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前哨戦の漆


「よしいくぞ」


 毛利勢力と長宗我部勢力の兵に多少の移動をするよう下知を出し、わしらは夜の広島の空を跳ぶ。

 屋根から屋根へ。ビルからビルへ。

 停電や感電などが起きぬよう途中の電柱や電線を綺麗に避けながら、わしらは西へと急いだ。


 そんな空中散歩をしばらく楽しんでおると、わしの武威センサーで激しい武威の衝突反応を示しておる山が見えてきた。

 その数およそ500。

 300の反応が3つに分かれ、これらがそれぞれ島津、毛利、長宗我部の兵じゃ。んでその包囲網の一角に突撃しておる200近くの反応が平家のものじゃな。


 うん。武威使いはそれぞれ常人の数百倍の兵力と換算できるし、そう考えるとめっちゃ大軍同士の戦じゃ。

 やばい。わしもテンションあがってきた!

 このままの勢いで平家の陣の後ろに突撃したくなってきたわ!


「どうする? このまま背後から突っ込むか?」


 その時三原が無線機を通して問うてきた。

 しかし、ここでわしは昇天しかけたテンションを無理矢理戻す。


「いや、一度島津の鬼ジジイに会う。あちら側から見た戦況を実際に聞かねばなるまい」

「ん? そんなもん、無線で聞けばいいだろ?」

「ほかにも理由があるんじゃ。わし自身も戦場の空気を直に感じておきたいし、そこでちょっとだけ戦線に出て島津の本陣側にわしらの姿があったと敵に認識させておきたいんじゃ」

「ふっ。また何か考えてるのか?」

「そういうことじゃ」


 そして次のビルディングに向けて大きく跳躍。

 そういえば昔幼稚園へと急ぐわしを三原が運んでくれたことがあったけど、あの時はこういう動きをする三原を感嘆の眼差しとともに見ていたな。

 もうあれから5年たったか。

 時の流れも早いものじゃ。それに今やわしもあの時の三原のような動きが出来るようになったという意味で少し感慨深いな。


 などと言っておる場合じゃない!

 ヤバい! もうダメじゃ!

 あかねっち殿とよみよみ殿の登場のせいで、今日のわし、思考がまとまらん!


 ふーう。ふーう。


 落ち着け、わし。うん、ここはこの戦いの肝要どころ。落ち着くんじゃ。


「よし、一度南へ行くぞ」


 その後わしらは戦場を迂回する形で、島津の陣の後方へと移動する。

 鬼ジジイと軽く挨拶を交わし、わしはあかねっち殿とよみよみ殿を連れて最前線に躍り出た。


 昨日の夜「3人の記憶残しがいる」と敵が勘違いし、その情報が平家側に回っておる可能性があったからな。

 あかねっち殿とよみよみ殿は勇殿と華殿の代わりじゃ。


 んでそんな感じで敵の誤解を維持しつつ、同時にわしは2人の戦闘力を観察した。

 全盛期の武威をそのまま持ち合わせる吉継や武威お化けの華殿よりは劣るものの、わしに比べれば武威は十分。双方武術をたしなんでいるだけあって、身のこなしや武器の操りは見事なものだし、法威もそれなりに操っておる。


 じゃあ、戦力としては十分じゃろう。

 と分析したところでわしは2人に一度戦場から離脱するよう下知し、三原や頼光殿を連れて再度平家の陣の裏側に回ることにした。


「ふーう……ふーう……いひひ……うぇっへっへ……はぁはぁ……ふはははは」


 もうさ。興奮がとまらん。


「気持ち悪すぎだろ。光成? 少し落ち着け。つーか大丈夫か?」


 三原にドン引きされてもこれはとまらんのじゃ。

 目の前には、こちらに背後を見せながらそのさらに西側におる島津勢とこに攻撃を仕掛けている平家の全軍。その向こうには島津勢が応戦する形で陣取り、そんな平家を包囲するように北に毛利勢、南に長宗我部勢が緩い鶴翼の陣のようなものを敷いておる。

