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遠征の参


 なんとか寺川殿の部屋の玄関にたどりつき、わしは扉の前で倒れ込んだ。

 その音に気づき、寺川殿が扉を開ける。

 わしの姿を確認するや、寺川殿は即座にアイアンクローを仕掛けてきた。

 だけどわしがそれどころじゃないってぐらい苦しそうにしているのを知り、慌てて体を起こしてくれた。


「ど……どうしたの?」

「うぅ……さっき階段で……変な人にお腹蹴られた……痛いぃ……」

「あいつ! 絶対に手を出すなって言ってたのに!」


 お前の知り合いかい!


 いや、落ち着け、わし!

 お腹の痛みは全然落ち着く気配を見せないけど、わしの心は落ち着け!


「ふーう……」


 よし、落ち着いた。

 あとそうじゃ。一刻も早く寺川殿に伝えておかねばいけないことが……。


「先生のラケット……その時に……僕の体の下敷きに……おわっ」


 この悪魔、右腕で支えていたわしの体をほっぽり投げて、ラケットの安否確認し始めおったわ。

 血も涙もない鬼神っぷり、これこそが寺川恵というおなごじゃ。


「……大丈夫。ガットも破れてない。フレームもシャフトもジョイントも曲がってない。ちょっと塗装が剥げただけね。うん。一安心」


 わしが安心できんわ!

 傷ついたわっぱを投げ捨てる寺川殿の、先生としての資質になぁッ!


「げほ……げほ……」


 あぁ、わき腹が痛い。

 結構綺麗に衝撃を流したけど、やっぱこの体では防ぎきれんかったな。

 痛いの痛いの、寺川殿に飛んでけー!

 そう叫びたくなるぐらいお腹痛いのじゃ。

 そんで、お腹を押さえながら唸るわしに寺川殿が問いかけてきた。


「大丈夫?」

「うーん、うーん……」

「歩ける?」

「うーん……」

「とりあえず中に入りましょ?」

「産まれるぅ……」

「……なにが?」

「お昼のカレー……ここでしていい?」


 次の瞬間寺川殿がわしの体を小脇に抱え、玄関の中へと走り込んだ。

 んでわしは厠に放り込まれた。


「ウソウソ……テラ先生? 開けて……」


 冗談じゃ!

 さっき食ったもん、そう簡単に消化できるかぁ!

 あと外草履ぐらい脱がせろ。袴を無理矢理下ろすな。

 そんで閉じ込めるな。

 それとわっぱはちゃんと抱きかかえろ! わしは小荷物か!?


「ふっざけんなよ! マジで心配してんのに!」


 厠のドアの向こうから寺川殿の怒号が響き、すぐに扉が開く。

 見上げれば、寺川殿は本当に焦った時の顔をしておった。

 かっかっか! さっきの仕返しじゃ。

 でも本当にわしのことを心配してんなら――放り投げるなよ。


 まぁいいか。元気そうで何よりじゃ。


「ごめんなさい……あと、ズボンとパンツ返してぇ」


 わしは満足そうな笑みを浮かべ、寺川殿から袴を奪い取る。

 おいしょと声をあげながら袴を2つ履き重ね、外草履を置きに玄関まで戻る。

 途中、廊下に立つ寺川殿が背後から話しかけてきた。


「んで、本当にお腹大丈夫なの?」


 外草履を玄関に並べながらそれに答える。


「うん。まだちょっと痛いけど、もう歩けるよ」

「そう。とりあえず居間に来なさい」


 そして寺川殿の後を追うように、わしは居間へと向かったのじゃ。


 寺川殿の部屋は、キッチンと居間が合体した現代風の造りの部屋が1つ。

 それが10畳ぐらいじゃな。

 あとこっからは良く見えんが、半開きの戸の向こうに和室のような部屋もあるっぽい。

 でも今日のわしは寺川殿の部屋をあさりに来たわけではないから、そっちは無視しておこう。


 家具や装飾はわしの予想に反して、シンプルなものじゃ。

 寺川殿に促されて、今わしが座っておるソファも藍色の簡素な2人掛け仕様。

 寺川殿のことだからてっきり牡丹色や山吹色に染められたうざ明るいカラーリングで部屋を統一してあったり、または逆にどくろや忌みなる儀式道具のちりばめられた気持ち悪い部屋かと思っておったが、そうでもないらしい。

