次の日、わしは山形県の米沢市に移動していた。
移動しながら各地の勢力に指示を出し、夜10時を回る今現在敵の防衛線を沿うような包囲線を築きあげたところじゃ。
その包囲線たるや福島から新潟、そして山形、秋田へと連なる大規模なものとなる。
これから敵と本格的な戦闘行為を行い、その包囲線を徐々に狭めていく予定じゃ。
「ふぁーあぁ……じゃあ、会津大隊は50キロ前進。途中、第2小隊が敵と遭遇するじゃろうから、第1・第3小隊から半分助勢させ、戦いが終わったらまたそれぞれの小隊に戻るように……」
「ははっ」
「承知!」
三原の車の中、またしてもナビになった気分が否めないのは最近のわしの運命(さだめ)だから仕方ないとして、今日の昼間は睡眠時間を削って移動に時間を割いたから極めて眠い。
まぁ、運転役を強いられた三原が最も眠そうで、わしらわっぱ衆はその車の中で結構寝たんだがな。
だけど移動中の車内じゃ十分な安眠を得られたとは言い難いし、どうも体の疲れがとれておらん。
とはいえ今回の戦いは広範囲すぎて、わしの武威センサーは戦場の全てを網羅しておらん。
そんな武威センサーの届かぬ場所への指示出しも必要となるため、細心の注意を払わねばならんのじゃ。
「浜通り方面は20キロ進軍じゃ。そちらは敵の防御が薄いゆえ、敵との交戦はないじゃろう。
とはいえ油断するな。道路のどこに爆弾の類が仕組まれておるか分からん。いつでも車から脱出できるように武威を発動しておけ」
「御意!」
「了解!」
こんな感じで各地方の部隊に指示を出し……うーん。今日は軍の移動だけで一晩を費やしそうじゃな。
ならどうするか。
もう少し進軍の速度を遅めて、味方の兵にも休みを与えるか。
またはこういう時こそ一気に進軍し、明日1日を戦いのみに専念させるか。
いかんせん武威同士の戦いによる疲労もそうだけど、移動による疲れというのも考慮せねばならんのじゃ。
「三成よ。もう少し進軍の速度を上げよ。我々以外は昨夜ほとんど戦っておらん。敵の初期配置が分かっている今だからこそ、今宵はそこにどんどん奇襲をかけて、激しい戦をすべきぞ」
まぁ、吉継がいる分わしの負担も少なくなるんだけどな。
たまに勇殿と入れ替わってこういう助言をくれるし、勇殿もノートパソコンのモニターをにらみ続けるわしの肩もみなどしてくれる。
さすれば今宵は2人のサポートに答える意味でも気合いの1つも入れ直し、一気に軍を進めるか。
「そうじゃな。ならば吉継の意に従おう」
ちなみに今は宮城の仙台市に戦力を集めておる伊達と最上の駆逐を意図して軍を動かせておる。
この戦いを引き起こした大戦犯の義経は奥州藤原氏とともに平泉におるらしいし、ならば先に潰すべきは仙台の敵兵じゃ。
昨夜わしらが坂田殿と碓井殿を助けておる間に、敵もこちらの侵入を防ぐための破壊行為をさらに激化。移動に使えそうな国道も絞られ、そこを通る味方の兵の危険も増しておるが、それを考慮しつつこちらも軍を細かく移動。大小様々な戦闘を交えつつ包囲網を狭める。
そして最終的にはその包囲網を途中から2つに分離。こちらの戦力を仙台と平泉に分け、各個撃破する。という予定じゃ。
山形市内のコンビニさんの駐車場にて三原の車と頼光殿の車を2台並列に停め、このための指示をあれやこれやと出しておると、あかねっち殿が突如話しかけてきた。
「どう? 上手くいってる?」
ちなみにここ数日におよぶ昼夜逆転の生活のせいで、あかねっち殿を始めとする幼馴染メンバーも今はまだ眠気の類を見せておらん。
なのでわしはこのタイミングを狙い、あかねっち殿に色々と聞いてみることにした。
「うん。順調順調」
「そう。それはよかったね」
「そだね。ところでさ……なんで黙っていたの?」
「なにを?」
「あかねっちとよみよみが転生者だってこと。いや、黙っているのが普通だけど、僕の普段の素振りを見ていれば、あかねっちなら僕も転生者だって気付いたはずだよね? だったらあかねっちも教えてくれたってよかったじゃん」
「うん。なんとなく気付いていたけど……テラ先生に“黙ってなさい”って言われたから隠してた……それがどうしたの?」
ちっくしょう、あのばばぁ! またしても寺川殿に騙されていたというのか!?
