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第45話 先輩、カマをかける⑤

 りゅう族を別窓で観察しながら、僕たちの試みはまだまだ続いていく。

 新しいゲストはインド代表のカシム。

 褐色の肌に、カタール(湾曲した刀剣)を扱うどこかの部族の戦士みたいな出立をした男だった。


<コメント>

:カシムきた!

:いよ、誠実な男

:インド全体の安全はお前にかかってる!


 ロギンとは打って変わって好評な掛け声が続く。


「アメリアさん、彼は?」

「あんまり自分の主張をしない男だ」

「それだけ?」

「語らず、そして自分の仕事を全うする。その後ろ姿に皆がついてくるという職人みたいな人ですね。女性人気は高く、しかし今はダンジョンを退けるのが一番と使命に燃えるタイプです」


 後輩の説明にふぅん、と頷く。

 そんなできる男がこんな場所に出向いてくるのはやっぱり国からせっつかれてるんだろうね。

 どんなに武力を有していたところで、SSランクダンジョンが同時多発的に現れたら困ってしまう。

 特に彼は一人しかいないから。

 後続を育てたい国としては、彼に死なれちゃ困るんだろう。


「よろしくね、カシムさん」

『いつも先輩のアイディアには助けられている。本当はこの企画に参加するつもりはなかったが、どうにも周りが心配性でね。これといった要求はしないが、とにかく頑丈なカタールを作ってくれたら嬉しい』

「いいよ。まぁ実際に作るのは僕じゃないけどね」


 画面が今度はどんな武器を作ってやろうかと企む親方連中を映す。そこには今まで培った技術を披露する場所を求めるギラついた視線があった。


『ははは、お手柔らかに頼む。それと俺は個人で戦うわけではないのでね。チームで挑んでいいだろうか? もちろん武器は一人分で構わぬが』

「頑丈なカタールだけで全て守れるって?」

「いやいやいや」

「全員分作ってこその企画だろうて」


 親方連中にはただ頑丈なカタールを作るだけでは終わらせないぞという圧迫感を持って話に参加する。

 むしろ一個作っておしまいだなんて拍子抜けすぎる。全員分作らせろという脅しが含まれていた。

 完全に立場が逆転してしまっているのをここにいる連中はまるで気がついてない。

 普通はゲストが頼む場なんだけどね。

 まぁ作りたいなら作らせてやるのがこの企画だ。

 本人たちがやりたいなら僕は特に咎めはしないさ。


「カシムさんて謙虚な人なんだね」

「背負ってる命の数が多すぎてな、後に引けなくなったらしい」

「ああ」


 アメリアさんのお気持ちに僕も首肯する。

 インド大陸はとにかく広大だ。

 アメリカ合衆国だってそれなりに規模はでかいが、アメリアさん一人で守ってるわけじゃないしな。

 その差を考えれば一目瞭然と言ったところかな?


「それで、ゲームの方なんだけど」

「ルナティックかな? ハードは飽きた」


 それはつまりカシムさんにならいっぱい時間を持たせてあげていいみたいな感じかな?

 後輩の顔を覗き込む。


「アメリアさんがやりたいモードで構わないと思います。私も保護した彼女に幾つか質問がありますし」

「そっか」


<コメント>

:秘密裏の質問か

:そこの内容は明らかに?

:後出しだろうなー

:今は反応を楽しむところ

:こうやって眺めてる分にはかわいいね

:保護? 軟禁の間違いでは

:それはそう

:でもおとなしく捕まってくれる種族は珍しいから

:にゃん族は相当暴れたらしいね

:合金オリハルコンの檻が届かなかったら逃げられてた

:間一髪だったんか

:転送陣がなかったらとっくに人類詰んでたぞ

:アメリアちゃんがいる場所でよかったね

:先輩が噛んでなかったらどっかの国が滅んでたんじゃねって

:ああ、あっちいけチケットの有効活用か

:それでアメリアちゃんのとこにきたのね

:なんだかんだ封印指定武器持ちだから

:他にもいたじゃんか、トールとかガイウスとか

:アメリカだけ自由に使って、他は自主規制してたんだよ

:ならアメリアちゃんに頼むしかないかー

:NNP様々

:あれでダンジョンでの行方不明者が減ってるもんな

:それでもまだまだ増加の一方なのが恐ろしすぎる

:配信者なんてのが増えたしな

:ダンジョン探索は遊びじゃないってあれほど


「そうなの? 僕引きこもって研究ばかりしてるから知らなかった。ダンジョンて危険なんだねー」

「そのための錬金術製薬会社ですからね」

「そうじゃん。なんで僕忘れてたんだ?」

「半分遊びで作ったポーションがもてはやされてて、先輩が本気で取り組んだプロジェクトに誰も理解を示さないからじゃないですかね」

「それだ!」


 後輩の説明に納得する。

 まぁこれ含めて聖夜リコと僕が別人であるというアリバイ作りなんだけどね。

 リスナーたちが勝手に僕の存在を上書きしてくれたら御の字だ。


「と、いうわけでカシムさんはチームでの参加。ドラゴン討伐初めてですか?」

『インドダンジョンでは毛色の違うやつが出るが、いつもチームで狩ってきた。問題はないさ』

「ならばお手並み拝見ですね。僕たちも準備しよっか」

「今度こそタイムレコード更新する!」


 やる気をみなぎらせるアメリアさん。

 さっき更新したばかりっぽいのに忘れちゃったのかな?

