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第37話 先輩、にゃん族に興味を示す

「こんにちは〜、最近世界の重大情報を上回るトレンドに選ばれていたたまれない気分の先輩と」

「あんなのは物の数ではないと考える後輩の錬金チャンネル、はじまりまーす」


<コメント>

:あのトレンド入りは最速でしたね

:先輩、Vの皮脱いだ方が可愛くて草

:おじさん……おじさんってなんだっけ?

:公式が勝手に言ってるだけだぞ

:先輩ちゃんは昔から可愛い女の子なんだよなぁ

:猫ちゃんパジャマ似合ってました

:ブロマイドの発売はいつ頃ですか?

:高値で買います


 やめれ!

 そんなもん販売せんわ!

 ちょっと後輩、何をウキウキしてるんだ。

 もう準備はバッチリだって、そんなもん販売したら僕は引きこもるぞ?

 実際引きこもってるみたいなもんだが。

 まぁ、この際そこには触れないでおこう。


「やめてくれ。僕としては猫ちゃん型知的生命体の行方が気になっている。その件で情報持っている人とお話ししたい」

「そんな先輩の思惑で、今回は雑談枠となっておりますー」

「そうそう。レシピ発表するたびに絶叫が流れるとか勘弁だしね」

「あれは先輩が悪いと思います」


 ここに味方はいないのか?

 まぁいいや。

 後輩は僕以外の話にあまり関与したがらないスタンスだし。


 パンと手を叩いて注目を集める。

 一度話が脱線したらキリがないのだ。


「みんなはあまり興味なさげだから僕から提案するね。未知の生命体って、それだけで情報の宝庫なんだ。僕からしたら新素材の導き手以外の何者でもないんだよ。でも君たちからしたら、ただ猫耳が生えてるだけの人間、コスプレイヤーにしか見えないわけだ」

「実際、可愛さでは先輩を追い抜けてませんからね」


 なんでいちいち僕の可愛さを引き合いに出してくるのか。

 これがわからない。


「そう言うのいいから。で、僕位が知りたいのは、そんな存在がどこからやってきたかについて。有翼な情報を持ってきた人には、むくみ取りポーションを特別に進呈してもいいよ。持ちろん、人数は絞らせてもらうけど」


<コメント>

:ガタッ

:ガタッ

:ガタッ

:ガタッ


「ガタッ」


 なんで後輩まで乗ってくるんだろうね。

 もしかして僕の知らないところでマネーロンダリングしてる?

 後輩の顔をじっと見る。

 気恥ずかしさからかプイッと顔を逸らされてしまった。

 これはしてるな。

 一体そんな大金、僕以外の稼ぎでどこで稼いできてるのか謎だったが、その一部が解明された瞬間である。

 まぁ藪を突く勇気は僕にはないし、放っておこう。

 あんまり危ない橋を渡ってなきゃいいけどな。


<コメント>

:実際、どこまで緩和してもらえるのです

:詳しく


「先着100名まで。けど情報の中身を精査した上で送るかどうかの判断はするよ。持ってきたから無償でってわけではないのでお間違いなく」


<コメント>

:それだけでもありがたいです!

:ヒャッホーー先輩最高

:これはまたトレンド塗り変わるね

:猫ちゃんの情報かな?

:いや、むくみとりポーション配布緩和の方だろう

:草

:もう先輩の行動一つでトレンド塗り変わる時代にきてる


 もしそうだとしたら、もう少し僕の話を聞いてくれる人が出てきてもおかしくないと思うんだけど。

 前回遊んだアメリアさんも、あれはあんまり可愛くないやつだって僕の方がいいとむぎゅっとくっついてきた。

 すぐに後輩から引き離されたけど。


 どうにも話を聞く限り、ダンジョンからやってきてるみたいなんだよね、その猫ちゃん。


 で、アメリアさんが遭遇する時点でSランク相当。

 可愛いか、可愛くないかで選んでいい状況じゃないように思うんだけど、わからないことばっかりだ。


「早速お便りが来てますね」

「早くない?」


 応募して5分も経ってないが?


