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決戦の弐


「やっと降伏する気になったか?」


 目の前にはおぞましい気配を発する源氏勢力の面々。

 その中の1人が集団から数歩前に出て、わしらに話しかけてきた。


 多分だけど、こやつが源頼朝じゃな。

 頼朝は前世でも現世でも源氏の本流を従えておるというし、こういう場で真っ先に口を開く人物など頼朝以外に考えられん。

 見た目は30代の後半ぐらいと意外に若い。

 でもやつの着ている高そうなスーツと、背後におる手下を堂々と従えておるこの感じから、間違いはなかろう。


 特にこの男の背後に控える数人の武威使い。警戒心がすでにマックスなのじゃ。

 わしら北条側が何か行動を起こした時にすぐさま頼朝を守れるよう、このような警戒をしておるのじゃろうな。

 さすればあの武威使いたちは頼朝の護衛であり、あやつらが守ろうとする人物こそ源氏の頭領なのじゃ。


 そんで、そんな頼朝の護衛より左に数メートル離れたところ。

 体から垂れ流す武威のおぞましさといい、頭領たる頼朝が喋っているのに気だるそうに首を掻いている不敬さといい、こやつが義経じゃ。

 その隣におる巨躯の男も弁慶っぽい雰囲気だし、気のせいか義経の周りの人物たちだ、頼朝の配下と微妙に違う雰囲気を匂わせておる。

 さすればこっちは奥州源氏といったところか。


 現代では源平合戦の英雄と言い伝えられる義経だけど、前世では鎌倉源氏から追放され、助けを求めた奥州藤原氏からもそれに近い扱いを受けた男じゃ。

 頼朝と義経、どちらに非があったのかはわからんし、義経がどういう男だったのかもわからん。

 だけど平和的な話し合いをしようとしているこの状況をぶち壊す可能性が1番高いのが、この義経なのじゃ。

 頼朝はそれなりに話の分かる男だろうけど三原の忠告もあるし、義経には警戒しておかねばなるまいて。


 あと最前列の右側に立つ義経とは反対側のはじっこ。

 もうすでにバリッバリの臨戦態勢を整えている三原がおる。

 京都で平家の者をアレした時とおんなじぐらいおぞましい武威を放っておるけど、どういうことじゃ?

 一昨日、事務所でしたわしの説明を忘れたのか?


 話し合いじゃ、話し合い。

 これはあくまで話し合いで終わる会合なのじゃ。

 そういう説明したじゃろ?

 それともひざ蹴りの件と同じく、この武威もわしに対する冗談なのか?


 どっちにしても気が散るから、本当に止めてくれ。

 わし、それどころじゃないんじゃ。


「どうした? 後北条の頭領が三代も揃っているのに、ビビって声も出ないのか?

 ここ数日、他の勢力に対して随分と調子こいた情報を流していたみたいだが、結局北条はその程度の度量か?」


 じゃなくて頼朝の言葉に北条側が誰も答えなかったから、頼朝が調子に乗り始めた。

 話が紛らわしくなるのが嫌だから、わしは事前に氏康殿たちに“黙っておけ”と指示しておる。

 なのでここはわしが答えなきゃいけなかったんだ。


「初めてお目にかかる。それがし、名を石田三成という。今回の件に関し、北条側の代理人としておぬしらを呼び出した張本人じゃ」


 出来る限り低い声で自己紹介しながら、わしは数歩前に出た。

 深々と頭を下げると、案の定、源氏の側から笑い声が聞こえてきた。


「あははは! 何だそれは? そのガキが北条の秘密兵器ってか?

 しかも石田三成って……関ヶ原の負け犬がそんな姿で出てきても説得力ねぇよ!

 こんなガキにこの場を任せるなんて、北条も堕ちたもんだなァ!」


 頼朝が爆笑しながらそう言ったけど、他の源氏の者も似たような反応じゃな。

 でもこんな反応ももちろん想定内じゃ。

 まずはわしの幼い体を、相手に舐められないようにすること。

 やつらにわしを認めさせねば、対等な話し合いなど出来るわけがないのじゃ。

 こやつらも“記憶残し”の噂は聞いたことがあると思うけど、それがわしであると告げるだけではダメじゃろうし、そのためには力を見せつけて納得させるしかあるまい。


 坂上田村麻呂殿の前で“平和的にうんちゃらかんちゃら”ぬかしたわしだけど、今後のことも考えて、わしに相応の“武力”があることを周りの戦国武将たちにも見せつけておこうぞ!


