◇◆アース歴200年 6月11日・朝◇◆
『俺がスケルトンになってしまってるだとおおおおおおおおおおおおおおお!?』
何故だ、どうしてこんな姿になったんだ!? こんな事がありえるのか。
そうだ……これは夢だ、悪い夢を見ている違いない。そうだよ、スケルトンなんかになるわけがない。
ここはほっぺたを引っ張って……引っ張って――。
『――って引っ張れる肉がねぇし!』
が……そんな事をしなくても分かる、これは夢じゃない。
皮膚がないのにレンガの冷たい感覚、そして遺跡の重苦しい空気を感じる……この骨の体は紛れもなく俺の体だ。
うーむ、何故スケルトンになってしまった事はまったくわからんし、考えても答えは出るわけがないからこの辺りは置いておこう。
『さて……』
とりあえず今の状況把握はしとくか……まずは目覚める前を軽くまとめてみよう。
まず俺は見つけた隠し通路の先をマッピングしようとして……そう床が抜けて落ちたんだ、実に間抜けな話だ、三つ星級冒険者になったのにも関らず落とし穴に落ちるなんてしゃれにならんな、っと今はそんな事は置いといて。
んで、落ちた先はこのレンガで積まれた狭い四角い部屋か……周りを見てもここから出れる場所がないな、そうなると落ちた穴から出るしかないかって……あれ? 天井に穴らしきものがないぞ? 穴を見ながら落ちたのに、その穴がないのはどうしてだ。
壁に囲まれ天井の穴もない、だとすると……おいおい、これって完全に閉じ込められてるって事じゃないか。
『んーかといってこのままこの場所にいるってわけもいかないし、一度ちゃんと辺りを調べるか。よっこいしょ――ん?』
何だ? 立ち上がった瞬間に体から何かがポロポロと落ちたぞ、これは……布か? ずいぶんと劣化している物だが……ってこれは俺が着ていた服じゃないか、となると……ああ! やっぱり新品だったはずの青銅の鎧も錆び付いて穴が開いてるじゃないか! 俺は一体どれだけの月日ここにいたんだ、こんなになるなんて相当じゃないのか!?
いや……待てよ、時間がたてばこの服や鎧みたいに物は必ず劣化する……年月がたてば立つほど脆くなる、だとするとこのレンガで詰まれた壁の部分もどこか脆くなっているかもしれん、そこを探して叩けば崩れて出られるかもしれないぞ。
『とにかくここから出てみない事には始まらん、しょうがない着ていたものはすべて置いていこう。勿体無い気もするがこんなボロボロのを着ていても意味が無いからな』
しかしこの冒険者の証のプレートだけはあまり劣化してないあたりちゃんと造られてるんだな、さすがはギルドだな感心する。
『よしっと』
これで全て脱いだな……骨だから全裸になっても何の問題もない、だって肉体がないのだから恥ずかしい所なんて文字通り一切無い、はずなのだがどうしても下半身が気になってしまう。
『……………………やっぱり駄目だ! 気になって仕方ない、まだ使える部分を腰に巻こう』
気休めにしかなってないがこれでずいぶん気持ちが楽になった。
後はあのレンガだな、んー何処か……脆いとこ……脆いとこ……お、ここが崩せそうだ。
『せーの! おりゃぁああああああああああ! ――よっしゃ! 壁を崩せたぞ!!』
えーと……出た場所は……何だまた部屋か。お、でもこの部屋は入り口があった、良かった。
そして、この部屋だいぶ荒らされた跡があるな……ギルドの連中か冒険者かはわからんがここはもう探索済みってわけか。
はぁ……本当は俺が一番乗りのはずだったのに。
『いかんいかん、何落ち込んでいるんだ。今は外へ出る事を考えろ』
んで、この部屋を出ると左右とも通路か。どっちの通路が入り口に繋がっているんだろう。
――ドドドド
……む? なんか音がする……何の音だ? 足音? それも大勢の……。
げっ! 左右の通路から大量のスケルトンとゾンビがこっちに来た!? そうか、壁を壊した時の音でよって来たんだ!
くそっしくじった、この部屋に隠れてもあの数じゃすぐ見つかる……左右もあの数じゃ逃げる隙間もない……こうなったら戦うしかないぞ。
『くそっ! かかってこ――あれ?』
剣が抜けない? なんで!?
『くぉのおおおおおおおお!』
――バギッ
バギッ? あれ? 刃の部分がない? 何処へ……ちょっ鞘の中で折れてるし!
一体なんで……あ、鎧が劣化してるんだから剣も劣化するに決まってるじゃないか。
『…………』
『……アア……』
囲まれた、あー終わった……またも俺の人生が終わった……。
『…………?』
……ん?
『……ア……アア……アウ?』
……あれ、襲ってこない?
『…………』
『……アウ……アア……』
スケルトンとゾンビ達が去っていった。
なんでだろう、普通なら群がって襲ってくるのに……もしかしてスケルトンになってしまった俺をモンスター、つまり同族と思って行ってしまったのか? そうだとするとこの体になったおかげで助かった事になるが……実に複雑な気分だ。
だがものは考えようだ。この姿なら襲われる事はない、それなら出口に向かうのも楽になる。
『だとすれば、どっちに向かうか……だな』
右の方から風が流れてきてる、右が入り口なんだろうか……。
んーあれこれ考えてても仕方ないし間違ってたら戻っていけばいいだけだ、右に進むとしよう。