「むくみとりポーションの魅力はそれほどまでに高いと言うことですよ」


 ニコニコしてる後輩。

 これはあれだな、情報自体は揃ってたが出し惜しみしてたな。

 僕はタイミングを見誤ったか。

 まぁ、むくみとりポーション100本くらい今更痛くもないが。


「では早速のお便り読んでいきますねー」

「さてはて、どんなものが来るか楽しみだね」


 デデン、と言う効果音と共に、もたらされたのは映像だった。

 こんな詳細な情報出てるんならもっと早く出せよな、と思う。

 しかしそこに移っていたのは


「猫ちゃんがニャーニャー言ってるだけ?」

「はい、どうやらそのようで」


 後輩は僕を見ながら例の薬を持ち出した。

 つまりは飲めと言うことだろう。

 一気に呷り、僕の頭部に猫耳が現れた。

 なぜか後輩の手元にはカメラ。

 また無許可で配信か。

 後で叱ってやらないと、何度でもやるぞこれは。


「うん、彼女たちの言葉が聞こえるね」

「おかげでうちの会社にも猫耳薬の注文が殺到しておりますね。先輩はここまで読んでレシピを公開されたんだなぁって」


 そんなわきゃない。

 偶然に偶然が重なった結果なんだよなぁ。

 むしろ僕は何も知らなかったわけだが?


「聞いてないんだけど」

「まぁ先輩は会社運営にノータッチですしね。伝えるまでもないかと」

「それでもこんな話題があるよくらいは聞きたいじゃん」

「じゃあ、来ました」

「後出しなんだよなぁ」


<コメント>

:この二人、隙あらばイチャつきおる

:後輩ちゃんは壁に埋まってるけどな

:先輩照れてて可愛い

:この掛け合いを見に来てる層もいるぞ

:大体がポーションクレクレだけどな

:おい、先輩ちゃんは可愛いだろ!

:別窓で実写が公開されてて草

:猫耳生える瞬間、可愛いねぇぇぇ

:同意

:同意


「それはさておき、この猫ちゃんたちは結構物騒なことを言っているね」

「たとえばどんな?」

「君も飲めば手っ取り早いんだが」

「私は愛でられたいわけじゃないのでご遠慮します。壁に猫耳生やしてどうするんですか」

「いや、画面に反映させる必要はないが、まぁ無理強いはしないさ」


 僕は情報に彼女たちの言語を載せていく。

 話している内容は、どこの集落を襲うか。

 まるで山賊みたいな思考回路だ。

 特に見た目が際どい衣装で、目のやり場に困る。


「彼女たちは自らをにゃん族と名乗っているね」

「猫の種族だからでしょうか?」

「それもあるんだけど、行為の系統を考えたら山賊と掛かっているのかもしれないね。可愛いからと無闇に近づかないようにね」

「なるほどです。それで、こちらの情報にポーションはどうしましょうか?」

「無論、有益な情報だったのであげていいよ。そういえばどこの誰さんからのお便りだったの?」

「うちの会社、にゃんにゃんプラントからですね」

「自社に提供はちょっと憚られるな」

「えー、真っ先に送ってきたのにですか?」

「まぁ、一本くらいならいいか」

「やりました! 先輩のポーションは貴重ですからね! これで自社の製品はまた一歩先に進めますよ」

「大袈裟だなぁ」


<コメント>

:これで枠が一つ減ったと考えるか

:先行投資と捉えるか


「ちなみに、こちらのポーション、NNPの新機能搭載で他社へ譲渡の類はできないようにしてますからね。ノット転売です」


<コメント>

:草

:転売禁止はなぁ

:先手打ってきて大草原

:その新機能、実装するのもっと後で良くない?

:転売厨が必死すぎるwww

:割と昔から世話になってるシステムに今更ケチつけるか?

:探索者以外は理解してないぞ

:つまりは一般人の仕業

:あっ(察し)


 然もありなん。

 僕としてもそこまで目くじら立てることでもないと思うが、それでこちらに火の粉が飛んでくるのも厄介。

 後輩はそこまで考えてくれているのだ。


「はいはーい、無駄話はやめやめ。続いてのお便りに行こうか」

「こちらです」


 デデン!

