その者、名を“石家康高(いしいえやすたか)”という。
時代劇みたいな紹介してみたけど、今年の9月で4歳になるわしの弟、康高が部屋に入ってきた。
そして、床の間エリアの前で座布団に座るわしの脇にちょこんって座りおった。
うん。わしの弟。
前世のわしにも兄弟がおったし、わしが死ぬ頃には5人の子がおったから、家族が1人増えたぐらいのことでわしの心は騒ぎはせん。
だけど……あのさ。
この弟、完全に家康なのじゃ。
いや、断定はできん。断定はできんぞ!
でも氏名の中二文字が、“家康”となっておるのじゃ!
“石[家康]高”とな!
しかもこの名前は偶然つけられたものではないのじゃ。
4年前、父上や母上と一緒にこやつの名前を考えていた時のことじゃ。
父上がこの名を提案したんだけど、その時の父上の表情がおかしかったのじゃ。
朦朧としておるというか、虚空を眺めておるというか。
それなのに口だけは達者で、手をあげて反対意見を主張するわしに対して、“康高”という名前をごり押しし続けたのじゃ。
こんなもん、違和感マックス富士山のごとくじゃ。
転生術というものがどういうものなのかはわからんけど、あの時の父上と母上の異変は完全に転生術の一環じゃ。
転生という術の影響であのようなことになってしまったのじゃ。
さすれば転生術というのは、赤子を名付ける段階からその家族にまで術の影響を及ぼすと考えたほうが妥当じゃろう。
わしの人生をもて遊ぶ“転生術”……奥深き神の御業じゃ。
――などと感心しとる場合ではない!
もちろんわしは必死に抵抗したぞ。
今後転生者と遭遇した時に、わしが氏名の中二文字で相手の前世を予想するというパターンを作ってしまうと、毎回わしの脳裏に“家光”の名がよぎることになっちゃうし、それは過去に寺川殿から疑われたときの恐怖心も呼び醒ます。
なのでそういう危険な名前を弟につけようなどと、まっぴらごめんじゃ。
けどさっきも言ったように、なぜか父上――あと母上もだけど、2人は誰かに操られる様にわしの意見を退け、この名を押し切ってしまった。
悔やむばかりじゃ。
されど、寺川殿も三原も前世の氏名が現世の氏名にはっきり影響しておるかと言われれば、そうでもない。
わしの今の氏名は明らかに前世の影響を受けておるけど、あの2人はそうとも言い切れんのじゃ。
そもそもわしは寺川殿と三原以外の転生者を知らんから、そこらへんのルールがどうなっておるのかはようわからん。
特に寺川殿は京都陰陽師の手先として東京に来ておると言っておった。
そう考えると“寺川恵”という名前も偽名かもしれん。
さすれば謎は深まるばかり。
諸々含めて、この件は憶測の域を出ないといったところじゃ。
でーもーじゃー!
話を戻す!
康高の件じゃ!
康高は絶対家康なのじゃ!
たまに言葉遣いを間違えるし、居間で自画像のお絵描きをしていたとき、紙の左下の部分に崩した字体の平仮名でこっそり“竹千代”って書きこんでやがった。
あと家庭用常備薬に対して異常な興味を示すし、健康家電マニアでもある。
加えて、将棋派であるわしとは対称的にこやつは囲碁派じゃ。
家族に囲碁を嗜む者が皆無なのに、こやつだけ囲碁派なのじゃ!
そういう個性も前世でわしが読み聞いた家康の特徴と似ておるし、間違いない!
こやつは家康じゃ!
だからわしとしては今すぐこやつをぶっ殺しておかねばならんのじゃ!
