そうと決まれば適当な事を言って店から出よう、そうしよう。
「それじゃ私はギルドに行かないといけないのでこれで! 魔力の鎧の修理よろしくお願いしますね!」
全速力で入り口にダッシュ!
「なっおい、待て! とりゃ!」
「えっ? ちょっと! ――プギャッ!」
親父さんが飛びかかっきて私の足を掴んだから、床に顔をぶつけちゃったじゃない。
「いたた……親父さん、ひどいですよ~」
今の飛び掛かりは予想できなかった。
というか、親父さんがこんなに早く動けるなんて思いもしなかった。
「ひどいのはお前だろ! 何俺一人にさせようとしているんだ!」
「夫婦の問題ですから、私はお邪魔かなと思いまして……」
それに、そこの鎧みたいに胴体だけにはなりたくない。
「お邪魔もくそもあるか! 落ち着いた後一緒に謝って誤解を解いてくれよ! 俺だけだと怖いんだよ!」
「私も怖いですよ! まだ奥から刃物を研ぐ音がしますし!」
確かに発端は私がにじり寄ったせいではあるけど、この状況で残れってのは無理!
「わかった、残ってくれたら魔力の鎧の修理費を少しまけてやる! それならどうだ!?」
うっ、そう来たか。
「……わかり……ました」
その言葉には負ける……。
親父さん、恨みますよ。
※
何とか奥さんの誤解が解けて、やっと解放された。
「それにしても、包丁片手でにこやかに笑っている姿はスケルトンに襲われた時以上に恐ろしい物があったわね……」
とりあえず色々あったけど、一応魔力の鎧の修理はお願いはできた。
ただ修理には様々な機材を使わないといけないから、出て来た見積もりはなんと約100万。
修理は後払いとはいえ、まさか大金を受けとった数分後にこの重い100万が消えるとは思いもしなかったな……。
「あ、ギルドを通り越しちゃった」
考え事していると駄目ね、注意が散漫だわ。
「結構時間たっちゃったけど、グレイさんはまだいるのかな?」
≪ワイワイ、ガヤガヤ≫
あれ? こんな時間なのに結構人がいるわね、何でだろう。
まぁいいや、え~と……グレイさんはいつもの席に……ありゃいない。
やっぱりもうどこかに行っちゃったのかな。
「あら、コレットさん。今日はもうギルドに来ないかと思っていましたよ」
「あ、キャシーさん、こんにちは。ちょっと色々ありまして……あの、グレイさんはどこに行ったのかわかりますか?」
「グレイさんですか? 今日の朝からエフゴロさんと2階の部屋でまだ話してますよ」
2階の部屋でエフゴロさんと話……。
まだって事は朝からずっとなのか。
「あれ? キャシーさんは一緒にいなくていいんですか?」
前の時は2人して質問攻めだったのに。
「今回はリリクスのギルド長も一緒なんですよ、何かすごい物を作ったらしくその説明受けてます。ただ、朝からその話を聞いた人達が一目見ようとずっと待っているんですよね……」
「なるほど、それでこんなに人がいたんですか」
それにしてもギルド長が直々に説明を聞くってどんなすごい物なんだろ?
う~ん、確かにそれは気になるわね。
「後コレットさん、先生からお話を聞きました。とんでもない物を神父様は作っちゃいましたね」
すごい物と言えばそっちもあったわね。
「はい……それで、神父様を含めてどう対処するんですか?」
趣味で作った漢方薬がこんな事になるなんてね。
でも、さすがに戦争になっちゃうのはまずい。
「神父様がギルドに来て頂き、お話を聞いてからどうするかを判断する事になりました。なので今、大急ぎでギルドの者が向かっています」
神父様、変な事言わなきゃいいけど。
「それから漢方薬については極秘扱いになります。申し訳ないのですがコレットさんの持っている漢方薬を回収し、この件は決して他に話さない様にして頂きたいのです」
こればかりは仕方ないか。
言う事を聞かないと私も危険だし。
「はい、わかりました。明日に持ってきます」
「ご協力感謝います。ところで気になっていたんですけど、ゴミ処理依頼ってコレットさん受けていました?」
ゴミ処理依頼?
「いえ、私はそんな依頼は受けていませんけど……」
何で急にそんな話に?
「では、その背中に背負っている重そうなゴミ袋はどうなさったんですか?」
え! これがゴミ袋ですって!?
「いやいや! これはゴミじゃなくてお金が入っているんですよ!」
「はあ!?」
※
「なるほど、それで背負ってたんですか……」
事情を話してわかってもらえたけど、なんか腑に落ちない。
「何で袋を背負っていて、即ゴミ袋って判断されたんですか?」
「それは完全に思い込みですね。一つ星に回ってくる仕事にゴミ処理があるので、一つ星の冒険者が背負っている袋の中身はゴミと思われるんです。でも、それがかえって良かったですね」
「どうしてですか?」
私的にはゴミを運んでいるって周りに思われていたのが何気にショックなのに。
「引ったくりですよ。思い込みのせいでその袋に大金が入っているとは思いませんし、ましてやコレットさんが重そうにしているから引ったくりの対象にならなかったわけです」
「っ!!」
あっぶな~! 我ながら何て無防備で危険な事をしているのよ!
このお金が盗まれていたら大変な所だったわ……。
「気を付けてくださいね。そもそも前から思っていたんですけど、コレットさんって結構稼いでいますがそのお金の保管は一体……」
「大抵は装備で消えてますけど、残ったのは宿屋のタンスに入れてあります」
待てよ、仮に鎧の修理で100万が消えちゃったとしても残り70万、今残っている分を合わせると相当な金額になるよね。それを宿屋のタンスの中に入れとくの? さすがにそれは――。
「不用心すぎませんか……」
私もそう思います。
え? じゃあこの大金はどうしたらいいんだろう。
「あの、銀行には預けないんですか?」
へ? ギンコウ?
「ギンコウ? って何ですか?」
「――っ!?」
キャシーさんの目が一瞬飛び出た気がした。
え、知らないとおかしいの? 村にそんな名前の建物無かったし、お金なんて村のみんなタンスの中に保管していたんだけど。
「……コレットさん、今すぐ銀行に行きますよ!」
「え? でもキャシーさん、お仕事が……」
「こっちの方が大問題です! ほら行きますよ!!」
「ぐえっ! わ、わかりましたから、首根っこを掴んで引っ張らないで下さい! 苦しいです!!」
わたしは一体どこに連れていかれるの!?