「ふーう」


 わしは1度全身の力を抜き、丹田深くに重心をおとす。

 わしのいつものやり方じゃ。

 次に肩から肘、前腕、そして掌へと順番に力を込め、掌を強く握る。

 足も同様に力を込め、さぁ戦闘じゃ!


「ふっ」


 相手を小馬鹿にするような笑みを浮かべ、わしは空間に薄く広げていた武威をとある人物に集中させた。

 頼朝はおろかその人物の隣に立つ者ですら分からないぐらい狭い範囲に、殺気のこもった武威を送ったのじゃ。


「貴様ァ!」


 わしの挑発に対し、義経が大きく叫ぶ。

 もちろんわしが挑発した相手は、短気そうな義経じゃ。

 義経を挑発するという流れは三原からの忠告を受けた後にわしが独断で決めたことなんだけど、わしの力を見せつけるためにはこれしかあるまいて。


 そんなわしの思惑通り、わしの武威を自身に対する挑発と受け取った義経は、即座にわしに襲いかかってきた。


「死ねやァ!」


 もちろん義経のこの動きもわしの想定内じゃ。

 むかーし三原か聞いたことがあるような気がするけど、義経は三原より弱いらしい。

 それでもわしが勝てるような相手じゃないとは思うけど、前世の6割近い武威が戻り最近法威も覚えたわしならば、カウンターの一発ぐらいは返せるはずじゃ。


 そしてそのカウンターを実現させる自信もある。

 “身軽”と名高い義経が最初に選ぶであろう攻撃の種類はわしの予想通り、とび蹴りじゃ。


 三原のひざ蹴りをトラウマのごとく脳裏に刻んだわし。

 ぶっちゃけわしはいつか三原に似たような攻撃をされた時に、仕返しのカウンターをしてやろうと常々願っておった。

 そのためのシミュレーションも、この5年幾度となくやってきた。

 目にもとまらぬ速さで迫る三原に、脊髄反射というか、条件反射というか――そのレベルで反撃するシミュレーションをしておったのじゃ。


 まさかその動きを義経にすることになろうとは夢にも思ってなかったけどな。

 でも義経の移動速度は三原の動きに遠く及ばん。

 “ひざ蹴り”と“普通の蹴り”の違いはあるけど、わしのシミュレーションにおける反撃の動きで対応可能なのじゃ。


「とう!」


 わしの叫び声が周囲に響き、完ぺきな防御と、そしてその防御とほぼ同時に繰り出したわしの正拳突きが義経に襲いかかる。

 それが見事にヒットし、急速接近してきた義経を後退させることに成功した。


「ぐっ!」


 だけど――ここで小さな事故が起きてしまったわ。

 まさかわしの反撃がやつの股間に当たるとは。


 いや、本当は腹部を狙って正拳突きをしたつもりだったんだけどな。

 もちろん脊髄反射っていうぐらいだからわしの体は無意識に動いておるので、カウンター攻撃のこぶしを止めることなどできん。

 いかんせんわしはこの身長だから、狙いが下にそれてしまったわ。


「おえぇえぇええぇ……」


 やっべぇ。すっげぇ苦しんでる。

 やつもやつで体中を武威で守っているから致命傷にはならんと思うけど、ど、どうしよ。


 ちなみに、わしはこの場に話し合いを来ておる。

 なのに――たとえ頼朝との話し合いがいい結果に終わったとしても、大勢の部下の前で大恥をかいた義経。


 これ、義経からものすっごい恨みを買ったんじゃね……?


「す、すまん!」


 事態に気づき、わしは慌てて義経に走りよる。

 頼朝と氏康殿で和解が成立しても、これじゃわしと義経の間に戦争が始まってしまう。

 新たな戦いの火種。それは防がねばならんのじゃ。


「誤解じゃ! 誤解なのじゃ!」


 しかし申し訳ない気持ちとともに義経に走りよるわしに対し、奥州源氏の者たちが一斉に襲いかかってきた。

 わしの動きを義経に対する追撃とみなしたのじゃろうな。

 それに呼応して鎌倉源氏の方も武威を発動するし、ついでに後ろの方で北条さんたちも武威を発動させやがった。


 もう“いざ開戦”って感じじゃ!