ふーう……ふーう……。
けど……現世ではそうもいかんのじゃ。
弟を殺したとあればそれこそ世間を賑わす大事件になるだろうけど、そういう現代の価値観はいいとして――こやつがわしのような前世の記憶を丸々持った特殊なタイプの転生者だという可能性もあるのじゃ。
そしてその体にはわしよりはるかに強い武威を隠し持ってたりする可能性も否定できん。
さすればわしが石田三成だとばれた瞬間に殺される恐れもあるのじゃ。
もちろん康高も同じ気持ちだろうし、その気持ちはわしにもわかる。
相手が誰なのかも知らずに、自分の前世を暴露する。
5年前のわしがもっとも嫌がったことじゃ。
わし自身今もその件に関する警戒は緩めることができんし、4歳の康高ならなおさらじゃろう。
といっても今後わしがこのレベルの警戒心をずっと持ち続けるのもなかなかにしんどい。
もしこの状況を変えようとするならば――つまり康高に全てを吐かせようとするならば、先にわしが素性を伝える必要があろうな。
そうでもせねば、康高は口を割るまい。
でもそれを実行したら、先にも言った通りわしが殺される可能性もある。
なのでわしらはお互い相手の事情には踏み込まず、相手を探っていることすら悟られないようにしつつ、普通の兄弟を演じておる。
ある意味、冷戦状態といった感じじゃ。
まぁ、それを見越してわしはこの4年間いろいろと調査もした。
悪戯じゃ。
康高の心に潜むもう1つ人格を刺激するような悪戯を何度か試したのじゃ。
でも、やつは普通のわっぱっぽい反応しか見せんかった。
国営放送の歴史検証番組で徳川家康が特集されておっても他人事のように無視し、ラジコンカーで遊んでおったしな。
いや、そうじゃなくて!
こやつ、わしのラジコンで遊びやがるのじゃ!
その代わりわしも新たなラジコンを父上から買ってもらえることになるからいいけど!
すでにわしの部屋には誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントでラインナップさせた3台のラジコンカーがあるからいいけども!
でも、ホイールとの出会いは一期一会じゃ!
康高に譲った車種はもう売っておらんかもしれんし、そうなるとあれが最後の1台かもしれないのじゃ!
なので、康高にはぜひともあの個体を大切にしてほしい。
そう思うわしの気持ちも当然じゃ。
なのに……それなのに……。
康高はそんなわしの想いを無下にして、ラジコンカーを城内所狭しと走らせておる。
タイヤの寿命を著しく減らし、それがいちいちわしの逆鱗に触れておるのじゃ。
最近は特に外で遊べない日が続いておったから、そういうことが特に多かった。
けど怒りが沸点に達したわしが康高からラジコンを奪い取ってしまうと、それは母上の逆鱗に触れてしまうことになるのじゃ。
お兄ちゃんなんだから我慢しなさい、ってな。
どうすればいいのじゃ……?
もうわしの気持ちもタイヤもぼろぼろじゃ。
まぁ、やつの前世の記憶の有無を調べる悪戯をしておる過程の最後は、ほぼ間違いなく母上から怒られるけどさ。
うーむ。嫌なことを思い出してしまった。
お兄ちゃん……
この家の跡継ぎとして、お兄ちゃんであるわしはもっと厚遇されるべきなのではなかろうか。
されど前世とは真逆になっておるこの格差が、現代の兄弟というものなのじゃろう。
そう思ってあきらめるしかあるまい。
でもさ……。
この部屋、今はわしら以外に誰もおらん。
じゃあ、今なら少しぐらい康高をいじめ……教育してもいいのではなかろうか?
わしには大義名分もある。
せっかく座禅をして心を鎮めておったのに、その心を康高が乱しおった。
さすればこの心の荒れを取り除くため、康高を犠牲にしてもいいのではなかろうか?
