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会合場の弐


 まず先に、信玄公がビビりながら武将に応戦を指示する。

 驚くべきはそれに反応する武田勢の動きじゃ。

 それぞれ三原なんじゃないかってぐらいの速度で武威を放出しやがった。


 こやつら、やはり法威で武威を操っておる。

 でも三原のように洗練された武力の気配は感じない。ならば今のわしでもなんとか応戦できよう。



 とはいえわしが相手をするのは武田勢ではない。

 華殿じゃ。


 華殿と武田勢の間に武威の衝突が起き、それでも華殿独りの武威が武田勢を押し始める。

 それを武威センサーで確認しながらわしは(あっ、華殿の武威って武田勢の精鋭が二十数人がかりでかかっても負けないレベルなんじゃな!)とか思って……いる場合じゃない!


「ほっ!」


 わしは短く声を発し、スタッドレス武威を用いながら両者の間に割って入る。

 まずは武田勢に向かって掌を掲げ、『手出し無用』の意を伝えた。

 その後、唸り始めた華殿に向かってすぐさま話しかける。


「華ちゃん! 落ち着いて!」


 そう叫びながらも、わしも華殿を抑え込むための臨戦態勢を整えた。

 ちなみに対華殿用の極意は短期決戦じゃ。

 武威と法威の扱いに長けたわしが、ほんの一瞬だけその放出量を増大。

 それで神の速度ともいえる飛び膝蹴りを放つ。この際、三原の飛び膝蹴りを参考にした。


 しかし……それは華殿が簡単に回避しやがった。

 いや、華殿の戦闘力を考えれば当然なんだけどな。


「くそ!」


 わしが悔しさを口に出し、と同時に三原と頼光殿が動き出す。

 さらには吉継がわしのサポートに入る。部屋の入り口から綱殿たちも乱入し、全員で華殿を取り囲んだ。

 これで……これでなんとか華殿を抑え込まないと。


 でもじゃ。


「へぇー……みんなして私の邪魔するの? できるのかなァ? ふふっ」


 冷や汗を隠せないわしらに対し、華殿が氷のような微笑を浮かべてそう言い放った。

 マジじゃ。マジで華殿は悪の大魔王みたいじゃ。

 うぅー……怖いぃー……!


「華ちゃん! もうやめて! 落ち着いて!」


 わしがそう叫んでいる間にも三原と頼光殿が超速で華殿に接近する。

 三原は跳びながらの回し蹴り。その間にも頼光殿は華殿の延髄に手刀を企てる。

 しかし華殿は三原の蹴りを無難にガードし、頼光殿の一撃もひょいっと軽くよけやがった。


「おぉ!」


 そのすさまじい防御能力にジャッカル殿たちが驚きの声を上げ――いや、喜んでおる場合でもないんじゃ!


「お前たちもこい!」


 頼光殿が部下に短く下知を出し、綱殿たちも参戦へ。

 とんでもない猛攻が始まり、しかしながら華殿は頼光四天王を1人、また1人と戦闘不能に陥れる。


「ふふッ! わっしょい!」


 くそ! 華殿がバトルを楽しみ始めておる!

 これ、ちょっとやそっとの攻防じゃ満足できないパターンじゃ。


「ど、どうする、三成よ?」


 どうするもこうするもあるかぁ!?

 綱殿たちが倒れ始めておる現状、今さらなる戦力で一気加勢に攻め立てんと勝機はないんじゃ!


「我々も混ざる! 覚悟はいいか? 吉継よ!」

「おうよ!」

「ジャッカル君たちも準備はいい?」

「オッケー! みんないっくよー!」


 そんでこっからはわしと吉継、ジャッカル殿たち冥界四天王に加え、あかねっち殿とよみよみ殿を加えた戦力で華殿に襲い掛かる。

 もうわけが分からん状況じゃが、わしがその破壊空間内をスタッドレス武威でうろちょろしておると、あかねっち殿が好プレーを見せた。



「は、華ちゃん! お、落ち着きなさい! でないと……」



「華ちゃんの好きな人、この場でバラすからねェ!」



 おっしゃ! ナイスプレーじゃ!

 華殿であってもその内に秘めたるは思春期のおなご。

 そういう駆け引きならいらだち狂う華殿の心に届こうぞ!


「え? あっ、いや……」


 あかねっち殿の口撃は予想以上に効いたらしく、ほんの一瞬だけ華殿の動きが止まる。

 その瞬間を三原が見逃すはずはない。

 いや、三原だけでなく頼光殿やわし、そして吉継あたりもその隙をつこうと試みた。


 結果その4人で華殿の四肢をがんじがらめに固めることに成功し、一瞬遅れてジャッカル殿たちがそれに加わる。

 全員で華殿を押さえつけ、しかしながら華殿も諦めん。


「ぐぬぬぅ……」


 いや、“ぐぬぬ”って……。

 まぁよい。さて、説得じゃ。


「華ちゃん! 落ち着いて!」

「落ち着いているよ!」

「いや、落ち着いてないから! いつもの華ちゃんじゃないから! お願い! 武威を収めて!」

「だってぇ……! あいつら殺っちゃえば、あとは光君の思い通りになるんでしょ?」

「殺っちゃダメ! あのおじさんたち、これから仲間になるんだから! そうなるように僕が説得するから! だからダメ!」


 ちなみにこんなやり取りをわしらがしているその背後では、武田勢がめっちゃビビっておる。あの名高い24将が揃いも揃ってビクビクしておるんじゃ。

 でもここで唯一、先程までびくついていたはずの信玄殿が口を開いた。


「ふっふっふ。いいものを見せてもらった。石田三成。貴様の想いも聞き届けた」


 さっきまでと気配が全然違う。こやつ、キャラを偽っておったのか?


 くそ、じゃあ作戦を変更して……いや、大丈夫じゃな。


 予想だにしていなかったタイミングで、これまた予想だにしていなかった信玄公のカモフラージュがはがされる。

 本来ならわしの立場がさらに苦しいものになろうこの状況であったが、自ら暴かれた信玄公の本性はわしの希望を大きく上回る一言を聞かせてくれた。


「貴様の話に乗ってやろう」


 信玄公からの待ちに待った一言。

 この一言で、華殿が暴走を止める。



 その後、会議は順調に進み、2時間を過ぎあたりで会議は終了した。

 それぞれの勢力が順番に部屋を後にする。

 最後に信長様の御一行を見送り、わしは深く息を吐きながら椅子に座り込んだ。


「ふーう」


 心身刻まれる神経戦だったわ。信長様と信玄公にはバレていたっぽいけどな。

 何はともあれ、華殿? “ご苦労さん”。


「華ちゃん? いい演技だったよ!」


 押してダメなら引いてみろ。

 ――というほど単純なものじゃないけど、華殿の武威をただの威嚇に用いるだけではなく、今回はその応用編じゃ。

 華殿だけではなく、わしを含む他のわっぱも侮れないだけの武力を持っているということを武田勢に見せつけるためのな。

 うっひっひ。上手くいったわ!


「そうでしょそうでしょ。うふふ。私ってばオスカー女優になれるかもね!」

「それはないけど……」


 ゴン。


 結局、最後に余計な一言をつぶやいてしまったわしは、華殿から痛ーい1発をくろうてしまったけど、そんな感じで甲相駿三国同盟は無事に締結された。




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