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決戦の弐


 夕方、わしらは東京に戻り、例の倉庫で各勢力を集めた。


 集まったのは広島に行っておったわしらの他に、寺川殿とわしの一軒家城の周囲に集まっていた関ヶ原勢力。そして綱殿と卜部殿。

 これだけでその数およそ50にも達するけれど、関ヶ原勢力に関しては各勢力の地元に連絡を取り、さらに多くの兵を駆り出すように伝えておる。

 そして後北条から氏直を含めた10数名と、旧坂上田村麻呂勢力のうち関東近辺におった残存兵80。


 ところがそれだけではない。

 なんとわしらが東京に戻るまでの間に寺川殿が信長様に進言し、織田政権から森家と柴田の親父殿、そして丹羽殿を始めとする義経一派掃討部隊が組まれ、その数およそ30がわしらの元に派兵されてきたのじゃ。

 信長様直轄の戦闘部隊である黒母衣衆(くろぼろしゅう)と黄母衣衆(きぼろしゅう)は首都圏の治安維持のためにあちらの指示系統ですでに動いておるようなのでさすがに借りることはできんかったけど、とてつもなく心強い援軍じゃ。


 んでもってさらにさらに。

 わしの予想を大きく裏切る――しかしながら嬉しい援軍もおる。

 頼朝から鎌倉源氏の兵力を借り受けることが出来たのじゃ。

 その数100。

 まぁ、元はといえば頼朝が弟の義経を御し切れなかったからこのような事態になったともいえるのだろうけど、すでに新潟、福島、山形に展開しておる上杉勢と合わせれば、もはやとてつもない数の兵力がわしのもとに集ったといえよう。


 逆にわしらの家族には警視庁経由で内閣から保護命令が出ており、父上や母上、そして康高が信長様配下の精鋭20人態勢で守ってくれることになっておる。

 勇殿の家族や華殿の家族も同様じゃ。

 さすれば諸々の不安はこれで問題ない。


 なら行くべし。なんの気兼ねも持つことなく、ただ戦に打ち込むだけじゃ。


「よく集まってくれた、皆の衆よ」


 しかし一同を前にわしは険しい顔を維持する。

 坂上殿が殺されたというのにへらへらしておる場合じゃないのも理由の1つじゃが、広島から東京に戻ってくる間に寺川殿から悪い連絡も入っておったのじゃ。

 なんでも奥州源氏に潜入していた坂田殿と碓井殿がピンチらしい。

 今現在2人は奥州平泉市を抜け東北の山中を南下しておるとのことじゃが、移動経路が山中であるだけに彼らと落ち合うためにはスマートフォンのGPS機能と携帯電話会社の電波だけでは心もとない。


 ここはわしの武威センサーが必要不可欠じゃな。

 2人に対する追手も相応の手練れだろうし、わしがそやつらを相手にすればスタッドレス武威のさらなる実戦訓練ができるであろう。

 というわけでその救出役をわしが買ってやる予定なんじゃ。


「さて、では今回の戦の戦力配置を伝える。

 でもその前に心に留めてほしい。

 敵は東日本の高速道路や空港の滑走路といった主要な交通機関を破壊しておる。

 しかし国道については手を付けておらん。

 ゆえに我々が利用する交通手段は主に国道となる。

 加え、敵は一度坂上殿を暗殺するために東京まで出てきておきながら、信長様の軍によって東北へと押し込まれておる。

 その時の撤退が迅速過ぎる。

 東京だってその近隣の県にだって、潜む場所はいくらでもあろう。それなのにやつらは簡単に撤退した。

 しかしながら主要な交通手段に手を加え、東北への侵入を阻もうとしておる。

 かといって国道の類には手を付けておらん。

 分かるじゃろ? こんなもん罠と考えてよかろう。そこを通れというておるようなもんじゃ。

 でも今回はそれをあえて受ける。戦力的にはわしらの方が上だからな。

 まぁ、こちらはそれぞれの勢力が寄せ集まった集団だから各勢力の連携が取れにくいとも思うけど、それは相手も同じじゃ。

 だからあえて敵の策を正面から受け止める。その点、理解しておいてほしい」


 わしの言に各々が神妙な面持ちで頷いた。

 うむ。反論する者はいなさそうじゃな。では話を進めようぞ。

 と思ったけど、ここで三原がいやーなツッコミを入れてきおった。


「ある意味、無策ということだな? どうした? 石田三成ともあろう者が、敵の策にわざとはまるとは……何を考えている? それともそれがお前の限界か?」


 なんで一番身近なやつからそんな反論されなきゃあかんねん!

 いや三原の懸念もごもっともだけどぉ!

 そんな反三成派の筆頭みたいなポジションに立たなくてもいいじゃろ!?

 もっと気軽に問うてこいよ!


