この隠し部屋以外は1本道か……う~ん、見取り図を見てもそういった場所が多いから何処かまったくわからない。
体中が生臭いしベトベトして気持ち悪いから早く帰りたいけど、今の位置を把握しておかないとまたここに来れないし……何というジレンマ。
「どうしよう……ん? 風?」
粘液のおかげで、右の通路から風が吹いて来ているのが分かる。
この先に出口でもあるのかしら? ……とりあえず行ってみよう。
鎧は道具袋に入らないから、両手に抱えて。
「よいしょっと」
よし、出発!
◇◆アース歴200年 6月22日・夕◇◆
右の通路を進んだけど、特に部屋もなくただただ真っ直ぐね。
こっちに来たのは、失敗だったかな?
「……あ、通路の先に光が見える!」
壁が崩れたのね、風もそこから流れ込んでいるみたい。
となると、あの先は外なかな? だとしたらラッキー、次からあの穴から入ればいいもんね。
「――って、なにこれ!?」
確かに遺跡の外には出られた、出られたけれど……大きい縦穴の底じゃない!
遺跡の中にこんな大穴が――ああっ! もしかして、ここがキャシーさんが言っていた竜の巣なんじゃ!?
じゃあ竜が居たり……はないみたいね。
それにしても本当に大きな穴ね~上を見上げると夕空が広がっているし。
「……へっ? 嘘っもう夕方なの!? いけない、さすがに戻らないと!」
ここが竜の巣だから現在地は完璧だし、リリクスに帰ろう。
あれ? そういえば、何か忘れている様な気が……何だっけ?
「ん~……まぁいいか」
忘れるって事は、そんなに重要な事じゃないだろうし。
そのうち思い出すでしょ。
「転送石起動!」
※
リリクスに帰還っと、さて本当ならギルドに行くべきなんだけどここは宿に直行。
本当に今日は色々ありすぎて疲れた~シャワー浴びて、さっさと寝たい。
「――おーい、コレット!」
あ、グレイさん達だ。
今帰って来たのかな?
「お疲れ様です。今帰って来たんですか?」
「おう、そうだ……って臭っ!」
ちょっと! 女の子相手に臭いって言って、自分の鼻をつままないでよ!
この粘液のせいだとわかっているけど、それは傷つ――。
「あのコレットさん。良かったら、これ使って使ってくださいっス」
「……」
マークさんが気遣って香水を渡してくれた。
え? そんなにひどいの? 自分じゃよくわからなくなってきた。
というか、匂いに超鈍感なマークさんにこんな事をされると精神ダメージがすごいんだけど……。
「アリガトウゴザイマス……」
まぁでも、危うく臭いをまき散らしながら街の中を練り歩くところだったからよしとするか。
ぱっぱっと、これでましになったかな?
――クンクン
「うっ!」
ましになるどころか、粘液と香水とが混ざり合ってますますすごい臭いになっちゃった!
これ、シャワーでも臭いは落ちるのかしら。
「で、遺跡で一体何があったんだ?」
気持ちはわかるけど、鼻をつまんだまま話すのは止めてほしいな。
「遺跡でジャイアントスネークと遭遇しちゃったんです」
「まじっスか!?」
「何だって!? くそっジャイアントスネークの奴、遺跡に居やがったのか! 通りで探し回っても見当たらないはずだぜ」
何だかんだ言っても、グレイさんはちゃんと仕事していたみたいね。
ブーツは泥だらけだし、藪の中に入って行ったのかあちこちに擦り傷が出来てる。
それにくらべてマークさんは全く汚れていないし、擦り傷一つないってどうなのよ。
「にしても、ジャイアントスネークと鉢合わせしてよく無事で……いや、ある意味無事じゃねぇか……」
グレイさんが哀れみの顔になっちゃってる。
「はい……ジャイアントスネークに丸呑みされました……」
「まじっスか!?」
「やっぱり、本当によく無事に戻ってこれたな……」
自分でもそう思います。
何で暴れた後に吐き出したんだろう。
「あのーお話の所申し訳ありません」
おっと、ホートンさんをすっかり忘れ……。
ああっ! ホートンさんの顔を見て何を忘れていたのか思い出した!
「先ほどからカルロフ様のお姿が見えないのですが……」
そのカルロフさんを遺跡の中にほったらかしじゃない!!
「あの! その! え~と!」
私の馬鹿馬鹿!!
※
「――という訳……」
「何と!! カルロフ様! 今お迎えに行きますぞおおおおおおおおおおおお!!」
話もそこそこに、ホートンさんがすごい勢いで走って行った。
にしても、年寄とは思えない脚力……もう見えなくなっちゃった。
「まぁカルロフの生命力はゴキブリ並だし、ホートンさんも向かったから大丈夫だろう……しかしコレット、さすがにほったらかしにするのは良くねぇぞ」
「はい……」
返す言葉も無いとはこの事。
……カルロフさん、無事だといいけど。
「これからは気を付けろよ。……後、気になっていたんだがその抱えている鎧は何だ?」
「あ、これは遺跡で拾ったんです。何か気になったんで持って帰ってきました」
「ふむ……」
どうしたんだろう、グレイさんってば鎧をじっと見つけているけど。
「……すまんが、その青銅の鎧の方を見せてくれ」
「あ、はい。どうぞ」
何でボロボロの方をいろんな角度から見ているんだろう。
価値ならまだ皮の鎧の方がありそうなのに。
「……やはり」
「何がです?」
「もしかして、お宝っスか!?」
「これは、ケビンが行方不明になった日に着けていた青銅の鎧かもしれん」
……ええっ!? ケビンさんの鎧ですって!?
「でも、青銅の鎧なんてたくさんあるじゃ……」
「ケビンが親父さんに頼んで作った特注品奴にそっくりなんだ。俺はあの日に見ているしな」
なるほど。
しかし、グレイさんってばよくそんな事を覚えているわね。
「俺はこれを親父さんに見せて確認してくる。詳細は明日、ギルドで話すとしよう」
「え! 私も行きたいです!」
そんなの聞かされたら、付いて行くしかないじゃない。
「いやお前、その状態で親父さんの所へ行く気か?」
「あうっ!」
さすがに、この状態だと怒られちゃうか。
「……わかりました。では、明日ギルドで……」
「おう、また明日な」
はあ~ついてないな~。
仕方ない、さっさと宿に帰りますか。
――カラン
ん? 何か落ちた。
「――これって……歯?」
まだ体に張り付いていたのがあったのね。
にしてもこの歯、人の前歯に見える様な……うん、気のせいだとは思うけど一応後で土に埋めておこう! そうしよう! そして不気味だからこの事は忘れよう!