《うおりゃあああああ！！》

　そんなやる気はいらないから！

　お願いだから引き換えしてくれ！

『ムー！　ムー！』

「「――っ」」

　男２人が、武器を構えて攻撃をする瞬間を狙っている。

　だが、こいつは猪突猛進しか考えていないみたいで、まったく避ける気配がない。

　これはもう確実に斬られるのは目に見えているな……。

「おらぁ！」

「この！」

　……ん？　何か２人の動きがゆっくりと見えるぞ……なるほど、これが身の危険を感じた時に時間がスローになって見えるって奴か。こんなものが見えると言う事は、どういやら俺はここまでみたいだな。

　ああ……せめて最後はコレットの腕の中で迎えたかったな……。

　さようなら、俺の愛しき人。

《とおーっ！！》

「「――えっ？」」

「――えっ？　うそ……」

　――はっ！？　ええ！！　嘘だろ、ジャンプをして２人の攻撃をかわしやがった！！

　そうか……猪突猛進でつっこんで行ったのは２人の攻撃を１点に集中させて、ジャンプで避けやすくする為だったのか。

　こいつ、馬鹿だが戦闘では頭が回るのか……。

《俺がジャンプするとは思っていなかったようだ、こいつ等の驚いた顔は傑作だな！》

　いや、そりゃ誰だって驚くよ。

　俺だってスケルトンに攻撃をして、それをジャンプで避けられたのを見たら思考停止するわ。

《――っと！　着地も完璧だ、さすが俺様》

　何か俺の体なのに、俺以上に軽やかに動かしているのに腹が立つんだが。

《さて、女の方は転送石の準備をしていて邪魔だから――》

　コレットの方へ走り出した。

　邪魔だから……って、こいつまさか！

《――始末するのみよ！　肉体は１人いれば十分だからな！》

　やっぱりか！

　コレットを始末するなんて、とんでもない事を考えやがって！

「しまった！　最初からコレットが狙いだったのか！！」

「コレットさん！！　早く逃げるっス！」

　そうだ、早く逃げてくれ！

「――あ……」

　どうした！？　なぜ動こうとしないんだコレット！

　このままだと斬られてしまうんだぞ！

《ん？　恐怖のあまりに動けないのか？　いいぞ、そのままじっとしていれば苦しまずに逝かせてやろう》

　そんな、くそっどうにかしてこいつを止めないと！

　この、俺の体なんだから言う事をきけよ！

　……俺の体？　そうだ……操られているとはいえ、これは俺の体なんだ。

「コレット！！」

　だから今コレットを斬ろうとしているのは、俺の体――。

「コレットさん！！」

　――となると、この状況は俺がコレットを斬ると同じ事じゃないか！！

《ハッハハハ！　さようならだ！》

　この俺がコレット斬るだと？

　そんな事、あってはならない……。

『――！』

《ん？　何だ。今、体の動きが鈍ったような気がしたが……気のせいか？》

　そう、あってはならない！

『――――――――！』

　俺がコレットに傷を付けるなんて！

《っ！　なっこいつ、口を開けようと！　この！》

『――――――――！！』

　そんな事を――。

《押さえ、きれない！！》

『――やらせてたまるかあああああ！！』

　――パーン！

《うおっ指が弾け飛んだ！　自分の体なんだ……ぞ？　なっなんだ？　体の感覚が、なくなっていっている？》

『ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！！』

　絶対に、この体を取り返してやる！

《まさかこの骨、俺から体を奪え返そうとしているのか！？》

　そしてコレットを守る！！

　剣を下ろせ俺の左腕！　動け俺の足！　

《なにいいい！？　馬鹿な、腕と足が！》

　むっ、今腕と足が俺の意思で少し動かせたぞ！

　よし！　の調子で動かしまくってやる！

《くっ！　この！　無駄な！　抵抗は！　するな！》

『それは、こっちの、台詞だ、この野郎！！』

　自分の体なのに取り返すのがこんなに苦労するなんて。

　しかも、お互いに手足を動かす形になってしまっているから、そのせいで普通ならありえない方向に曲がったりしているし……これ、体を取り戻せても元通りに動くのだろうか。

「――――っ」

『――――っ！！』

　何て事だ、コレットの顔がどんどん恐怖に満ちていっているじゃないか。

　それはそうだ、まだこの魔の手……まあ、俺の手なんだが……からは逃れていないんだからな。

　待っていろ、俺が必ず救ってやる。

　後先の事なんか考えるな、俺！　コレットを守る事だけを考えろおおおおおおおお！！

《――ぐぬぬぬぬぬ！　だ、駄目だ！　もう……限界……だ……》

『おっ？』

　急に体が軽くなったぞ。

　……おお！　自分の意志で足が動く、腕も動く！

《ぜぇーぜぇー……うそだろ……体を……奪い返されて……しまった……》

　苦労はしたが、どうやらこいつに勝ったらしい。

『おっしゃー！』

　っと今は喜んでいる場合じゃないよな。

『今は話している暇がないんだ、すまないコレット！』

　こいつを着ている限り、また体が乗っ取られるかもしれん。

　そうなってしまったら次も止められるかわからんからな、その前にコレットから離れないと！

《あっ人間達から離れるきか！　おい、引き返せ！》

　はあっ！？

『お前、よくそんな事を言えるな！　俺の言葉を散々無視していたくせに！　絶対に引き返さんからな！』

　それに俺は早くここを離れたいんだよ、コレットの為でもあるが……走り出してわかったんだ。

　この【体】の異変に。

　右膝は１８０度回転してしまっていているし、腕を上げたまま下ろせない左肩、右肘も何故か下に曲がってしまう。

　だが一番問題なのは、腰が９０度横に向いていてしまっている事！　そのせいで下半身は横走りをしないといけないからすんごく走り辛い！！

　もしこの状態で、あのままいたら四つ星の親父にやられてしまうだけだっての！