 意外と普通じゃな。ちと残念じゃ。


 とその時、キッチンにおる寺川殿が流し台越しに話しかけてきよった。


「お茶と水、どっちがいーい?」


 そんで、わしはふと昔を思い出してしまったのじゃ。


 ……。


 三献茶。

 初めて殿下に会うた時のことじゃ。

 喉の渇きを訴える殿下にわしが出した茶。


 一杯目は温めの茶を多め。

 二杯目は少し熱めの茶を少し少なめ。

 三杯目はあっついお茶を小さな湯呑みに。


 うん。殿下が寺に来たあの時、わしはちょうど湯を沸かしてお茶を飲もうとしておった。


 一杯目は、「まぁ、多めに沸かしてるから半分ぐらいくれてもいいか。どこの誰だか知らないけど、偉い人っぽいし……」と。

 二杯目は、「おいおい、ちょっとずうずうしいぞ。あと、わしの飲む分がなくなるんじゃが。これで終わりだよな?」と。

 三杯目は、「待てや、おっさん! 残り少ないんだって。だいぶいい湯加減になってきたけど! わしの分、わしの分が無くなるってば!?」


 つまりお茶の温度上昇は、単純にあの時沸かし始めたお湯が時間の経過とともに熱くなる過程を表しておる。

 茶の量は自分の分を確保しようとするわしの心の叫びを示しておるのじゃ。

 それがちょっと勘違いした形で現世に伝わっておる。


 暑がる殿下に対してわしが細かな配慮をし、それを殿下が高く評価した。

 ……と。

 まっ、結果オーライじゃな!

 殿下もあの時勘違いしておったし!


 でも、せっかくのお茶も結局殿下に全部飲まれてしまったことはまぎれもない事実じゃ。

 いい迷惑じゃ。

 と、思っておったら殿下に無理矢理拉致られ、気づいたら長浜の城におった。


 人生とは不思議なもんじゃ。

 あのまま寺に奉公しとればいずれ住職となり、長く生きることもできたはず。

 でもあれがきっかけで、わしはスリリングでパンキッシュな世界に身を投じることとなった。

 結果40もそこそこに人生を終えた。

 プラス5年追加されてる最中だけどな。


 なんでもない出会いにとてつもない意味がある。

 これは間違いなかろうて。


 そう考えると……

 寺川殿と出会ったこと。そんで、寺川殿の知り合いであるあの男と出会ったこと。

 これにも何かの意味があるのかもしれん。

 あの男、いつか絶対ぶっ殺してやるけどな!


 あと現代っ子のわしに、茶や水の選択肢しか与えない寺川殿の鬼畜っぷりもどうにかしないとな!

 お茶か水!?

 せこすぎじゃ!

 絶対ジュースとかあるじゃろ!?


 ここは1つ、寺川殿の性根を叩き直さねばならんのう。


「僕、しゅわしゅわするジュースが飲みたい。黒いやつ。あるでしょ?」

「え……? ……ないわよ」

「うっそだァ! だってテラ先生、教員室でいっつも飲んでんじゃん! 僕知ってんだよ! テラ先生のお気に入りのダイエット用の特定保健用食品のやつ!

 たまに2リットルのを持ってることも知ってるし、それが朝の時点で半分ぐらいになってることも知ってんだ!

 朝なのにあの減り具合。出勤途中で買ったりしてるんじゃなくて、前の晩から飲み始めたのを家から持って行ってるってことでしょ?

