奇襲は失敗……となれば。
『カタカタ、カタカタカタカタカタ!』
やっぱりグレイさんが来る前に、私を片付けようとスケルトンが近づいてきた。
もうこうなったら、グレイさんがこっちに来るまでメイスを振り続けて身を守るしかない!
「――あああああああ……あ?」
スケルトンが右手を挙げた?
「え? え? 何? 何なの!?」
この行動は何!?
すっごく不気味なんだけど!
――ブオン!!
「……?」
今、何か音がしたよう……。
――パカーン!
『――カッ?』
――ヒューン!
……な?
――バコンッ!
「ウギャ!!」
胸に強い衝撃がっ!
――ドゴオオオンッ!
「ゲフッ!」
吹き飛ばされて、壁に叩きつけられた?
うあっ! い、痛い! 体中がすごく痛い!!
「コレットオオオオオオ!!」
グレイさんが……走って来た……。
この全身の痛み……もう私は……助からないかも……。
「――おい! コレット!! 怪我はないか!?」
……大怪我……ですよ……ああ、どんどん痛みが……無くなっていく……。
ん? 痛みが……無くなっていく?
「……」
気のせいじゃない。
さっきまであんなに痛かったのに、痛みが無くなっていく。
「……えと……大丈夫みたいです……?」
痛みが完全に消えちゃった。
「何で疑問系なんだ、本当に痛みはないのか?」
と言われましても。
私自身、何が起こったのかわからない。
「……はい……どこも痛みはないです。よいしょ……」
普通に立ち上がれるし、やっぱり何処も痛くない……何で?
「そうか、なら良かったぜ。何せこんな状態だったからな」
「こんな? うわっ!」
激突した衝撃で壁にひび割れ入っちゃってる!
五体無事だったのは、この魔力の鎧のおかげ――。
「ああああああああ!!」
「どうした!? やっぱり何処か――」
「どうしましょう、鎧がへこんじゃってます!」
胸辺りがもうべっこりと。
「……お前なぁそんな事で叫び声を上げるなよ、ビックリするだろ」
「え?」
私としては結構ショッキングな事だったんだけど。
今日下ろし立てだったのに……それに親父さんに怒られちゃう。
「……まぁいい、それよりもスケルトンは……」
そうだ、あの腰ミノスケルトンはどこに。
「……バラバラになっているから大丈夫そうだな」
さっきの衝撃でスケルトンもバラバラになったんだ。
さすがにこんな状態だと動く事はなさそうね。
「で、飛んできたのはこれか……よっと」
お~金色に輝いている剣だ~。
くの字に曲がっちゃってるけど。
――ガリッ
あ、グレイさんが金の剣の先を食べちゃった。
「歯形がついたと言う事は、こいつは間違いなく純金だな」
何だ金か確認しただけ……って純金!?
これ本物の金なの!?
「しっかし、何でこんな物がバリスタ並みの威力で飛んできたんだ?」
「え! これが飛んできたんですか!?」
しかも、バリスタ並みって。
「ああ、俺の角度からよく見えた。こいつが手を挙げた瞬間、後ろから飛んで来たんだ……手にワイヤートラップでも引っかかったのか? いや、そんな罠があればとっくに見つけられているはずだし……」
私としては、黄金の剣が飛んでくる方が謎です。
「んー……現に飛んできたから罠と考えるべきか」
この遺跡って不思議な事だらけすぎ。
「なら、この1発だけとも限らんな。次が来るかもしれんからここを離れるぞ」
確かに。
「わかりました」
黄金が飛んでくるのは嬉しいけど、あんな速度で飛んでくるのはごめんだわ。
※
「――この辺りまで離れれば大丈夫だろう」
「はぁ~はぁ~」
ちょっと走っただけなのに息が。
それに……。
「コレット?」
「……すみません……頭が痛くて……ぎもじわるいでず……うぷっ」
今にも吐きそう。
「はっ!? 全然大丈夫じゃねぇじゃないか! 今すぐ戻って病院に行くぞ!」
「……あい……」
◇◆アース歴200年 6月20日・夕◇◆
「……軽度の魔力中毒だな。安心しろ、命に別状はないし体から魔力が抜ければ治る」
「魔力……中毒……?」
って何?
「魔力が体内に取り込むと頭痛、嘔吐、吐き気、喉の渇き、胸のむかつき、体の震えといった症状が出る。個人差で遅いか早いかの違いがあるがな」
「何か症状だけ聞くと、二日酔いみたいだな」
お祭りとかで一晩飲み明かした村の人が、教会に二日酔いの薬を求めに来てたっけ。
気持ちがよくわかったわ、確かにこれはつらい……。
「質問なんだが、今日は何を食べたり飲んだりした?」
「えと、野菜のサラダ、パン、水、後は……」
グレイさんに怒られそうだけど、漢方薬の事も言わないと駄目だよね。
「漢方薬を……」
「なっ!? お前、やっぱり調子が悪かったんじゃないか!」
あう、やっぱ怒った。
「叱るのは後だ。もう一つ、あれは魔力の鎧みたいだがどうしてへこんでいるんだ?」
「……これがものすごい勢いで飛んで来て当たったんだ」
「その黄金の剣がか!? どんな状況だよそれ……まぁ問題はそこじゃないか、鎧を見る限り相当強い衝撃のはずなのに体の異常は見当たらない、そもそも打撲痕すらないのはどういう事だ?」
「あ~……痛みはありました。でも、どんどん痛みが無くなっていったんです」
「痛みが無くなっていった? ……病気……負傷……どちらも漢方薬を飲んでいる……そして魔力中毒を起こすとなると……」
顎に手を置いて考えだしちゃった。
「……やはり、これしか考えられんな……2人とも治療石は知っているか?」
治療石? ジゴロ所長さんが作ったあれか。
「ああ、魔晶石の魔力で治癒力上げる奴だろ。試作品で知っている」
「なら話が早い。わかりやすく言うと、その漢方薬は液体にした治療石みたいな物だ。しかも試作品より強力な治癒力を秘めている、魔力中毒もそれで起こしたんだ」
「えっ!」
「はあ!?」
神父様、そんなすごい物を作り出したの!?
「じゃあ、あの漢方薬があると医者いらずですね……あっ」
しまった、お医者様の前で言っちゃいけない事を言っちゃった。
さすがに謝らないと。
「あの……」
「何をのんきな事を言っているんだ。飲み方次第では中毒死してしまう可能性があるし、こんなに強力だと漢方薬のレシピの取り合いで戦争が起きてもおかしくないんだぞ」
「中毒死……? 戦争……?」
神父様、なんて迷惑な物を作り出したの!?