ちゅどーん!
対地ミサイルが着弾したかような音と、山の形を少しばかり変えてしまうほどの威力を込めた華殿の蹴りを合図に、わしらの戦いが開始された。
でも敵はそんな華殿の攻撃を全員もれなく回避じゃ。
敵を分散させることには成功したけど、全員が華殿の攻撃を回避するなどやはり一筋縄ではいかんようじゃな。
さすればこちらも相応の陣形で行こうぞ。
「総員、想定通りパターンAの陣形じゃ!」
わしの掛け声に反応し、それぞれが動き出す。
まずはわしを含めた幼馴染チーム。これは勇殿、華殿、あかねっち殿、よみよみ殿で構成され、坂田殿と碓井殿を守る役目じゃ。
そして頼光殿チーム。卜部殿、綱殿という屈強な人材で構成され、主に敵の数を減らす役目を担うチームじゃ。
んで最後はもちろん三原。単独で動き、敵のリーダー格をつぶす役目となる。
ちなみに敵はどうやら忍びの集団らしい。
忍びというか、この気配は……何となくだけど暗殺集団といった感じじゃ。
上下つなぎの黒い装束。それは見た目忍びっぽいのだけれど、武威の放出が騒がしいあたりがわしにそう思わせるに十分な理由じゃ。
とはいえ、こっちにも暗殺に手慣れたものはおる。
三原じゃ。
じゃあ、やっぱりこちらの主戦力は三原ということで。
「三原ァ! そちらの奥におる長髪の男! あやつの武威が一番強いし、敵陣形におけるやつの位置的にもやつが頭っぽい! あやつを頼む!」
「ん? あぁ、あの男か。わかった」
いつものように三原が冷静な口調で答え、同時にその会話を聞いておった頼光殿たちも動き出す。
「では、私たちはそのサポートを……行くぞ、綱! 季武!」
「させるか……!」
敵陣形の奥に潜むリーダー格のところまで三原が突撃できるよう、頼光殿がすぐさま動き出す。
でもその会話は敵にも聞こえていたので、敵からも短い一言とその発言内容に沿う妨害行動がみられた。
頼光殿たちは3人、それに応戦する敵兵は6~7。しかし、数の多寡で怖気づくような頼光殿たちではない。
まずパワータイプの綱殿が先頭を受け持ち、強力な一撃を敵に放つ。
それで死す者もおるが、綱殿の攻撃を回避・防御しきった敵には、卜部殿がトリッキーな動きでその追撃へと移る。
そして頼光殿は綱殿や卜部殿に応戦しておる敵の背後に音もなく忍び寄り、背後からこっそりとどめをさす。
このような連携を組む頼光殿たち――妖怪退治の生きる伝説を相手に、敵の数は徐々に減っていった。
んでわしらの戦いはというと、少し複雑じゃ。
「はぁはぁ……救援を助力してくださり、誠に感謝いたします」
「本当にありがとうございます……はぁはぁ……げほっ……九死に一生を得た気分です」
疲労困憊といった感じでそう感謝を述べる坂田殿と碓井殿を守る形でわしらは周囲へ展開。
ちなみに坂田殿はモヤシ体型に坊主頭の出所間近知能犯系の外見で、碓井殿は巨乳(バカ)の天然偽り系っぽいおなごじゃ。
わしとしては綱殿以上にパワーのありそうな伝説を持つ坂田殿がこのような体格でどうやってそのパワーを発揮するのか、実際にその戦いを見てみたい気もする。
でも2人とも極限まで疲労しておる故、やはりわしらがこの2人を守るしかあるまい。
「よぉーし! みんなァ! しっかり守るよ!」
「おー!」
わっぱ用の言葉使いでわしが皆に指示を出し、それぞれから幼い掛け声が返ってきた。
声だけ聞いていたらただのわっぱだから、とてもじゃないけどこれから殺し合いをしようという状況とは思えないな。
まぁよい。
わしらが2人の周囲に展開するや否や坂田殿と碓井殿は息を切らしながら膝をつき、挙句は胴体までも地面につけてしまった。
そんな感じで地面に倒れ込んだ坂田殿と碓井殿をあかねっち殿とよみよみ殿、そして勇殿と入れ替わった吉継が三方から囲むように守り、その周りを機動力の高いわしと華殿が縦横無尽に動き回る。
わしらはこういう陣形じゃ。
「華ちゃん? 準備はいい?」
「うん! 野m五家mkてお所ぎじょいあぢおjふぇを威mf家御jふぇお……」
もう日本人の発する50音じゃ表現できないわ。
華殿の声帯は一体どういう動きをしておるんじゃろうな。