そうじゃ。康高には犠牲になってもらおう。
今日は花の金曜日。略して“花金”じゃ。
そんなめでたい日の始まりに、わしの心をかき乱した康高は相応の罪を償うべきじゃ。
幸い、目の前には使い古したキャッチャー防具一式が置いてある。
そのヘルメットを康高にかぶせ、通常キャッチャーの足首から膝上までを守っておる“レガーツ”という防具をわしが手に持つ。
このレガーツは表側の大部分がプラスチック製で出来ており、相当に硬い。
これで康高の頭を思いっきり殴ってみよう。
そうじゃ。
それがいい。
康高はたぶん泣くけど、ヘルメットを着けておるから大きな怪我は……
「おにいちゃん! 今日も“ざぜん”っていうやつ、やってんの? 僕も一緒にやっていい?」
くっそ。
いと可愛い……。
毎朝、起きるたびにわしの部屋まで来る康孝。
その懐きようといいこの笑顔といい、可愛いんじゃ。
思えばあのくそダヌキ。
よう考えたらタヌキさんって言われておったぐらいだから、あやつは正真正銘のタヌキ顔だった。
んで康高も似たような顔立ちをしておる。
しかも4歳の外見でじゃ。
わしは面長だし、下で寝ている父上も、前世における父上やわしのせがれたちもみんな面長だった。
わっぱの頃のわしや身内は若干顔の輪郭が丸かったけど、ここまで見事なタヌキ顔は身近にはおらんかった。
なので言える。
わしに無邪気な笑顔を向ける康高は、くっそ可愛いんじゃ。
あぁ……気力が無くなった。
康高をいじめるのはやめよう。
いや、“いじめ”じゃなくて“教育”だけどな。
とにかく厳しめの教育はやめよう。
こやつが本当に徳川家康だったとして――でも現世でのわしらの立場は逆なのじゃ。
ならばこの有利な状況を現世でとことん楽しまねばなるまい。
あともしこやつが前世の記憶を持たず、年齢とともにそれが蘇るパターンの転生者だった場合。
こやつがわしによからぬ感情を持ち始めるのはおそらく60近くなってからのはずじゃ。
殿下が亡くなり、天下取りに動き出したあやつが対抗勢力を潰し始めて、わしをその標的の1人に定められたのがその頃だったからな。
それまで康高が“石田三成”をターゲットにすることはあるまい。
ところで康高がその歳になった時、未来のこやつはわしに対してどのような感情を持つのじゃろうな。
取り戻した前世の記憶そのままに、わしに対して敵対感情を抱くか。
または現世の兄弟愛がそれに勝るのか。
康高をいじめにいじめ――じゃなくてしっかりと教育しつつ、憂さ晴らしに飽きたところで、ついでとばかりにぶっ殺す。
それは未来の康高がわしに対する態度をはっきりさせてからでも遅くはあるまい。
いや、その頃にはわしも60半ばだから遅いような気もするけど……。
とりあえずこの笑顔は卑怯じゃ。
「うん。いいよ。 でも、康君? 黙ってじっとしていられるの? まだ康君には早いんじゃないかな?」
「でぎるもん! 僕、ちゃんど“ざぜん”でぎるもん!」
あっ、怒った。くっそ可愛い。
ならば、もう危険な企みは終わりじゃ。
今は兄弟仲良う過ごすこの時間を楽しむことにしようぞ。
「じゃあおいで。一緒に座禅頑張ろうね!」
「うん! 僕頑張る!」
その後、わしらは2人並んで静かな時を過ごす。
でも隣に座る康高が10分ともたずにそわそわし始めおった。
その気配に気づき、ふと時計に目をやればもうすぐ6時となるところ。
そろそろ下の階で母上の目覚まし時計が鳴る頃じゃな。
と思っておったら、その音が下の階からかすかに聞こえてきおったわ。
「康君? お母さんが起きたみたいだよ。座禅やめて下行けば?」
「できるもん! 僕まだできるもん!」
あぁ、くっそ。
食べたいぐらい可愛いな。
具体的にタヌキ鍋にして食べちゃいたいぐらい可愛い。
でもどうやら康高は座禅を続けるようじゃな。
「じゃあ、もうちょっとがんばろうか」
「うん! まかせて、お兄ちゃん!」
それから再びわしらは座禅に集中する。
でもやっぱり康高はすぐにそわそわし始め、沈黙は1分ほどで途切れてしまった。
「お兄ちゃん?」
「ん?」
「そろそろ英語のお勉強の時間だよね? 僕、そっちも一緒にやりたい!」
少しは落ち着いてられんのか、康高は……。
いや、この落ち着きのなさ。
これはつまり、こやつの心に大人の精神が存在しておらんということじゃなかろうか……?
そう考えるとやはり康高は転生者ではなく、または転生者であってもわしのように前世の記憶をまるまる持ち合わせてはいない。
そういうことにならんか……?
