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第44話 先輩、カマをかける④

『なんか見てる奴がいる』


 ロギンからの報告に、コメント欄が加速した。

 勘の鋭い男からの発言にコメントも憶測が捗るのかな?


「ドラゴンの親玉かな?」

「りゅう族の存在は確認されてますね。中学生くらいの背丈の金髪灼眼にぶっといツノがこめかみから真上に向けて生えてる感じですかね」

「え、こわ」

「普通にそう言うタイプのVはそこらじゅうにいますけどね」

「なら怖がらなくても平気そ?」

「可愛い感じだと伺ってます」


 後輩の説明にホッとする。

 画像を拝見したが、確かに見た目の可愛さとは裏腹に角と尻尾の主張が強い。

 金髪灼眼ギザ歯と癖をこれでもかと詰め込んだデザイン性。

 ただし背丈は僕ぐらい。これならアメリアさんといい勝負だ。


「アタシがいる限りセンパイには指一本触れさせないぞ!」

「トゥンク」


 僕は胸の高鳴りを感じ、口をついて出た言葉がこちら。

 リスナーよ、大いに勘違いしたまえ。

 え、普段からイチャついてるだって?

 気のせいだよ、気のせい。


<コメント>

:何惚気てんだ

:草

:さぁて、誰が出てくることやら

:あらかわいい


 出てきたのは後輩が持ち出した画像の通り、かわいい感じのりゅう族だった。

 警戒してるのか『がおー』と威嚇してきてる。

 かわいいね、飴ちゃん食べる?

 僕やアメリアさんはホクホク顔で迎え入れた。


<コメント>

:ロギン、一応敬意を払えよ?

:女の子だったら速攻ナンパ仕掛けるやつにそれは無理


『へい、かわい子ちゃん。ちょっとお兄さんとお話ししようや』

『やめろ、こっちに近づくな! オレは王の番だぞ。アキオは下がってろ』


<コメント>

:こいつ!

:声の掛け方がナンパのソレすぎる

:ドラゴン娘ちゃん、かわわ

:王の番って聞こえたけど?

:あ、これ攻撃すると親分引っ張り出てくるやつだ

:むしろこの子を確保した方がドラゴンの量産止められるんじゃね?

:これで経産婦とか性癖壊れりゅ

:ドラゴンは産卵型だと思うが?

:鳥と一緒よ

:あんなデケェドラゴンがいるんだ、きっと卵も大きいさ

:この体からそんなでかい卵が!?

:オラワクワクしてきたぞ


「つがいって何?」

「人妻だってことですかね」

「相手ドラゴンだよ?」

「まぁ動物同士の心に決めた相手を総じてつがいって言いますよね」


<コメント>

:後輩ちゃん、人妻に憧れてんのか?

:さっきから画面端に婚姻届が明滅してるのなんなの?

:露骨なアピール草

:これでこの2人おつきあいしてないらしい

:うせやろ!

:先輩完全にヒモなのに?

:後輩ちゃんが先輩を神のように崇めてるからね

:養ってあげたくなっちゃったのか


「誰がひもじゃい!僕はちゃんと働いてお金稼いでるから! そりゃ生活のほとんどは後輩頼りだけど! ニートじゃないもんね!」

「もー先輩ってば」

「後輩は何で照れてるのさ」

「内緒です」


<コメント>

:いちゃいちゃしやがって!

:てぇてぇ

:後輩ちゃん姿見えないけどね

:壁の中にいる!

:そんなことより、りゅう族の子だよ!

