこに行った?》
「え? あれ? ごしゅじんさま?」
こんな時にどこ行ったんだよ。
「あ、やねのうえに」
《屋根? ……本当だ》
いつの間に飛びあがったんだ、あいつ。
《おーい! そんなところで何をしているんだ!?》
「何をって、あの男には近づきたくないのじゃ!」
あー……だから屋根の上に逃げたのか。
だが、今は臭いを気にしている場合じゃない!
コレットの身に危険が迫っているんだからな!
《いいから、早く降りてあいつを……》
「嫌なもんは嫌なのじゃ! お前が勝手にやればいいのじゃ!」
《え? ちょっ!》
ナシャータが屋根を伝って逃げて行った!
「あっ! ごしゅじんさま! まってください!」
《は? ちょっ!》
ポチもその後を追いかけて行ったし!
《おっおい! 2人とも待――》
あっという間に2人の姿が見えなくなってしまった。
まさかとは思うが、街の外まで逃げて行った……とかないよな?