で、何で2人が私の部屋にいるんだろう?
……状況がまったくつかめない……。
「……私は……一体……?」
「ふむ、だいぶ顔色も良くなっているし……少しは落ち着いたみたいだな。解熱と栄養剤の注射が効いてきたようだ」
「っスね」
えっ? 注射?
私の体に一体何があったの?
「お前は、すごい熱を出して倒れたんだよ」
そういえばあの時、急に目の前が歪んで……え~と、それから……その先の記憶がまったくない。
「それで急いで街に戻って、マークはコレットをこの部屋に運び込んで、俺は知り合いの医者を呼びに行ったんだ」
「そう……だったんですか……」
「でだ、診断は疲労で体が弱って風邪をひいたんだと。とりあえず、処置として解熱と栄養剤の注射を打ってもらった。薬は明日俺が症状に合わせて調合したのを貰って来てやるから」
「……はい……ご迷惑を……おかけします」
う~ん……今朝のだるさは、疲れかなとは思っていたけど……風邪までひいていたなんて。
いや、貯水槽に落ちて水浸しになっちゃったから当然かも。
「……その顔は自覚症状があったみたいだな。まったく体調の管理も冒険者として大事な事だぞ、休む時はちゃんと休む事! 今日みたいに倒れたら意味ないだろう」
……まさに仰るとおりです。
「……うう……すみません……」
結局、それで2人に迷惑をかけちゃった。
これは反省をしないと……。
「まぁこれ以上、病人に説教するのもあれか……。とりえず起きたんだ、食べ物を口にできそうか?」
グレイさんがパンと干し肉を出してくれたけど……。
う~ん、今は胃が受け付けない感じ……と言うか病人にその二つを出すのもどうなのさ。
「……すみません……それは……ちょっと……」
「そうか……かと言って、このままなのもな……もう市場は終わっているから果物とかは買えないし……」
そうだよね……何か食べた方がいいのはわかるんだけど……。
出きれば軟らかい物か、飲み物みたいなのが……あ、そうだ。
「……すみません……そっちの袋の中に……漢方薬が……あるんですけど……神父様が……それには……栄養もあると……」
そう、補充し忘れていた奴が……。
「結局、漢方薬かよ! まぁいいや、栄養があるなら何も口にしないよりかはましか。マーク、悪いがその中から出してくれ」
「うっス、この袋の中っスね? ――えーと……」
「……大きめのビンに……入っている……茶色の奴……です」
そう、補充し忘れていた奴が。
今更補充しても意味ないけどね。
「これっスかね? ……ん? ちょっといいっスか、コレットさん」
「……? なんですか?」
「これ、蓋の所に肩こり腰痛用って書いてあるんっスけど……」
「……………………えっ?」
肩こり腰痛用……?
「……ほっ……他には……?」
「他? これ以外にそんな物はないっスよ?」
えっウソでしょ?
「……あの……そっちの……袋の中は……?」
「ん? これか? ――いや、この袋は薬どころか服しか入っていないぞ?」
「……………………」
……となると……もしかして……私――。
◇◆同日同刻・コレットの村、教会内◇◆
「あたたた……」
肩と腰が悲鳴を上げている。
「まったく、普段していないのに肉体労働をするからですよ」
「そうだよ、屋根の修理なら俺が帰ってきてからやったのに」
昨日の嵐は酷かった、幸い負傷者はいなかったものの、村の集会所が壊れてしまった。
この教会は屋根が少し壊れた程度で済んだのが奇跡だ……主のおかげかな?
「そうは言うが、ヘンリーは集会所の修理を手伝いに行ってヘトヘトだろう。屋根の上に登るんだからマルシアやマリー、ブレンにやってもらう訳にもいかん。それにいつ雨が降るかわからんのから放っとけん……」
そもそも、この程度で体に痛みが来るとは思わなかったんだ。
本当に歳は取りたくないな……まぁいい、私にはあれがある。
「マルシア、すまんが肩こり腰痛用の薬を持って来てくれないか?」
「はいはい、ちょっと待っていてくださいね」
あの薬を飲めばだいぶ楽になるからな。
「――あれ?」
どうしたんだ、マルシアが固まっているようだが。
「シスター?」
ヘンリーも不思議そうな顔をしている。
「おい、どうし――」
「あなた! これを!」
何だ、目の前に出してきたのは薬の入ったビンだが……。
ん? 蓋に漢方薬と書いてあるな。
「これはコレットに持って行くように言った漢方薬じゃないか……まったく持っていくのを忘れていたのか? はぁ……別に漢方薬を持っていかなかったくらいで死にはせん、そんな大声を出さなくても――」
「この漢方薬があって、肩こり腰痛用の薬がないんです! あの娘、間違えて持って行っちゃったみたいです!」
「――――――――っ」
「――プッ! あははは! 姉さんらしいや!」
コレットよ、そのおっちょこちょいを直さないと本当に命に関わるぞ。
と言うか、私のこの肩と腰の痛みはどうしたらいいんだ!? あの馬鹿娘が!!
◇◆同日同刻・リリクスの宿、コレットの部屋◇◆
漢方薬と肩こり腰痛用を間違えて持ってきちゃったわけ!?
ああ、やっちゃった……神父様怒ってなければいいけど……。
「コレット……まさか間違えて持ってきたのか?」
「……みたい……です……」
「で、この肩こり腰痛用を飲んで、今日を乗り越えようと?」
「………………みたい……です……」
漢方薬とばかり思っていたし、どっちも苦いから何の違和感も……思い込みって怖い。
と言う事は何? 肩こりでも腰痛でもないのに、それを倍にして飲んでいた訳?
そりゃ色んなの効果はないわけだよ!!
「……えーと……その……ド、ドンマイっス! コレットさん」
「あーなんだ……今日はもう寝ろ……な? 俺らも引き上げるから……」
2人の励ましと優しさが妙に心に刺さる。
「……あい……そうします……」
本当に何やってんのよ! 私!!
ああ……また熱が上がりそうだわ……。