ふーう。ふーう。
いや。落ち着け、わし。
たとえ転生者同士であっても、自身の素性は隠すのが転生者の基本的なルール。
――だったはずじゃ。
今となってはそれすらもどうでもよくなってきたけど、あかねっち殿はそのルールを健気に守っただけなんじゃ。
さすれば、他の話題など……。
「輪生寺での武威と法威の訓練は終わったんでしょ?」
「うん」
「普段、武威と法威の訓練とかどこでしてるの?」
「よみよみの道場借りたり、うちの道場に忍び込んだりして、2人で頑張ってた」
ふーん。結構真面目に訓練してるっぽいな。
昨夜の戦いでもいい動きをしておったし、この2人を戦力として考えても問題ないのかもしれん。
「僕の記憶……石田三成と出会った記憶はないよね?」
「うん。当たり前でしょ? それより私も聞いていい?」
「ん? いいけど……なに?」
「光君は前世の記憶を全部持ってるの?」
「うん。そうだよ。ちょっと特殊なパターンなんだよね。でも勇君もそうだよ」
「ふーん。それって辛くない?」
いや、むしろ毎秒ちょっとずつ記憶がよみがえるあかねっち殿たちの方がしんどいだろ。
まぁ、転生者のほとんどがそういう状況に苦心しておるのだろうから、あかねっち殿からすればわしらが異端の側で、さも苦労しているように見えるのじゃろう。
でも究極は勇殿のパターンじゃな。吉継の転生者だからこそ勇殿は平常心を維持出来ておるとも考えられるが、あんな脳内システムわしだったらパニック起こす自信あるわ。
「うーん。意外と楽だよ」
「じゃあ、しばらくは光君がみんなのリーダーね」
そう言って、ここで突如にっこりと笑うあかねっち殿。
それにしてもみんなとは……?
すでにわしは対義経勢力のリーダーみたいなポジションにおるけど……いや、表向きのリーダーは頼光殿だけどさ。
じゃああかねっち殿がいう“みんな”とは……わしら幼馴染チームのことを言っておるのか?
あいかわらず思考が活発じゃな。
でもあかねっち殿は今“しばらく”と言いおった。
学級委員長を歴任するあかねっち殿の言うことじゃ。
それはつまりいずれリーダーが変わるということで、それをあかねっち殿は狙っておるのじゃろう。
ふっ。この時代には珍しいほど強いリーダーシップ魂を持ったわっぱじゃ。
でもそれこそがあかねっち殿。兼続の面影が徐々に強くなっておる。
まっ、わしらの中でリーダーを譲るつもりはないけどな!
