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コレットの書~強奪・9~

 ◇◆アース歴200年 6月23日・夕◇◆


 結局ギルドに急い来たけど、もう夕方になっちゃったわ。

 グレイさんはまだいるかな? というか、いてもらわないと困るんだけども。


《―――な!》


「ん?」


《――ですな!》

《――ですな!》


 ギルドの中からものすごい聞き覚えるのある声が漏れて出てる。

 これは間違いなくグレイさんはいるわね……。

 うん、中に入りたくない! この流れ私まで束縛されるパターンだもの!


「……でも、入らなきゃ駄目だよね……はぁ~」


 中では、やっぱりアフロヘアーでまん丸メガネをかけたちっこいおっさん2人が、グレイさんを挟んで言い争いをしている。


 ……え? 2人!?


「だーかーらー! この漢方薬はドラゴニュートが作った物に間違いないですな!」


「いやいや! いくら知力が高いと言っても薬を調合が出来るとはとても思えんですな!」


「勘弁してくれよ、もう……」


 鏡? 分身? クローン? ドッベルゲンガー?


「父よ! その頑固さはいい加減に治すですな!」


「息子よ! お前に言われたくないですな!」


 あ~なるほど、ジゴロ所長さんだけじゃなくエフゴロさんも来ていたのか。

 そりゃそうよね、エフゴロさんはモンスター専門だから来ていてもおかしくないわ。

 ……それにしても、やっぱり全く区別がつかない……グレイさんの右側にいるのはジゴロ所長さんなのかエフゴロさんなのか、どっちかしら?


「「あっ! コレット氏!!」」


 はいはい、コレット氏ですよ。

 2人同時に叫ばなくても……うっ! 2人がこっちに走って来た!

 どっちの目も完全に私をロックオンしている! これは、やっぱり……。


「コレット氏! この漢方薬を飲んだ時の感想を聞かせてほしいですな!」

「コレット氏! 先ほどのドラゴニュートについて聞かせてほしいですな!」


 こうなりますよね!


「え、えと……」


「コレット氏! カルロス氏は皮の鎧についてどう話していたですな!?」

「コレット氏! 皮の鎧とドラゴニュートの関連性があったのですかな!?」


「そ、それ……」


「「コレット氏!」」


 ああ! もう! 2人だから2倍喧しい!!

 余計しゃべれないじゃない!


「――話しますから! 落ち着てください!!」




 ◇◆アース歴200年 6月23日・夜◇◆


「――以上が……私の……経験した……事……全部で……す……」


 つっ疲れた……まさかの三度目の展開……しかも今度は2倍……。

 途中でグレイさんやキャシーさんの助けが入らなかったら、どれだけ時間がかかったのやら……。


「なるほど、なるほど……実に実に興味深いですな! 息子よ、そっちのまとめは済んだですかな?」


「ばっちりですな!」


「よーし! ならば私の研究室に行き、さっそく分析ですな!」


「わかったですな!」


「「グレイ氏、コレット氏、ご協力感謝しますですな!!」」


「……はい……」


「……おう……」


 あっという間に親子が走ってギルドから出て行っちゃった……。

 質問攻めのせいで、こっちの聞きたかった事は話せなかったし。


「お2人とも、お疲れ様です。飲み物をどうぞ」


 おお、キャシーさんがジュースを出してくれた!

 これはありがたいわ……もう喉がカラッカラ。


「キャシーさん、ありがとうございます! ――ングング……ぷは~!」


 あ~冷たいジュースが喉を潤すわ~。


「サンキュー。――ングング……ふぅー。しっかし、あの皮の鎧が寄生モンスターだったとは……もし誰かが着けていたら大騒動になるところだったぞ」


 着なくてもドラゴニュートが街に来て、大騒動になりましたけどね……。


「だが、結局俺らの知りたい事は分からないままか……明日本人から聞くのもありかもな」


 へ? 本人から?

 確かに、ドラゴニュートから聞けば謎は色々と解けそうだけど……。


「え~と、それはどういう事ですか?」


「ギルド総出でドラゴニュートの捜索をする事になったんだ、さすがに街に現れたのはまずいからな。上の連中は今大混乱になっているみたいだぞ」


 デショウネ。

 それにしても、ドラゴニュートの捜索か。

 確かに出会えば本人から聞けそうだけど……個人的には今日明日で会いたくはないのよね。


「で、俺たちは再度白竜の遺跡の調査をする事になった、だから明日はよろしく頼むな」


 私たちが白竜の遺跡担当か、まぁ前のドラゴニュート調査の経験があるからそうなるのも仕方ないか。

 ……なら、明日の為に今日はもう宿屋に帰ろうっと。


「わかりました。では、私は宿に戻りますね」


 本当に今日は疲れた……早くベッドで寝たい。


「ん? 戻るってお前、この後は親父さん所に行かないといけないんじゃないのか?」


「……あっ!」


 そうだったああああ!

 防具を取りに行かないといけないんだった!


「忘れてたのかよ……さすがに防具無しでの冒険はお勧めできんぞ」


 そうよね……今から取りに行かないと。

 ああ、嘘でしょ。こんなに心身共に疲れている状態なのに、親父さんの所へ行くなんて……。


「……私、倒れちゃうかも……」



「……」


「……」


 おっ親父さんの沈黙で店の中の空気が非常に重い。


「……あのよぉ……」


「はひ!」


「俺は、胸当てを取りに来るのをずっと待ってたんだが……もう夜だぞ?」


「すっすみません!!」


 色々言っても、ますます怒られそうだからここは素直に謝罪!


「で、あの胸当てはどういうこった? 何が起こったんだよ」


「……ジャイアントスネークに飲み込まれました」


「……はあ?」


 親父さんの目が点になっちゃってる。


「いや! おまっ! ……おいおい、マジかよ……はぁーまったく、長年この仕事をしているが訳がわからない理由で防具を痛めつけてくる奴は初めてだぞ」


「あう……」


 もはや何も言い返せましぇん……。


「ったく、出来れば返したくなかったが……ほれ」


「あっ! 私の魔力の鎧じゃないですか!!」


 綺麗に治ってる! へこみの後も一切ない。

 これさえあれば、明日の遺跡探索は安心だわ。


「今日治ったところなんだ、少なくとも1週間は持ってくるなよ? ……じゃないと次の修理費は2倍取るからな」


「にじゅっ!? はい、気を付けます……」


 修理費2倍なんて破産よ、破産。

 ああ、明日の遺跡探索は不安だわ……。

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