 やっばいわ!


 しかし――


「おい」


 そんな戦いの狼煙は、次の瞬間、1人の男によってかき消された。


 三原じゃ。

 義経に近寄ろうとするわし。そしてそんなわしに襲いかかろうとする義経の部下。

 それらすべての動きを凌駕する速度で、三原がわしらの間に割って入ったのじゃ。


 しかも義経の部下には背中を向けながら手で動きを制し、わしに対してはいくらか加減したひざ蹴りを放ってきやがった。

 もちろんわしはこれもしっかりと防御できたけど、これはわしに対する三原の配慮じゃ。

 わしが三原の攻撃を防御したことで、さっきの義経へのカウンターがまぐれじゃないということを源氏に伝えることになるのじゃ。


 ほとんどまぐれだったんだけど、まぁいいや。

 ここまで配慮してくれるなんて、さすが三原じゃ。


「おい、頼朝? 俺はお前らが北条と話し合いをするというからついてきたんだが?

 もともと殺り合うつもりだったのか? それとも今のは義経の独断か?

 今ここで戦争おっぱじめるとなれば今回の契約内容から外れるし、それならば俺は源氏から離れる。

 信用できない顧客とは付き合えねぇからな」

「す、すまん。義経、貴様は下がれ」


 しかも三原は源氏の頭領たる頼朝を諌めることで、戦いへと傾いた源氏のボルテージを下げてくれた。

 安心しながらちらりと遠くを見ると、野次馬の人ごみにまぎれて寺川殿があくびをしておるのが目に入ったけど、この差は本当になんなんじゃろうな。


 でもせっかく三原が収めてくれたのじゃ。

 さてさてわしがこの場を仕切るにふさわしい武力を持っておることも相手に伝えることが出来たし、いざ次の段階じゃ。

 なんか1つの段階を乗り越えるのが物凄くしんどいけど、気をしっかり保って次の段階じゃ。


「すまぬ」

「いいから話し合いを続けろ」


 わしの感謝の言葉に、三原は冷たく答えて元居た場所に戻っていった。

 多分わしと三原の関係を頼朝に悟られぬよう、こんな態度を示したのじゃな。

 さすれば頼朝たちってわしが三原の野球チームに入っていること知らんのじゃろうか。

 まぁ、少なくとも三原が野球チームのコーチをしていることは知っているだろうけど、そのチームに入っているわっぱまで把握しようとはしないか。


 ならわしも三原とは他人の振りをしておかねばなるまい。

 義経と三原。

 2発の攻撃を受けた左手が紫色になって、痛みでプルプルし始めておる。

 だけどこれもポケットに隠して、わしもクールに振舞おうぞ。


「さて……思わぬ邪魔が入った」

「あぁ、今のはこちらの不手際だ。義経には後できつく言っておく」


 あと三原が威嚇してくれたおかげで、わしらを挑発するような態度をしていた頼朝の雰囲気が変わった。

 よしよし。こっからが本番じゃ。


「あらためて言う。わしが石田三成じゃ。10年前、世間を騒がせた“記憶残し”でもあり、今のように武威も十分操れる。わっぱと思わんで、わしの話をしっかり聞いて欲しい」

