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コレットの書~薬・2~

「ぜぇ~ぜぇ~……はい、コレットさん! 合鍵を取り返してきました!」


「あ、ありがとうございます」


 キャシーさんが、グレイさんの後を走って追いかけて合鍵を取り返してくれた。

 何だか悪い事しちゃったな……。


「――いいですか、コレットさん! 簡単に女が男に部屋の合鍵なんかを渡しちゃ駄目ですよ!!」


「はっはいいい! すみませんでした!」


 まさにおっしゃる通りです。


「まったく……今度からは気を付けてくださいね。それでは私はお湯の準備をしてきますから、少し待っていてください」


「……はい」


 キャシーさんの頭からシスターが怒った時みたいに角が生えた様に見えた……。

 これからはキャシーさんも怒らせない様に気を付けないと。



「――よいしょっと、お待たせしました。それでは体を拭きますから、服を脱いでください」


 服を脱ぐ……そういえば、家族(神父様とヘンリーを除く)以外に素肌を見られるのは初めてだ。

 そう意識しちゃうと、キャシーさんの前で服を脱ぐのって何か恥ずかしい気持ちに……。


「……? どうかしましたか、コレットさん」


「……ハッ、いっいえ何も!」


 何、同性相手に恥ずかしがっているのよ、私。


「……えと……お願いします……」


「お任せください。それじゃ背中から拭きますね~」


「はい。――はふぅ~」


 あ~……気持ちがいいわ~。


「ふふ、気持ち良さそうでなによりです」


 幼い頃のマリーは体が弱くてよく熱を出して、こうやって拭いてあげてたっけ。

 教会のみんなは元気にしているかな~。




 ◇◆アース歴200年 6月19日・夕◇◆


 ――コンコン


「どなたですか?」


《俺だ、キャシー。入ってもいいか?》


 この声はグレイさんだ。


「はいはい、今開けますね~」


 ――ガチャ


「お邪魔するぜ。――どうだコレット、具合の方は?」


「キャシーさんが看病をしてくれたおかげで、だいぶ楽になりました」


「そんな大げさですよ~私は身体を拭いただけですし」


 いやいや、その体を拭いてもらっただけでも相当違いますって。


「あれ? グレイさん、そのショルダーバッグは何ですか?」


 本当だ、お昼の時には持っていなかったのに。


「ああ、これな。コレットの妹さんに渡してくれって頼まれたんだ」


 妹って……ええっ! マリーがリリクスに居たの!?


「グレイさん、マリーに会ったんですか?」


 来るなら来るで手紙くれればいいのに。


「おう。バザーに行ったらフードを深々と被った少女がいてな、気になって声をかけたらコレットを探しているって言ってきたんだ」


 何でマリーったら私を探すのにそんな所に。

 と言うか、何でフードなんか被っていたんだろう。


「んでバッグから液体の入ったビンが見えたから、もしかしてコレットが間違えて持ってきた漢方薬を妹さんが持って来たのかって訪ねたらそうだって言ったんだ」


 わざわざ、それを届けに来たの?

 ……漢方薬を間違えただけで色んな人に迷惑をかけちゃった……反省しないと。

 マリーにお礼をって、あれ? そういえばマリーの姿がない。

 話からして、グレイさんと一緒にここに来そうなのに。


「あの、マリーは何処に?」


「それがな、急用を思い出したとかで帰ったんだ。引きとめたんだがな……」


「そうですか……」


 マリーの顔を久々に見たかったな。

 それに神父様達の事も聞きたかったのに。


「にしても、コレットはこの街に来るまでずいぶんと努力していたんだな」


「へ?」


 何の事だろ? ……もしかしてお金をコツコツ頑張って集めていた事かな。

 まったくマリーったら、そんな事を話したのね。


「あ~はい、大変でしたけど冒険者になるのに必要でしたからね」


「んー必要っちゃ必要だが……そこまで頑張る事か?」


 いや、お金は必要でしょうよ。


「まぁいいや。ほれ、ちゃんと渡したからな」


「あ、ありがとうございま……す?」


 え? 何、この色。

 ピンクなんて始めて見たんですけど。


「ん、どうした?」


「いえ……ピンク色した漢方薬は始めて見たなと……あっもしかして、神父様が新しいのを作ったのかな?」


 わかった、だからわざわざ持って来てくれたんだ。

 ありがとう……神父様、マリー。


「なんじゃそりゃ。ケビンの親父さん、神父じゃなくて薬剤師になったほうがいいんじゃねぇか……」


「へ~神父様が薬の調合をしているんですか。それは興味深い話ですね」


「よし、せっかくなので飲んでみますね――ゴクッ……うぐっ!?」


 何この甘くて、すっぱくて、しょっぱくて、辛くて、苦くて、渋い味は。


「どっどうしたんですか、コレットさん! 顔が虹色に変化していますよ!?」


 これを一言で表すなら――。


「――まっまずい……ブクブクブク」


 ――ガクッ


「ちょっ! コレットさん!?」


「おいおい、白目を向いて口から泡が出ているじゃねぇか!!」


 ああ……意識が……遠く……な……。



「ハッ!?」


「あっ目が覚めましたか、コレットさん! あ~本当に良かったです~」


 キャシーさんが泣きそうな顔をしているのはなんでだろう?

 う~ん……一部の記憶が無い。


「……あの、私は一体……」


「この漢方薬を飲んで倒れたんですよ。グレイさんはお医者様を連れてくると飛び出しました」


 そうだった、あの漢方薬を飲んだら……うぷっ思い出しただけで吐き気が……ってあれ? 体のだるさがない、それに熱も下がったみたい。


「ちょっコレットさん、急に起きちゃ駄目ですよ!」


「いえ、大丈夫です! 漢方薬を飲んだら風邪が治ったみたいです!」


「……はっ!? いや、漢方薬くらいでいきなり治るものじゃ……」


「本当ですよ! ほら! ほ~ら!」


 すごい体を動かせる、むしろ前より体が軽くて調子が良い!

 神父様すごい、いつの間にあんな漢方薬を……ううん、これはもう秘薬レベルだわ。


「……どうやら本当に元気になっちゃったみたい……だとするとこの漢方薬はすごいわ、交渉してギルドに置こうかしら」


 これなら、明日からまた遺跡に行けるわ!

 本当にありがとう! 神父様、マリー!!

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