 なら、絶対家に買い置きしてんじゃん!? 箱買い派?」


 我ながら嫌なわっぱじゃて。

 でも冷蔵庫の中にそんな素敵な液体があるにもかかわらず、わっぱのわしに真水を飲ませようなどと、やっぱ許せる行いではないのじゃ。

 寺川殿にお灸を据えつつ、あと今日はなんか――そうだ! 今日は初めて寺川殿の長屋を訪れた特別な日ってことで。

 そういう理由なら、わしにもあの暗黒飲料を飲ませてくれたっていいと思うんじゃ!


「ち……わかったわよ……ベランダから放り投げてやろうかしら……このガキ……」


 わしの悪意に降参の意を匂わす寺川殿の呟きがキッチンから聞こえ――あと、ついでにおっそろしい暴言も聞こえたけどそれは無視しておくとして、しばらくして寺川殿がしゅわしゅわ唸る漆黒の液体を持ってきた。


「先生、ありがとう!」


 わしはにこにこ顔でそれを受け取った。

 さてさて。とりあえずはしゅわしゅわ行くか。


「おいしい!」


 そんでもって、2口目のしゅわしゅわ。

 わしの舌はわっぱのそれだから、あまり多くの量を注ぎ込むことはできん。

 おいしいけどピリピリするのじゃ。

 なのでちょびちょびと口に含めながらしゅわしゅわ具合を堪能しておると、寺川殿が隣に座り話しかけてきた。


「んで、今日は何の用事? つーかさ。あなたがここに来たこと、お母さんは知ってるの?」


 ふぁっはっは!

 知ってるとかそういうレベルじゃなくて、わしが段取りしたからの!

 抜かりなどあるわけないわ!

 あと、なんだったら教員室の全員が知ってるわ!

 ある意味、知らんのは寺川殿だけじゃ! わしの企てをな!


 ということを、都合の悪い部分だけ適度に隠しながら、わしは寺川殿に報じた。


「……そう。ならいいけど……」


 説明が終わり、寺川殿は納得したようにうなづく。

 もちろんじゃ。わしがそういう話術を駆使したからのう。

 納得せざるを得ないのじゃ。


 あとは、そうじゃな。

 PTAの役員会で何があったか、わしに教えること。

 さっき階段で会った男の素性。

 寺川殿との話し合いが早く終わり、その後わしがジャッカル殿の家に行くことになったとして、その時の送迎。


 こういったことは、わしの段取り云々ではなくて、寺川殿の好意によるものじゃ。

 その好意を引き出さねばなるまいて。


「じゃ、ラケットも受け取ったし、もう用は無いわね。ジャッカル君の家に送るわ」


 待て待て待て待て!

 なぜそうなる?

 わしはそんなに邪魔か!?

 お払い箱か!?


 わしの例えが合っているかは知らんが、寺川殿はそう言ってわしの体を持ち上げた。

 こやつ、わしをジャッカル殿の家に無理矢理配達するつもりじゃ。

 待てってば!

 まだしゅわしゅわを飲み終わっておらん!

 いや、そうじゃなくて!


「今日、またひまわり組の人たちが教室に来た……」


 ぴくり……


 わしの言葉を受け、寺川殿の目元がかすかに動く。


「また来たの?」

「うん」

「どうしてそんな……光成君? 教えて」


 ふっふっふ。

 寺川殿がわしの話を聞きたそうな顔をしておる。

 心配するあたり、一応寺川殿はぎりぎりでわしら足軽組の先生だったのじゃな。


 でも、ダメじゃ。

 わしが情報を授ける前に、今さっき生まれたわしの新たな疑問に答えてもらわねばならん。

 寺川殿のことだから、順番を逆にするとダメなのじゃ。

 わしから情報を引き出すだけ引き出しといて、その後のわしの問いには答えてくれないかも知れんからのう。


「でも、その前に……」

「ん?」

「さっきの人……寺川先生の知ってる人なんだよね? だれ?」

「ん? なんのこと?」


 お前は政治家か!

 いや、まさかそう来るとは思わなかった。

 そんなにも2人の関係をわしに隠したい人物なのじゃろうか?

