『いやいや、そんな冗談を言っている場合じゃないだろう!』
「馬鹿を言うな、冗談ではないのじゃ! あのウネウネした動きにテカテカした鱗……うう、鳥肌が止まらんのじゃ!」
あの感じはどうやら冗談じゃないようだ……まじかよ、ヘビに怯えるドラゴニュートがいるだなんて思いもしなかったぞ。
この前の臭いで逃げ出した時といい、ナシャータの弱点って身近に結構あるな。
いや今はそんな事どうでもいいか、とにかく目の前の問題を片付けないと。
かと言って、どうしたものか……俺の運動能力だと鎧を外すどころか近づいたら簡単にあの巨体で弾かれるのが目に見えていよなー。
うん、やっぱりナシャータが動いてくれないと無理だ。
『取るだけならすぐに終わるだろ!? 少し我慢するだけじゃないか!』
「い・や・じゃ!! ヘビの鱗なんか少しも触りたくないのじゃ!!」
鱗を触るのが嫌って……鱗なんて自分自身の体にも生えているくせに、なにを言っているんだか。
『触りたくないって、お前の体にも緑色の鱗が生えているだろう……』
「はあ!? 見た目通りの節穴じゃな! わしの綺麗な鱗とヘビの鱗を一緒にするな、ほれよく見るのじゃ!」
鱗がある平らな胸の部分を突き出してきた。
まぁ確かにナシャータの鱗は、あのジャイアントスネークみたいにひし形じゃなく六角形をしていて違うが……。
『……もういい』
どんな形だろうが鱗は鱗だろう。
しかし、ありゃ駄目だな。わめくだけで部屋の端から全く動こうとしないぞ。
こうなったら仕方ない、ポチにあの鎧を取ってもらおう。
『ポ――』
「い・や・だ! ――ごしゅじんさま、かおがあおいですけどだいじょうぶですか?」
ポチの奴、名前を言う前に拒否しやがった。
おまけにナシャータの所まで行ってしまったし。
って、この状況はまずいのでは……。
《よくわからんが……あの2匹は動けない様だな。ならまずはスケルトン! 貴様から食ってやるわ!》
『げっ!』
そうだよな! そうなるよな!
くそっだったらナシャータの所まで逃げて、無理やり相手させてやる!
『うおおおおお!! ナシャータ、頼――』
「ぎゃあああああああああああ!! こっちに来るなああああああああああ!!」
『ちょっ!?』
ナシャータがどこかに飛んで逃げて行きやがった!
ヘビ相手に泣きながら逃げ出すドラゴニュートなんて前代未聞だぞ!?
「ああ! ごしゅじんさま、まってください!」
『ちょっ!?』
ポチも走ってナシャータの後を追いかけて行ったし!
『……』
これは、ひっじょーにまずいのでは……?
《もらったあああああああ!!》
『うわっと!!』
――バクンッ!
あぶなかった、間一髪で避けれた。
あと一歩反応が遅れたら食われるところだったぞ。
《――ゴックン。ちっ食い損ねたか》
俺を地面ごと丸呑みにする気だったのか。
うへ~こいつの食らいついた地面が綺麗に1本の直線で削り取られてしまっている……あっまずい! このままだとコレットの絵を入れた宝箱が一緒に食われてしまうかもしれん!
だとしたら回収して安全な場所に……いや、宝箱を持ったままじゃ逃げにくいだけか。
となれば、この部屋から逃げて宝箱から距離を離す方がいいよな、宝箱の位置は……あれ? どこにも宝箱が見当たらないぞ。
一体何処にいったんだ? あんな大きい箱が消えるわけが……ハッもしかして、一歩遅かった!?
『おい! 俺の宝箱を飲みやがったな?』
《ああん? 宝箱? あーそういえば、さっき食らいついた時にそれらしき物が口の中に入った気がするな。もう飲んじまったが》
やっぱりか!
《今すぐ吐き出して返せ、この野郎! あれは大事な大事な物が入っているんだ!』
《うるえせな……だったら、お前が俺の腹の中に入って取ってくればいいだろう》
『誰が入るか!』
とは言っても、こんな広い場所にいればいつかは食われて腹の中に入ってしまう。
だとすれば、ここを出て狭い遺跡内を逃げ回るしかないか……。
『ああ! くそっ!』
こんな奴から逃げ回る羽目になるとは……なんか屈辱的だ。
《あっ逃げるな! 待てぇ!》
誰が待つか!
◇◆アース歴200年 6月22日・昼◇◆
『……右よし……左よし……正面よし……後ろよし……はあーーーーやっと巻いたか。しっこい奴だった』
それにしても、かなりの時間を追い掛け回されたな。
疲れないこの体じゃなければ、とっくに食われていたかもしれん。
さて、今のうちにナシャータ達を探して合流を……。
「――――」
『ん?』
この通路の先から話し声が聞こえるな。
蛇野郎か? ナシャータ達か? 一体どっちが……。
『――っ!?』
「この野菜スープはうまいですよ! コレット殿!」
「そっそうですか、それは良かったです……」
コレットがいた、まさかこんな所で会えると……はっ!? ちょっ一緒にいる男は誰なんだ!?
今まで見た事がない奴だな、いつも一緒にいた四つ星と一つ星は何処へ行ったんだんだろう。
「……よし、決めた!」
「? 何をです?」
ん? 急に男が立ち上がって、コレットの傍に寄って行ったが……何をする気――。
「コレット殿!」
「はい!?」
『ああっ!』
あの男、コレットの両肩を乱暴に掴みやがった!
……ハッ! あの野郎、コレットに無理やりキッスを求めているのか!?
そんな事は絶対にさせてたまるか!
『俺がコレットを守ってみせる! うおおおおおおおおおお!!』
「あっ」
コレットが飛び出した俺の方に気が付いたみたいだ。
安心しろ、今すぐに助けてやるからな!
食らえ! ひっさああああああああつ――。
「コレット殿! 私の妻――」
「カルロフさん! レア・スケルトン――」
『とお! ケビンキイイイイッ――」
「――にブッアアアアアアアアア!?」
「――があああああああああああ!!」
『――クウウウウウウウウウウウ!!』
っしゃ!! 渾身の飛び蹴りがスケベ男の顔面に決まったぜ!!