 それはさておき、今回は僕の出番はなさそうだ。

 楽なのはいいけど、後輩がどんな情報を拾えるか、少し期待している。


<コメント>

:始まりました、インド代表カシムチーム

:相変わらず練度がすごい

:このチームでSSSランクダンジョン踏破してるからな

:でもSなのはカシムだけなんでしょ?

:国指定はそうだよ

:メンバーは準Sと呼ばれる人材なんだよ

:カシムのやれることはメンバーもできるって育成方針だな

:変わりはたくさんいるってか

:あれ、これツインヘッドドラゴンくらいは相手にならないんじゃ?

:そうだよ

:インドはミズチとか属性依存の龍の系譜が根付いてるから

:肉体持ちは余裕なんだよな

:そういうカラクリか

:曰く、血が出るんなら殺せる

:モンスター食肉文化だから、あそこ

:だったらこれも食材なのか

:ひえっ


『なるべく肉は欲しいところだ。もちろん爪や目玉などの素材は献上する。我々は多くの民族の命を担うチームなのでな』

「魔石とか爪なんかの素材さえ渡せば大丈夫だそうです」

『助かった。モンスターの肉は我々の地肉に一役買ってくれるからな。肉は多ければ多い方がいい。解体班は解体後、肉を現地へ運んでくれ。それ以外の素材は……』

「私が引き取ります」


 後輩が先立って交渉に応じる。

 専用の転送陣のアドレスを教えてそこに送ってくれたら大丈夫とした。

 モンスター料理か。実際には食べたことないな。

 だってよくわかんない生物の肉を取り込むのって怖いじゃん?

 逆に言えばインドはそれほど食糧に困ってるんだね。

 モンスターまで食うやつは世界を見回してもそうそういないぞ?


「ちなみに日本にもモンスター食肉愛好家はいるんですよ?」

「そうなの?」

「政府としては高く売れる高級食材をみすみす手渡すのは苦渋の決断だったそうですが」

「欲しがりさんだったんだ。でも譲歩してくれた?」

「これでインド政府に恩を売れるなら安いと」

「え、それだけで恩を売ったことになるの? 僕日本陣営どころか海外勢なのに? この企画だって合衆国からの譲歩で実現したものなのに?」


<コメント>

:言ってやるな

:先輩が日本人だから日本案件だと思ってる説

:連盟に入ってるからそう思ってる可能性

:先輩の手柄は全部日本の手柄だと思ってそう

:逆に違うの?


「僕は遊びでこの場に赴いてる。企画が終われば撤退するし、あとは政府にお任せだよ。向こうから掛け合ったとしても僕は応じない。そういうやりとりだから。ね、後輩?」

「はい。日本政府は連盟加盟国なので転移陣を設置しても文句を言えない義務と責任が発生します。その上で素材はこちらに渡せと要求したのでこちらは条件を飲んだ形です。攻略をしろとまでは乞われてませんから」

「うん、じゃあそれでいいじゃんね」

「そうですね、手に負えなくなったらいつでも素材を放棄すればモンスターはSランク保有国に転送できますし、ポイントを貯めてSランクを呼び出せばいいわけですし」

「なら安心だ」


 むしろそのために連盟に加盟させたまである。

 欲をかけば滅びが待ってるなんて昔から言われてることなのにね。


<コメント>

:あれ? じゃあ完全攻略しない感じ?

:不味くね

:日本消滅待ったなし!

:目先の欲に駆られた結果か

:政府ぅ〜

:こりゃ日本の未来はお先真っ暗ですね

:その上で番を拉致ですよ

:ボスが黙ってないの確定じゃん!