 謎の音楽と共に映された画像はにゃん族が牢に繋がれてる映像だった。

 捕まっとるやんけ!


 襲撃失敗したのかな?

 頭からボロ布を被らされて、裸に近い民族衣装が隠されていた。その横では、アメリアさんがピースしている。

 早速情報の出所が判明したな。

 可愛くないとかどこで仕入れた情報かと思ったが、実際に会っているのなら納得だ。


「このお便りはアメリアさん?」

「ですです」


<コメント>

:アメリアちゃん、何も知らないふりして先輩と遊んでたのか

:これは草ぁ

:先輩、涙拭けよ

:これ、猫耳薬手に入れたかったのは事情聴取するためでは?

:今思えばそうだな

:実際は先輩とお揃いにしたかっただけの可能性

:あの笑顔から見るにそっちの可能性が高いんだよな

:じゃあにゃん族の方がついでか


 そう言うことね。


「じゃあ、アメリアさんにもポーション送っておいて」

「いいんですか?」

「いいよ。なんならその後の報告も聞けるだろうから、渡しておいた方が向こうも喜ぶし」

「さすが先輩、抜け目がないですね」

「だろう?」


 僕もその気になっておく。

 こう言うのは深く考えたら負けだ。

 お互いに利用する関係、そう言うの憧れるよね。


 それからもあれよあれよと出てくる情報。

 にゃん族の他にもわん族。ピヨ族など、獣の特徴を持つ人間が大量にこちらの世界にやってきていた。

 ダンジョンを通じて、こちらを侵略しにきた、と言うのがもっぱらの情報だ。物騒だよね。

 地上を植民地にでもするつもりかな?


「なんて言うかあれだね」

「なんですか?」

「僕のレシピもたまには人の役に立つもんだって思ってさ」

「えっ、それは謙遜とかそう言うのですか?」

「なんだい、その言い草は。僕のレシピってほとんどがどうでもいいのばかりで、役に立っているのは大量のゴミの中のほんの一部、上澄みも上澄みだってことくらいは後輩も知っているとばかり思っていたんだけどな」

「まぁ、それはそうですけど、先輩がゴミと断じてる奴も普通に優秀なのありますよ?」

「たとえば?」

「むくみとりポーションとか」

「それ、僕はゴミって断じてたっけ?」


 はて、と思い至る。

 今でこそうちの研究ショップのマスコット的存在だ。

 何かにつけて話題に上がる厄ネタみたいな存在でもある。


「一般売りは考慮してませんでしたよね?」

「それはそうだろう。個人的に使うやつで、僕としては若返りの効果とか知らなかったし」

「はい。私もそこまでのものとは考えずに使っておりましたところ、なんか同級生から肌が10代の頃から変わってないよねとお声がけをいただきまして」

「なるほど」


 別にゴミとまでは断じた覚えはないが、後輩はそう思ってくれると言うわけだ。

 ちょっと嬉しく思う。


「やっぱりこれ、レシピ公開だけして放置ってわけにはいかないかな?」

「政府関係は欲しがると思いますね。特に素材が素材ですし」

「クラーケンが希少種だなんて思わないじゃない」

「15年前ならばさほど希少でもなかったんですが、乱獲の影響か、減少の一途を辿ってまして。ましてや他の部位ならまだしも、コアは個体につき一個しかドロップしませんからね」

「そこはまぁ、他の錬金術師に頑張ってもらうとして」

「難易度120をですか?」

「むーん」


 発表してから言うのもなんだけど、この難易度はほとんどが錬金窯のお祈り要素【中級融合】の必要熟練度によるものだ。

 品質【S】のむくみみ取りポーションさえ揃えば、割と簡単に作れる品物のはずなんだけど……後輩やリスナーの反応から察するに現実的ではないと聞こえてくるような気さえしている。


