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ケビンの書~逃亡者・2~

 ◇◆アース歴200年 6月17日・朝◇◆


『――うん? 何だか周りが明るくなって来たぞ?』


 おかしいな、ここはヒカリゴケや魔晶石以外の光はない場所なんだが……あーなるほど、天井に穴が空いてそこから太陽の光が入り込んでいるのか。

 魔晶石の間が崩れ落ちた時にその衝撃で天井の一部も崩れたんだな。

 そうなると他も崩れていたり、脆くなっている場所があるかもしれんから気を付けないと。


『……しかし、もう朝か』


 朝という事は、一晩中この瓦礫を退かしていた事になるな。

 なのに、撤去作業がほとんど進んでいないこの現状……とにかくでかい瓦礫が邪魔すぎる。

 俺自身の力で上がるわけもなく、テコを使っても駄目だった。


『まさにテコを使ってもテコでも動かないって奴だな! はっははは……はぁ……』


 何を下らない事を言っているんだ俺は、疲れない体だが精神的に疲れてきているな……これは。

 やはりナシャータの力を借りないと無理か? ……とは言っても昨日はっきりと断られたしな、どうにか手伝ってもらう方法はないものか。

 まぁその肝心のナシャータは――。


「くか~くか~」


 大きい瓦礫に仰向けになって、手足を投げ出して大の字に寝ているけども。

 しかし、良くあんな石の上で爆眠できるな。


「すぅ~すぅ~」


 ポチはその横で丸まって寝ている。

 人の姿になってはいるが、ああ見るとやっぱり犬なんだな……あ、狼か、まぁそんな事はどっちでもいいか。


『……それにしても、うらやましい。こういう精神的にきつい事は、一度寝てすっきりさせたい所なんだが……』


 スケルトンだから睡魔なんてあるわけがない。

 何回も意識が失った事はあるが、それは寝るという感じでもないし、何よりその度に体をバラバラにしないといけないという最大のデメリットがある。


『……愚痴っていても仕方ないか』


 睡眠も瓦礫もどうしようもないんだから。




 ◇◆アース歴200年 6月17日・昼◇◆


「……んん……ふあぁ~……もう朝か。あ~……こんな石の上で寝るもんじゃないの、下が硬すぎてよく眠れなかったし、体がボキボキ鳴るのじゃ」


 お、やっと起きたか。

 あんなに爆眠していたくせに、よく寝られなかったっていうのはおかしいぞ。


「ん~? ふわ~……ごしゅじんさま……おはようございます」


 釣られてポチも起きたみたいだな。


『お前ら、今は朝でもおはようございますでもない、もう昼だ』


 天井から入って来ている太陽の光の位置が大体真っ直ぐだ、つまり遺跡の真上。

 だから、今は間違いなく真っ昼間だ。


「へ? なんじゃと? わしはそんなに寝てしまっていたのか、通りで腹が空きまくり――ってケビン! お前、あれからずっと瓦礫をどかし続けておったのか!?」


『ああ、そうだよ……何か問題でもあるか?』


 何回も挫折しかけたが……。


「いや、問題はないのじゃが……お前の執着心は、ある意味感心するのじゃ」


 そこは執着心ではなく愛と言ってほしいな。


「まぁそれより飯じゃな、朝昼分の飯を――む? ……おい、ケビンこれはどういう事じゃ!?」


『あん? 何の事だよ』


 俺、何かした? 特に覚えがないんだが。


「何って、今ものすごい数の人間がわしの家に入り込んできたのじゃ!!」


『はっ!?』


 それは何かの間違い……なわけないよな、ナシャータの感知能力は俺も知っているし。


「何故、お前の作戦の後にこんなにも人間が入ってくるのじゃ!? これでは意味が無いのじゃ!」


『そんな事言われても、俺にもさっぱりわかんねぇよ! とっとにかく上に行ってみるぞ!』


 一体何が起こっているんだ!?



 なんじゃこりゃ!?

 遺跡の中には人、人、人、人で溢れかえっている!!

 しかも――。


「この、あっ! てめぇ、そのスケルトンは俺が狙っていた奴だぞ!」


「へん! 早い者勝ちだろうが! ちっ、こいつも普通のスケルトンだったか」


 何かスケルトンを中心に狩られているし!

 なんで!?


「あーくそ! お前ら邪魔なんだよ! 狩りが出来ないじゃないのよ!」


「そうよそうよ! そのデカ物軍団! あんたたちのせいで遺跡内が狭いのよ!」


「あんだと!? だったらお前らが他の所へ行け! ここは俺たちの場所だ!!」


「何よ!! 無駄にでかいくせに場所を陣取っているんじゃないわよ!」


「無駄にだと!? この鍛えられた美しい筋肉を馬鹿にしやがって! 女だからって容赦しねぇぞ!」


「あたしたちは冒険者だ! 女も男も関係ねぇよ!!」


 それにしてもたちの悪い冒険者達だな、罵声だらけじゃないか。


「ちっこれじゃ狩りにならねぇな、おい! ここの壁を壊して他のルートに行くぞ!」


「了解!」


『へ?』


 あの冒険者、今とんでもない事を言った気がしたんだが……。


「なんじゃと! 壁を壊すじゃと!?」


 やっぱりそう言っていたか――ってナシャータが飛び出そうとしている! それは色んな意味でまずい!

 何とか食い止めなければ、でも俺の力でナシャータを抑えられるわけがないし……ええいっ! 今は考えている場合じゃない、飛びついてでも止める!


『待つんだ! ナシャータ!』


「――っ!? うひゃひゃひゃひゃ! わっわき腹は駄目っなのじゃ! うひゃひゃひゃひゃ! くっすぐったい! はっ離すのじゃ! うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」


『え……?』


 ナシャータってわき腹が弱いのか? なら、このままくすぐって動きを止めていよう。


『コチョコチョコチョ』


「うひゃひゃひゃひゃひゃ! こっこら! やめっ! ポチ! 見てないで、こやつをわしから離すのじゃ! うひゃひゃひゃひゃひゃ!」


「は~い、ていっ!」


『グフッ!?』


 普通に引き離せばいいだけなのに、何故タックルを!?

 だが今のでナシャータから離れてしまった! ああ、飛び出そうとして――。


「――おりゃああ!!」


 ――ドカアアアン!


 あ、壁がぶっ壊された。


「ぎゃああああああああああああああ!! わしの家が壊されたのじゃ!!」


 ナシャータが絶叫を上げて崩れ落ちた。

 というか、魔晶石の間も何て崩落しているし、元々崩れている場所もある。

 今更、壁を破壊されたくらいでそんなにショックなんだ?


「――よし、空いたな。行くぞ!」


「「おお!!」」


 うーむ、それにしてもあいつら完全に見境無しだな。

 どうしてこの低レベルの遺跡で、こんな過激なモンスター狩りが始まったんだろうか。

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