「そっそれって、ケビンさんがゾンビかスケルトンになってしまっている……って事ですか……?」
……今まで、そんな事を言われるまで考えもしなかった。
確かに、ケビンさんがアンデッドになっているかもしれない。
「その可能性は十分にありえる。俺もこの鎧とプレートが無ければ考えもしなかった……いや、考えたくなかったのかもしれんな、ケビンの奴がモンスターになる事を……」
グレイさんが悲しそうな顔をしている。
そうよね、友達がアンデッドになるなんて考えたくも……ん? 待てよ、プレートのあった場所でゾンビに出会って……スケルトンに襲われ……。
「……あああああああああっ! じゃあ、あのゾンビがケビンさんだったのかも!? いやいや、殴り飛ばしたスケルトンがケビンさんだったんじゃ!?」
だとしたら、大変な事になっているじゃない!
「どどどどどどうしましょ!? ゾンビのケビンさんは斬られちゃいましたし、スケルトンのケビンさんはバラバラになっちゃいましたし、それにプレートを見つけた時ケビンさんの姿がいなくなっていましたし!!」
バラバラになっちゃたのは完全に私のせいだし。
ああ、なんて事をしちゃったんだ……神父様たちにどう言えばいいのよ……。
「コレット、落ち着け……それだとケビンが2人いる事になるぞ。そもそも、あいつがアンデッドになったと決まったわけじゃないんだ」
はっ! そうだった!
グレイさんが可能性の一つで言っていたのに、ついアンデッドの言葉でケビンさんがそうなってしまったと決めつけてしまった。
「……すみません、変な思い込みで取り乱しちゃいました」
駄目だな~私。
もっとポジティブにならないと。
「まぁその思い込みだとケビンを探すのは完全に無理だな……現実になったらシャレにならんから、もうこの話は止めようぜ」
「へっ?」
完全に無理ってどういう事?
何でそうなるのよ!
「ケビンさんがあのアンデッドだと、どうして無理になるんですか!?」
「お前は言った傍から……その場からゾンビやスケルトンの残骸が消えたのは恐らくスライムが捕食したからだ、つまり消化されたわけだ」
ああ~なるほど、それであの場所から消え……。
「えええええええええ!! しょっ消化!? それじゃケビンさんは――プギュツ!!」
ちょっグレイさんが私の顎を押さえつけて来たし!
「話が、進まねぇから、少し、黙れ!」
「あだだだだ!!」
そんな指に力を入れないで!
顎からミシミシって変な音がしちゃってる!
「ずみまぜん! ずみまぜん! だまりまずがらはなじでぎだざい!」
やばい!
これ以上は、本当に砕けちゃう!
「――ったく」
「あう~……」
いたた、顎が粉々になるかと思ったわ。
しばらく黙ってよっと……。
「あのーちょっといいっスか?」
この状況でも口をはさむマークさんってある意味で尊敬するわ。
「……おめぇもかよ」
グレイさんが指をボキボキ鳴らしている。
あの目! マークさんの顎を砕こうとしているんだわ!
これは止めないとさすがにまずい!
「わー! 先輩、待ってほしいっス! 今の話を聞いて気になった点があるだけっスよ!」
「……なんだ? くだらない話だとしょうちしねぇぞ」
よかった、止まってくれた。
さっきのグレイさんの目は本当に怖かった。
「そのケビンさんってよくわからないっスけど、スライムがなんでアンデッドを捕食するんスか? スライムも新鮮な肉や骨の方がいいと思っスけど」
新鮮な骨ってどんな状態よ。
というか、スライムに意思なんてないからそんな事を思う訳がないかと。
「……お前、冒険者のくせにまじで言っているのか?」
グレイさんの怒りがドン引きで消えちゃってる。
なるほど、こんな手があったとは。
「あははは、モンスターの習性等は専門外でして……」
冒険者歴は私より圧倒的に長いのに、それでいいのかしら。
マークさんが、未だに一つ星な理由が分かった気がする。
「……スライムに襲うとか考えはねぇよ。ただ移動している所に捕食出来るものがあれば捕食する……アンデッドだろうが関係ない」
要するにダンジョンの掃除屋ね。
「ほぉーそうだったんスか。あれ? でも、遺跡内のアンデッドって減らないっスよね? それは何でっスか?」
「わからん、それは未だに解明されていない。1説には霊界につながる門が不定期に開いて、そこからアンデッドが流れ込んできているというもある」
あ~子供時代に、悪い事をしたら霊界の門の先に連れていかれるって神父様も言ってたっけ。
しつけで作られた話だと思ってたけど……霊界の門って本当にあるかもしれないんだ。
「さて、もういいな? いい加減これからの話を進めるぞ」
「あ、はい」
「うっス」
さすがに脱線し過ぎちゃった。
「時間がかかるが明日から1つ1つ可能性を潰して行く、その方が確実だからな。ただ、アンデッドの件はどうするかな……ゾンビはともかく、スケルトンをどう区別すればいいのやら……」
「骨だから、全部同じにしか見えないですね」
強いて違いを言うなら、骨太や背の大きさ位。
ケビンさんに何か特徴はないのかしら? 前歯が1本ないとか。
「そうなんだよなー……仕方ねぇ出来ればしたくはないが、状況が状況だ。1度ジゴロ爺さんに話してみよう、もしかしたらスケルトンの区別が出来るかもしれん」
それはそれで怖いんですけど。
「となると、今日はここまでだな。俺はザバーを見て回って来る。明日の遺跡探索の準備を怠るなよ、じゃあな」
「あ、はい」
「うっス! 先輩は出て行っちゃいましたけど、コレットさんはこれからどうするんスか?」
「あ~私はこの皮の鎧をカルロスさんに鑑定してもらおうかと思っているんです。なんか気になっちゃって……その後は、親父さんの所へ行きます」
本当は親父さんの所は行きたくないけどね。
「普通の皮の鎧にしか見えないっスけど……コレットさんが言うとなんか気になるっスね! 俺も鑑定に付いて行っていいっスか!?」
「え?」
私はもうマークさんの香水に慣れちゃっているからいいんだけど、カルロスさんはどんな反応をするやら。
「商品に香水の臭いがうつっちゃうから私のお店から出て行きなさい!」とか言われてマークさんが追い出されそうな気もするんだけど。
「どうっスかね?」
ん~どうしよう。
どうなるかは行ってみないとわからないし……別にいっか。
「はい、私は構いませんけど」
「マジっスか! やったっス!」
カルロスさんも、お客相手にそこまで邪険にはしないだろうしね。