:ロギン、あんまり威嚇するな

:怖がってるぞ、まず警戒とかないと

:ほら、その物騒な武器しまって

:役目でしょ


『バカ言うな。相手は腐ってもドラゴンだぞ? 油断すればこっちが持ってかれるわ』


 ロギンはいいながら片手で自分の首に手刀を入れた。

 どんな場所でも油断しないし警戒は解かない。

 それがこのランクまで生き残ってきた男のやり方なんだろう。


<コメント>

:それはそう

:Sランクダンジョンで武器下ろせは草

:Sランク探索者に死ねって言ってるのと同じやぞ

:そこに小さいけどドラゴン連れてる相手にその案は下策です

:ドラゴンは弱くても子供の像くらいは体格あるから

:最弱でもCなのは種族の強さだよなぁ


 ロギンはベルトで重力を調整しながら特定の場所にりゅう族を誘い込む。

 上手いなと思う。完全に警戒は解かないまま、武器は下げている。

 攻撃の意思はないと見て、りゅう族の子は無警戒でこちらにやってきていた。

 警戒の浅さ的に生まれて間もない個体なのだろう。

 一緒にいるドラゴンの方がまだ警戒心をあらわにしているように思えた。


『何言ってるかわかんないぞ。こっちにわかる言葉でしゃべれ!』

『おうおうそうだな。先輩、こっちに翻訳寄与こしてくれ。こっちはわかるが向こうが理解できてないんじゃ話が平行線だ』

『人間の言語がわからなくなってきてる? もう、そこまで進行してるのか』


 会話は一方通行である。

 しかし、意味深なセリフを吐くりゅう族だ。

 もしかして、元々人間だった?


「先輩、どうします?」

「少し確かめたいことがある。その子にこれを渡してくれないか」


 僕は合金オリハルコン製のコンソールを転送陣越しにロギンに渡す。


『これを渡せば良いのか?』

「うん。その子に日本語が理解できるか確認してほしい」

『そりゃやってみるけどよ、モンスターに言語理解なんてできるのかね?』


 ロギンは渋々と言った様子だが、実験には協力してくれるらしい。


『何だこれは? 映像? 何の言語だ? いつから人類はこんな難解な言葉を……うっ頭が……割れるように痛い。気持ち悪い』


 りゅう族の少女はコンソールを覗き込んだ後、猛烈な頭痛に襲われてその場にうずくまった。

 今の反応を見て確信する。

 彼女はコンソールの扱い方を理解している。

 にゃん族と明確に違うのは、理解はしているものの、画面に表示された言語が身に覚えのないものに置き換わっていたと言うことだろう。

 認識がりゅう族のそれに置き換えられてるのか?

 だとしたら、人はモンスター化させられる可能性を秘めてるってことじゃないか。

 ちょっと興味出てきたな!


「ロギンさん、その子確保できる?」

『できなくはないけど、どうするつもりだ? あんまり飯の不味くなる話は勘弁願いたいぜ?』


 普通であれば解剖コース。

 どこの国も欲しがる検体だ。

 にゃん族は個人がものすごく強いのもあって、拘束具を破壊して出てきてしまう恐れがあった。だがこちらの個体は見た目の可憐さと相まって恐ろしくない。

 ともすれば御し易い。拘束して実験をしたいと名乗り出る科学者は少なくないだろう。

 ロギンはそこを心配してるようだ。


「これは可能性の話かもしれないけど、その子は元々人類じゃないのかなって思ってる」

「そうなのか?」


 アメリアさんが初めて警戒を解いてりゅう族の少女をまじまじと見た。


「まだ確証は持てないけどね。でもダンジョン生まれのモンスターだった場合、普通は初めてみるコンソールに噛み付いたり、爪を立てたりするものだよ。にゃん族がそうだった。けどその子はまるで使い方がわかってるみたいに扱ったんだ。その差は何?」

『え、わかんねぇ』

「話は変わるけど、ダンジョン内での行方不明者って数十年前からすごく多かったって聞くよね。その人たちってどこ行っちゃったんだろう?」

「敵性生物の巣で迷い込むと言うのは死を意味すると聞きます。なので見つからない限りは死亡してるものとして扱われてきましたね」

「うん、普通はそうだ」


 後輩の憶測に、リスナーも準じていく。

 普通はそう考える。

 けれど今、あまりにも人類の技術を当たり前のように使う存在が出てきてしまった。今回はこちらの言語を理解できないから話が平行線になったけど、それって言語を理解されたら人類の情報は筒抜けだってことになる。

