『出来たぞ……』
「待っておったのじゃ!」
幸い昼菓子を作っている間にコレットが来なくてよかったが、いつ来てもおかしくないよな。
早く作戦を言わないと。
『で、さっきの話の続きだが……』
「――モグモグ、むふ~」
食うのに夢中で、まったく俺の話を聞こうとしない。
これは食い終わるまで待たないと駄目っぽいな……今は1分1秒でもおしいのに!
「あ~ん――パクッ……む? うぇ、なんじゃこれは! 生焼けなのじゃ! ケビン、ちゃんと焼くのじゃ!」
ありゃ、まだ焼き足りないのがあったのか。
『仕方がないだろう、慌てて作ったんだから。腹が減ったから早く作れと騒いでいたのはナシャータだろ? すまんが我慢して食ってくれ、俺の話を早く聞いてほしいんだから』
本当はコレットがいつ来るのか気になって気になって手元が疎かになっていたから、そんな物が出来てしまったんだな……。
まぁナシャータが騒いでいたのも事実だから、そういう事にしておこう。
「うっ……わかったのじゃ――パクッ、ゴックン。で、わしに手伝ってほしいというのはなんじゃ?」
噛まずに丸呑みしやがった……体に毒だぞ。
まぁいいや、俺には関係ないし。これでにやっと本題に入れる。
『何、簡単な事だ。俺がコレットの前出た時に、こうやって手を挙げて指で鳴らすから――』
――カツン
『……』
骨と骨が当るせいでパチン! って音が出ない……。
「鳴ってない気がするのじゃが」
えーと……。
『……手を挙げてこう親指を立てるから――』
「指を鳴らすのじゃなかったのか?」
『音が鳴らないんだから、変えるしかないだろう!』
音が出ない指パッチンなんて、すごくかっこが悪い。
「そうか? わしは別にそんな事気にならんのじゃが……」
ナシャータが気にならなくても、俺は気になるの!
かっこが悪い姿をコレットに見せたくないんだ。
『とにかく! こうやって親指を立てたら、ナシャータはこの黄金の剣を俺の方に向かって投げてほしいんだ』
「この剣をお前に向かって投げろじゃと?」
『そう! そして、飛んできた黄金の剣を俺が軽やかにキャッチ!』
重たい黄金の剣をキャッチしたらふら付きそうだが、そこは気合と根性で踏ん張るしかない。
本来なら踏ん張るために歯を食いしばってめちゃくちゃ変な顔になるだろうが、表情が変わらないこの顔なら平常に見えるだろう。
『それからコレットに向かってこう言うんだ「コレット、この黄金の剣は俺からの気持ちだ……受け取ってくれ」とな』
この黄金の剣は一体どれくらいの価値がつくのか見当もつかない、それを躊躇なく渡す俺にコレットはきっと「何て心が広い人なの! 素敵!」と思うだろう。
これぞ重い黄金の剣を引き摺らずに、更にかっこいい演出でコレットにプレゼントしちゃうぞ作戦!
『我ながら素晴らしい作戦を思いついたものだ。ふっコレットはメロメロになるだろうなー』
想像しただけで心が満たされる思いだ。
「……にんげんのめすは、そんなことでめろめろになるのですか?」
「わしにもわからんのじゃ……ただ、またケビンの暴走が始まりかけておる気はするのじゃ」
平常心だっての。
ふん、モンスターにこの感性がわかるわけないか。
『で、どうなんだ? やってくれるのかどうか早く決めてくれないとコレットが来てしまうぞ』
とは言っても、面倒くさいから嫌じゃとか言いそうではある。
「ん~……」
『?』
何だ、このよくわからん反応は。
『どうした、言いたい事があるのならはっきりと言えよ』
普段はズバズバ言うくせに。
「いや、ケビンは今すぐにでも小娘が来る様な話をしておるが……小娘は養生中じゃ、いくら薬を飲んだとしてもたった1日そこらで元気になり、わしの家に来るとは思えんのじゃが」
『……』
言われてみれば超! 万能薬とは書いてはあったが、効果が不明。
そもそも、あの親父が超! 万能薬を渡したかどうかもわからんし……。
『……いや、俺は超! 万能薬の効果も親父が超! 万能薬をコレットに渡したと信じる。だからコレットは元気になってもうすぐここに来る! 俺の勘がそういっているから間違いない!』
「勘って、さすがに色々と無理がある気がするのじゃが……むっ人間2人が家に入ってきたようじゃ」
ふっ、どうやら俺の勘が的中したようだな。
『コレットが元気になって来たんだよ。さあ早く行くぞ!』
「……やれやれ、そんなわけが――」
※
「――何であるのじゃ!? 何で小娘が元気になっているじゃ!?」
ああ……良かった、すっかり治ったみたいだ。
やはり、超! 万能薬の効果は絶大だったんだな。
『だから言っただろう』
「うぐぐぐ……何か悔しいのじゃ!」
何やら勝った感じがして、いい気分だ。
おっコレットの鎧が変わっているじゃないか。
鋼の胸当てから身体を守るプレートアーマータイプに変えたのか……うんうん、防具を新調していくのは大事な事だ。
しかし、胸辺りにプレゼントの箱についている赤いリボンは何だろ? まぁいいか、可愛いし。
「う~んと……この辺りは特に異常はないですね」
「そうか」
やっぱり、元気なコレットを見るのが一番だな。
チラチラと視覚に入ってくる親父は邪魔だけど……。
「……よし、じゃあ次はこっちに行ってみるか」
「は~い」
動き出した、後を追わないと。
『さて、さっきの作戦の手伝いをしてもらうからな。俺がコレットの前に行って親指を立てたら投げるんだぞ』
「……はいはい、わかっているのじゃ」
とは言っても、今は出て行っても親父のが近いから邪魔されるだけだ……。
コレットが親父と離れた時が勝負だな。
※
くそっ中々は離れない。
どうも、マッピングをしているみたいだ。
この前の騒動で遺跡の形が変わったからか?
「それじゃ私はこっち側を調べますね」
「おう、罠には気を付けろよ」
「わかってます」
あっ親父から離れた、今が飛び出すチャンスだ!
『今からコレットの目の前に出る! 頼んだからな!』
「行ってらっしゃいなのじゃ」
今度こそ――。
『――コレット!!』
「へ?」
今度こそ作戦を成功させるんだ!
コレットが、今日は最高の1日だと思える様に!!