でも例によってそんな掛け声を発しながら武威を全開放した華殿の圧力に押され、わしらに向かってきていた敵が少し後退した。
わしはそれを見逃さず、スタッドレス武威の機動力で敵へと接近する。
「とう!」
貧弱なわしの右ストレートが敵の1人に直撃し、それによって敵の態勢が一瞬揺らいだ。
んでそういうチャンスを逃さないのが華殿というわっぱじゃ。
「わっしょーい!」
わけのわからん掛け声とともに華殿の回し蹴りが敵を襲う。
これにて早速1人撃退じゃ。
んでそんな華殿にはもちろん、敵の反撃が襲いかかる。
今度は一度に3人。それぞれ長短様々な刃物を華殿に向けてきた。
そして発揮されるのが、日頃から三原を相手に鍛錬しておったわしらの連携術な。
「華ちゃん!」
「ほい」
回し蹴りのために宙に浮いていた華殿の体の真下に、地面を這い回っていたわしが即座に入り込む。
んでわしは右足を天高く上げ、華殿がその足を土台に軽く跳躍。体の位置をずらすことで、敵の刃をかいくぐった。
「えい!」
そしてさらなる連携じゃ。
敵の注意が華殿に向いていた瞬間を狙い、坂田殿と碓井殿の周囲に待機していたあかねっち殿が突発的に前に出て、わしらの援護に来た。
あかねっち殿の長い日本刀が円を描き、敵の背中に襲いかかる。
この攻撃で2人目の敵に致命傷を負わせ、と同時にわしと華殿も残りの2人に襲いかかる。
どっごーん!
華殿は破壊的な効果音を発しながらの蹴り。これにより敵の体は残酷にも粉砕された。
わしはというと地面をねずみ花火のようにぎゅるぎゅると周りながら狙いを定めた敵に接近し、足首、膝、股関節という具合に下から上へと敵の関節部を攻撃する。
「ぐっ」
あっ、間違った。
金属バットで股関節を狙ったつもりが、アッパースイング気味になっちゃって――男の大切な部分を……まぁよい! どの道こやつらはここで死ぬ運命だからな!
「えい!」
そして最後は股間を抑えながらうずくまる敵の頭をフルスイング!
ここら辺はとてもエグイ光景になってしまうけど、武威と法威を駆使したわしのフルスイングによって、敵の頭部はアレしてしまった。
一方で、勇殿たちにも3~4人ほどの刺客が襲いかかっておる。
でもこの防御陣形に不安要素はない。
全盛期の武威を持つ吉継が勇殿の体を見事に操り、坂田殿たちに敵を近づけない。
そしてよみよみ殿もどっしりと構え、敵の攻撃を見事にさばいていた。
そんな2人に呼応するように、わしらを援護するために一度前に出ていたあかねっち殿がすぐに後退し、さらに堅い防御陣形を築く。
広さにしておよそ8畳ほどの空間に幾十もの斬撃が跳び回り、それぞれの武器の風切り音やよみよみ殿の打撃音、そして各々の防御音が交錯。挙句はそれぞれの武器がぶつかり合う瞬間に火花などが飛び散り始める。
視覚、聴覚ともにとても賑やかな空間じゃ。
んでもってわしと華殿もその空間に混ざり、敵味方入り乱れての壮絶な混戦が繰り広げられた。
――なんちゃって。
わしと華殿にかかれば、この程度の敵などおそるるに足らん。
敵は坂田殿と碓井殿を狙い、でもそれを吉継たちに邪魔される。
それだけでも大変な戦いなのにそんな時に背後からわしらに襲われたら、三原クラスの強さを持っておらんと任務達成はおろか自身の身すらまともに守れんのじゃ。
華殿の破壊的な蹴りとわしのフルスイングによって1人、また1人と敵が絶命し、およそ2分の乱戦の末、わしらは勝利を勝ち取った。
と思って即座に三原たちの救援に向かおうと思ったんだけどさ。
「まぁ待て。ここは光成たちの戦いっぷりを見守ろう」
「はっ、義仲殿がそういうのであれば……」
わしらの戦いが終わる10秒ぐらい前じゃ。すでに敵を打ち倒した三原が同じく敵を打ち倒してわしらのサポートに回ろうとしておった頼光殿にそんなことを提案しておったのじゃ!
もちろん頼光殿たちも大した怪我なく無難な勝ちを収めておる。
だけどな! 1つ言わせろ!
どっちかっていうと源氏の中では頼光殿の方がご先祖様にあたるし、たとえ源義仲といえども、化け物退治で有名な頼光殿にはネームバリュー的に勝てないじゃろ!?
なんで三原がタメ口で、頼光殿が敬語やねん!
いや、そんなことはこの際どうでもいい!