リーダーを名乗りたいなら、せめて学力ぐらい平均値にしろよ。
一軒家城の近くのスーパーであかねっち殿親子とたまたま会った時に、あかねっち殿の母上からマジなトーンで学習相談されるわしの身にもなれ。
「ふーん。好きにすれば」
しかしわしは肯定もせずに否定もせず。
我々のグループにはわしのほかにも吉継がおるし、神の化身ともいえる武威を持つ華殿だっておる。
誰がリーダーになっても構わないし、むしろそんな上下関係はこの時代には無用の長物じゃ。
それぞれがそれぞれの長所を生かし、集団として上手く機能する。
そういうシステムにした方がいいのだろうし、これだけのメンツが揃うとなるとなおさらそういう形態になりやすくなる。
そしてなによりあの戦国の世を勝ち抜いた家康の転生者が、少し幼い立場からわしらの背を追っておる。
家康たる康高に対してリーダーシップ争いなど仕掛けても、勝てる気は……するな。
なんでじゃろう。権力争いでは康高に負ける気がしないんだけど……まっ、いっか。
おっと。郡山で戦闘開始じゃ。
そっちに意識を集中しようぞ。
「あかねっち? この地図見て。ここで戦いが始まったから、僕ちょっとそっちに集中するね」
「あ、うん。わかった。邪魔してごめんね。私は……華ちゃんとお話ししてくる。よみよみも……ねぇ、よみよみ起こしていいかなぁ?」
ふふっ。次はさっそく華殿に調査の手を伸ばすというわけか。
まぁ、急ごしらえの幼馴染チームだけあって今は少しでもお互いの戦闘スタイルを話し合い、そして理解し合うのが重要じゃ。
そういうことをそつなくこなそうとするあかねっち殿はやはり兼続の転生者じゃな。
「いいんじゃない? よみよみ、今朝一番先に寝たから……もう10時間ぐらい寝てるでしょ? そろそろ起こしてあげないと」
「そだね。じゃあまた。がんばってね」
「うん。ありがと」
さて、実のところあかねっち殿と喋っておる間に敵味方の衝突が各地で起き、戦いが激化しておるのじゃ。
敵も防衛戦を構築し、それを基準にこちらの進軍を阻止しようとしておる。
ではそろそろわしの本領発揮。
この石田三成をナメるなよ。そのさらに先を行ってやろうぞ。
味方には徐々に進軍するように言っておきながら、わしらは一気に仙台市内へと乗り込む。
わしら少数精鋭による電撃進軍、かく乱作戦じゃ!
「三原よ?」
「ん?」
無線機や携帯電話で流れ込む味方の戦況報告により、機が熟したと認識したわしは車の運転席に座っておった三原に声をかける。
「わしと三原、そして頼光殿の3人で仙台市街地のど真ん中に潜入。内側から伊達、最上の合同軍をかく乱してやろうぞ」
「ほう。それは面白い」
もちろん三原は快諾じゃ。
さらには隣の車に待機しておった頼光殿に声をかけてみると、頼光殿もわしの案を快諾してくれた。
また、坂田殿と碓井殿の疲労が回復し次第、綱殿、卜部殿とともに頼光四天王の出撃も指示しておく。
そしてわしらは頼光殿の車で仙台を目指す。
日が昇る頃に仙台市内に到着し、いざ撹乱作戦開始じゃ!!
と意気込んでおったら、寺川殿から着信があった。
「おにーぢゃぁーーーーん!!!!」
なんで康高が?
「ちょ……康高君、電話返しなさい! ほら!」
「いやだぁーー! おにぃぢゃーーん! どごにいるのぉーー!」
「すぐ近くにいるから! ほら、先生に電話貸しなさいね」
「うーーーぅ、うん……はい……」
なぜか電話の向こうで携帯電話の取り合いが行われ、その後寺川殿が電話に出た。
いや、そうじゃない。そんなことより“近くにいる”とは?
「ちょっと待って。地図出すわ。どこ?」
「えぇーとぉ……仙台駅の北側じゃ。でもなんで寺川殿が仙台に?」
「分かったわ。そこで待ってて」
「ん? 康高を連れてくるのか? 危険じゃ。こちらから迎えに行こうか?」
「ふふふっ! 大切な弟だもんね。でも大丈夫。心強い援軍も一緒だから」
「援軍?」
援軍とは?
いや、もうめぼしい援軍はすべて出揃っておるんだけど。
京都陰陽師からの援軍か?
もしそうならば三原・寺川殿クラスのてだれが出てくるということか?
それはそれで嬉しいことじゃが、京都陰陽師が転生者社会の争乱に介入するというのか?
それは陰陽師勢力の立場的に難しいじゃろ。
といろいろと考えてみたけど、結果的にそんなことに悩んでおった自分をぶん殴りたい気分じゃ。
30分ほどして寺川殿と康高が姿を現したんだけどさ。
「やっほー!」
「おっはよー!」
「うぇーい!」
「おっひさー!」
一緒に、冥界四天王も登場したんじゃ。