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決戦の参


「お初にお目にかかる。それがし、石田三成と申す」

「こちらこそ。私、上杉謙信と申します」

「このたびは多大なるご助力、感謝につきませぬ」

「いえいえ。あの坂上田村麻呂が殺されたとなればこの国の一大事。それにしても前世では激しい戦いを繰り返した織田やその後継である豊臣の軍勢と手を組むとは……不思議なめぐり合わせですね」


 なんて挨拶をすましているけどな。


 ――おい! ちょっと待て!

 謙信公、女なんだけど!!

 目の前におるおなご、小奇麗なスカートを履いた30代後半のおなごなんだけどォ!

 まじか? まじであの都市伝説は事実だったのか?


「ふっ。それこそがこの時代のうねり。これからはお互い手を取り合い、この時代を戦い抜きましょうぞ」


 場所は新潟県の最北部。

 山形との県境にほど近い場所にあるドライブイン的なレストランで、わしらは対面を果たした。

 目の前にはなかなかボリューミィーなカツカレー殿が置かれ、わしの食欲をそそっておる。

 全国有数の米どころだけあってこんななんでもないレストランですら新潟産のコシヒカリが使われており、米の一粒一粒が輝き立っておるようじゃ。

 そんなご飯をカレーさんが優しく覆い、挙句に肉汁たっぷりなトンカツちゃんがおすまし顔で座っておるなど贅沢の極みに他ならん。


 だけど今のわしにとってはそんな食レポをする余裕もなく、ファンだった上杉の謙信公に会っていることと、その謙信公がおなごであることに驚きを感じるばかりじゃ。


「それにしても、まさか謙信公が女性だったとは……あれ? じゃあ前世も?」

「えぇ。女でした」

「まさか……あんな噂がまさか本当だったなんて……」

「上手くごまかしきったつもりでしたが、現代ではまことしやかに噂されていますね。いつの時代も鋭い人間はいるものです」

「いやはや、まったくでございます」


 そんで2人揃って笑い声など。


 30代後半の外見からは予想も出来ない謙信公の若い笑い声が10歳のわしが放つわっぱの笑い声とからまり、とても和やかな雰囲気が作り上げられる。

 つーか現世での年齢は寺川殿より少し上ぐらいか?

 まぁ、それでも常勝無敗を誇ったあの上杉軍を作り上げた謙信公の生まれ変わりじゃ。

 虎之助殿から入ってくる情報においても、現世の謙信公はなかなかのキレ者のようじゃし、今回の件でも即座に事情を理解し、わしらの力になってくれよう。


 実際のところ坂井殿と碓井殿の身が心配なので、今すぐにでもレストランの後ろの山中に飛び込みたいところなんだけどな。

 でも、そうもいかんのが武将同士の初顔会わせというもの。


 なのでわしは謙信公との会話をはずませつつ、と見せかけてにわかに本題へと入った。


「さて……この戦いにおける上杉勢の役割についてでございますが……」


 ふぁはっはっは! ちんたら世間話をするなど性に合わんのじゃ!

 あと、わし自身も謙信公の頭のキレ具合を確認しとかんとな!

 目の前にいるこの人物は果たして本当にあの軍神の魂を受け継いでおるのか!?