 ここに危機意識を抱けてないとまずいんじゃないかなと思うわけだけど。


「もしかしてダンジョンには、もっと僕たちが危機意識を持たなければいけない秘密があるんじゃないかな?」

「たとえば?」

「ダンジョンに魅了された人類は、モンスター化する、とか」

「あはは、まさかー」


 後輩は笑いながらも目だけは笑ってなかった。

 画面の中には出ていないが、僕たちからは普通に見える場所で会話している。

 アメリアさんももしそうだったらまずいぞ、と言う顔をした。


<コメント>

:先輩、よく見てるな

:遊んでるだけだと思ってた

:昼間から酒飲んでる時点で遊びだぞ

:でも急に真剣になったよね

:あれ、さっきまで遊び半分だったのに

:実は飲んでなかった?

:いや、違うな。これ、最初からこう言う仕掛けで回してた?

:つまりどう言うことだってばよ

:この配信自体がダンジョン産の異種族の調査に使われてるってことだよ


「な、何だって〜!?」


<コメント>

:あんたが驚くんかい!

:草

:これはそこまで考えてなかったって顔です

:ただの飲兵衛の虚言で草


 ヨシッ、誤魔化せた。ちょろいぜ!


「まぁともかく。その子が元々人間だったらダンジョンで行方不明になった人たちの安否確認は最優先事項だよ。ということで確保ー! もし人を魔物化させるトリックがあるんなら、あんまり探索者を導入できないし、政府は小銭欲しさに若者を自殺スポットに送り込んでるって証明になるから」

「行方不明者は年々増加の一方ですからね。ポーションがあっても救えない命の方が多くて」

「そうなんだよな。でもセンパイの帰還チケットで被害は一気に減ったぞ!」


 そう、NNPの設立はダンジョン探索になくてはならない礎になっている。

 いや、僕の知らない間に勝手に後輩が設立してたんだけどさ。

 それはさておき、僕が日本にいた時に思い描いていた『あったらいいな』をこれでもかと実装させた。おかげで探索者生活も安心安全!

 黄金世代と呼ばれた探索者たちから『もっと早く実装して欲しかった』とクレームが相次いだのも懐かしい。

 散々僕のポーションの世話になっておいて、よくそんな言葉が吐けるよね。


「チケットに関しては結構前から物はできてたけど、法整備関連で揉めててね。日本に所属してる限り実装は難しかったんだよね」

「どうしてだ?」

「それが実装されると取り分で揉める人たちが出てくるからだよ。役所をたらい回しにされた挙句、結局は倫理的に問題があるってことで棄却されたんだ。でも僕が学会で一躍有名人になった後と、社会的地位、民意を手に入れたらあっさり掌返してさ」

「人命が優先だと思うけど、日本って面倒くさいんだな」

「政府の人は自分の利益優先だからねーっと、終わった話はあとあと」


<コメント>

:今頃政治家たち顔真っ赤やろこれ

:人命<金なの証明されちゃったからね

:配信以前に探索者の命は軽いから

:探索に夢みるなってあれほど……

:一攫千金に夢みるのはしゃーない

:いまだに上位ランクが片手で数えるしかいない時点で察してもろて

:憧れで超人になれたら苦労はない


『というわけでだ、嬢ちゃん。痛い目に合わせないからこっち来ような? 腹減ってないか? 飯くらい奢るぜ?』

『何を言っている! ちょ、はなせ! オレは王の番だぞ』

『お母さん! 帰ろ!』


<コメント>

:もう番であることに縋るしかこの子には残されてないのかな?

:ダンジョン怖っ

:もしこの子が元人間だったとして、保護した後はどうなるの?

:政府に渡せば解剖一択やな

:何なら生きてられると都合悪いから消されるかも

:同接100万のアーカイブ化される配信の事件をもみ消す?

:腐敗した日本政府ならやりそう

:ん? もう一つ声が増えた?

:どこからした?

:あれ、もしかして後ろで隠れてるドラゴンの声拾ってる?

