「何やら騒がしいがどうしたのじゃ――ん? なんじゃ、キラキラ光る石から作った鎧か。そんなに驚く物じゃないじゃろ」
『はい!?』
何を言っているんだこいつは?
まさか、金の価値がわかっていないんじゃ……。
『これは金だぞ?』
「きん? これに価値があるのか?」
……ナシャータの反応からして本当に金をわかっていないみたいだ。
あっだからこんなゴミの中に埋まっていたんだ! 納得。
知らなかったとはいえ、何て勿体無い事を。
※
――キュッ
とりあえず見える範囲で汚れを取ったが、変色している箇所がない。
となると、混ぜ物なしの純金で出来ているって事か……長年たっても鎧の形を保っていたわけだ。
純金だと傷つきやすいしへこみもするから、飾り物として出されたんだろうな。
『それにしても、この鎧だけで一体いくらするんだろうか……』
今すぐにでも買取店に持って行きたいが、そんな事はしない。……まぁどの道ここから出られないから無理だけども。
それよりもだ、俺がこの黄金の鎧を着てコレットの前に颯爽と登場して驚かせ、その後に黄金の鎧をバッと脱いでコレットに差し出してプレゼントをする! これは喜ばれるぞ。
『よし、それじゃさっそく試着してみようか――っ!? おもっ!!』
そうだった、金ってすんごく重かったんだ!
『ぐぬぬぬ……だっ駄目だ。少し持ち上がったけど、これ以上上げると俺の腕が外れてしまう』
仮に持ち上げられたとしてもこんな重い物を着た瞬間、俺の体はバラバラになってしまうのが目に見えている。
完璧な作戦だったのにいきなり誤算が出るなんて!!
「ケビンは非力じゃの、その鎧を持ち上げられんのか? ――よっと」
ナシャータが軽々と黄金の鎧を持ち上げた、しかも片手で。
つか、非力と言うが今の俺はには筋肉どころか普通の肉すらもないんだぞ! ……まぁ肉体があった時でもこれを着られたかどうかは怪しいが。
とにかくだ、この黄金の鎧作戦は無理となると他を考えなければ……これを溶かしてアクセサリーにすとか……いや俺は冒険者であって金細工職人じゃないから、そんな物を作れる気がしない。
『うーん……』
「ケビンが何やら考え込んでしまったのじゃ、この鎧はどうすればいいのじゃ……」
「あれ? ――ごしゅじんさま、したにもきんぴかがおちていますよ」
「ん? この形は剣じゃな。この鎧と一緒に付いていた物か?」
……黄金の鎧に付いていた剣だって?
ハッ! もしや――。
『ちょっと見せてくれ!』
――キュッ
やっぱりだ、この剣も金で出来ている。
形状はショートソード、これも飾り物だから刃がなく先も丸っこい、しかしそんな事はまったく問題はない、重要なのは純金で出来ている事なんだからな。
よし! プレゼントはこっちの黄金の剣に決まりだ!
『そうと決まれば――フンヌッ!』
何とか持ち上がったが、今にも腕の骨が外れそうだ。
予想通り鎧よりは軽かったが、これだと移動する時に剣の先が床に当たって引き摺りながらになってしまう。
『……あの、ナシャータさん、この剣を持っていただけませんか? それと持っている鎧も持ってきてほしいんだが……』
鎧もここに置いて行くのは勿体無いからな。
持ち帰って、どうするかまた考えよう。
「仕方のない奴じゃの、ほれ貸すのじゃ。言っておくがこれは貸しじゃからな」
本当は自分で持っていきたいが、引き摺ってしまうと剣が傷ついてしまう。
そんな傷物をコレットに渡すのは駄目だからからな、私情は抑えないと……。
後、このタイミングでコレットが来ません様に……今来ても何も渡せないからな。
◇◆アース歴200年 6月20日・昼◇◆
瓦礫の間に戻るまでコレットは来なかった、それは良かったんだが早く何か考えないと。
普通ならコレットの元へ近付いて渡すんだが、大の男が剣一本をプルプルと震えながら持って女性に渡すって、どう考えてもかっこ悪い、 コレットから俺の方に来てくれって言うのも論外だ。
重い事を誤魔化しつつ、何かかっこいいシチュエーションで渡す事は出来ないものか。
『うーん……』
「ケビンの奴、さっきからず~と考え事をしておるじゃ……」
――ぐぅ~
「――む、わしの腹の虫が鳴いておるという事はもう昼じゃな。おい! ケビン、昼菓子を作るのじゃ」
「ポチもおなかすきました!」
……うるさいな。
こっちは真剣に考えているのに、こいつ等ときたら。
『……あのなぁ、こっちは真剣に――って! おま、お前、何していんだよ!!』
「へ? 何がじゃ?」
何がじゃないよ!
『その黄金の剣と鎧でお手玉をしている事だ! 落としたらどうするんだよ!?』
これだから価値のわからない奴は困るんだ!
「わしはそんなヘマはしないのじゃ、ここまでこうして持ってきたんじゃし」
『ちょっ!? お前そんな事をしながら運んでいたのかよ!』
そんな運び方をする馬鹿が何処に……いるわ、目の前のド馬鹿ニュートが。
「お前に話しかけても無視をするし、暇じゃったしで少し遊んでいただけなのじゃ」
なんというしょうもない理由。
それで落としていたら目も当てられないぞ。
『とにかく! それらを床に下ろすんだ……ゆっくりとだからな!』
「はいはい。――これでいいじゃろ?」
ふぅ、心臓が止まるかと思った……実際は無いから止まるもくそもないが。
しっかし、よくあんな重たい物をポンポンと上に投げられたものだな……俺もそんな力があればこんな悩みはしな――。
『待てよ……投げる……? ……そうだ! これだっ!!』
俺が剣を持って行かず、しかもかっこよくコレットに黄金の剣をプレゼント出来る方法を思いついた!
「わっ!? 急に大声を出すな! びっくりしたじゃろ!」
だが、これはナシャータの協力が必要不可欠。
果たして素直に手伝ってくれるだろうか。
『なあ、ナシャータ……ちょっと手伝ってほしい事があるんだが……』
「わしの言葉は無視かい。はあ……手伝うかどうかは話を聞いてからじゃ、それより先に昼菓子を食べるのじゃ。わしは腹が減ったのじゃからな」
なぬ。
『それは今からか?』
「当然じゃ」
いやいや、それだと菓子を作っている間にコレットが来てしまう可能性があるじゃないか。
『今からは、ちょっと……』
「わしは! 腹が! 減った! のじゃ!!」
『……はい』
あの目はまずい……仕方ない、言う事を聞くとしよう。
何で毎回、食べ物如きで消し炭になるかもと怯えないといけないんだよ!