それだったらわしも警戒を少しぐらい緩めても――いや、ダメじゃ。
これすらも演技である可能性もあるな。
うーん。
身内を疑うというのはなかなかどうして厄介じゃ。
それはそうと――おっと、忘れておったわ。
母上が起きたから、座禅は終了じゃ。
それで次の日課じゃ。
「ん? 康君も一緒に英単語覚えるの?」
「うん!」
さて。
母上の起床を目安にわしは座禅を終え、母上があさげの準備を済ませるまでの間を、英単語を覚える訓練に当てておる。
理由は1つ。
インターネットの世界で存分に活動できるようになるためじゃ。
5年前のあの日、わしは父上からインターネットの世界に足を踏み入れることを許可された。
でも実際にその世界に足を入れると、モニターの中に頻繁に出てくる英単語に出鼻をくじかれてしまったのじゃ。
そうなのじゃ。
海の向こうにある世界の人々が使う言語。その英単語のスペルをしっかり読み取れないと、インターネットの世界を存分に楽しむことが出来ないどころか、野獣ひしめくあの闇の世界では生き残れないのじゃ。
わしはてっきりテレビや日常会話で口にする外来語レベルの英単語を片仮名表記で知っておればいいと思ったけど――また、そういうのは何気に5歳の時点である程度自由に使っておったけど、世の大人たちはちゃんとしたスペルや単語の意味を学んだ上でそれを日常英会話に利用しておるらしい。
あの時父上がわしにローマ字表記の暗記が必要だとおっしゃっておったけど、パソコンのキーボードにわしの知らない文字が並んでおった理由はそこにもあったのじゃ。
父上の仕事の関係上、父上からもたらされるわしへのIT教育はいささか歪んでおり、なかなかハイペースで、そしてハイクオリティな知識がわしの頭には詰まっておる。
けど、それら専門用語の多くは結局英単語から生まれた言の葉だから、それらを十分に理解するためには英単語を覚えねばならんのじゃ。
なのでわしは父上からいろいろと教えてもらいながら、同時並行で英単語の習得に日々励んでおる。
日々のノルマは5つ。目標は5000じゃ。
父上が昔大学受験という科挙制度のようなものに参陣した頃利用しておった“頻出英単語帳”という書物を譲り受け、それを参考にどしどし単語を覚えておるのじゃ。
もちろん復習にも十分な時間をかけておる。
過去3日分の復習と毎週月曜日の総テスト。
そんでもって、毎月の月末にも総テスト。
さらには年度末には1年を締めくくるテスト。
これは何年も続く計画だから、これまでに出てきた単語全てを完璧に覚えるのはさすがに無理だろうけど、復習もしっかりとこなしすことで、忘れてしまう単語の数を極力減らすようにも努力しておるのじゃ。
こんな感じで1年におよそ1800。
かといって毎日しっかりノルマをこなせるものでもないし、土日は休みに当てておるから1年でその半分ぐらいじゃな。
これを5年続けておるから、今現在では単純に4500。忘れておる分を差し引いても、今まで覚えた英単語は4000は固いじゃろう。
近い将来、中学校に参陣すればこれらの単語を組み合わせて文章を作る手法も教えてもらえるとのことだし、とりあえず今は単語のみじゃな。
覚えて覚えて覚えまくる。
わしの覚悟は本物なのじゃ。
「じゃあ一緒にしよっか?」
「うん!」
康高の元気な返事を聞きながら、わしは壁際の棚から1冊の書物とノート、そして鉛筆を手に取り、再び座布団の元に戻る。
いや、待てよ。
わしはさっきから座布団に座っておるけど、康高は硬い板の間の上で座っておる。
それはちと可哀そうじゃ。
「康君? はい、膝の上おいで!」
「うん!」
決して甘やかしておるわけではない。
これは……そうじゃ。背後から命を狙う時のシミュレーションじゃ。
そのために、あぐらをかくわしの太ももの上に康高を誘っただけじゃ。
「じゃあ、今日はここからだから……えーとぉ……最初の単語は……“pancreas”……。意味は……膵……臓……?」
「お兄ちゃん? “すいぞー”って何?」
「うーん。なんだろうね。心臓とか、胃とか……そういう、お腹の中にある部品の1つっぽいけど」
「ふーん。んで、なんて言えばいいの?」
「……“ぱんくりぃあす”……多分“ぱんくりぃあす”かな」
「ぱんくりぃあす!」
「康君、早いって! 僕が先だよ! 康君は僕のあと! りぴーとあふたーおにーちゃん! あーゆーおっけー?」
「いえーす! おっけー!」
確信は持てないけど、今のやり取り、実は完璧なんじゃなかろうか?