 と思ったけど、低い声でそう言ったわしに対し謙信公も即座に声色を合わせてきた。


「えぇ。景虎から報告を受けております。

 今現在、ここを中心に山形県の沿岸部と福島の北西部に軍を配置しております。配置図を見せましょうか?」


 そう言って部下に指示を出してテーブルの上に地図を広げる謙信公。

 わしと謙信公は4人掛けのボックス席に座っておったのだけど、その地図を見るため他のテーブルの席に座っていた三原や頼光殿がこちらに移動してきた。


 そしてわしら救出部隊総出で上杉軍の配置が記された地図を眺める。


「……」


 うむ。やはりな。

 なにが“やはり”なのかというと、謙信公の手際の良さじゃ。

 この頭のキレ具合、もしかすると……いや当然というべきかもしれんが信長様に負けずとも劣らないレベルじゃ。

 特、突然話題を変えたわしの動きに間髪いれずについてくるあたりが、マジ感服じゃ。

 そんなちっこい罠を張ったわしが言うのもなんだけど、いやはや、そんなしょうもないことしてごめんなさい。


 そしてそんな謙信公が率いる上杉軍の動きも緻密で俊敏。

 配置図を示しながらあれこれと説明する謙信公の言を聞いておると、高田の上杉と会津・庄内地方の上杉が上手く連携をとりながら各地に分散したのがよくわかる。


「というわけで今現在我々は福島県の北西地方から新潟県の北、そして山形県沿岸部、秋田県沿岸部にかけて部隊を展開中です」


 むう。これならばわしが展開させた部隊と合わせて、仙台、平泉を大きく囲む円弧の包囲網が出来ようぞ。


「でもまさか秋田県にまで展開済みとは……さすがですじゃ」

「そちら方面の動きは景勝を褒めてやってくださいな。あの子、私に会津を預けて、自分の軍はすぐさま秋田に移動させたのです」

「そうですか」

「あなたは前世で景勝に会ったことがありましょう? あの子はおそらくその繋がりを今も大切に思っているのです。だからこそ、景虎からの連絡にも疑うことなく動きを見せた」


 つーかわしと兼続、そして景勝殿は反家康勢力として関ヶ原の合戦前に連携してたしな。

 直江兼続という男の転生者たるあかねっち殿が今わしの斜め後ろの席で寝ておるのも含め、ここら辺の繋がりは前世でも強かったのじゃ。


「はぁ。景勝殿にも早くお会いしたいものですじゃ。あかねっち……兼続の転生者も会わせてあげないと。

 というかそろそろ兼続の転生者を起こしましょうぞ? 謙信殿に挨拶などさせないと……」

「いえ、寝かせておいてあげましょう。それに、そちらの子はまだ幼い。ですから前世の記憶でも私に仕えた記憶はないでしょうから」


 ちなみにわし以外の幼馴染メンバー――華殿、よみよみ殿、そして吉継たる勇殿は長時間の移動のせいで疲労がたまったらしく、車の中で爆睡しておる。

 唯一、謙信公にゆかりのあるあかねっち殿はせめて挨拶でもさせようと思ったんだけど、あかねっちも爆睡じゃ。

 無理矢理車から運び出して謙信公の前に連れて来たものの、起きる気配が全くないんじゃ。


 でも謙信公も母親のような優しい笑みでそんなあかねっち殿の寝顔を見守っているし、現世におけるこの両者の再会はこれでいいのかもしれん。


「は、はぁ……」


 ならば挨拶がてらの話題も尽きたし、そろそろこのカツカレー殿に優しくスプーンを……


 とわしがテーブルの上に置かれた料理に手をつけようとしたら、


「ところで越後の農家の件、聞いております。まさか鎌倉源氏と業務を提携する話などと。

 まったく予想もしていなかったのですが……本当にそんなことが可能なのでしょうか?」

「ん? あれ? もしかして問題でも?」

「いえ、米消費量の低下と農業従事者の高齢化。諸々の問題がある中で願ってもない提案です。その件、この戦いが終わった後にでも詳しく詰めましょう」

「えぇ、もちろんですとも」


 ほう。わしを前にしても、いまだ鎌倉源氏との経済連携を信じ切れないと申すか?

 それはつまり米生産農家の新規顧客の件を持ち出さなかったとしても、本当に『義』のみでわしらに助力するつもりだったと……?


 騙し騙されが日常のわしら戦国武将からすれば逆に疑いたくなるような発言じゃな。

 でもそれこそが越後に名高い義の将。謙信公、めっちゃかっこいいぞ!