「なるほどな。ガキがこの場にしゃしゃり出て来たのにはそういう理由があったのか」

「そうじゃ」

「んで、お前は何がしたいんだ?」

「決まっておろう。源氏と北条、双方の争いを止めに来た。北条はすでにその意をわしに伝えておる。源氏もわしに従い、刀を収めよ」


 さて、ここで次の企てじゃ。

 わしは罪深き笑みを頼朝に送りながら、納めていた武威センサーを今一度広げる。

 そして空間に薄く広げた武威の濃度を濃くし、渋谷近隣にいる武将たちがわしの武威に気づくようにした。


 これこそが隠し玉その1じゃ。


 以前、三原が武威の出し入れをリズミカルに行うことでわしにメッセージを伝えてきたことがある。

 それと同様に今度はわしが交差点の周囲に潜む戦国武将たちにメッセージを伝えるのじゃ。

 もちろんメッセージについて事前に各勢力と打ち合わせなどしておらんから、わしが皆に送るメッセージは“敵意”じゃ。


 各勢力はここにただ見学に来たといっても、他の勢力が来ることも知っているからそれなりに警戒しておる。

 そんな時に周囲が不穏な武威に包まれたら、臨戦態勢に入るのが当然じゃ。


 相手が武威を発動させたら、こちらも武威を発動させる。

 こんなもん武威使いの常識だし、習性でもある。

 わしの武威に気付いた相手は、これは何事かと警戒するじゃろう。

 そして不測の事態に備え、武威を放ち始めるのじゃ。

 それを促すための“敵意”なのじゃ。


 1つ、2つとわしの武威センサーに臨戦態勢の反応が現われ、それが街全体を包む大きな炎のように燃え上がる。

 その数およそ500。

 これほどの武威ともなれば、おそらくこの国が始まって以来初めての規模じゃろう。

 それほどのすさまじい武威が街中にあふれておるのじゃ。


 武威センサーを持つわしじゃなくても余裕で分かるほどのものだし、各勢力は他の勢力の武威にも気づいて、さらに武威を高め始めおった。


 ふっふっふ!


 わしはそのからくりを知っておるけど、各勢力は自分たち以外が全て敵じゃ。

 罠にはめられたと思っておるじゃろうな。


 そしてそれは源氏も同じじゃ。

 わしから見ればそれぞれの勢力がそれぞれの勢力を威嚇しておるだけだけど、源氏は全ての武威が自分たちに向けられておると思うじゃろう。


「んな? なんでこんな数の……?」


 頼朝が信じられないといった表情で周りをきょろきょろし始めたけど、もう遅いわ。


「貴様、こんなことして……いや、どうやって戦国武将をまとめ上げた?」

「うるっさいわ! なんでそんなこと教えてやらねばならんのじゃ!? 常識考えろ!」


 どこのバカがこのからくりを教えるというんじゃ?

 今回はただの武威センサーじゃなくてその濃度を上げておるから、わし、ぶっちゃけもうすぐ武威が切れそうじゃ!

 このからくりがバレちゃったら、何かあった時に頼光殿たちが助けに来る前にわし一瞬で殺されるわ!


