さてと、俺も動くとしよう。
菓子も作れる様に準備をしておかないと、作らなかったら本当にナシャータに消し炭にされてしまうかもしれない……。
『で、そうなると火起こしをしないといけないわけだが……』
この部屋には実験の資料と調合の道具しかない。
だとすると、自力で火を起こさないとダメか? この体は疲れないけど、時間がかかってしまうぞ。
『ここは研究室なんだし何かないか――ん? おいおい、奥に穴があるじゃないか』
リストといいあの穴といい、どれだけ周りを見てなかったんだ俺は……。
とりあえず行ってみよう、何かあるかもしれないし。
『……ふむ、どうやら木の扉があったみたいだな。それらしき残骸が落ちている』
それで中はっと……崩れたベッドに崩れた本棚……上から土砂が流れ込んだのか土で埋まった暖炉。
どうやらここに人が住んでいたみたいだが、もしかしてジゴロの爺さんの先祖かな?
待てよ、暖炉があるって事は……。
『……あった! 火打石』
これで火起こしが楽になる、しかも暖炉の横には薪も残っている。
ボロボロだけど湿ってなければまだ使えると思うんだが……うん、大丈夫そうだ。
『けどこの暖炉は駄目だな、土で埋まっているから使えん。しょうがない、研究室の前の部屋でかまどを作るか』
じゃないと火が紙に移って火事になったら手が付けられんからな。
※
『――よいしょっと。よし、こんな物かな』
かまどはその辺に落ちていた瓦礫を積んで完成っと。
後はナシャータが戻るのを待つだけだが――。
「たっだいま~なのじゃ! 菓子~菓子~っと」
「つっつかれた……」
お、噂をすればなんとやら。
てか、こいつまだ浮かれているのか、よっぽどその菓子が食いたいんだな。
「ほれ、集めてきたのじゃ。にしても、お前の字は汚いの。解読しながらじゃったから時間がかかってしまったのじゃ」
あーそういえば受付嬢さんにも字について散々言われたっけ。
そんなに汚いかな、俺は普通に読めるのに。
「で? これらをどうすればいいのじゃ?」
『あっそれじゃあ、メモの上から順番に並べていってくれ』
「並べるのじゃな、わかったのじゃ。――ほいほいほい」
よしよし、並べだした。
これでどの植物が何なのか俺でも判断できるぞ。
「ほいほっ……ん? これが菓子の材料? こんなものを入れたら辛くなるんじゃ……ハッ! お前、この採って来た中に薬を作る為の薬草も混ぜたな!?」
『チッ』
流石に浮かれていても、そこまでさせるとバレるか。
「やっぱりか! よくもわしを騙してくれたな!」
『そう怒るな、ちゃんと菓子も作ってやるから』
「――っ! そんな事でわしの機嫌が治ると思ったら大間違いなのじゃ!」
※
「モグモグ、やっぱりうまいのじゃ~! は~……またこれを食べられる日が来るとは思いもしなかったのじゃ~」
「モグモグ、これはなかなかいけますね」
菓子は粘りが強いピーカオの根に
しかも、何だかんだ言いつつリスト通りに薬草を並べてくれたし。
『やっぱり、ちょろいドラゴニュートだな』
「モグモグ、何か言ったか?」
おっと、つい本音を口にしていた様だ。
『いや、何も!』
あ、本音といえばナシャータに聞きたい事があったんだった。
バレた今なら聞いても問題はないな。
『なぁ、一つ気になっていたんだが
この作り方で問題なのがそこだ。
駄目なら作る意味が無い。
「モグモグ、
『そうなのか。よーし、それじゃ作るか!』
ナシャータがそう言うなら大丈夫だ。
さぁ頑張るぞ! コレットの為に!
◇◆アース歴200年 6月19日・朝◇◆
『ふい~……やっと出来た』
薬を作るなんて初めてだし、書いてある事が細かいしで、何回も失敗してしまった。
天井の隙間から日が入り込んでいるって事は……と言う事はもう朝か。
かなりの時間がかかってしまったな。
『これが超! 万能薬か』
主に葉っぱしか使わないから緑色の薬になると思ったんだが、何でピンク色になったんだろうか……不思議すぎる。
まぁいい、これをビンに入れてっと。
「ふわ~……どうやら完成したみたいじゃな……ほう、それが万能薬って奴なのか。それで、その万能薬をどうするのじゃ?」
はあ? ナシャータの奴は何を言っているんだ。
『何言っているんだよ、コレットに渡すに決まっているだろう』
寝起きだから寝ぼけているのか?
「わしが言いたいのは、いつ渡すのかって事じゃよ」
『あん? いつってコレットがここに来た時だよ』
俺は外に出られないんだから、その時に渡すしかないじゃないか。
「いやいや、お前こそ何を言っておるのじゃ。小娘がここに来るという事は、もう完治しているのという事じゃ。その万能薬をその時に渡すなんて無意味すぎるのじゃ」
『………………あっ!!』
そうじゃないか!
何でそんな簡単な事に気がつかなかったんだ!?
『だからと言って、届けるにしても俺はここから出られないし……』
これは完全なミスだ。
あの鎧に乗っ取られてから色々おかしい、馬鹿が移ってしまったのだろうか。
「ケビンの奴が文字通り崩れ落ちてしまったのじゃ……これは相当落ち込んだみたいじゃの」
『うう……』
目玉がないから涙も出やしない。
「う~ん、これはさすがに不憫じゃ。どうにかしてやりたいが……あっそうじゃ! わしに良い考えが浮かんだのじゃ!」
『……いい考えだって?』
「うむ、わしもケビンにも得な事じゃぞ」
そう言うナシャータはめちゃ笑顔だが、俺はその笑顔が逆に不安にしかならんぞ……。