「ではそれがしらはこれから仲間を救出しに行きますゆえ、早速腹ごしらえなどよろしいですか?」

「えぇ。もちろん。その料理、米は地元産のコシヒカリを使っておりまして、カツも地元で有名な……」

「ほうほう。もぐもぐ……うーむ。美味い……」



 その後わしはものすごい勢いでカツカレーを平らげ、いざ山中へと入ることにした。


 このレストラン自体が山中にあるのじゃが、レストランの裏側はすでに闇夜。時間は午後の9時半といったところなので当然のごとく真っ暗闇じゃ。


 もちろん怖い。


 けど京の輪生寺にて行われた肝試しの時に比べたら、若干怖さが和らいでおる気もする。

 みんな一緒だし、状況が状況だけに怖がっておる場合じゃないということじゃな。

 流石は我が心力といったところか。


「では各々、準備はいいか?」


 そもそもこれから行われるのは過酷な夜間行軍じゃ。

 どこで坂井殿たちを見つけられるか分かったもんじゃないし、木々生い茂る山中を数十キロ移動するぐらいの覚悟は持っておいた方がいいじゃろう。

 というわけでそのための登山の準備も十分じゃ。それぞれ武器も持ったし、なにも恐れることはない。


「進軍、開始ーーッ!」

「光君、うるさいよ!」

「こ、こっちは寝……寝起きなん、だから……!」

「そんな叫ばなくったって聞こえるってば! あっ、もしかして……怖いの?」


 ここでなぜか寝起きで機嫌が悪い勇殿、そしてよみよみ殿から厳しい返しを受け、挙句は華殿が余計な察しの良さを垣間見せてきた。


 なのでわしは真っ赤になった顔を暗闇に隠しながら部隊の先頭を切って山中へと……やっぱりちょっと怖いので先頭を三原にお願いした。

 同時にレストランの周囲を護衛していた上杉軍の幹部連中も、それぞれの車に乗って各地へと散る。


 んでじゃ。

 ほんの数分走るだけで、まじで真っ暗な山林に周囲を囲まれたわ。


「光成?」

「ん?」

「武威センサーは?」

「もう発動しておる。武威を持ち合わせるような生き物が山中におったならば、即座に捕捉出来ようぞ」


 わしは走りながら自信満々に答え、前を走る三原からも「ふっ。相変わらず便利だな」という台詞が返ってきた。

 そしてわしらはさらなる激走へと移る。

 移動中武威を持たない野生の動物に何度か遭遇したけど、武威を持ったわしらにとって野生動物ごとき恐るるに足らん。

 わしらに襲い来る夜行性の動物は、華殿に笑顔で蹴り殺された。


 とはいえ山中における移動はなかなか大変じゃ。

 都市部のように四角い建物がきれいに並んでおるといい感じに跳び続けることが出来るんだけど、自然林はそうはいかん。


 なので移動は地面を走りながら。

 一応そんじょそこらの短距離ランナーよりはるかに速い速度で走っておるし、ちょっとした渓谷などは大きくジャンプして跳び越えておるけど、神がかり的な速度で移動できるわけではない。

 まぁ、車並みの速度で走っておきながら、誰一人として息を切らしていないあたりがわしら武威使いの移動なんだけどな。


 そしてそんな感じで移動を続けておると、深夜2時を回ったあたりでわしの武威センサーに反応があった。

 2つの小さな武威。そしてそれを追う大きな武威が13。

 ふっふっふ。見つけたぞ。


「見つけた! 2時の方向におよそ9キロ! 刺客は13! 坂田殿、碓井殿、2人とも大きく疲弊しておる!」


 わしが全員に下知を出すや否や、華殿が即座に動きだす。速度を一段階上げ、わしらをごぼう抜きした。

 三原がそれに続き、頼光殿とスタッドレス武威を駆使したわしが2人を追う。綱殿と卜部殿がさらにその後。最後に機動力の劣る吉継やあかねっち殿、そしてよみよみ殿が最後に連なった。


「わーっしょーーーい!」


 十数秒後、わしらの向かう先から華殿の声と思われる叫び声と、これまた同じく華殿が発生させたと思われる爆発音が聞こえてきた。


 さぁ、戦いじゃ!




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