「どうだ? わしの言うことを聞く気になったか?」

「……」


 うむ。さすがにこの程度では引き下がらんか。

 ならば次の手じゃ。

 わしも覚悟を決めねばなるまいて。

 でも……まだ10歳。さすがにこんな早くこの時が訪れるとは思わんかったな。


「わしは将来、天下統一を目指しておる。いずれ時が来たらおぬしらを迎えに行く。

 その時はわしの部下になれとは決して言わん。わしとともに天下の統一を目指すんじゃ。

 だから今は引き下がってほしい」


 ここで、わしは懐に忍ばせた無線の小型マイクのスイッチを入れる。

 同時に右手を軽く上げ、綱殿に合図を送った。

 近くの建物の広告用モニターにわしの姿がでかでかと映り、わしの声もマイクを通して周辺一帯に響くスピーカーに繋がった。


 さて、行くぞ。

 これが最後の手じゃ。

 天下統一という夢。

 わしがそれを実現できるということを相手に認めさせれば、源氏といえども引かざるをえまい。


 そのためにこれだけたくさんの武威使いを渋谷に集めた。

 石田三成という前世の名前だって、それを狙うにふさわしい実績を残しておる。


 今じゃ。

 今、わしはこれだけの転生者を前にして、名乗りを上げる。

 歴史の表舞台に再び姿を現すのじゃ。


 ふーう。ふーう。


 でも、それはわし1人ではない。

 隠し玉の2つ目。

 これを抜きにして、この状況を収めることは出来んのじゃ。


「おにーちゃーん!」


 綱殿に手を引かれ、康高がお巡りさんの壁をすり抜けてきた。

 康高自身は何が起こっているのか理解できていないようであり、きょろきょろと周りを見渡しながらこちらに歩いてきておる。

 だけどわしが手招きするとそれに気付き、タヌキさんのような可愛い笑みを浮かべながら走り寄ってきおったわ。


「お兄ちゃん? 何してんの? これ、お兄ちゃんの武威?」


 そうじゃ。もうそろそろ枯渇しそうだけどわしの武威じゃ。

 あと、今康高はさも当然のように“武威”という単語を口にした。

 わしよりちょっと早いけど、これに気づくということは康高も武威に目覚め始めておるのじゃろうな。


 ならば、時は今。

 2人で歩もうぞ。


「竹千代?」

「え? ……お兄ちゃん、なんでその名前を知ってるの?」

「なんでかは後で説明するよ。でもその前に、あっちのおじさんたちに元気いっぱいの声で名乗ってみようか。立派な名乗り、出来る?」

「うん! できるよ!」


 わしは康高の手を握り、2人揃って源氏の方へと向いた。


「我こそはー! 松平清康の孫にして、松平広忠の子ォ! 竹千代じゃー! 後のせーいたいしょーぐーーん! 徳川家康じゃーッ!」


 おし、4歳にしてはなかなか立派な名乗りじゃな。

 じゃお次はわしじゃ。


「わしは石田三成じゃ! そしてここにいるわしの弟は徳川家康じゃ! 将来、わしら2人で絶対天下を取ってやる! このくだらない転生者同士の争いに終止符を打ってやるわ!

 わしらに同意するものは仲間として受け入れよう! そうじゃない者はわしらを敵に回し、そして関ヶ原に集まった東西全軍を敵に回すと思え!」


「そうだそうだ!」


 大型モニターに映るわしらの姿と、スピーカーを通して周辺一帯に響き渡るわしの言葉を受け、ある者は武威を荒げ、ある者は武威による速度でわしらの近くに飛んできた。

 その中には虎之助殿を介してわしが協力を仰いでおった米沢上杉の集団もおったけど、皆即座に膝をつきわしや康高に服従の意を示した。


 わしらに恭順を示した人数だけで、およそ300。

 結局、有力な戦国武将が行き着く先は関ヶ原における西軍か東軍。なおも潜んでおる勢力もあるけど、石田三成と徳川家康がここにいるとあれば、これぐらいの数は揃うのじゃ。


 でも、今はそれに応えている暇はない。


「待て。後で話を聞く。その前に今は源氏の答えを聞かねばならん」


 わしは新たな部下にそう告げ、再び源氏の方に視線を移す。

 その動きに合わせ、“300の兵”も武威を放ったまま源氏の者たちを睨み始めた。


 ここじゃ。今ここしかあるまい。

 この時のために必死に考えた、わしの決め台詞!

 それをかっこよく決めるためには、このタイミングしかないのじゃ!


「戦国武将を舐めるなよ」


 わしのかっこいい言葉が交差点に響き渡り、源氏の者たちがたじろいだ。


「きっさまぁ……」

「うろたえるな、頼朝殿。いずれおぬしらもわしの目指す世に招待してやる。だから今は大人しくしてろ」

「く……そんな……でも……」


 よし!

 頼朝の心が揺れてる!

 折れろ折れろ!

 わしらになびけ!



 と勝利を確信しておったけど、ここで三原が動きやがったわ。



「頼朝? 部下を死なせる気か? ここは――今回の件は諦めろ。お前は引き際を誤るような男なのか?」


 なーんでこういう時においしいとこもってくかなぁ……。

 ずるいじゃろ。ずるすぎじゃろ。

 これじゃ三原がこの争いを収めたみたいになっちゃうやんけ!

 恩着せがましいんじゃ!


 と思って地団太踏もうとしたら、漁夫の利を得ようとする輩は他にもおったわ。


「はっはっは。石田三成、見事なり。源氏の者たちよ。我々坂上田村麻呂勢力はこちらに付く。我々とこの戦国武将たちを敵に回すことになるぞ? どうする?」


 頼光殿たちじゃ。

 いつの間にか、3人揃ってわしの背後に立っておる。


 これまでわしに協力してくれたからギリ許すけど、坂上田村麻呂勢力って表立ってこの争いに介入しないんじゃなかったのか?

 戦国武将勢力がある程度まとまったとわかったら、すぐこれか。

 これじゃ、せっかくのわしの勢力が坂上田村麻呂勢力の走狗っぽい集団になってしまうやんけ!



 ふーう。ふーう。

 どいつもこいつも……。


 でもじゃ。この2人の介入がとどめとなり、頼朝が折れてくれたわ。


「わかった。いずれ会おうぞ」


 悔しそうにつぶやいて、渋谷からの撤退を配下の者たちに下知したのじゃ。


「ふーう……うま……上手くいった……よな?」


 源氏の軍勢の最後の1人の背中が遠くに消えるのを確認するや否や、わしは全身から力が抜け出てしまい、その場に膝をついた。



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