源氏が退却し、平和な日常が戻った渋谷のスクランブル交差点。
交通規制が解かれたために、わしらは交差点の近くに移動した。
んで、集まっていた戦国武将勢力からの挨拶攻撃にさらされたわ。
わしや康高に対し、土下座をしながら臣従を申し出てきた者。
わしの肩を叩きながら「あの時はすまんな」と言ってきた者。
それぞれの反応は様々じゃな。
でも全てが全て友好的な態度を示したとは限らん。
交差点に姿を現した人物たちとは対照的に、街に隠れ続けた者も多数おる。
中には離れた所から挨拶代わりとばかりに殺気のこもった武威をわしらに向け、そのまま姿を消した者までおった。
前世でわしらに滅ぼされた者たちなのか、そもそもわしらと接点のない時代の勢力なのか。
天下を狙うという夢を諦めきれない者たちが、そういう反応を見せてきたのじゃ。
わしと康高。あとわしらの両親も含め、これからもっと警戒せねばならん。
だけど坂上田村麻呂勢力も味方にできたっぽいし、ホテルの窓からこちらを見ていた信長様もにっこり笑ってから去ってくれた。
この二大勢力に加え、わしらに近寄って来たこやつらにも協力してもらえば、少なくともわしらの両親に危険が及ぶことはなかろう。
「さて……帰ろうか。もうへとへとじゃ」
挨拶の波が終わり、わしらは渋谷から早々に退却する。
地元の駅で三原と合流し一緒に三原の事務所まで移動したんだけど、事務所の前で三原と別れる時、三原が意味深き言葉を言ってきた。
「こっからだぞ。わかってるな?」
「おう」
わしも意味深き笑みを返し、いざ帰城じゃ。
わしの右手には康高の左手。
源氏が去ってからずっと手を繋いでおったけど、康高は震えることもなくわしの右手をがっちりと握り続けておる。
「お兄ちゃん?」
「ん?」
「なんで僕のもう1つの名前を知ってたの?」
「なんとなく。勘だよ、勘」
「ふーん。変なのぉ」
「そうだね。変だねぇ」
「きゃはは!」
……
「それとさ、それじゃさ?」
「ん?」
「お兄ちゃんって誰なの?」
……
……
「お兄ちゃんは……康君のお兄ちゃんだよ!」
「……うん……うん、そうだね! 僕の大好きなお兄ちゃんだぁ!」
一軒家城に着く直前康高とそんな会話を交わし、わしは紫色に腫れた左手で康高の頭をわしゃわしゃと撫でた。
にっこりと笑う康高に向けてうなづき視線を前に戻すと、わしらの帰城に気づいた父上と母上が玄関から出てきた。