 でもまぁ、そんな抵抗はわしには効かんのじゃ。


「じゃあいいや。さっき僕蹴られたし……。お巡りさんに教えることにするから、もしかするとあとでテラ先生のとこにもお巡りさんが聞き取り調査に来るかも。そん時はよろしくね!」

「ウソウソ。あいつ知り合い。今警察沙汰になると私の復帰がまずいから、お巡りさんには内緒にして」


 教え子が暴漢に襲われたのに、それをもみ消そうとする幼稚園教諭。

 わしが導いたんだけど、耳を疑うような発言じゃ。

 お巡りさんには言わないとしても、教育委員会に伝えてみたい。

 でもまぁ、それはこの後の寺川殿の態度次第じゃな。


 とわしは悪い笑みを浮かべ、寺川殿に追撃を加えた。


「じゃあ誰なの? なんで僕のこと蹴ったの? すっごい痛かった……あと、あの人すごく怖かった。なんであんなに怖いの?」


 流石に武威の件に関しては明言できまい。

 なのでそこんところを濁らせつつ、わしは質問を重ねる。


 しかし……


 この問いがわしらの戦いに一筋の光を差した。

 いや、そういうとわしに有利な出来事が起きたような気がするけど、どっちかってゆーと寺川殿に光が差した感じじゃ。


「あなた……武威を感じ取れるの?」


 やっちゃったー!

 そうじゃ! 普通のわっぱは武威を感じ取れない。

 それを忘れておった!

 なのに、わしはあの男の武威を察知したことを言の後半に匂わせてしもうた!

 やばい。どうしよ。


 あと、寺川殿の口から直接“武威”という単語を聞いてしまった。

 どういうことじゃ?

 なぜ寺川殿がそれを知っておる?

 いや、さっきの男が過去にその現象を寺川殿に教えたのかも知れん。


 でもでも……。

 ど、どうするか……?

 ここは腹を割って、全てを話すべきか?

 いや、まだそこまでは言うまい。


 寺川殿の質問から察するに、今のところわしが武威を感じ取れるということを、寺川殿が確信しておるわけではない。

 もちろんわしは最近その感覚を取り戻したばかりじゃ。この感覚が俗に言う“勘の鋭い”程度の話で終わる可能性もあり得る。


 相手はあれほど強い負の気配を放っておった。

 それを正確に武威と認められないにしても、霊能力や風水の流れを読める類の力を持っておる輩ならば、あの違和感に気づくこともできるはず。

 動物とかもな。

 わしの探知能力はその程度の力。なので“武威”なんてものは知らない。

 そう偽っておいてもいいんじゃなかろうか?

 うん。そうしよう。


「ぶい?」


 即座にわしの顔面をむんずと掴む寺川殿。握力マックスで締め付け始めよった。


「正直に言いなさい。知ってるんでしょ?」


 いやいやいやいや。

 頭蓋が割れるって。

 あと、最初に問うたのはわしじゃ。

 なぜ、わしが尋問にあわねばならん?

 ――いや、わしのせいじゃった。わしが変なこと言わなければ……。

 くっそ。駆け引きの腕が落ちておる。

 さてさて……どうやって乗り切るか……?


「ぐぐぐ……割れ……割れるってば……やめ……やめて……」


 わしが痛みに耐えながら寺川殿に慈悲を乞いつつ、と同時に心の中で企てしておったら、次の瞬間、わしの体を気味の悪い気配が包んだ。


「……!?」


 これは……武威?


 寺川殿が武威を放っておる。

 もちろん普段感じる殺気程度ではない。

 かといって階段の男が放っていたほどの狂気でもない。

 でも、これはまぎれもなく武威じゃ。

 なぜ寺川殿は武威を……?


「あなたはどこの誰? 時代は? 勢力は? 言いなさい」


 ちょっと待ったぁ!

 何じゃその質問!?

 それだとまるで前世のわしが何者だったのかと聞いておるようなもんじゃ!

 あと、わしが転生者だということも知っておるようなもんじゃ!

 なぜじゃ?

 なぜ寺川殿はわしの秘密を知っておる?

