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ケビンの書~乗っ取り・3~

 ◇◆アース歴200年 6月18日・昼◇◆


《はぁ……》


 あれから《他に入り口はないのか!?》と騒ぎながら遺跡内を走り回ったが見つからず、さすがに落ち込んでしまったのか、ずっと体育座りのまま動こうとしない……。

 あの大きな縦穴の所までは行き着かなかったが、教える義理もないし、何より俺の体が拒否した場所だから行きたくないんだよな。

 しかしだ……何もせずに、この体勢でずっといられるのはさすがにたいくつすぎる。


『なあ、動く気がないのならいい加減俺から離れてくれないか?』


《はぁ……》


 声をかけても、ずっとため息ばかりだし。

 ナシャータもポチも姿を見せないし……どうしたらいいんだよ、これ……。


「はい、確保っス」


 ん? 今、人の声が聞こえたような……。


「よし」


「うう……」


 いや、空耳じゃない。

 間違いなく誰かが遺跡に入ってきた様だ……もしかして、昨日の様にスケルトン狩りをしに来た冒険者かな?

 ……となると、これはまずいぞ。こいつは人間が目当てだから、冒険者が来たとなると一目散に飛び出すに違いないし、昨日の出来事は知らない。

 スケルトン狩りの前にスケルトンが自分から出てくるなんて、まさにカモがネギ背負った様な物。

 こいつの防御力がどのくらいあるのかわからんが、鎧ごと斬られでもしたら俺は……嫌だ、そんな事で道連れにされてはたまらん。

 かと言ってこいつにその事を話しても言う事を聞かないだろうし……こうなりゃこいつが気付かないのを祈るしかない、どうにか気付きませんように!


《……今、声が聞こえた……》


 ……デスヨネ。

 俺にも聞こえているんだから、こいつが気付かないはずがないか。

 よし、何とか誤魔化そう。


『え? そうか? 気のせいじゃないか、俺には! まったく! 何も! 聞こえなかっ――』


「――まったく、調子が悪いなら最初から言えよな」


 おおーい! 声がでかいよ!

 あーあ、これはもう誤魔化せないな。


《やはり人間の声だ! はっはははは! 俺はついているな、わざわざ人間から来てくれるとは!》


 さっきとは打って変わって元気に走り出したよ……やっぱりそうなるよな。

 仕方ない、無駄だろうが話すしかないか。


『おい。いいかよく聞け――』


《声は入り口付近からしたな……》


『昨日はスケルトン狩りがあってだな――』


《となると……こっちだ!》


『この姿で出たら逆に――』


《――見つけた!!》


 こいつ、まったく人の話を聞いてねぇ!


「……とにかく、街に戻――」


『おい! だから人前に出るなって!!』


《うるせぇ! てめぇの言う事なんか聞くか!》


 聞かなかったから結界に弾き飛ばされたくせに、どの口が言うか!?


「――させてはくれないようだな。入り口へ戻る通路を塞ぎやがった」


 あー……人前に出ちゃったよ、何て馬鹿な事をしてくれたんだ。


《へっ、街へは戻させねぇからな》


 しかも、道を塞いだつもりだろうが……相手からしたらそんなの関係ないのに。

 目の前にいるのは……3人、か。

 何でそのうちの1人は羽交い絞めされているのからんが……どうにか逃げない……と?


『「「「………へ?」」」』


 ええ!? よく見たら羽交い絞めされているのはコレットじゃないか!

 よりもよって、この乗っ取られた姿を今一番見られたくない人が目の前に……。

 うーわー! 恥ずかしい! そんなにこっちを見ないでくれ!!


『コレット! 俺を見ないでくれ!!』


 頼むから向こうを向いて――。


「あっあれは何なんですか!?」


 ――ガーン!

 コレットにあれ呼ばわりされた……さすがにそれは傷付くぞ。


「俺にもわからん! あんな珍妙な格好をしたスケルトンなんか見たことがねぇよ!」


 珍妙な格好……そうか、この鎧のせいで俺だと気付いていないんだ。

 何だ、それならこの姿を見られても別に問題は――。


「おい、コレットを下ろして戦闘体勢をとれ!」


「わかったっス!」


 ――あった!

 戦闘体勢って事はやっぱりスケルトン狩りか、よりもよってコレットは何でそんな連中といるんだ……。

 ん? ちょっと待てよ、昨日の騒動の中にコレットがいて、そして俺を殴ってきた。

 んで、今日はスケルトン狩りの連中といる……昨日は突然目の前に俺が出てきたから普通のスケルトンと間違えて殴ったと思っていたが…………え? 嘘だろ!? コレットもスケルトン狩りをしているって事なのか!?

 ……スケルトンの中に俺が混じっているのを知っているのに何故なんだよ。


「コレットは俺達が時間を稼ぐ間に転送石の準備を!」


「はい!」


 あれ? なんかよくわからんけど脱出するみたいだ。

それは実にありがたい事だが、脱出する前に俺だって事をコレットに言っておかないと後々厄介な事になりそうだ、コレットにどんな事情があったのかは知らないがスケルトン狩りは止めてほしいしな。


『コレット! 俺――モガッ!?』


 なっ何だ?


《まったく、さっきからうるさい奴め!》


 いきなり、左手で俺の顎を下から上に押して鼻の穴に指を突っ込んできたが……こいつは何がしたいんだ?

 まあいいか、今はそんな事よりコレットに伝えないと。


『ムー! ム? ムー!!』


 くっ口が開かないだと!


《ふん、これで静かになったな》


 そうか、この左手は俺の口を固定する為にやったのか。

 くそっこれじゃ喋れないじゃないか、まったく余計な真似をしやがって!


《さあ、その肉の付いた体を貰う!!》


 ちょっあの2人に向かって走り出した。

 え、待て待て! くさい方はともかく親父の方は四つ星なんだぞ!

 四つ星級に勝てるわけがないだろうが、このバカヤロウ!


「あ、こっちに来たっスよ!」


 俺は行きたくないっスよ!

 やめて! 引き返して!


《うはははははははは!! 行くぜええええええ!》


 何でこいつ、こんなにテンションが高いんだよ!

 いやー! 誰か助けてえええええええええええええ!!

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