どうしよう……どうしよう……。
「おーい、コレット。何しているんだ? 遺跡の中に入るぞー」
「あっはい!」
ああ、呼ばれている。
え~と……とっとりあえず残っている分だけでも飲んでおこう。
ここまで来たんだから、今日はこれで乗り越えないと!
「――ンッ!」
……もはや口の中を湿らす程度なだけで、ただただ口の中が苦くなっただけ……全然効果が出なさそう。
う~どんどん体が重くなってきている気がする。
「あっ! そうだ、思い出した。私が寝込んだ時、神父様はこんな事を言っていたじゃない」
《いいかい、コレット。病は気からと言って、病気は心の持ち方しだいで軽くもなるし、重くもなるんだ。だから今は苦しいだろうが心を強く持つんだ、必ず元気になると》
そう! 病は気から!
よし、それじゃさっそく。
「私は元気だ、私は元気だ、私は元気だ、私は元気だ、私は元気だ、私は元気だ――」
こうやって、自分に言い聞かせてっと……。
「何か、コレットさんがブツブツ言いながらこっちに来たっスけど……」
「……本当に大丈夫なのか、あいつは?」
「私は元気だ、私は元気だ、私は元気だ、私は元気だ、私は元気だ、私は元気だ――」
うん、言い聞かせていたら体が軽くなった……様な気がする。
「どう見ても、やばいと思うっス……」
「だよな……おい、コレット」
ええ……今は話しかけないでほしいのに。
「なっなんですか?」
せっかく気持ちが出来てきたのに、どうして止めちゃうかな。
「さっきといい、今といい、どう見ても様子がおかしいんだが……やっぱり体の調子が悪いのか?」
まずい! そのキーワードを聞いちゃ駄目だ!
「いいえ! 私は元気です! なのでさっさと遺跡に入りましょう!」
ここは強引に遺跡の中に入って誤魔化しちゃえ!
「ちょっおい、先に中に入るなよ! ……うーん、やっぱり調子が悪いようだな」
「どうするんスか?」
「あ? どうするも何も、すぐに追いかけて、捕まえて、強制送還だ!」
※
「はい、確保っス」
「よくやった。にしても中に勝手に進むなよ」
「うう……」
マークさんに羽交い絞めされてしまった。
……やっぱり、グレイさんの目を誤魔化せなかったみたい。
くっあの時、漢方薬さえ補充していれば!!
「まったく、調子が悪いなら最初から言えよな」
「……でも漢方薬を呑みましたし、病は気からという事で自分を元気だと言い聞かせていましたし……」
対処は完璧だったはずなのにな。
「いや、漢方薬といっても万能薬じゃねぇんだから、すぐに良くなるわけがないだろ……後、ブツブツ言っていたのはそれが理由だったのか……」
「とは言ってもコレットさん全然効いてないみたいですよ? 体が熱いっス、熱が出てきたんじゃないっスか?」
え、そうなの?
う~ん……色々やりすぎて、もはや自分でもよくわからない感じ。
「確かに顔が赤いな。とにかく、街に戻――」
『カタ! カタカタカタ!!』
この歯を鳴らす音は……毎回、鳴らさないと気がすまないのかしら?
「――させてはくれないようだな。入り口へ戻る通路を塞ぎやがった」
はいはい、スケルトンが襲って来たんですよね。さすがにもう慣れてきたわ。
それにしても、まだ入り口の近くなのにもう出て来るなんて始めて――。
「「「………へ?」」」
何あれ……スケルトンはスケルトンだけど……。
『カタカタ! カタカタカタ!!』
皮の鎧を着て、腰ミノを巻いてる物凄く変な格好したスケルトンが目の前に。
「あっあれは何なんですか!?」
さすがにあれは不気味すぎる!
なんだか、見てたら寒気がしてきたし。
「俺にもわからん! あんな珍妙な格好をしたスケルトンなんか見たことがねぇよ! おい、コレットを下ろして戦闘体勢をとれ!」
「わかったっス!」
「コレットは俺達が時間を稼ぐ間に転送石の準備を!」
「はい!」
すごく嫌な感じがする、早く準備をしないと。
『カタカタ! カタ――ガッ!?』
ん!? 自分の左手で自分の顎を下から上に押して、鼻の穴に指を入れた。
口を押さえ込んでいる感じだけど、あの行動に何の意味が? 顎でも外れそうだったのかな?
いや、そんな事はどうでもいいって! 転送石~転送石~はっと。
「あ、こっちに来たっスよ!」
うああああああああ! あの格好でこっちに走ってきた!
色んな意味で怖い、怖すぎる!
今日は逃げた方がいい、絶対に関わっちゃ駄目だ!
「おらぁ! ――えっ?」
「この! ――えっ?」
「――えっ? うそ……」
不気味スケルトンがジャンプして2人の攻撃を避けた、そんな事があるの? 信じられない……。
――着地して、こっちに走って来た……?
「しまった! 最初からコレットが狙いだったのか!!」
「コレットさん!! 早く逃げるっス!」
え? 私が狙いだったの?
「――あ……」
目の前に剣を振りかぶろうとしている、不気味スケルトンがいるのに……動けない。
突然な事過ぎて頭が真っ白だし、体も反応しない。
「コレット!!」
「コレットさん!!」
私、斬られ――。
『――カタカタカタカタカタカタカタ!!』
――パーン!
……へっ? 顎を押さえていた指が弾け飛んだ?
『カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ!!』
何かものすごい歯を鳴らしているけど、それって自分の指を壊してまでする事なの!?
『カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ!!』
今度は歯を鳴らしながら、変な踊りを始めたし。
……私は一体何を見せ付けられているのかしら。
『カタ?』
あ、止まった。
『カタカター!』
残った腕を上げて……何か喜んでいるみたい。
そんなに踊りを見せたかったの? さっきまで私を斬ろうとしていたのに?
『カタカタカタカタカタカタカタ、カタカタカタカタカタ!』
……歯を鳴らしながら走って奥まで行っちゃった。
もう何がどうなっているのか、まったく訳がわからないんだけど。
「……え~と……私は……助かった、の?」