現世の年齢的には三原の方が年上だしなぁ!
そうじゃなくておぬしの可愛い可愛い教え子たちが必死に戦っておるのに、悪そうな笑みで「見守ろう」とか言うなや!
だれか死んだらどう責任取るつもりやねん!
いや、誰も死んでおらんけどもぉッ!
そうじゃなくて――そうじゃなくてそこはもう少し過保護になるべきじゃろー!
「ふう、ふう。はぁはぁ。ナメるな三原……。
“見守る”必要すらない。おぬしらは一足先に水筒の中に入っておるコーヒーなど楽しんでおればよいのじゃ!」
息を切らしながらこんな強がり言うわし自身もたいがいだけどなぁ!
「ほう? 結構疲れているように見えるが? とくにお前だけ……くっくっく」
三原がさらに意地悪なことを言ってきたのでわしがさらに反論しようとしたら、ここで坂田殿と碓井殿がむくりと起き上がった。
「はぁはぁ。あなたが石田三成様の生まれ変わりですね。お初にお目にかかります。私、坂田金時と申します。主君頼光公の命で奥州藤原勢力の潜伏・調査任務についており……」
ここでやっと自己紹介じゃ。
坂田殿に続き碓井殿が挨拶をしてきたので、わしは2人に対して自己紹介を済ませ、三原や幼馴染メンバーを紹介していった。
もちろんこの2人には頼光殿経由でわしらの情報が行っていたはずなので、わしや三原、そして吉継を脳内に秘める勇殿や華殿の存在には驚かなかった。
でも昨日今日に突如として現れた新戦力、あかねっち殿とよみよみ殿には驚いた様子を見せておった。
――というか、うん。
この転生者社会、どこにどんなビッグネームが潜んでおるか分かったもんじゃない。
なので島左近と直江兼続の転生者が目の前にいること自体には驚いておらんようじゃ。
それよりはむしろ石田三成たるわしが、そういうメンバーをすでに集めておることの方に驚いておるようじゃな。
でもまぁ、あかねっち殿やよみよみ殿だってこれから成長して前世の記憶が増えれば、かつての友人知人を探し始めるだろうし、そういうつながりで一大勢力を作った集団もこの国には溢れておる。
わしらがこの幼さで集まることが出来たのは、むしろ京都陰陽師の新田殿や鴨川殿、そして寺川殿や虎之助殿のおかげなんじゃ。
まっ、そういう話は後でじっくりすることにして――。
「それより坂田殿? 例のものは?」
「はっ、敵の情報ですね? それならば、このSDカードに敵幹部クラスのメールのやり取りが入っております。部隊編成や戦力の配置をやり取りしたメールが……あと電話も盗聴しておりましたので、その音声データも……」
ほう! 敵上層部の情報のやり取りをそっくりそのまま持ってきたと申すか!
ふっふっふ。それならばその情報から敵の配置図を割り出してやろうではないか。
そういう細かい作業はわしの得意分野じゃ。
「では一旦レストランまで引こうぞ。そこに三原と頼光殿の車があるんじゃ。パソコンもそこだから、三原の車の中でデータを分析しよう」
わしの言に全員が頷き、その後頼光殿が2人をねぎらいつつ、わしらは来た道を戻ることにした。
今度は消耗状態の坂田殿たちを頼光殿たちが守りながら後退し、わしと卜部殿、そして三原と幼馴染連中は一足先にフルスピードで移動する。
3時間ほどの山中移動をこなし、わしらは例のレストランへと到着した。
「うぇっひっひっひ。さてさて、では……!」
持参したノートパソコンを起動させながらわしが怪しい笑みを浮かべ、その視線を卜部殿へと送る。
「はい。では……」
対する卜部殿もIT系の犯罪者っぽい笑みを浮かべながらわしの視線に答えた。
そうじゃ。これからわしらが行う作業は“他人のメールのやりとりを覗く”行為そのもの。
はらはらどきどきせずにはいられないし、そのスリルを楽しむのもわしらIT系武将のたしなみじゃ。
「光君……」
「気持ち悪い……」
「卜部のお兄ちゃんも……」
「変態みたい……」
幼馴染連中からめっちゃ非難されてるけどなぁ!
なんでやねん! 仕方ないやんけ!
これはわしらが戦いを有利に進めるためにどうしても必要な作業なんじゃあ!
「あ、う……ごめん」
ここで反論できない自分がいと悔しい!
でもそんなことに気落ちしておる場合ではない。
わしと卜部殿はめげずにノートパソコンを起動し、データの分析にかかった。
そしておよそ2時間後。
頼光殿たちが朝日とともに姿を現す頃には、東北地方を示す地図に敵戦力の分布を記入し終えることができた。