 しかも今さっきわしが出した下知により、平家の突入に少し遅れる形でその鶴翼陣形が折りたたまれようとしておるのじゃ。


 さすればこれは間違いなくこの戦いのクライマックス。しかもわしらはそこに少数で乗り込もうとしておるのじゃ。

 こんなもん、ハリウッド映画のヒーロー以外に許されるシチュエーションではない。

 いぇっひっひっひ。勇殿と華殿も連れてきてやればよかったかな。いや、あの2人と利家殿は最後の最後に清盛を取り逃がした場合などのための予備戦力じゃ。

 さすれば仕方あるまい。いやっふっふっふ。仕方ないのじゃ。


「では三成様? そろそろ行きましょうか?」

「おう」


 その時、頼光殿がわしと同様に好戦的な表情で促してきたので、わしもそれに従う。


「ふぃっひっひ。よーし……では行くか! 総員、とつげーーーき!」


 わしの合図に合わせ、6人まとめて平家の陣へ走り出した。


「うーりゃー!」


 島津の本陣へ突っ込む敵陣に背後からの突撃を開始し、わしらはすぐさま平家の後陣と衝突する。

 しかし三原や頼光殿がおるわしらの突撃は、そう簡単に止められるものではない。


 四方八方から迫りくる斬撃や刺突をかいくぐり、それ以上の猛攻で敵を蹴散らす。

 一方で、虎之助殿をリーダー兼お目付け役とするあかねっち殿、よみよみ殿のコンビも奮戦じゃ。

 あかねっち殿は利家殿が槍を扱う時のように手に持った刀を優雅に舞わせ、一方でよみよみ殿はスピード感あふれる打撃を繰り返しておる。


 たまに2人の身に危険が及ぶと、虎之助殿が上手くフォローしておるな。

 うん、虎之助殿もなかなかの使い手じゃな。いや、そりゃそうか。あの男はかの上杉景虎殿じゃ。自身のことを低く言う傾向にあるから小物に見がちだけど、そんな評価で収まるはずなかったわ。

 つーか強い。

 うーん。この強さ、下手したら寺川殿とタメはるんじゃ……?


「うぉッ! 三成様? なんですか、そのすさまじい動きは!」


 その時、三原・頼光殿コンビの前衛と虎之助殿たち後衛の間をスタッドレス武威で行き来しながら戦うわしの動きに驚いた虎之助殿が話しかけてきた。

 虎之助殿は平家の猛者どもを3人相手にしながらの世間話じゃ。

 やはりこやつは強い。

 しかもじゃ。その問いに自虐的な答えを返すわしに素敵な言葉をかけてくれたんじゃ。


「わしの新たな技じゃ。ゴキブリみたいじゃろ?」

「いえ、ゴキブリというか、むしろF1の車のような……なんという空力性能。まさか法威を利用して武威をそんな風に操れるなんて……やはりあなたは法威を操る天才だ」


 こんなん言われたら嬉しくないわけなかろう。

 ただでさえテンションの上がっていたわしは虎之助殿の言でさらなるご機嫌マックスモードへと移行する。


 武威センサーによる敵の配置を確認しながら清盛の元へと一直線。

 ちらりと遠くを見れば、鬼ジジイ率いる島津兵も果敢に敵の突撃を抑えておる。

 ならばあちらは大丈夫じゃろう。と一安心したところで、わしは部隊の先頭に躍り出る。

 襲い来る敵兵をせっせと片づけていると、ほどなくしてわしらは敵陣の最深部へとたどり着いた。


「平清盛とお見受けした。初めてお目にかかる」


「ほう。たった1人でここまで来るとは……」


 え? 1人?


 やっちまったぁ! まさかの単独突入!

 ちょっと待て。さっきまで三原、頼光殿コンビがわしのすぐ後ろで戦っていたはず……っておい、あの2人が途中で苦戦しておる。

 まさかあの2人が――?

 いや、あえて武威の強い平家の武将を相手してくれておるのかも。


 ちらりと遠くを見れば、その2人がこちらをちらちら見ながら平家の中でもとりわけ激しい武威を持つ敵と戦っておる。

 わしに何かあればすぐさまここに飛んできてくれる用意をしておきながら、わしの戦いをひとまず見守ってくれておる感じじゃ。

 そう、そう信じよう。


 そしてあの2人がわざわざこの舞台を用意してくれたのじゃ。

 わしが清盛と相対する場をな。

 ならば試しにわし1人で清盛に立ち向かってみようぞ。


「いざ、尋常にしょーぶじゃ!」

「おう。かかってこい」


 そしてわしらは交戦する。

 その手始めにと軽く打ち合いをしていると、わしの携帯電話が鳴り響いた。


 ジャガジャガ、ベーン、ズンジャズンジャ♪


 例によって、1990年代のガチな邦ロックじゃ。


「出て構わん」


 いいんかい!

 じゃあ、出てやるわ!


 しかし、その電話の相手は寺川殿で、その内容はわしの頭を真っ白にするものであった。


「今すぐその戦いを止めてこちらに戻ってきなさい。坂上田村麻呂が義経の一味に暗殺されたわ。

 平家側には出雲神道衆と京都陰陽師勢力の連名で停戦要請出しておくからその場は本当にすぐ戦いを止めて大丈夫。安心して停戦しなさい。

 でも急いで。奥州藤原だけじゃなく最上と伊達も敵方として動いている。東日本が荒れるわ」




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