 なお、猫耳薬は炭酸飲料を使ったが、犬耳薬は柑橘系ジュース、鳥羽薬は乳酸菌飲料を使うだけでいい。

 ここら辺はスーパーで入手できるので安価もいいところだろう。


「ちなみにうちの会社のむくみとりポーションの品質ってどれくらい上がったの?」

「Aの成功率が30%、Bまでならほとんど成功です」

「低いなぁ。肝心のSは」

「机上の空論もいいところですね。ですので今回の報酬は大喜びだったと思います」

「後輩はまだ作れない感じ?」

「私は作れてもAまでですねー。Sとなるととてもとても」

「僕は片手間でも作れるが?」

「先輩はそう言う人だって知ってますけど、今の発言は世界中の錬金術師に喧嘩売りましたよ?」


<コメント>

:先輩はもう少し自分が天上人なことを自覚してもろて

:熟練度300超えは伊達じゃない

:そこからさらに上げるのが先輩

:一般人は100に至れば満足しちゃうんだよな

:エリクサーって幾つだっけ?

:250

:遠いなぁ

:それを簡単に超えてる先輩が異常なんだよ


 なんだかんだと僕は自分の錬金術を軽く見るところがある。

 一度終えた研究内容は興味なくなっちゃうからなぁ。

 その日の配信は終わり、翌日から普通に感謝のお便りが方々から送られてきた。


 うちのショップでケモ耳薬を限定販売したおかげだろう。


「先輩、米国大統領からぜひ会談の席を設けたいとのお話が」

「僕何かしたっけ?」

「例のにゃん族の件ですね。あれはどうも先遣部隊で話を聞けば本体が遅れてやってくると言うことで、それを事前に知れて感謝を送りたいと言うことです」

「あぁ……別に僕としてはそりゃ良かったねで済ませてもいいんだけど」

「アメリアさんがぜひ先輩をお誘いしたいと」

「アメリアさんがどうしてもって言うなら行くしかないか」

「フォーマルドレスをご用意しておきますね!」


 ねぇ、なんでナチュラルに女装をさせようとして来るのさ。

 いや、普段からしてるよ?

 けど正式な場所ではちょっと。


「正式な場におふざけで行くのは気が進まないな。ここはタキシードで行こうよ」

「えっ!」


 なんでそんな顔をするのさ。

 僕なんか変なこと言ったっけ?


「学会の場をサマードレスで参加した先輩が、今更公の場に気を使うだなんて!」

「あれは、着替えがあれしかないから仕方なく着たんだろう!」

「まぁ、そうとも言いますけど。でも探索者の時はノリノリでえっちな姿してましたよね? すごく心配でした」

「僕は男としての最低限の格好をしたまでだ」

「男としての最低限が女装の時点で先輩の認識はもう……」


 なんだよ、言葉を濁されたら気になるじゃんかよ。


「わかったよ、着ればいいんだろう、着れば! その代わり、今回だけだからな!」

「はいはい。着心地の良い素材を選んでおきますからね」


 二チャッとした笑みを浮かべながら、後輩は自室に籠った。

 背筋がゾクっとしたけど、まぁよし。


 僕は女の子のように扱われて会談を終えた。

 衣装については『天才となんとかは紙一重』ということでなんとか納得してもらえた。

 これならば無理にアメリアさんとくっつけなくてもいいか、と言う思惑を大統領の視線から感じたので、ファインプレイだったりするんだろうか?


「良かったですね、先輩。相手側からのなんとしてでも囲い込もうとする気配が霧散しましたよ!」

「君、ここまで考えて僕にこの格好を?」

「いいえ、趣味です!」


 今日一のスマイルで微笑む後輩。

 だよね、そうだと思った。

 君も黙ってれば可愛い感じなんだから、もっと着飾れば良いのにさ。

 そんなことを言ったら真顔で「あ、私は別にそう言うふうに思われたくはないんで大丈夫です」みたいに言われた。

 拗れてんなぁ。

 僕も同意見だと言ったら「またまたー」だのと取り扱ってくれない。

 君の悪い癖だよ、そういうところ。

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