「うむ」


 しかしそういう反論にさらなる反論を用意しておくのがわしという武将。

 つーか普通に考えてそれぐらい用意しておくのが常識じゃし、敵の策にわざとはまるというのにも裏があるのじゃ。

 なのでわしは短く頷いた後、言を続けた。


「簡易に言って、時間稼ぎじゃ」

「時間稼ぎ? 何のために?」


 と間髪いれずに三原が相槌のごとく言を返す。


 あ、これ、わしの作戦をより深く皆に理解してもらうために、三原がわざわざ質問役を買ってくれたんじゃな。

 三原よ、誤解しちゃってごめんなさい。

 でもまぁ、ここは三原の配慮に甘えておこうぞ。


「今、頼光殿の部下である坂田殿と碓井殿が敵から逃げておる。あっち側の情報を持ったままでじゃ」

「ほう。なるほどな」

「あぁ、その情報が欲しい。それがあればこちらがさらに有利に戦いを進められるからな。

 戦において最も重要なことは情報の多寡。

 それは上様の下にいた織田家臣団の皆々様もよくわかっておるはずじゃ。そうでございましょう?」


 ここでわしは織田勢力の面々に話を振る。

 ある意味わしの上司に当たる織田家臣団のメンバー。信長様から派遣されわしの指示系統に入ったというものの、その立場に納得出来ん者も多かろう。


 というか柴田の親父殿とか丹羽殿とか……わしの元へと派遣されたメンバーがビッグネーム過ぎて、わしとの関係性が微妙なんじゃ。

 唯一、森家の蘭丸殿辺りがにこにこしながらこちらの話を聞いてくれておるけど、柴田の親父殿とかはこの集団の主導権を握ろうとしてもおかしくはない。


 そういう方々がわしの策に対してあーだこーだと文句を言う前に、信長様の名前を出しながらくぎを刺しておく必要があったのじゃ。


「たしかに……」


 案の定、わしが話を振ったら柴田の親父殿が出鼻をくじかれたかのような声で答えてきおった。

 ふっふっふ。やっぱりな。

 でもこの戦、頼光殿のためにも主導権を織田方に渡すわけにはいかんのじゃよ。


「だから先にその情報を手に入れることを優先する。

 同時に東北を縦に走る国道に十分な戦力を配置しておく算段じゃ。

 いざという時には敵との交戦に入るけど深入りはしないこと。これから配置の担当を決めるけど、各々方それだけは心に留めておいてくだされ。

 一方でわしらは県道や市道を通って、敵の防衛戦をくぐり抜ける。頼光殿たちが事前に申し合わせた緊急避難ルートを坂田殿たちが使っておったならば、おそらく山形と新潟の県境あたりで2人を救い出すことができるであろう。

 我々が本格的に攻め始めるのはそれからじゃ。

 ついでにわしらは坂田殿と碓井殿に合流する前に一度上杉に顔を出す。今回の件についてはすでに上杉から協力を得ておるけど、一度ぐらい挨拶しておいた方がよかろう」


 というわけわしと三原、寺川殿、そしてわしの幼馴染勢は1つのチームをなし、坂田・碓井コンビの救出へと向かうことにした。

 その前にこの集団をチーム分けし、それぞれのルートを下知しておかねばな。


「これからおぬしらをチーム分けする。中には1つの勢力をいくつもの集団に分ける必要もあろう。

 しかしそのせいで連携が取れなくなったら元も子もない。

 一度わしの独断で3つの大隊に分け、さらに武威の強い者順に上手くばらけさせながら9つの小隊に分ける。

 その際、人材分けに異論があったら申し出てほしい。

 単純な武威の強さでは測れない味方同士の相性もあろう? そういうコンビネーションを殺してはならんのじゃ。

 ちなみに大隊は主に、茨城・福島浜通り地域を進む組、栃木・福島中通り地域を進む組、栃木・会津地方を進む組となっておる。

 んでさらに細かい国道をなるべく網羅するよう、後で小隊ごとに細かくルートの指示を出す感じじゃ。

 まず関ヶ原勢力と後北条勢力の合従軍。あっ、氏直よ。そっちのパソコンに地図を表示させておいてくれ」


「はっ」


「この大隊は茨城・福島浜通り地域を進んでもらう。主に国道6号から国道4号。そしてその周囲に張り巡らされた2桁台、3桁台の国道を……」


 どうでもいいけど、車のナビになった気分じゃ。

 つい最近似たような感情に襲われたことがあったような気がするけど、なぜじゃろうな。

 まぁよいか。


「途中、原発事故による立ち入り禁止区域があるからそこを迂回するルートを後で教える。

 では次、坂上殿の勢力。これで1つの大隊を成し、栃木から福島県の中通り地方を行ってもらう。

 今回の進撃の中央を担ってもらう。激しい戦いに遭遇する可能性が高いが、覚悟してほしい」


「ははッ!」


 ちなみにこれは坂上殿勢力の面々に対する配慮じゃ。

 敵がどこで待ち受けておるかもわからん状況だけど、今回の戦いはあくまで坂上殿の弔い合戦。さすれば彼らに活躍の場を与えるのが人情というものじゃろう。


 あと、純な人数配分としては坂上殿勢力と信長様勢力を合わせておきたかったけど、以前信長様がわしの一軒家城においでなさった時、城の前で一触即発の雰囲気になったことがあるから別のチームに振り分けておいた。