でもまぁ、ちゃんとした英会話の文法は中学校に行ってからじゃ。
「じゃいくよー! ぱんくりぃあす!」
「ぱんくりぃあす!」
「ぱんくりぃあす!」
「ぱんくりぃあす!」
「ぱんくりぃあす!」
「ぱんくりぃあす!」
わしらがおる部屋。窓が開いたままになっておるけど、隣のおばちゃん大丈夫だよな……。
まぁいいや。隣から苦情が来たら康高のせいにすればよかろう。
「ぱんくりぃあす!」
「ぱんくりぃあす!」
「ぱんくりぃあす!」
「ぱんくりぃあす!」
「ぱんくりぃあす!」
「ぱんくりぃあす!」
ふーう。この単語の発音練習はこれぐらいでいいか。
あと、そうじゃな。
アルファベット3文字ぐらいならそのまま次に行くけど、この単語はスペルも長いから、見ただけで覚えるのは難しい。
書き込み練習もしておかねばならんじゃろう。
「康君? ちょっと降りて。僕、書き込み練習もしたいから」
わしのふとももにちょこんと座る康高。それをどかすのはちと残念だけど、遊んでおる場合ではない。
「えー?」
「ごめん。この単語、書いて覚えないといけないから」
「ふーん。わかったよう!」
そんで康高が立ち上がり、わしは脇に待機させておいた鉛筆を手に取る。
同じく待機させておいたノートを開き、そこに単語を書き続けた。
およそ20回ぐらい書き取り練習を行い、次の単語じゃ。
「よし、次の単語行くよ! おいで!」
書き込み練習をしておる間、わしの脇に無言で立ちながら床の間の品々を眺めておった康高に声をかけ、再び膝の上に座るように太ももをぽんぽん叩きながら促す。
もちろん康高もにこにこしながらわしの太ももに座った。
「じゃあ、次の単語は……“tractor”……。意味は……トラクター……?」
「それって……もしかして田んぼでお米を育てる時に使うやつ……?」
あれ? どっちかって言うと畑を耕す時に使うんじゃなかったっけ?
まぁ、どっちでもいいか。
「うん、そうだよ。よく知ってるね!」
「えへへぇ。僕偉い?」
「うん。偉い!」
4歳のわっぱに農作業の過程と農業用重機の用途を1から教えるなど至難の技じゃ。
この場に農業三騎衆がおったら妥協を許さずかなり面倒なことになりそうだけど、わしは農作業に細かいこだわりなど持っておらんからこういうのは適当でいいじゃろ。
わしとしては、トラクターは迫力満点なタイヤ回りがものすげぇかっこいいという情報の方が大事だし、トラクターの魅力はそれ以上でもそれ以下でもないのじゃ。
「じゃいくよ? りぴーとあふたーおにーちゃん!」
「おっけー! れりごー!」
ちなみに康高がわしの英単語訓練に乱入するのはこれが初めてではない。
あと康高はどうやら夕方に国営放送でやっておるわっぱ向けの英語教育番組も見ておるらしいので、わしのあおりに対する返答パターンもいくつか持っておる。
「とらくとぅ!」
「とらくとぅ!」
「とらくとぅ!」
「とらくとぅ!」
「とらくとぅ!」
「とらくとぅ!」
「とらくとぅ!」
「とらくとぅ!」
その後は再び書き込み練習をし、それを英単語5個分繰り返したところで、母上からあさげが出来たとの通達を頂いた。