 わしはこれまでその事実を誰にも漏らしておらんし、それをこれまでの日常生活で匂わせたことなんてまったくな……


「知ってるのよ。5年前の天才乳児。生まれた瞬間に信長様の決め台詞を言い放った赤ん坊。それがあなただってこと。

 あと、あなたはこの間“敦盛”を唄ってた。完璧に踊ってた。普段、幼稚園でも私と大人同士のやりとりもこなしてた。

 いい? 普通の子供は顔を掴まれて持ち上げられたら泣くの。ぎゃんぎゃん泣くの。

 でもあなたは私に世辞を言って難を逃れようとしたわよね?

 私も手加減したからあなたは泣かなかったけど、あの状況でそれはありえないわ。

 挙句は私の姉妹についてかまをかけたでしょ?

 それに、ひまわり組の子たちにキレた時のあなたの言葉。

 今まで上手く誤魔化してたつもりだけど、私の目は誤魔化せないのよ。

 そんな子供がいるわけがない! あなたが転生者だってことはわかってるの!

 私と同じ転生者だってことがね!!」


 ……あー……。

 匂わせてたわ。

 わし、思いっきり怪しい行動しちゃってたわ。

 あと“是非に及ばず”って、信長様の“決め台詞”ってくくりなのか?

 それ、初めて知ったわ。


 それと、寺川殿の握力と武威がここでもう一段階強くなった。

 これ痛すぎじゃ。

 ぎゃんぎゃん泣いてもいいレベルなんじゃが……。


 そんで最後に――寺川殿の最後の言の葉。それを聞かされてはわしの心がもたん。

 泣こう。


「えぐ……えぐ……」

「おい! 今さら泣いても遅い! 正直に言いなさい! あなたは誰なの!?」

「えぐ……えぐ……やっと会えた……」

「何がよ!? わけわかんないこと言ってないで答えなさい! 頭割るわよ!?」

「やっと……やっと……」

「やっとってなによ! いいから私の質問に答えなさい!」

「わしのような……転生者に……やっと……」

「!?」


 現世に生まれ出でて5年。

 やっとじゃ。やっとわしのような立場の人間に会えた。

 寺川殿の言がそれを示しておる。


 やっと……やっと……。


 文明が発達し、見知らぬ町の風景。

 右を見ても左を見ても、見たことのないからくり機械。

 奇妙な風習と、知らぬ文化。

 そんな中で、必死にあの頃の思い出を探してた。


 でもわし以外の全ての人間は違う世界の生き物のようじゃった。

 父上と母上。勇殿や華殿。

 意志の疎通もできるし、わしのことも愛してくださった。

 でも違うのじゃ。

 わしの生きた時代とは根本的に何かが違うのじゃ。


 そう感じる理由も知っておる。

 わしの記憶がこの時代の人のものではないからじゃ。

 でもそれは仕方なし。


 そう思って……そう割り切って……必死にこの時代に食らいついて……。


 やっと会えた。

 寺川殿がいつの時代の生まれで、どのような人物だったのかはまだ知らん。

 でも武威を纏うて、わしの前世を問い詰めておる。

 寺川殿も同じ転生者と思って間違いはないのじゃ。


「わーん! わーん! えーぇえぇぇぇええーーーん!」

「な……何よ? 幼稚園でもそんな泣き方したことないくせに……! なんでこういう時だけ子供みたいな泣き方すんのよ」


 そういえば、寺川殿の前で大泣きしたことはなかったな。

 ゾウさんじょうろでぶっ叩かれても、わしがんばったもん。


 あと、寺川殿はわしの体が物理的な痛みに弱いということを知らなさそうじゃ。

 ほんとは頭掴まれると痛いのじゃ。

 寺川殿が言うようにあの時は手加減してくれたのかもしれんけど、今の痛みは耐えられんのじゃ。


 でも……それより……


 わしの苦しみをわかってくれる人に会えた喜びの方が、わしの心の締め付けておるのじゃ。


 わしの異変を察知し、寺川殿が頭を離してくれた。




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