 んで、それも踏まえた上でお次。


「最後、鎌倉源氏と上様からの助勢軍。人数的にはこの大隊が一番多いけど、後々細かく分かれてもらう。

 まずは栃木から福島会津地方へ抜け、その後山形まで進撃しているであろう上杉と合流しつつ、しかしながら最終的には仙台、平泉の双方に攻め入れるよう奥州を縦に広く分布してもらう。そのための大軍じゃ。織田家臣団の皆さまもそれでよろしいですな?」


「おうよ」


 わしの問いに、柴田の親父殿が即座に答えてくれた。

 意外と乗り気じゃな。以前会った時はわしに対して喧嘩腰だったけど、その喧嘩の相手が確定してご機嫌なのかもしれん。


 まぁ、かつて敵対し合っていた上杉と織田の転生者をあえて合流させることはめっちゃ不安なんだけどな。

 でもわしがよく知っておる関ヶ原勢は連絡や連携が取りやすいからむしろ遠くに置いても大丈夫じゃし、坂上殿の勢力はさっき言った通り、今回の戦の主役を担ってもらわねばなるまい。

 となると必然的に織田家臣団が上杉と合流することになるんじゃ。


 うーむ。やっぱ不安……まいっか!

 わしら救出部隊も途中まで栃木・会津ルートを同行するし、後々謙信公も合流するし。

 織田家臣団の誰かが文句を言い出しても、わしか謙信公が間を取り繕えばいいだけじゃ。

 うん、そういうことにしておこう!


「わしの予想では喜多方か郡山、そして仙台あたりで敵の前線部隊と交戦することになると思う。

 敵と接触したらその際、各々迅速にわしの元に連絡をよこしてほしい。

 もちろん敵との交戦は適度に済ませ、少し後退した後にじゃ。

 決して総力戦には入らぬようよろしく頼む。

 さっきも言った通り、まずは敵の情報を手に入れてから。

 その情報を元にこちらから敵防衛戦の予想地図を作り上げるゆえ、その旨各々心にしっかり刻んでいただきたい」


 その後わしはそれぞれの大隊を細かく小隊分けし、加えて侵攻ルートに関するさらなる指示を出す。

 その頃には各勢力の移動手段となる車も倉庫の外に到着し、続々と列をなし始めた。

 挙句は広島からの移動中に信長様にお願いしておいた件の返信メールがわしの携帯電話に届いたのじゃ。


『自衛隊のヘリコプター、20機確保なり(^^)/~~~』


 信長様から顔文字付きのメールが来たことも驚愕だけど、それについてツッコミのメールを返信する余裕は今はない。

 ただただ感謝の旨のみを信長様に返信し……でも、うっしっし。

 ヘリコプターを確保できたわ。しかも20機もじゃ。


 これでもし敵がわしの予想外な場所に戦力を集中させていたとしても、各地に分散させた自軍を迅速にその場所へと運べよう。

 わし自身ヘリコプターに乗るのも楽しみじゃし、いざという時の輸送手段も完璧じゃ。


 と思ったら――


「じゃあ私は別行動をとるわね。ちょっと用事があるの。いいでしょ? 佐吉?」


 わしによる説明が終わり、皆揃って勇ましい掛け声をしつつ、そんでもってそれぞれ車に乗り込み東北各地へ展開しようとしたところで寺川殿がそう話しかけてきた。


 裏切りか?

 いや、それはない。


 ねね様たる寺川殿がこちらを裏切ったとあらば、むしろわしもそれについていかなきゃいけないからな。

 この状況でそんなことをわしに強いる寺川殿ではない……はずじゃ。

 ということは――? また何かのサプライズを考えておるのじゃろうか?


 この状況で単独行動は危険な……いや、寺川殿はかの陰陽師勢力でも屈指の諜報員じゃという。

 武威と法威を駆使した戦闘能力も高いし、寺川殿の身に危険はなかろう。

 なら放っておこうぞ。


 なんか嫌な予感もするけど……う、うん。寺川殿を信じて……でもこういう時は信じられ……いや、信じようぞ!


「……了解じゃ」


 突然のことにわしが戸惑いながら返事を返すと、寺川殿は怪しい笑みを浮かべながら闇へと消えた。


 いや! その笑顔はやっぱめっちゃ不安なんだけど!


「て、寺川殿!?」

「何してんだ光成? 早く乗れ!」


 しかし寺川殿を追おうとしたわしの手は三原に武威の速度で掴まれ、無理矢理三原の車に放り込まれた。

 そしてわしらは三原の車と頼光殿の車、運転手は三原に頼光殿、そして綱殿や卜部殿という移動陣形で新潟を目指す。

 その後およそ10時間の移動を経て、新潟県の北部に到達し、わしは謙信公と会うこととなった。




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