:りゅう族ってもしかして……

:この姿は子供の時の姿ってか?

:笑えないぜ

:攫った人との間に子供作ってハーフってか?


『アキオ、助けてくれ!』


<コメント>

:随分日本風な名前ですね

:もしかして日本人?

:そういやここ日本だった

:日本人の女探索者を攫うのか

:許すまじりゅう族


 あれ? アキオって秋生か?

 以前一緒にダンジョンに潜った少年を思い出す。

 確かあの子は大塚君の……でもお母さんは健在だしな。

 一人っ子だって聞く。

 じゃあ勘違いかな?

 でもこんな偶然あるか?

 行方不明中の大塚君の件もあるし。


「後輩」

「はい」

「ちょっと調べて欲しいことができた」

「何ですかね」

「配信に載せるのは憚れるので、裏でこっそりやっといて」

「はーい」


<コメント>

:このやりとりをアーカイブに載せる覚悟

:流石に編集……するよね?

:ガバガバやんなぁ

:同接100万人の配信で隠し事を!?

:でも日本人関連なら日本のダンジョンアタックで日本政府に見られてるこの配信で動き見せるのは正解

:政府に勘繰られるんじゃない?

:もっとそれ以上に勘ぐられてることあるから

:秘匿主義の先輩が悪いよ

:叩けば埃が出る存在やからな


「秘匿してるというか、これってそんなに価値あるの? で途中で放り投げてるだけだよ。こんなよくわからないものより、世の中はわかりやすいくらいの効果の薬品求めてるじゃない?」


<コメント>

:それはそう

:錬金術あるあるです

:見てみてーこれ画期的じゃね? って出した作品が無価値にされる瞬間

:そんなことよりポーション作れ、役目でしょって言われる毎日

:誰も先輩のこと悪く言えんでしょこれ

:周りが勝手に後から価値つけてるだけだしな

:先輩かわいそう

:秘匿× 無価値認定◯

:人気者は辛いね

:過去の商品に価値を見出されるのか

:むくみ取りポーションなんて最たるものでしょ


 そんなこんなでりゅう族を一人お持ち帰り。

 本人はご不満の様子だが、檻という名の個室で人間だった頃の暮らしを堪能させてやることにした。

 もちろんカメラ付き。

 彼女が元々人間だったかどうかは、生活態度を見ればわかることだろう。

 ついでにドラゴンも放り込んでおく。

 話しておくと仲間を呼ばれて面倒だからね。

 それに名前をつけて連れ歩いてるくらいだ。

 離れ離れでストレスフルになっても困るし、という配慮も忘れない。

 ほら、僕ってできる男だからね。


「はい、というわけで今回のロギンさんの出番はおしまいですね」

『本当はもっといろんな武器を調達する予定だったんだがな』

「お気に召さなかったかな?」

『いんや、想像の斜め上を飛び越して行ったな。俺のヒーローとしての活躍の場所がぐんと広がった。あんがとな、センパイ』

「そりゃよかった。僕としても開発に携わったヒーロー関連の活躍場所はもっと多くていいと思ってるんだよね。ほら、僕は何故かそっち系に変身できない業を背負ってるから」

『センパイも大変だな。じゃあ、またな』


 僕は憧れのヒーロー像をイタリアの英雄に押し付けて次のゲストを待つ。

 謎の信頼を勝ち取ったロギンに対し、後輩もアメリアさんも白い目を向けていた。


「センパイ、あんな男のどこがいいんだ?」

「え、ヒーローだよ? 憧れない?」

「先輩は男の子が好きなもの大好きですからねー」

「まぁ僕は男の子、おじさんだからね」

「センパイは男なんかじゃないぞ!」


 アメリアさんにギュッと抱きつかれた。

 ねぇそうやって僕を男だったっていう認識が間違いみたいな扱いやめてくれない?

 後輩も便乗して新しい衣装を見せつけてくるし。

 いや、着るけどさ。

 デザインはともかく、着心地はいいからね。


 さて、そんなわけで次のゲストだ!

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