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コレットの書~不調・6~

 で、何で2人が私の部屋にいるんだろう?

 ……状況がまったくつかめない……。


「……私は……一体……?」


「ふむ、だいぶ顔色も良くなっているし……少しは落ち着いたみたいだな。解熱と栄養剤の注射が効いてきたようだ」


「っスね」


 えっ? 注射?

 私の体に一体何があったの?


「お前は、すごい熱を出して倒れたんだよ」


 そういえばあの時、急に目の前が歪んで……え~と、それから……その先の記憶がまったくない。


「それで急いで街に戻って、マークはコレットをこの部屋に運び込んで、俺は知り合いの医者を呼びに行ったんだ」


「そう……だったんですか……」


「でだ、診断は疲労で体が弱って風邪をひいたんだと。とりあえず、処置として解熱と栄養剤の注射を打ってもらった。薬は明日俺が症状に合わせて調合したのを貰って来てやるから」


「……はい……ご迷惑を……おかけします」


 う~ん……今朝のだるさは、疲れかなとは思っていたけど……風邪までひいていたなんて。

 いや、貯水槽に落ちて水浸しになっちゃったから当然かも。


「……その顔は自覚症状があったみたいだな。まったく体調の管理も冒険者として大事な事だぞ、休む時はちゃんと休む事! 今日みたいに倒れたら意味ないだろう」


 ……まさに仰るとおりです。


「……うう……すみません……」


 結局、それで2人に迷惑をかけちゃった。

 これは反省をしないと……。


「まぁこれ以上、病人に説教するのもあれか……。とりえず起きたんだ、食べ物を口にできそうか?」


 グレイさんがパンと干し肉を出してくれたけど……。

 う~ん、今は胃が受け付けない感じ……と言うか病人にその二つを出すのもどうなのさ。


「……すみません……それは……ちょっと……」


「そうか……かと言って、このままなのもな……もう市場は終わっているから果物とかは買えないし……」


 そうだよね……何か食べた方がいいのはわかるんだけど……。

 出きれば軟らかい物か、飲み物みたいなのが……あ、そうだ。


「……すみません……そっちの袋の中に……漢方薬が……あるんですけど……神父様が……それには……栄養もあると……」


 そう、補充し忘れていた奴が……。


「結局、漢方薬かよ! まぁいいや、栄養があるなら何も口にしないよりかはましか。マーク、悪いがその中から出してくれ」


「うっス、この袋の中っスね? ――えーと……」


「……大きめのビンに……入っている……茶色の奴……です」


 そう、補充し忘れていた奴が。

 今更補充しても意味ないけどね。


「これっスかね? ……ん? ちょっといいっスか、コレットさん」


「……? なんですか?」


「これ、蓋の所に肩こり腰痛用って書いてあるんっスけど……」


「……………………えっ?」


 肩こり腰痛用……?


「……ほっ……他には……?」


「他? これ以外にそんな物はないっスよ?」


 えっウソでしょ?


「……あの……そっちの……袋の中は……?」


「ん? これか? ――いや、この袋は薬どころか服しか入っていないぞ?」


「……………………」


 ……となると……もしかして……私――。




 ◇◆同日同刻・コレットの村、教会内◇◆


「あたたた……」


 肩と腰が悲鳴を上げている。


「まったく、普段していないのに肉体労働をするからですよ」


「そうだよ、屋根の修理なら俺が帰ってきてからやったのに」


 昨日の嵐は酷かった、幸い負傷者はいなかったものの、村の集会所が壊れてしまった。

 この教会は屋根が少し壊れた程度で済んだのが奇跡だ……主のおかげかな?


「そうは言うが、ヘンリーは集会所の修理を手伝いに行ってヘトヘトだろう。屋根の上に登るんだからマルシアやマリー、ブレンにやってもらう訳にもいかん。それにいつ雨が降るかわからんのから放っとけん……」


 そもそも、この程度で体に痛みが来るとは思わなかったんだ。

 本当に歳は取りたくないな……まぁいい、私にはあれがある。


「マルシア、すまんが肩こり腰痛用の薬を持って来てくれないか?」


「はいはい、ちょっと待っていてくださいね」


 あの薬を飲めばだいぶ楽になるからな。


「――あれ?」


 どうしたんだ、マルシアが固まっているようだが。


「シスター?」


 ヘンリーも不思議そうな顔をしている。


「おい、どうし――」


「あなた! これを!」


 何だ、目の前に出してきたのは薬の入ったビンだが……。

 ん? 蓋に漢方薬と書いてあるな。


「これはコレットに持って行くように言った漢方薬じゃないか……まったく持っていくのを忘れていたのか? はぁ……別に漢方薬を持っていかなかったくらいで死にはせん、そんな大声を出さなくても――」


「この漢方薬があって、肩こり腰痛用の薬がないんです! あの娘、間違えて持って行っちゃったみたいです!」


「――――――――っ」


「――プッ! あははは! 姉さんらしいや!」


 コレットよ、そのおっちょこちょいを直さないと本当に命に関わるぞ。

 と言うか、私のこの肩と腰の痛みはどうしたらいいんだ!? あの馬鹿娘が!!




 ◇◆同日同刻・リリクスの宿、コレットの部屋◇◆


 漢方薬と肩こり腰痛用を間違えて持ってきちゃったわけ!?

 ああ、やっちゃった……神父様怒ってなければいいけど……。


「コレット……まさか間違えて持ってきたのか?」


「……みたい……です……」


「で、この肩こり腰痛用を飲んで、今日を乗り越えようと?」


「………………みたい……です……」


 漢方薬とばかり思っていたし、どっちも苦いから何の違和感も……思い込みって怖い。

 と言う事は何? 肩こりでも腰痛でもないのに、それを倍にして飲んでいた訳?

 そりゃ色んなの効果はないわけだよ!!


「……えーと……その……ド、ドンマイっス! コレットさん」


「あーなんだ……今日はもう寝ろ……な? 俺らも引き上げるから……」


 2人の励ましと優しさが妙に心に刺さる。


「……あい……そうします……」


 本当に何やってんのよ! 私!!

 ああ……また熱が上がりそうだわ……。

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