:イレギュラー発生件数多そう

:いつまでも権力を手放さなかった結果か

:どこかの属国になったからって今まで通り暮らせるわけじゃないから

:それ

:そう考えれば政府はよくやってる方

:先輩が日本見捨てたのが悪い


「見捨てたっていうか、見捨てるくらい追い詰めてきたのがマスコミたちなんだよね。それを雇った政府に文句を言われてもと言った感じ」

「ねー」

『解体終わったぞ。では肉はこちらでもらうがよろしいか?』

「はいはーい、では鍛治の親方さんはどんな装備を作るか見積もってくださいねー」

「よっしゃ」

「色々アイディアが湧いてきてる」

「まずは何を拵えようかの」


 和気藹々と心底楽しそうに職人たちが話を進める。

 悪い癖が出た結果、要望を大きく逸脱した武器が手渡された。

 カタールの刀身がブーメランのように分離、戻ってくる仕掛けの武器がチーム全体に。

 それと重力自在ブーツの実装。

 武器そのものではなく、人間の重力を逆向きに発生させ、天井でもまるで地上のように活動できるものを実現していた。


『なんか、想定したものと大きく異なるんだが?』

「まあまあ、まずは実際に使ってみて使用感を確かめてくれ。おかしい部分があったら調整を入れるから」


 すでに受注の段階でおかしいことをカシムは伝えたかったが、圧迫面接をさることな親方連中の言い分に渋々従う。

 その上でチームの討伐速度は前回の30%の向上を見せた。

 いつもより疲れを残さずの討伐は、使っている自分でも驚いてしまうほど。

 ただの遊びで作ったものじゃなく、カシムの癖を見抜いた上での調整に度肝を抜かれていた。


『リーダー、今回は恐ろしいほど安定しましたね』

『ぐぬぬ、武器と装備一つでこれまで効率化できるか』

『それにこのカタール、切れ味もそうですが設置位置を調整することで難しかった解体も楽々と』


 チームメイトの一人が誇らしげに今までとは比べ物にならないほど綺麗に取り除けた魔石を披露する。

 カシムはあの改造カタールにそんな性能が組み込まれていたのかと瞠目した。

 ただの改造大好き集団かと思いきや、非常に手に馴染んでいた。

 これ以上ないほどの使い勝手の良さ。

 そして重力ブーツの実装が逃げ場のない上空での移動手段になると知った時は、気がつけば職人たちに賞賛の声を届けているほどだった。


『お見それしました。まさかここまで我々のスタイルに合致する代物だとは。見た目に完全に騙されておりました』

「まぁ我らの格好は今や一端のVのそれであるからな」

「こちとら不本意でこの姿でいるんだが、参加条件だからな」

「然り、この機会を逃せるほど職人として衰えてはおらんからな」

『ははは、可愛らしい姿に騙されておりました。技術は一流、こちらも研鑽を積まねばなりますまい』


 カシムはどこか驕り高ぶっていた自分を嗜める。

 職人連中はそれからもカシムたちのチームに『これがあれば便利じゃないか?』を思案しながら提供していった。

 一方で、僕たちときたら呑気なものだ。

 ほとんどのリスナーがカシムチームの装備に見惚れてる中、僕とアメリアさんはタイムレコード樹立のための完璧な操作を求められている。


 とは言えだ、片手間でできる代物なのでそこまで重要視はされてないんだなー、これが。

 悲しいね。

 みんな夢中になるのは日本ダンジョンの行く末だけみたいだ。

 そりゃそこに住んでる人から見たら今後の生活がひっくり返るから仕方ないけど。

 怖いなら海外に飛べばいいのにね。僕達みたいにさ。


<コメント>

:ワイ、BW民。ルナティックの動きを見て唖然

:それはそうよ、人類最高峰のプレイよ?

:アメリアちゃんもそうだけど、先輩も半分人間辞めてる操作してるから

:よくあんなまばらに散らしたアイテム欄から間違わずに合成できるよな

:数の把握も恐ろしいぞ?

:何個あれば何が作れるまで頭に入ってるのかな?


 それはそうでしょ。むしろみんな頭に入ってないのかな?

 あれを作りたいけど、素材が足りないからアイテム欄で固めて置いてるまであるよ、僕は。

 左上は回復薬。右上はお助けアイテム。左下は武器、右下は防具みたいにさ。

 むしろ他の人のプレイを拝みたいくらいだよ。

 実際暇を持て余していても、見ることはないんだけどね。

 暇だったら実験を優先する男なのさ。


 もう一方の窓では、後輩がりゅう族の少女に質問を重ねていた。

 言語が読み解けないので、画像を出してどれくらいの知識があるかの読み書きだ。


<コメント>

:そうそう、車! 正解だよ

:賢いねー

:テレビを見せろ?

:おうちにテレビでもあるのかな?

:ダンジョンは割と現代くらいの暮らしがあるのか

:想像つかない

:その尻尾で座る椅子はないです

:正座したくてもできないの可愛い

:尻尾を前にして座るんか

:後輩ちゃん、もっとりゅう族向けの衣装作ってあげて

:待て待て、ここまで日本の暮らしを知ってるのはおかしい

:え、実は先輩の提唱してた日本人説は正解?

:我々はその情報を得るためにアマゾンの奥に潜入した

:これは現実味を帯びてきましたね

:ご飯は加工品はダメか

:生肉は結構美味しそうに食べるね、茹でてあるのなら食べられるのかな?

:可愛い

:見てて和む

:むしろメインに加えない、この子?

:一緒についてきたドラゴンと一緒に寝てる

:てぇてぇ

:関係は親子だけどな

:言うなよ

:事実確認はしないとさ

:それはそう

:実際は要検証ですね

:こっちの言葉を理解してもらってからでしょ

:早く翻訳機実装してあげて


 後輩の策は見事に成功しているようだ。

 とはいえ、僕の思っているような素振りは見せない。

 やっぱり気のせいだったのかな?


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